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フィフニルの妖精達38「Prehistory Civilization」

「――お待ちしていました」
 そう言って、黒の妖精――ノアはライと俺を統制局で出迎えた。
 前回、前々回に会った時とほぼ違わぬ格好。護服であろう豪奢な黒衣に、腰に吊った長剣。ただひとつ、比較的大きな長方形の盾をひとつ逆側の腰に吊っている。一見動きにくそうだが、吸い付いているかのように邪魔になっていないところを見るに、妖精炎魔法で制御しているのだろうか。
「い、いえ。騎士でない身でありながら、名誉ある任務に参加できること、光栄に思います」
 ライは最大限身嗜みを整えたようだが、基本の金と白を基調にした服には変わりがない。ニニルの元を大急ぎで出た時から、金の短髪は剛性でもあるかのように乱れていないし、強制的に眠らされていた割には隈も寝惚けもない愛嬌のある顔だ。妖精種の特権なのだろうか。
「そう固くならずとも結構です。 ――概要を説明します」
 羊皮紙のような書類を片手に、ノアは統制局の中、フィフニル族の妖精達が何らかの受付や書類整備、連絡伝達などで忙しそうに働くのを横目に、端にある椅子にライと俺を誘導してからそう切り出した。
「クインゼロットの近く、黒珊瑚の森で新しい先史文明の遺跡が発見されたことはご存知ですか?」
「い、いえ、全く……」
「今回、そちらの調査を行うに当たって人手不足があり。こうしてあなた他何名かの方に従軍をして頂く事になりました」
「りょ、了解です。拝命致します」
「装備は必要になり次第こちらから貸与致しますので――まずは、これを」
 言いつつノアが取り出したのは、握り拳ほどの大きさの淡青の結晶が付いた首飾り。
「ご存知かと思いますが、念話結晶です。発掘作業中には妨害で使えないことも多々ありますが、持っていて下さい」
「ありがとうございます」
 要は通話のみの携帯電話のようなものだろうか。ライは丁重に受け取って、大切にしまい込む。
 それを確認するように見届けてから、ノアは腰を上げ、そして告げた。
「では、早速ですが出発しましょう」
「え、今からすぐですか?」
「はい。何分、別所の発掘予定も立て込んでいますので――こちらです。付いてきて下さい」
 有無を言わさぬ様子で、ノアは無音の歩みで奥へと向かう。それをワンテンポ遅れて追いかけるライと俺。
 通路をいくらか進んで曲って進むと、外に出た。城の外縁に接するのだろう、大きな広間だ。妖精達の小ささなら千人は余裕で集まれるだろう場所。訓練などに使われるのかも知れない。あるいは妖精達の軍隊の出撃所か。少し向こうで石畳は途切れ、大樹の枝に変わり、そして空へと続いている。
 そこで八人ほどの妖精が、荷造りのようなことをしていた。キャンプに出かける前の集団のように、荷物を囲んであれこれと相談しているように見える。見覚えのある顔――というより、フェイの姿もあった。彼女も呼ばれたのか。
「こちらの方々と今回は行動を共にして頂きます。 ――注目。最後のひとりである、治安管理官のライ・ゴルディス・アンカフェットです」
「よろしくお願いします」
 会釈をしつつ、ライも気付いたのだろう。アイコンタクトに応じて、フェイが片手を挙げた。
「そろそろ出発と致しますので、詳しい自己紹介などは後程にお願い致します。 ――ライ、目的地までは飛行を行いますが、率直にお尋ねします。後の行動に支障はありませんか?」
「あ、いえ――その、出来れば、補助をお願いしたく」
「分かりました。では――」
「ノアさま。その役目は僕が。ライとはよく見知った仲ですから」
「そうでしたか。それではお願い致します」
 ノアが補助とやらの要員を見繕おうと見回そうとした矢先、フェイが先んじて名乗り出た。
 何度かこういうことがあったのだろう。フェイは別段何でもない顔をしている。
「ありがと、フェイ」
「今更礼を言われることじゃないよ。 ――ユーリシウスだっけ。まさか飛べたりはしないよね」
 割と真面目な顔で、俺を探るようにそう尋ねてくるフェイ。どうやら彼女の中では俺は不思議生物にカテゴライズされたらしい。
「そりゃそうよ。ユーリスが飛べるならこんな恥ずかしい思いしてない」
「それもそうだ。じゃあ――ううん、どうしようかな」
「それなら彼の方は私が抱えましょう」
 どう運ぶか、辺りで悩んでいたのであろうフェイに名乗りを返したのは、まさかのノアだった。
「え、しかし、ノアさまにお手数を掛けるわけには」
「構いません。必要であるなら速やかになされるべきです。 ――それでは出発しましょう。先導致しますので、遅鈍なく付いてくるように願います」
 言うなり、ノアは問答無用とばかりに俺を背中から抱え込み――
「(――悠様の匂い? ……馬鹿な)」
 一瞬、戸惑いとは分からないぐらいに停止した後、ふわ、と浮き上がる。
 その一瞬の合間に聞こえてきた声を、俺は聞き逃さなかった。


 ノアを先頭とした十人からなる妖精の編隊は、ウルズワルドを離陸後、ゆっくりと高度を下げながらの、いわばグライド飛行を行うようにして森の上空を高速で飛翔し、体感的に二時間ほどを掛けて現地と思しき少し開けた場所に到着した。
 黒珊瑚の森、という名前に違わず、その場所は黒い海――タール溜まりのような沼、湿地帯の中から、珊瑚のような気味の悪い、樹木か岩か定かではないものが突き出しており、それが森を形成しているというおどろおどろしい場所だった。
「到着です。リーゼ、レヒタ、ウルトは設営を。ガノ、ミルヒ、ワゥルは周辺警戒。プシカ、フェイ、ライは私に付いてきて下さい」
「了解」
 妖精達のほぼ乱れない唱和が不気味な森の中に響く。
 設営および周辺警戒を命じられたメンバーは鋭敏機敏に動き、周囲の雑草を斬り払い、あるいは燃やし、凍らせて粉砕することで見通しのいい平地を作っていく。熟練のメンバーなのだろう、その動きは手馴れたものだ。
 一方、ノアを中心とした俺達は、降り立った場所から徒歩でさくさくと森の中へ入っていく。すると、すぐに遺跡と思しき場違いな建造物が見えてきた。
 そう――場違いな建造物だ。金属の光沢を放つ黄土色の物体を基盤にした、ごく小さい小屋のような、入口だけしか存在しないぐらいの建造物。それが沼と珊瑚に埋もれるようにして存在している。
「これが遺跡です。 フェイとライのために説明しますが――恐らく先史文明紀の中では比較的新しい部類でしょう。物理、魔法双方に対する強度を備えた守護者が徘徊していることが予想できます。注意して下さい」
 遺跡というからにはもっと石っぽいものを想像していたのだが、どうやら違うらしい。
 ノアはその入口に歩み寄ると、何かを探すようにぺたぺたと触れる。それを少し離れてライとフェイの三人で見ていると、ふと声が掛かった。
「ライさん、その大きい子、このザックを着けて貰っていいかしら。使えると思うんだけど」
 声の主はプシカと呼ばれた若草色の妖精。見れば、いつの間にか馬に付けるような胴巻きの荷鞄を抱え持っていた。
 大きい子。恐らく俺のことだろう。少し邪魔になりそうだが、問題はあるまい。
「あ、はい。分かりました。ユーリス、いい?」
 一応尋ねられたので、了承の意味を込めて着けやすい体勢を取る。二人がかりで着けてもらうと、丁度いい塩梅になったようだ。
「ありがとう。素直でいい子ね。ユーリスって言うの?」
「はい。ユーリシウスですね。短くしてユーリスです」
「そう。あ、私はプシカ。発掘隊所属の妖精騎士。よろしくね」
 そう名乗る彼女は、ウェーブの掛かった若草色の長い髪が似合う、どことなく母性を感じさせるおっとりめの顔をした妖精だ。豊満な身体を妖精騎士らしい護服に包み、腰の後ろ、張りのあるお尻の上に彼女の得物と思しき二振りの片手斧を載せている。
「ライです。普段は治安管理官をやってます。 ――プシカさんはミーディンカ族なんですか?」
「そうよ。妖精炎の扱いはそこまで上手くないけど、力は負けないわ」
 聞きなれない言葉に、視線を彼女の身体に向ける。
 ……なるほど、よく見ればプシカさんは、フィフニル族とは確かに違うようだ。身長は七十を少し超えるほどあり、耳の形――尖った先端が僅かに異なっている。そしてなにより、翅が背中から直接生えている。ライやフェイ、ノアなどのフィフニル族のエネルギー具現体の翅とは違う、生物的な翅。
「へえ…… ところで、僕達は何もしなくていいのかな?」
「大丈夫よ。必要があればノアさまが指示を出すと思うから」
 その声で、俺を含め四人の視線はノアに向かう。ややあって、ノアが扉に両手を押し当てて翅を黒く輝かせると、ずず、と扉が両開きに開いた。
「進みます。まだ戦闘態勢は取らないように。ライは私の後ろに。プシカはフェイの後ろに付いて下さい。戦闘時も維持です」
「了解」
 三人の唱和を小さく響かせ、俺達は遺跡の中へと進む。
 とはいえ、見た目は小さな小屋だ。どれほどのものでもない――そう思っていたのだが。
 その外見通りの小さな内部空間に全員が足を踏み入れると、ノアが扉を閉じ、そして、がくん、と部屋全体に動きがあった。
 これは――エレベータか?
 足元から周囲を見る。今や光源は妖精達の翅から漂う燐光が照らすのみとなって相応に暗いが、俺には関係ない。
 金属質だが妙に温かみのある、極めて平坦な床。壁も同様で、一ミリのズレも見られない。これほどのものは、生半可な技術力では建造できないはずだ。
 そう考えていると、部屋の動き――恐らくは降下が止まった。そして入ってきた扉がゆっくりと開く。
 扉の向こうは当然ながら黒珊瑚の森ではなく、暗い通路が闇へと続いていた。だが、まるで案内灯のように、薄ぼんやりと発光する光の線が通路の壁に沿って奥へと続いている。これを辿るのなら、迷うことはなさそうだが――
「あの――灯りは点けないんですか? 暗くて、よく見えないんですが」
 フェイが小さな声でそう尋ねる。確かにそれは発するべき疑問だろう。俺は何ともないが、彼女達は確か暗視を備えているわけではなかったはずだ。
「灯りはまだです。光に反応する種類の守護者もいます。まず、遺跡の通常動力を回復させなければいけません」
「通常動力?」
「はい」
 ノアがゆっくりと前進しながらフェイの疑問に答える。
「遺跡は殆どの場合、非常動力と通常動力の二系統で動いています。非常動力は入口の昇降機や守護者などの、最低限稼動していなければならない施設の維持を行なっています。通常動力はそれ以外、特に、かつてこの遺跡に存在していた先史文明生命の生活を補助する施設の維持を行うことが殆どです。要するに、通常動力を回復させれば、探索において本来不必要な手間を省略することが出来ると考えて下さい」
「分かりました、が……」
「大丈夫です。戦闘時を除き、私より決して前に出ないように、プシカより遅れないようにして頂ければ大丈夫です。 ……必ず、守ります」
 そう応えて、闇の中へ溶け込むように歩を進めていくノア。
 そんな彼女に違和感を覚えながら、俺とライ、フェイはその後ろを追う。最後尾をプシカさんが締める形で。


 よくよく見れば真っ直ぐではない――ゆっくりと左下方へ湾曲した通路を進んでいくと、不意にノアが足を止めた。
「――正面、五体。大型一体、小型四体。戦闘態勢を。大型を受け持ちます。小型を掃討して下さい」
「了解」
「りょ、了解」
 落ち着いて乱れなく応答したのはプシカさん。腰の片手斧を両の手に持って身構える。
 一瞬遅れてフェイが剣を抜き、ライも剣を抜いて盾を持ち、手甲を発光させると背中に金色の翅を顕現させる。
 妖精炎の高まりに応じてか、彼女達の翅が発する燐光の量が増大し、通路がにわかに明るさを増す。
 それらを見ずに、しかし見届けたかのようにノアは歩みを再開した。彼女だけは変わりない。剣も盾も構えることなく、翅というよりは翼の形状をした背中のそれから発される黒光の量も穏やかなものだ。
 ややあって、正面に壁が見えてくる。薄ぼんやりと発光する複雑な幾何学模様が描かれた、恐らくは扉だ。幾何学模様は何かの印章にも見えなくはない。
 そこへ両手を着けて、ノアは言った。
「この向こうです。開きます」
 黒の翼が僅かに輝きを増す。それと同時に、ゆっくりと扉が割れた。
 ――瞬間、赤い光が俺達を照らす。
 ほぼ同時に俺の鼓膜を打ったのは、ぱらぱらぱらぱら! という軽くも激しい、ゲームの向こうでよく耳にしたことのある破裂音――そう、銃撃音だった。
 それを現実に、それもここで聞くことになるとは予想外で、俺の反応は遅れに遅れ――その一瞬で、全ては決まっていた。
 放たれた無数の弾体が、妖精炎の防護膜に捕らわれ、ひとつ残らず空中で弾かれて砕ける。
 硝子のような弾体の欠片を浴びながら、ノアが剣に手をかけ、抜き放ち。翅を使って弾かれたように前進すると同時に、扉の奥の暗闇に立っていた大型の敵の中心にその鉄剣を深々と打ち込んだ。
 ほぼ同時に追い討ちを掛けたのは、プシカさんが投擲した片手斧。痛烈な威力を以って激しい金属音と共に突き刺さっただけでなく、そのままその大型の敵の腕のようなものを見事に切断して、後方の闇へと飛び去っていく。その端では、もうひとつの片手斧が大型の敵の両脇に二体ずつ展開していた小型の敵の一体を床へと縫いつけていた。
 続いてフェイとライが駆ける。ノアとプシカには一歩遅れながらも、それぞれ剣で小型の敵を刺し貫いた。
 残った最後の小型の一体は、僅かに戸惑うように硬直し――その隙に、後ろから回転しながら戻ってきた片手斧によって粉砕された。
「――追加の敵はなし。戦闘態勢解除」
 ノアが僅かに間を置いて告げる。僅か八秒前後で敵は壊滅した。
 俺は眼前で起きたことの驚きから我に返ると、改めて敵――恐らくは、守護者とやらの『残骸』を見つめる。
 半ば予想はしていたが、このような精密で機械的な遺跡の守護者とは、やはりロボットだった。ファンタジー的に言えばゴーレムと言えばいいか。大型のものは全高二メートル強、二つの腕部を備えた六脚の蜘蛛型。小型のものは全高八十センチ弱、砲塔の下に四脚を備えただけのようなものだ。今は既に、物言わぬ黄土色の金属の塊に過ぎないようだが。
 パーツの一部を試しにと食んでみる。 ――これは、硬い。この姿になって歯の鋭さ、顎の力が相当に上がっていることは自覚しているが、それを持ってしてもただ噛んだだけでは僅かに凹み、犬歯で薄い部分に穴を開けられる程度に過ぎないようだ。
「フェイさん、ライさん。この守護者の残骸を漁って、魔晶石を見つけて頂戴。幾つか入ってるはずよ」
「分かった」
「あ、はい――こら、ユーリスっ。そんなの食べちゃ駄目っ」
 ライに怒られて、しぶしぶ金属片を吐き出す。
 プシカさん、ライ、フェイはかちゃかちゃと静かながらも音を立てて残骸を漁り、そこから僅かに紫がかった乳白色のずんぐりとした結晶体を拾い上げていく。察するにそれが『魔晶石』とやらなのだろう。何に使うのかは分からないが、名前からして魔法関連の品なのかも知れない。
 集められた魔晶石は、俺に装着されたザックへと仕舞われていく。
 三人がそれをしている間、ノアは蜘蛛型の表面、赤い光を放っていた六つの眼球の中央付近に片手で触れて、その接触面と翅から黒い燐光を発していた。三人の回収作業が終わった辺りで、ノアも向き直る。
「プシカ、この部屋の探索を。灯りを使って構いません。ライ、フェイは私に付いてきて下さい」
「了解」
 言うなり、プシカさんがその掌の上に緑色の輝きを灯し、宙へと浮かべて光源にする。
 最初の部屋は、何の部屋、とは形容のし難い部屋だった。イメージだけで当てはめるのなら物置だろうか。縦横二十メートル、高さ六メートルほどの空間で、壁際に正四角や筒状の物体が積まれている。ロッカーに類する縦に細長い格納スペースのようなものも見えるが、実際の正体は分からない。
 ただひとつ言えるのは――もしかすると、地球の現代社会より高度、もしくは同レベルで独特の技術を持つ文明が、かつてこの世界にはあったのではないか、ということだ。
 辺りを見回して壁際のラックを調べ始めたプシカさんをよそに、ノアは更に奥、反対側の扉へと進んでいく。足早に追いかけるライ、フェイに俺。ちらと振り返ると、プシカさんも気付いて会釈を送ってくれた。
 せめて足手纏いにはなるまい、と思いながら、俺もノアが新たに開いた扉の中へと足を踏み入れた。

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更新お疲れ様です

さすがに機械的なものには弱いんですね
となると、悠が力使って気付かれるのも近くなるのかな?

それでは続きを期待し待ってます
まだ寒いですし暖かくどうぞ

魔晶石…

拡大だにゅう!どっかーん(何
#ぃぁ、唐突にそんなフレーズが(汗

さて、ノア相手には後もう一押しな様子…
ここは一つ、悠に全身くまなk(ry

お疲れ様です。

久しぶりに来たら更新されていて思わず最初から読んでしましました。やはりおもしろいですね。
更新お疲れ様です。

お元気ですかー

久しぶりに1話から読み返してきました。
読み進めていくと続きが気になってきます。
忙しくしてると思いますが体調等気をつけて頑張ってください。
更新を楽しみにしています。

No title

生存報告ありがたいですね。
気長に更新待っています。

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