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フィフニルの妖精達19「閑話・悪巧み」

「やはり、決めておくべきだと思います」
 朝早く。
 悠がまだ洋室で着替えており、橙の妖精――ニニルが散歩に出かけている時。
 そう発言したのは、白の妖精――ピア。
 彼女は目の前にいる五人を真剣な表情で見回し、反応を見る。
「決めておくべき、とは?」
「ご主人様と二人きりで過ごす、その順番です」
 突然の言葉にやや困惑げに問い返した赤の妖精――ネイの言葉に対し、ピアはそう返した。
 その返答を聞いて、その場の誰もが、ある一つの事に思い当たる。
 何の事はない。ピアが言いたいのは、彼女達の主人である悠に抱いてもらう、その順番の事だ。
「別に決めなくてもー…… ボクはそーいうのはヤですねー」
「あなたは積極的だから構わないかも知れませんが、ご主人様の、その…… 体力にも限界があります。割を食う者も出るでしょうし、何よりそう詰め掛けてはご主人様の体調にも良くないかも知れません」
「割を食う、か。お主とかネイじゃのう」
 別段今のままで困らないし、自分の好きな時に抱いて貰いたい為に批判的な緑の妖精――ミゥに、くっくっく、とピアの言葉の端を笑う紫の妖精――ヅィ。
 ある意味本音を当てられたピアはヅィを軽く睨み付け、ネイは顔を赤くして視線を逸らした。
「くふ、別に反対と言う訳ではない。大いに結構ではないかの」
「……では賛成とみなしますよ。シゥ、ノア。あなた達はどう思いますか?」
 更なる意見を求めて、ピアは残りの二人に話題を振る。
 最初に反応した――と言っても、ピアの言葉に眉根を寄せただけだが――のは青い妖精――シゥ。
 彼女は非常に面倒くさそうに、あるいは気恥ずかしそうに頬を掻き、
「いや、そりゃ別にかまわねーけど…… やりにくくないか?」
「やりにくい、とは?」
「だって、アレの事だろ? 順番を決めて、って言われてもな…… 確かに面倒は減りそうだが」
 そう言われて、ピアはあの日の事を思い出した。
 何度も深呼吸をして、ご主人様――悠の元を尋ねたあの最初の日の事。
 あるいは、悠に、一緒に風呂に行かないか、と誘われた日の事。
 自分の順番が回ってくる度にあれに似た想いを抱くと思うと、確かにやりにくいかもしれない。
「……ノアはどう思いますか?」
 最後の一人、黒の妖精――ノアに再度話を振る。
 こういう時、普段の寡黙さの割に的確な答えを返してくれる彼女は、一拍の間を置いて口を開いた。
「賛成です。ご主人様の都合や、人間の男性としての生理現象などを考慮に入れると、その方が宜しいかと」
「ノアもそう思いますか」
 ほぼ同意見を得られた事で、ピアが満足げに頷く。
 口を尖らせたのは、やはり単独で反対する形になったミゥだ。
 でも、と反論しようとした所に、ノアがいつもの無表情な、ある種冷たいとも取れる視線をミゥに向ける。
「ご主人様――人間の男性は、ある一定の性的快楽を得ると、それ以上は倦怠感の方が先に来るそうですので。我々妖精とは違います。あまり気張ると面倒がられ、接触を拒絶される可能性もあるかと」
「うー……」
 嫌われるかも、と言われては返す言葉がない。
 加えて思い当たる部分があったのだろう。苦々しい表情をミゥは浮かべていた。
「では、順番を決めるという事で決定します。ひとまずは、一日一人の割り当てで日曜日は空ける、という形でいいでしょう」
「その日に割り当ての者以外は、悠との性的接触を禁じるという事で良いのじゃな?」
「まあ、そうですね。後は、抱いて頂くならば、なるべく夜にするように」
「えー……」
「えー、ではありません。ミゥ、あなたは少し自重なさい」
 次々と課される制限に頬を膨らませるミゥに、ピアが強い調子で警告する。
「ご主人様の事が好きで、その、少しでも身体を重ねていたいという気持ちは分からなくもありませんが、もう少しご主人様の都合に合わせなければいけませんよ。我々の常識とご主人様の常識は違うのですから。そしてどちらが合わせなければいけないのか、分からないあなたではないでしょうに」
「むぅ……」
「人間の常識は面倒なものが多いからの。まあ辛抱じゃ」
「はあ…… ご主人様が妖精だったら良かったのに……」
 ヅィやミゥの言葉は、口には出さないまでもピアやシゥも少なからず思っている事だ。
 文化や能力の違いから来る常識や身体の差異は、如何ともし難い。
 ほとんどの妖精はあらゆる面において楽しく心地よい――快楽、享楽を至上とする主義を持っている。
 そこに理性の働く余地は薄く、一度始まれば歯止めが利く事は少ない。
 対して人間は、快楽、享楽を良い物として考えてはいるが、理性が強く、度が過ぎる事はあまりない。
「なんであんなに気持ちいい事が、続かないんでしょーね……」
「思うに、体力の問題ではないかの。あれはまあ、快楽はあるが強い疲労も伴う故。我らは魔法で何とでもなるが、人間はそうはいかぬ。あまりに度が過ぎて力尽きぬように、本能的に制限をかけているのやも知れぬ」
 この場の六人の妖精は、悠との愛情深い性交による快楽を知って、しかし複雑な思いを抱いていた。
 もっと繋がっていたい。
 もっと抱き合っていたい。
 より強い快楽を。より激しい行為を。
 しかし、肝心の悠が続ける気を無くしてしまってはどうにもならない。
「まあ、夜がどうの、というのは的を外れている訳でもない。あれは、あまり他人に見られて気分のいいものではないからの」
「郷に入っては郷に従え、という言葉もあるそうですし、仕方ありませんね」
「むぅ……」
「そもそもミゥ。主、そこまで嫌ならいつものように薬なりなんなり使えばよいではないか。真面目に悩むとは主らしくないのう」
「媚薬とか、理性を飛ばす薬ぐらいありますけど…… ボクにだって分別ぐらいありますよ。ご主人様にそーいうのを盛るのは、ちょっと」
「よく言うぜ。最初思い切り盛ったじゃねぇか」
「切っ掛けは大事ですから」
「……とにかく!」
 パン、と机を叩いて、ピアが脱線した話を切る。
「具体的な順番を決めますよ。各自、希望などありますか?」
 その言葉に手を上げたのは――尋ねた本人であるピア。そしてシゥ、ミゥ、ヅィ。
 ネイも小さくではあるが手を上げていた。
 その上がった手を眉を寄せて見回し、ピアが更に尋ねる。
「では…… シゥ、希望は?」
「ん…… 今日」
「……ヅィ、あなたは?」
「ん、ふむ。わらわも、今日じゃよ」
「ネイ、あなたも?」
「は、はい…… 今日、です」
「ピア、この方法では決まらないかと思われます。 ――ちなみに、私も今日を希望しますので」
 ノアがそう警告を発する。
 よくよく見れば、彼女もしっかりと手を上げていた。
 ピアは、はあ、と一つ息を吐いて、自身も手を下ろす。
 譲歩しなさい、とは言わなかった。ピア自身も今日にするつもりであり、譲歩する気など無かったからだ。
 自分が出来ない事を他人にしろとは言えない。
「というか、ボクが思うにですねー、こんな事決めてるようでは駄目だと思うんですよ」
「何が駄目、と?」
 今までの会話を全否定するようなミゥの言葉に、ピアが、む、と眉を歪める。
「そもそもこれって、ボク達がご主人様に抱いて貰うようお願いする順番、ですよねー?」
「……ふむ、主の言わんとする事は分かる。主人と従者の関係としてそれは不適切ではないか、と。そういう事じゃな?」
「ですー」
「仕方ないではありませんか。ご主人様は、その……」
「悠はあれじゃからの。あまり自発的ではないからのう」
「それって結局の所、ボク達にあまりグっと来るところがないからなんじゃないですかー?」
 う、とピアは思わず声を上げた。
 確かにミゥの言う通り、最も望ましいのは、主人である悠が求め、それに対し、従者であるピア達が、主人のお気に召すまま、と応える形だ。
 従者の側から求め、それに主人が応えるというのは、浅ましいと言えば浅ましい。
 そうならないのは、悠の理性に対しピア達の魅力が劣っている、という考え方もできる。
「ではミゥ、あなたが言いたいのは、私達の……」
「魅力、でしたっけ?」
「そう、それです。魅力が足りないからだと?」
「ですねー」
「まあ、ミゥが言っておるのは魅力は魅力でも、性的魅力、というやつじゃな。我らにはちと敷居が高いやも知れぬ。何せ、今までそんなモノを考えた事などありはせぬからの」
 妖精種の殆どはあまり美的感覚や魅力というものに気を掛けてはいない。
 何せ妖精種はその全員が人間的な観点で言う優れた容姿を持って生まれる為、美しいとか醜いといった感覚が無いのだ。
 美しいも醜いも知らない者の思考に、美的感覚があろうはずがない。
 魅力、特に性的魅力も同様で、魅せるような相手がいない。
 異性というものが身近になく、今まで恋や愛を知らなかった者が、一体誰を魅せたいと思うだろうか。
「魅力、ですか……」
「我々の外見――顔や身体の程度に関しては、ご主人様の言を考察するに問題ないと思われます。考えられるのは、服装や立ち振る舞いではないかと」
 服装、とノアに言われて、思わず各自が自分の格好を確認する。
 そこにあるのは、長年愛用してきたウルズワルド妖精騎士用の護服だ。
 戦闘時に邪魔にならない程度の装飾が施されており、肌触りも良好。
 裏地に編み込まれた妖鉱石の糸が形成する魔法式によって周囲の気温を調節し、更に自動障壁により不意の攻撃でもその威力をある程度減衰してくれる優れものである。
 ただし、魅力――色気があるかどうかというと、それはまた別の話で。
 形状的にはコートなどに近い為、相手に特殊な嗜好でもなければ色気とは縁の遠いデザインなのだが、そんな事は彼女達には分からない。
「……これ以外だと、簡素服か礼服しかないぞ」
「うーん…… 礼服で行ってみますか? まだご主人様に見せた事は無かったと思いますし」
「それはそうですけどー、なんか違う気はしますねー」
「……まあ、服としての方向性は同じですからね」
「ふむ」
 ノアを除く全員が複雑な表情で現状を確認し、ひとつ息を吐く。
「まあ、おいおい研究していくしかないのう。現状では何とも難しい」
「で、では立ち振る舞いの方はどう思います?」
「立ち振る舞い、ねぇ」
 シゥの言葉と共に、ミゥを除いた全員がある方向を見る。
 その方向にいるのは、勿論というか何というか、ミゥだった。
「……なんでボクを見るんですー?」
「いや、そりゃ今までお前が一番実績あるからだろ」
「そう、ですね。ミゥ、あなたは自身の立ち振る舞いにおいて何か気に掛けている事はありますか?」
「そんな事言われてもー…… ボクは普通にやっているだけですよー?」
「主の実績に関しては、単純に積極的な所が大きいのではないかの。悠は我らを誘いはせぬが、我らの誘いを断りはせんじゃろ? それを悠が負担に思っているかどうかはさておきの」
「うー…… もうその話は止して下さいよー」
 くっく、とミゥを笑うヅィ。
「我らの行動を振り返り、精進するのは当然としても、少々難度の高い話じゃな」
「そう、ですね」
「一朝一夕では行かぬの。一時凌ぎの策が欲しい所じゃが」
「一時凌ぎ、ですか」
「そうじゃな。一時的にでも、我らから求めずとも、悠の側から求めてくるような――例えるならばそのような都合のいい方法でもあればよいのじゃがな」
 妖精炎魔法と薬以外でな、と最後に付け加え、ヅィは口を閉じる。
 そんな都合のいい方法など、少なくとも彼女には思い当たらなかった。
 六人全員が、それぞれの思案顔で方法を探す。
 主人である悠に何かしら仕掛けるなど普段ならピアも怒るのだが、事態の深刻さ故かその様子はなく、彼女も真剣な思案顔だ。
「……あ」
 しばしの後、最初に何かに気付いたような声を上げたのは、ネイだった。
「ん? どうかしましたか、ネイ」
「いえ、その、ふと思っただけなのですが」
「構いません。今の状況に関係のある事なら言ってみなさい」
 ピアに促されて、ネイは一つ息を吸い、
「ご主人様、あまりお酒を呑んでらっしゃらないなー、と思いまして」
「そう言えば、そうじゃの」
 ネイの言葉に釣られて、各自が悠との記憶を探る。
「……そう、だな。ご主人、確か三杯目ぐらいでいつも止めてるような」
「肯定。ただ、その時点では気分が高揚している様子もなく会話も明瞭な事から、酩酊には強い模様ですが」
 歓迎会の時も、部屋での酒盛りの時も、悠はコップ三杯ほど飲んだ辺りで飲酒をぴたりと止めている。
 理由は一つしかない。これ以上飲んだら不都合があるからだ。
「あの様子からして、恐らくは悪酔いじゃろうな。弱いという事はあり得ぬ」
「悪酔い、ですかー……」
 全員の視線が交差し、各々が頷く。
 やってみる価値はありそうだ、と。
「シゥ、あなた確か、お酒の凝縮が出来ましたね」
「何十年か前の宴会でやったやつか。大丈夫だ」
「風味その他はわらわが誤魔化そう。ミゥ、主は飲ませる役を頼む」
「分かりましたー」
 良からぬ悪戯の計画が練り上げられていく。
 勿論そんな事を悠が予見できる訳もなく、かくして旅行七日目の幕は開かれようとしていた。

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こ、これは…!?wktk!!

あけおめです
忙しい時期でしょうが更新楽しみに待ってます^^
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