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フィフニルの妖精達20「暴走 -7th Day-」

「う、お……」
 大きく伸びをし、息を吸い、吐く。
 それから立ち上がって、軽く俺は目頭を押さえた。
「ん……」
 旅行七日目、朝。
 この突然の旅行も、残す所一日。
 そんな俺の脳裏にあるのは、ある妖精の少女の事だった。
 鮮やかな橙の髪。
 強気な気性と言動。
 人間への嫌悪。
 新聞社を営み、自ら記事を執筆する記者。橙の妖精――ニニル。
 彼女が俺に向けた言葉の一つ一つを思い出して、ふと苦笑する。
 しかし、あまり笑ってはいられない。
 明日、彼女に敵対の意思がないと確約できなければ、彼女は殺されるのだから。
「どうしたもんか、ね」
 まずはさりげなく意思の確認をしてみるべきだろうか。
 それとも直球で、彼女自身の為にもお願いをしてみるべきだろうか。
 困った事に、どちらの場合でも返答は容易に予想出来るのだが。
「……よし」
 まずはニニルの顔と、その時の様子を見て決めよう。
 そう思って、俺は和室への扉を開けた。
「あ、おはようございますー、ご主人様ー」
「おはようございます」
「お早う」
 扉を開け切るとほぼ同時に、和室にいた二人――白の妖精ピアと、緑の妖精ミゥから挨拶の声が飛んできた。
 いつも通りの元気で綺麗な声に、俺も挨拶を返す。
 珍しい事に、和室には二人の姿以外は見えなかった。
「他の皆は?」
「ヅィとネイ、ニニルは少し前に散歩に出ました。シゥとノアは洗面所の方に」
「そうか」
 顔を見てから、と決めていただけに、すぐに見れない事を残念に思いながら、取り敢えず座布団の上に腰を下ろす。
 同時、鼻を突いた匂いに、俺はふと視線を彷徨わせた。
「何を飲んでるんだ?」
 匂いの元はどうやら二人の傍らにあるグラスのようだった。
 そこにある薄橙色の液体から、何とも言えない――強いて言うなら柑橘系の匂いが漂っている。
「これですか? これは陽日酒というもので、口当たりのいいお酒です」
「酒なのか」
「はい、美味しいですよ。ご主人様も一口いかがですか?」
「いや、遠慮しておく。流石に朝から酒を呑む気分じゃないな」
「そうですか……」
 ピアの差し出してきたグラスを断り、テーブルの上のポットから普通に冷えた水を新しいグラスに注ぐ。
 間接キスは惜しいが、一般人として朝から酒を呑む訳にはいかない。
「あー、じゃあこっちはどうですか? ご主人様ー」
 と、ミゥが差し出してきたのは、玩具にある硝子球のような物だった。
 透明な球体の中に、角ばった赤い核と螺旋を描く青い線がある。
「これは?」
「ちょっと特殊な方法で水分を凝縮した…… まあ、一種の健康食品みたいなものですよー。寝起きとか食後に舐める人が多いです。喉が渇いてるなら、どうぞー」
「そうか、じゃあ頂くよ」
 受け取って、口に含む。
 途端、舌の上をよく冷えた水の感覚が流れ始めた。
 不思議な感覚だ。飴玉に似たこれ自体は冷たくも何ともないのに、唾液を絡ませると、冷たい水を溢れさせる。
「ん…… これは、結構いいな」
「ふふ、元々は携帯飲料に代わるものとして開発された物ですから。見てくれはあまりよくありませんけど、食べ物としては悪くないと思いますよー」
「見てくれも悪くないと思うけどな。ありがとう」
「いえいえー」
 まあ、食べ物が玩具のように見えるというのはある意味では見てくれが良くないと言えるのかも知れない。単純に美的感覚の差かも知れないが。
 と、そんな事を思っていると、洗面所からシゥとノアが顔を覗かせた。
「お早う」
「おはよ。また珍しいものを喰ったな、ご主人」
「おはようございます、ご主人様」
 櫛を片手に、ツインテールの片方を梳かしながらシゥが笑う。
 ノアはと言うと、その後ろでシゥのツインテールのもう片方を結っている所のようだった。
 傍目からは何ともないように見えるが、シゥのツインテールは抱えなければならないほどの長さがある。さぞかし大変だろう。
「ん? 何だよ、じっと見て」
「ん、ああ、いや。何でもない」
 視線に気付いたか、薄い微笑みを浮かべたまま問うシゥ。
 それに誤魔化しの言葉を返し、ふと、彼女に一つ大切な話をしておかなければならない事を思い出した。
「そうだ、シゥ。ちょっと散歩に行かないか」
「え、あ、分かった」
 俺の言葉にシゥは何故か少し戸惑いながらも頷き、髪を梳く速度を上げる。
 散歩に誘われるのがそんなに意外だったのだろうか。
「あ、ボクも一緒に――」
「駄目だ」
「えー」
 予想通りと言えば予想通りの反応を見せたミゥに、俺に向けていた微笑みを即座に眼光鋭い睨み顔に変えて彼女を威嚇するシゥ。
「えー、じゃない。邪魔したら許さないからな」
「むう…… 分かりました」
 ミゥは割と素直に引き下がると、ボクにも宜しくお願いしますね、と何か勘違いしていると思しき言葉と少し妖艶な笑みを向けてくる。
 それにいちいち睨みを返すシゥに俺は苦笑しつつ、その小さな手を取って部屋の外へと連れ出した。


「――で、何だよ、ご主人。ニニルの事か?」
 通路の途中にある、ソファと自販機が並ぶ一角までシゥを連れ出した俺は、あまり機嫌よくはないといった表情の彼女にそう先手を打たれた。
「よく分かったな」
「よくよく考えたら、今日という日の朝っぱらから俺に話す事があるっつったらあいつの事しかねーだろ」
 ひとまずソファに腰を掛けると、俺の膝の上にシゥが横座りで乗ってくる。
 胸元やや下にある小さな青い頭を撫でながら、俺は話を切り出して、
「まあ、なんというか――」
「ちょっと待った」
 と、いきなり止められてしまった。
「なんだ?」
「あいつの話をする前に、ひとつやる事が、ほら、あるだろ」
 頬を少しだけ赤らめ、シゥにしては歯切れ悪く、何かを催促する。
 彼女がそういう態度になるという事は、あれだろうな、と推察して、俺は小さく笑いながら頷いた。
「そうだったな。じゃあ、失礼」
「っ、あ」
 シゥの小さな顎を手に取り、軽く持ち上げる。
 至近距離で、サファイアの瞳と視線が合う。
 彼女はしばし呆然と俺を見つめ、ややあってゆっくりと瞼を閉じた。
「ん……」
 ちゅ、と、まずは軽く触れ合うだけの口付け。
 二、三回とそれを繰り返してから、そっと舌を小さく柔らかな唇の間に滑り込ませる。
「ふ、んっ……」
 小さく漏れた呼気と共に、シゥの舌も動いた。
 互いの唾液の味を確かめるように、舌と舌を絡み合わせる。
「んっ、ん……」
 穏やかな口付けが、徐々に激しいものになってくる。
 切っ掛けになったのはシゥが手を伸ばして俺の首後ろに回し、より強く唇を押し付けてきた事。
 それに応えるように俺も膝の上にあるシゥの胴を片方の手で強く抱いて、顎の手は彼女の後頭部へと回す。
 小さな身体が多少海老反りになったが、しかし彼女は気付いていないかのように口付けを求め続けてくる。
「ん、ん、んっ……!」
 視界の端、彼女の青い髪の向こうで、氷の翅が何かを堪えるように小刻みに震えている。
 そろそろいいかな、と思い、俺は彼女の頭を撫でながら、ゆっくりと唇を離した。
「は、ぁ……」
 つぅ、と唾液の糸が俺とシゥの唇の間に垂れる。
 やがて重力に耐えかねて切れ、雫となって自身の服に染みたそれをしばし呆として見つめたシゥは、こつ、と小さな頭を俺の胸板にぶつけ、それから全身を力なく預けてきた。
「気持ち良かった?」
「うん……」
 俺のそんな問いに素直に答えるシゥ。
 そんな彼女を素直に可愛いと思いながら、頭を撫でつつ、細く小さい身体を優しく抱き締める。
 どれだけそうしていたろうか。不意にもぞりと動いた彼女は、ん、と一つ呟いてから俺の胸板に強く額を押し付け、
「……で、何なんだよ」
 と、いつもの様子に戻って、会話の続きを促してきた。
 俺はそんなギャップに小さく苦笑し、話を再開する。
「明日で、この旅行が終わる訳だが」
「ああ」
「その。もしもニニルとの確約が取れなくても、彼女を、その、殺さないでやってくれないか」
 すぐに答えはなかった。
 シゥは俺の胸に顔を埋めたまま、額をすり寄せるように首を小さく左右に捻り、
「それがご主人の頼みなら。 ……って言いたいところだが。やっぱ、無理だ」
「そうか」
「あいつは危険だ。あいつが何も書かなかったとしても、あいつが幻影界に帰れば、向こうに俺達が逃げている可能性のある場所をひとつ教える事になる」
「……」
「それだけじゃない。あいつが向こうに戻った時、帝国にあいつが捕まれば、俺達の事を吐く可能性も否定できない。だから、どうあっても…… それこそ、敵にならないと確約が取れたとしても、あいつは始末しようと思ってた」
 そう、ほぼ一息に言ってから、シゥはひとつ深い溜息を吐いた。
「……嘘、またご主人に吐いた事になるけど、俺はただ、一番安全なのは、この方法しかないと思って、それで」
「分かった」
 涙が滲んだような、苦しげな声。
 シゥのそんな声を聞いていたくなくて、俺は彼女の言葉を中断するように一つ頷いた。
 途端、彼女が埋めていた顔を上げる。
 そこにあるサファイアの瞳は、今にも泣いてしまいそうに潤んでいた。
「じゃあ」
「いや、シゥの気持ちは分かったが、やっぱり俺はニニルをどうこうしてしまうのには賛成できない」
 やはりニニルは巻き込まれただけで、客観的に見れば被害者ではある。
 彼女を始末してしまおうという考えは、分からなくはないが身勝手すぎる。
 叱責のひとつは覚悟してそう言ったが、シゥは俺の目をじっと濡れた瞳でしばし見つめ、また俺の胸板に顔を埋めて、
「……甘いんだよ、ご主人は」
 とだけ言って、また額を強く押し付けてきた。
「すまん」
 一言謝って、俺もシゥの頭を撫でる。
 それに応じるように彼女の手が胴に回ってきて、ぎゅっ、と強く、自身の身体を引き寄せるように抱き付いてくる。
 小さく細いが、柔らかで暖かな身体。
 俺がシゥの体温を感じ、仄かな安息を得ると同時に、彼女のものと思われる吐息が、服越しにゆっくりと腹に当たった。
「……なあ、ご主人」
「ん?」
「あの、さ。さっきミゥから、飴っぽいの貰ったろ」
「ああ」
「あれ、実は――」
「――ほんに熱いのう、主らは」
 シゥが何かを言いかけた瞬間、そんな老獪な口調の声が至近から耳に響いた。
 驚き、二人で咄嗟に声の方向を向く。
 そこには、俺達の隣のソファに腰掛け、意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見る紫の妖精――ヅィの姿があった。
「こういう時は何と言えばよいんじゃったか。妬く、かの?」
「……ヅィ、いつからそこにいやがった?」
「お主ともあろう者がほんに気付いとらんかったのか。てっきり無視しとるのかと思うたぞ。 ……そうじゃな、主の『やることがあるだろ』の辺りからかのう」
 ……つまり、ほぼ全部ということか。
「くふ。まあよいものを見せてもろうた。思わず口の前に手が出そうになったが、そこは寛大なわらわに感謝する事じゃな」
「っせえ! 大体何でここにいる!」
「わらわがここを通り掛かった時にお主らがおっただけじゃ。それよりも、悠」
 シゥの台詞をさらっと流して、意地悪い笑みのまま、ヅィはこちらに言葉を投げてくる。
「ん?」
「こやつ、こういう時はやたら可愛げがあるとは思わぬか? 普段は粗暴でがさつな――」
「っせえ! 黙れ!」
「――つまりこのような調子なのにのう。どういう事か知りたいとは思わぬか?」
 顔を赤くしたシゥの抗議など気にする風もなく、そう問うてくるヅィ。
 つまり、先ほどのような可愛らしい様子のシゥにはちゃんと由来があり、単なる粗暴さの裏返しではないという事なのだろうか。
「そうだな――是非とも知りたい」
「ご主人ッ!」
「くふ、正直なのは良い事じゃ。どこぞの誰かとは大違いじゃのう」
 声に出した笑いでその誰かを嘲笑うと、一息を吐いて、ヅィは実に面白そうな様子で語り始めた。
「シゥ・ブルード・ヴェイルシアスはな、フィフニルの大樹から生まれてすぐに、語り部を家業とするエルフの一族の元に引き取られていった」
「語り部?」
「うむ。文献などに頼らず、口伝で歴史を伝える生業じゃな。人間にはあまり居ぬやもしれぬが、長寿の種族には大抵おったものじゃ」
 ヅィがちらと横目をシゥに送る。
 シゥは少し赤い顔で何か言いたげにヅィを睨んでいたが、語った内容に対しての否定はなかった。
「この頃はまだ精霊種の下等なものとして妖精種の存在があってな。精霊種の言葉には従う風潮があった。よってこやつは半ば強制的にその一族の元へと連れて行かれ、そこで幽閉生活と共に語り部の補佐としての訓練を積んだのじゃな」
「幽閉生活、って……」
「……単に毎日毎日本を読んで、目で見た事や聞いた事をすぐ覚えられるようになる為の訓練だよ。別に、変な事があった訳じゃないし、幽閉って程じゃねーよ」
「それは語り部の一族がお主に『外』というものを教えんかったから、逃げられる心配もなし、特別何かをする必要もなかったという事じゃろう。 ――で、その訓練があらかた終わった所で、語り部の一族はこやつを学院に通わせた。丁度この頃、妖精種の為の学級などが出来たという事もあったからじゃろう。今、よくよく考えれば、あの辺りからもう皇帝の思惑が絡んでおったのじゃろうな」
 意地の悪い笑みが薄くなって、昔を懐かしむような柔らかな笑みを浮かべるヅィ。
「わらわもその時、妖精炎魔法担当の教授として学院に招かれておったからの。あの頃のこやつの事はよう覚えておるわ。あの頃は大人し過ぎる気はあったが、打てば響くように素直な、可愛らしい妖精っ子じゃったというのに。何故このように捻くれてしもうたのやら」
「ほっとけ!」
「――つまり、シゥはそれが地だって事か?」
「そうなるかのう。普段はこの通りじゃが、実のところは、花も手折れぬ大人しく弱気な秀才肌のお嬢様、がこやつの本性という事じゃな」
「ご主人に変な事吹き込んでんじゃねぇッ!」
「どこぞの誰かとは違って嘘は言うておらぬ。教授、教授と後を付いてきたあの頃のお主はほんに可愛かったのう。最初こそ無愛想ではあったが、あのような態度の変化を至近で見れるというのは、師冥利に尽きると思ったものじゃ。それが数十年目を離した隙にこの有様。悠にはわらわの悲しみが分かるかえ?」
 そう問うてくるヅィの口調は悲しげだが、器用な事に目と口は笑っていた。
 そんな彼女とシゥの威嚇するような視線に挟まれ、俺は取り敢えず苦笑いで場を凌ぐと共に、少し気になった事を口にした。
「そういや君らは何歳なんだ?」
 そう聞いた途端、ヅィもシゥも真顔になって眉を寄せ、お互いに視線を交わし合った。
 まるで何かを確認し合うようなアイコンタクト。
 答えが返ってきたのは、シゥが首を傾げ、ヅィが首を横に振り、両者同時に頷いてからの事だった。
「何ゆえそのような事を聞くのか分からぬが…… わらわは八百を超えた辺りで数えるのを止めてしもうたから、正確なところは分からぬ」
「俺もだ。五百は確実に超えてるが、んな事一々覚えてねぇ」
「八百五百って…… 年、だよな?」
「それ以外の何があるというのじゃ」
 思わず目の前の二人をまじまじと見つめる。
 綺麗と可愛いが見事に両立した顔からは、とてもそれだけの歳月を感じる事はできない。
 艶のある髪やきめ細かい肌も同様で、人間に例えるならどう見ても十代かそれぐらいだ。
「君らって、何歳ぐらいまで生きるんだ?」
「何歳、か。平均では四百年ぐらいではないかの。外界ほどではないが、妖精郷にはそれなりに危険もある」
「いや、そうじゃなくて…… 寿命とかさ」
 そう問い直すと二人は一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐに意を得たように、ああ、と声を上げた。
「寿命か。わらわ達にそのような概念はない」
「と、いう事は」
「うむ。事故や戦いで死んだりせぬ限りは、幾年でも生き続ける事が出来る」
「俺ら――フィフニル族は、こないだも言ったけど世界樹守護種だからな。世界樹に外敵が迫った時に備えて、数が固定されてるんだ」
「故に繁栄種の妖精や、その他の種族のように老いて死ぬ事はない。頻繁に世代交代があると、戦力の維持が難しくなるからの」
 ……なるほど。
 二人の言葉を聞いて、俺は一人頷く。
 以前にミゥから聞いた、フィフニル族はフィフニルの木から生まれるという話と、今の話を繋げれば、皇帝とやらが彼女達を優秀な兵士として使ったのがよく分かる。
 生殖による自然増加がなく、木から生まれ、死ぬ時は外的要因のみであり、その数が固定されているという事は、恐らく戦いによって損耗しただけの数が、即座に木から生まれてくるのだろう。
 あたかも、という程度ではない。
 彼女達の生態は完全に、優秀な兵士供給システムそのものだ。
 クローンの兵士軍団だとか、完全機械化軍隊だとか、SFの世界で行われているようなレベルの代物。
 そう考えると、彼女達に少なからず見られる享楽的な思考も、偶然とは思えない。
 そう、例えば、敵を殺して殺して殺して回る事を楽しいと思わせられれば――
「……どうした、悠よ? 顔色が良くないが」
「あ、ああ」
 ヅィの少し不安げな声で、俺はそんな思考から我に返った。
 頭を振って、思わず揺れた視界を元に戻し、嫌な思考を追い出す。
 少なくとも今の彼女達にはあまり関係のない話だ。
「ふむ。あれかの? もしかすると悠は、年上が嫌いとか、そういうのじゃったか?」
「え? そ、そんなのあるのか?」
「何を言うておる。お主も何百年前だったか、聖樹会の連中に、無駄に歳だけ喰えばいいってもんじゃないだろ、などと言うておったではないか。恐らく、あれと似たようなものではないかの」
「う…… んな事言われたって、どうすりゃいいんだよ」
「さてのう」
「……本格的に誤解される前に言っておくが、年上嫌いだとかそういう事は全くないぞ」
 俺の思考を知ってか知らずか、何やら別の方向に加速している二人の会話に苦笑する。
 普段はこんな調子だから、彼女達と一緒にいるのは楽しいのだろうか。
「ふむ。誠かの?」
「ああ」
「分かった、と言いたい所じゃが…… 証明が欲しいのう」
「証明?」
「うむ。先程、シゥとしておったような口付けがよいな」
 ヅィは笑みを浮かべつつも、どこか不安の拭えないような表情でそう要求してくる。
 そんな事でいいのか、と思いつつ、分かった、と返して、彼女の軽い身体を抱え上げた。
「う、む……」
 顔を近付けると、ヅィは俺の目から少しだけ視線を逸らし、頬を僅かに朱に染めながら瞼を閉じる。
 そんな彼女を可愛いと思いながら、ゆっくりと唇を重ねた。
「ん……」
 ヅィの柔らかい唇を舌でなぞるように舐め、そっと中へ差し入れる。
 彼女の口内で俺と彼女の舌が接触すると、彼女の舌は怯えるように引っ込んでしまった。
 それに内心笑みを浮かべながら、彼女の舌を追い掛け、そっと絡める。
「ん、ん……」
 ぬる、と唾液を纏った舌が絡み合う。
 とは言っても、俺の舌の方が圧倒的に大きいので、正確にはヅィの舌を包む感じになるが。
「ん、む、う……!」
 口内で舌同士をじゃれ合わせるように動かす。
 視界の端、ヅィの顔の向こうで、先程のシゥ同様に翅が小さく震えている。
 彼女も気持ち良いのだろうか。
「んっ、う……!」
 小さな力で、ぱしぱし、と俺の首が叩かれる。
 気付けば、ヅィの顔が僅かに苦しげに歪んでいた。
 慌てて口付けを止める。唾液がつうと零れると同時、彼女は大きく息を吸った。
「っは、激しすぎじゃ、このたわけ!」
「いや、だからって息を止める事はないだろう」
「何? 口付けの最中は息を止めるものではないのか?」
 言ってから、自分の思い込みに気付いたのか。
 ふと振り向いたヅィの視線の先で、シゥは口許を押さえ、くっくっく、と笑いを堪えていた。
「わ、笑うでないわ!」
「っく、だってよ、く、は、口は塞がってても、妖精炎で息出来るだろ」
「く……! 覚えておれよ、主……! 悠も笑うでないわ!」
「いや、笑ってないぞ」
「嘘を言え! 口元が笑っておるわ!」
 よほど恥ずかしかったのか、笑う俺とシゥを糾弾するヅィ。
 その後、数分に渡って俺は彼女を宥める事になるのだった。



「……さて、と」
 シゥ、ヅィの二人と別れた後、俺は本来の目的の人物を探す事にした。
 橙色の妖精、ニニル・ニーゼスタス・ラーザイル。
 彼女に会って、説得をして、それから――
「……どうしたものかな」
 状況はあまりいいとは言えない。
 シゥは言った。敵にならないと確約が取れても始末する、と。
 彼女はやると言ったらやるだろう。自惚れではなく、俺と五人の仲間の為なら、彼女は躊躇わない。
 確実にニニルを――殺す。
「くそ」
 ぐらりと揺れた視界に、思わず悪態を吐く。
 シゥの行為が煩わしい訳ではない。
 ただ、何故、全員にとって都合のいい選択肢がないのだろうと思う。
 誰かが運命の女神は阿婆擦れだと言っていたが、あながち間違いではないのかも知れない。
 何か――何かないだろうか。ニニルが死んで俺達の安全が僅かばかりに保たれるという回答よりも、少しでもベターな回答が。
 そう脳内を模索しながら、特に当てもなく通路を歩く。
 すると、何処からともなく、聞き覚えのある落ち着いた旋律が耳に入ってきた。
「ん……」
 気付けば、俺が歩いていたのは中庭の近く。
 あまり足音を立てないように中庭への通路に入る。
 様子を窺うように通路の角から中庭を覗き込むと、やはり予想通り、そこには二人の妖精がいた。
 透き通るような美声で妖精の歌を歌う、赤の妖精ネイ。
 それを微動だにせず、静かに聴くニニル。
 そんな二人が縁側に腰掛け、肩を預け合うように寄り添っていた。
 ややあって、歌が終わる。
 一呼吸の間を置いて、二人の会話が耳に入ってきた。
「……やっぱり、良い声ですね。練習はずっと?」
「はい。戻れるとは思ってませんでしたけど、止められなくて」
「済みません。私が、あんなものを届けたばかりに」
 歌の余韻からか僅かに弾むネイの声に、少しばかり沈んだニニルの声。
「ニニルさんの所為ではないですよ。それに、お陰で今がありますから、結果的には良かったのかな」
「あの人間との出会いは、そんなに良かったのですか」
「人間じゃなくて、悠様ですよ。そんなに劇的って訳じゃないですけど、悠様は、良い人ですから」
「妖精郷で舞踏会にいた頃と、今では、どちらが良いです?」
「ずるい質問ですね。でも、今の私にとっては、今かな」
 一つ風が吹いて、ざあ、と竹林が揺れる。
 その音が落ち着いてから、ネイは呟くように言った。
「大切なものを亡くしてしまうかもしれない世界は、もう嫌なんですよ。この世界は住み心地がいいとは決して言えないけど、向こうの世界よりは平和です。凶暴な魔物もいないし、今のところは、私達を捕まえようとする種族もない。それに、私達が今まで触れた事のないもの、感じた事のないものもたくさんあります」
「それには、同意ですが」
 一拍の間を置いて、ネイが続ける。
「ニニルさん。もう少し、こちらに居ませんか? 貴女が帰りさえしようとしなければ、どうこうする理由は無くなりますから」
 確かに、その手があったか、と隠れながら思う。
 ニニルが妖精郷に、幻影界に戻らなければ、彼女についての全ての懸念は解消される。
 しかし、自身の生業に熱心な彼女が、その仕事を放棄するような提案に首を縦に振るかどうか――
「どうですか?」
「……少し、考えさせてください。私は自分の仕事をそう簡単に放棄できるほど、自堕落な妖精ではありませんので」
「そうですか…… もしもその気になったら言って下さいね。悠様に掛け合ってみますから」
 そこで重い雰囲気の会話が途切れ、次、何を歌いますか? というネイの声が聞こえた。
 では――と答えるニニルの声を耳に、俺はゆっくりとその場を離れる。
 もう俺の出る幕はないだろう。やりたい事は全部ネイがやってくれた。
 これでニニルが意思を変えなければ、もう手はない。
 平和な結末があるように願いながら、俺は部屋へと戻った。


 部屋に戻って、何やらフラスコと試験管を手にあれこれやっているミゥの出迎えの言葉を受けながら、和室を通り過ぎて洋室に入る。
 と、そこではピアとノアがベッドに腰掛けて黒い布を手に何やら話し合っていた。
「もう一度聞きますが――あら、ご主人様、お戻りになられましたか」
「ああ」
 部屋に入った途端、二人は話を止めて、じっと俺の顔を見上げてくる。
 何故だか、その視線が妙に痛い。
「何か顔に付いてるか?」
「否定。強いて言うならば、目と鼻と口が」
「ノア! 済みませんご主人様、特には」
「いや、いい」
 ノアの冗談なのか本気なのか分からない台詞に苦笑しながら、ピアの隣を借りるようにベッドへと座り、上体を倒す。
 はあ、と一つ息を吐くと、ピアがベッドの上を寄ってきて、俺の胸に横から上体を預けてきた。
 身体に比例して小さくはあるが、形がよく弾力のある乳房が俺の胸板の上で潰れ、心地いい感触を与えてくる。
 全く、自然にやっているのか、それとも狙っているのか。
「ニニルの事でお悩みですか」
「よく分かるな」
「ご主人様はお優しいですから…… 今日という日にお考えになられている事があるとすれば、それかな、と」
 頭を寝かせて頬を寄せ、微笑みでこちらを見つめてくるピア。
 手を伸ばし頭を撫でてやると、猫がやるように目を細めて気持ち良さげにしてくれる。
「んふ…… 私達は、ご主人様があの子を逃がすというなら、それに従います。ただ、シゥは言う事を聞かないかも知れませんが…… あの子はあの子で、ご主人様の身の安全を護りたいが為にやっている事です。どうか、あまり責めないでやって下さい」
「大丈夫だ、分かってる」
「ありがとうございます」
 謝礼の言葉と共に息を吐き、より強く、押し付けるように身体を預けてくる。
 そんなピアを注視しつつ、その柔らかい身体の感触に僅かな情欲を抱いていると、ふと頭の上に影が落ちた。
 瞬間、もう一つの柔らかな身体が肩から胸にかけて覆い被さってくる。
 ノアか、と気付いた時には、彼女はもう俺の首元に顔を寄せてきていた。
「む……」
 つ、と鼻腔を漂う甘い匂いに、何故かどうしようもなく興奮する。
 白と黒の妖精の匂いが、俺の欲望を刺激してくる。
 ふと気付けば、俺はその手をピアの小さな尻へと伸ばしていた。
「ん、あ、ご主人、様」
 小さいが肉付きは悪くない尻を白い服の上からゆっくりと揉む。
 ピアにしてみれば唐突な事だったかもしれないが、しかし彼女は満更でもないかのように尻を小さく振り、悩ましげな吐息を漏らしている。
 そんな反応を見ると、やはり誘っているのだろうか、と思う。
 あからさまに胸を押し付けてきた時といい、頬を寄せてきた時といい。
「う、んんっ、ご、ご主人、様っ?」
 更に手を動かして、ピアの服をたくし上げる。
 そのうち指先が直接、彼女の柔らかくさらっとした尻肌に触れる。
 っあ、と感じた時の声が聞こえ、その小さな身体と共に光の翅が震えた。
 手を這わせる。何故かそこに下着はなく、手のひら全体がしっとりとした感触に包まれた。
「あ、や、ご主人、様…… ちょ、ちょっと待ってくっ、あ」
「気持ちいいか?」
「い、いいですけど、こんな…… それに、ノアが」
 言われて、ふとノアに視線を向ける。
 ノアはまるで「お構いなく」とでも言うかのように、仏頂面のまま瞳を閉じ、俺の首元に顔を寄せていた。
「気にするな」
「き、気にするなと言われましても、私が、んっ」
 誘ってきた癖に何を、と思い、取り敢えず無視する。
 双丘を片手で掴むように、時にはその谷間を広げるように、あるいは片方を包むように。
 時間を掛けて、ピアの尻を弄んでいく。
 そうすればそうするほど、ピアもなんだかんだで息を荒くし、顔を赤くして、徐々に艶のある声を漏らすようになってくる。
 頃合を見て、尻の谷間、太腿の奥に手を伸ばすと、ぬるりとした液体の感触があった。
「もう濡れてるのか」
「っ、その、これは」
 まだ尻を撫で回し始めてから二分と経っていないのに。
 出会ってから今日になるまでの短期間で、本当にえっちな子になったものだと思う。
 勿論そうしたのは俺なのだが、それを思うと、更に欲情を誘う。
「仕様のない子だな」
「す、すみませ、っひ、や、あっ!」
 台詞の途中で、濡れる割れ目に指を差し込んで軽く揺すると、面白いように言葉が甘い喘ぎで途切れる。
 元々素質があったのだろう。そうでもないと、こういう行為を覚えて数ヶ月、数回目のものとはとても思えない感じ方だ。
 あるいは自慰に味を占めて、こういう声を上げるのがすっかり日常的になっているのか。
「ピア」
「はっ、はい」
「いつも一人でやってる時は、どういう風にしてるんだ?」
「え、一人って、え、ええ!?」
 ……そう言えば、ピアの自慰は見た事がない。
 そう思うと、俄然、見てみたいという気分になる。
「その、あのですね、っう、ゆ、指を、添えて」
「説明じゃなくて。今ここで、実際にやってみろ」
 赤い顔のまま、う、と呻きを漏らして悩むように押し黙るピア。
 その口は文句か何かを言いたそうに時折開きかけたが、結局何も言う事はなく、
「わ、分かりました……」
 と、素直に了承した。
 俺の胸元に押し付けていた胸を離し、ベッドの上に膝を抱える形で座り込むピア。
 ソックスに包まれた細い足の向こうには、てらりと濡れた、無毛の縦筋が覗いている。
 彼女はひとつ深呼吸をして、抱えた膝を開きかけて、ふと止めた。
 そしてじっと、こちらを見る。
「どうした?」
「その、ノア。な、何故貴女もまじまじと見ているのですか?」
 その言葉にふと気付けば、俺の首元に顔を埋めていたノアもいつの間にやら顔を上げ、無表情にピアの姿を見つめていた。
「見てはいけないのですか」
「いけない、という訳ではありませんが、その、仮に貴女もこうしているところを私に見られたら、嫌ではありませんか?」
「否定」
 ノアの即答に、ピアが眉を歪めて何とも言えない表情を作る。
 そういう質問をしてもノアには意味がないどころか墓穴を掘るだけだというのはピアなら分かりそうなものだが、やはり緊張で上手く思考が回っていないのだろう。
 ふと、ちらとピアが視線を送ってくる。助けを求めるような、哀れな子羊の視線だ。
 しかし俺は何も言わず、ただ視線をピアの秘所へと送った。
 早く続けろという意思を込めたのだが、それをしっかり読み取ったらしい。ピアは更に頬を染めて、僅かに俯くと、ゆっくりと膝を開いた。
「う、う……」
 いわゆるM字開脚の格好になって、先程自身で口述したようにその中心にある割れ目へ右手の指を添える。
 そこでまた動きを止め、震える視線が俺を見て、ノアを見て、また俺を見て、ゆっくり瞼を閉じると、縦筋に添えた指を動かし始めた。
「っ、あ…… あっ、う、んんっ」
 ゆっくりとした小さな動きだ。
 親指を縦筋の上端に置いて、くりくりと小刻みに動かしながら、余った指で縦筋を割って、中へと浅く指を入れている。
「う、うんっ、っあ…… ごしゅじ、さま……」
 もう片方の手も秘所に伸ばしていく。
 細い人差し指を立てて、ゆっくりと中へ。浅く前後させて快感を得ているのか、その度に眉が形を変えている。
 見立てているのは俺の指か、あるいはモノそのものか。
 どちらにせよ太さも長さも足りないのだが、それはピアも同感だったらしい。程なくその人差し指に中指も添えて、指二本で快楽を弄り始めた。
「ん、あ、あ、あぁ……!」
 ピアの身体がやや前屈みになる。
 最早思考の中に俺とノアの事はないのか、自身の割れ目に突き込む指は遠慮のない速度になり、立てる水音も大きく、より粘着質な音になっていく。
「あ、あ、あっ! あ、っ、っひ、い、いっ……!」
 割れ目に突き込んだ二本の指がその前後運動を止め、ぐりぐりと、奥にある何かを弄り回すような動きに変わる。
 強い刺激にピアの背中がより丸まり、声の調子が更に切羽詰ったものになる。背中の翅は忙しなく震え、白い燐光を辺りにばら撒いている。
 自慰などという浅ましい行為をしている最中とは思えない、綺麗な姿だった。
「あ、あぅ、あっ、あひ、い、イきま、すッ……! あ、あああッ!」
 そんな絶頂の宣言と同時にピアの身体は一際大きく震え、前屈みになっていた身体を逆に海老反らせた。
 その態勢のまま、およそ数秒。糸が切れるように、ピアはその身体をベッドに横たえた。
「イったな。いい子だ」
「あ、ありがとう、っは、ございます……」
 余韻を感じたいのか、縦筋に突っ込んだままの指をゆるゆると動かしながら、荒い吐息混じりにピアが応える。
「ノア、どうだった?」
「参考になります」
 からかい混じりにノアにそう聞くと、真顔と共に何とも味気ない答えが返ってくる。
 しかしピアはそこで俺だけでなくノアにもばっちり一部始終を見られていた事を思い出したのか、さっと視線を反らした。
 だが、すぐに戻して俺を見て、ぽつりと漏らすように一言。
「あの、その、ご主人様……」
「何だ?」
 もぞり、と火照った身体を持余すように太腿をすり寄せるピア。
 言いたい事は分かっているが、あえて彼女の方から言わせるのがセオリーというものだろう。
「はっきり言わないと分からないぞ」
「その…… ご主人様の、おちんちんを、下さい」
「ノアが見てるのに、か?」
「っ…… いいんです、我慢出来ません……!」
 最早ノアを気にしても意味がないと判断したのか、彼女が目の前にいるというのに行為をせがんでくるピア。
 そんな彼女を俺は笑って、彼女の腰を掴み、引きずり寄せた。
 あ、と彼女が驚きと喜びの入り混じった声を漏らしている間に、今までにないぐらいがちがちに勃起したモノを出して、彼女の後ろから割れ目に宛がう。
「あ、ご主人様、ま、待って下さい。この体勢は―― ああああッ!?」
 そして問答無用で腰を叩き付けた。
 亀頭が割れ目に潜り込む時に僅かな抵抗があったぐらいで、あとは一息に奥まで貫き、子宮を叩く。
「あ、あッ! ご、ごしゅ、ひ、あ、あ、ああッ!」
 こつ、こつ、こつ、と。
 やや強く、モノを彼女の最奥に叩きつける。
 そうすると面白いように悲鳴を上げて言葉を途切れさせ、呼吸を乱れさせる。
 手を当てれば、すらりとした下腹が俺のモノの動きに合わせて歪んでいるのが分かる。
 押してやると感覚が強くなるのか、やや悲鳴の調子が乱れた。
「う、ひ、おっき、あ、あぁ、あ……!」
 また小さな身体と翅がぶるりと震えた。
 切羽詰った悲鳴と共に、早くも二回目の絶頂。
 そんなピアの濡れ具合は凄まじいもので、愛液がぽたぽたと雫となって垂れ、ベッドを濡らしている。
 少し漏らしてるんじゃないだろうか。
 ともかく、ピアに挿れてから三擦り半に等しい時間しか経っていない為、俺はまだ射精の気配すらない。
 自慰を命令した事など棚に上げて、二回もイったピアの事をいい身分だな、と思いながら、彼女にとっては杭にも等しい俺のモノでがんがんと突き上げる。
「――ひッ!? あ、が、やッ、ごしゅじ、さまッ、やめっ、あ、ひッ、ああッ!?」
「俺はまだ、イってないぞ」
「も、あ、ひっ!? や、あ、やめっ、やめてッ、また、あ、あ、あッ……!」
 早くも再び、ピアの身体と翅が震えた。立てていた腕が屑折れ、上半身がベッドに落ちる。同時に響く、ぷしゅ、という間抜けな水音。
 ぱたぱたぱた、という水が跳ねる音と共に、俺とピアの接合部の真下のシーツが薄黄色に染まっていく。
 三度目の絶頂と共に、ピアは本当に失禁してしまったのだ。
「あ、や、とまら、なっ……」
 力が入らないのか、呟くだけで何も出来ていないピア。
 絶頂の直前に聞こえた、止めて、という制止の声は、尿意を訴えるものだったのだろうか。
 ともかく漏らしたのだから、お仕置きが必要だろう。
 そう思って、俺は彼女の腰を掴んでいた片方の手を離し、軽く開いて彼女の尻の上でスイングした。
 ぺち、という控えめな音と共に、彼女の身体が絶頂とは違う震えに襲われる。
「いっ!? あ、な、なにを――」
「君みたいな下の緩い子には、お仕置きがいる」
「ゆ、ゆるいなどと…… それに、これは、ご主人さま、が」
 顔を赤くし荒い息を吐きながらも、非難の目でこちらを見てくるピア。
 俺のせいだ、私は悪くない、とでも言いたいのだろうか。
 再び手を上げる。今度はやや強く、その小さな尻を張った。
 ぱぁん、という小気味良い音が部屋に響く。
「ひッ!?」
 一発。
「いッ!」
 二発。
「ああッ!」
 三発。
 やや赤みの強くなった彼女の尻肉を撫でながら問う。
「お漏らししてごめんなさい、は?」
「っ、ごめ…… ひあッ!?」
 四発目。
「声が小さいな」
「お、お漏らしして、ごめんなさいッ……!」
 そう口にしたピアの瞳には涙が滲み、顔には羞恥と困惑の色があった。
 そんな彼女に嗜虐心をそそられ、俺はつい笑みを浮かべる。
 もっと、もっとピアを恥ずかしい目に遭わせてやりたい。
 その為にはどうすればいいか――俺の思考は、一瞬で解を弾き出した。
 横に視線を向ければ、俺とピアを、特にピアを重視して観察しているノアがいる。
 解を実行する為に、俺はノアに向けて口を開いた。
「ノア、ミゥを連れて来い。万一逃げそうだったら、拘束して俺の傍まで連れて来るんだ」
「え……!?」
「了解」
「ち、ちょっ、ノア、待ちな――あッ!? あ、や、やめ、やめっ、ひ、ああッ!」
 ノアに制止の命令を出そうとしたピアの口を、彼女にモノを打ち込む事で止める。
 その間にノアは洋室と和室を隔てる扉の向こうへと消えていった。
 俺はピアの最奥にぐりぐりとモノを押し付けながら、意地悪く彼女に言う。
「この、君のお漏らしで濡れたシーツを何とかする必要があるだろう?」
「っひ、ゆ、許して、ください……! こんな、っあ、こんなところっ、ミゥに見られたら、私は――」
「会わせる顔がない? こないだ二人してお漏らししてたじゃないか。何を今更」
 確かにピアの言う事も分からないではない。
 二人同時に、しかも素面でないという事であればまだ大丈夫だが、素面の時に、しかも結合の真っ最中をも見られるとなると、ピアの威厳や尊厳は一気に地に落ちるだろう。
 勿論、それをやりたくてやっているのだから、止めなどしないのだが。
 そんな思いを込めてピアに笑いかけると、怯えた調子で口を開く彼女。
「お、落ち着いて、落ち着いてください。しょ、正気に、戻って――ひぅっ!?」
「正気? 酷いな、俺の気が狂ってるって言いたいのか?」
「っあ、あッ、ひっ、そ、そうではなく、ご主人様は、今、よッ、あ、ひッ! あ、ダメ、やめっ……あ、あ、ああッ!」
 突然何を言い出すのかと思えば、仮にもご主人様に対して気が狂っているとは失礼な子だ。
 丁度いい。この機会に本格的に躾けてやるとしようか。
 そう考えて、ひとまずピアが逃げ出さないよう、腰を突き上げながら伸ばした手で手拭いを取る。
 と、そこで部屋の扉が開いて、ミゥが顔を出した。
「はいー、ご主人様、何か用、です、か……?」
 恐らく彼女が目にしたのは、俺に背後から突かれて嬌声を上げながらベッドに突っ伏すピアと、その背後で手拭いを手にピアの両手を拘束しようとしている俺の姿。
 鼻を突いたのは、十分に愛液を垂れ流しているピアが放っている濃い淫臭と、恐らくはピアの小水の匂い。
「えーと……」
 ミゥは俺を見て、ピアを見て、また俺を見て。
「し、失礼しまし――え?」
 逃げ出そうとしたところを、その背後に立っていたノアが捕まえ、突き出すように部屋の中へと押し入れた。
 その様子を見て、俺は笑みを浮かべる。
 そんな俺と目が合った瞬間、ミゥは口許を引き攣らせた、苦しい笑いを浮かべた。

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