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フィフニルの妖精達21「閑話・陵辱」

 ピア・ウィルトヴィフ・フィフニル。
 現フィフニル族の族長。ウルズワルド帝国の妖精騎士団主翼長。
 族長と、妖精騎士団の主翼長という立場から幅広い人脈を持ち、また演説などの際に見せる優れたカリスマ性から、崇拝に近い尊敬を寄せる妖精も少なくない。思想は保守的。

 ヅィ・パルミゥル・ウルズワルド。
 類稀なる魔法の才能を持つ、フィフニル族の魔法の妖精。妖精炎魔法の権威であり、同時にウルズワルド皇帝の側室の一人でもある。
 平和である事の危険性を説いた著書「世界変革の時」などで、族長であるピアについでフィフニル族で著名な妖精の一人。またカリスマ性も持ち合わせており、支持の声は大きい。穏健ではあるが、強い改革思想の持ち主。
 皇帝との仲は冷え切っているらしい。

 シゥ・ブルード・ヴェイルシアス。
 妖精郷で最強と噂され、その凄まじい飛翔速度と氷の妖精炎魔法を得意とする様から『氷の稲妻』という異名を持つフィフニル族妖精騎士。
 ウルズワルド流妖精剣技と妖精炎魔法、双方を非常に高い技量で使いこなし、また妖精騎士として妖精飛竜の乗りこなしにも長けている。同時に展開可能な妖精炎魔法の総数は二十とも三十とも言われ、一般的な技量の妖精騎士を同時に八人相手にして、一撃も有効打を負う事なく勝利したという逸話で有名。その揺るぎない強さから、その方面の妖精から畏敬を集めている。
 思想は改革的。だが、保守的な一面も窺える。

 ミゥ・グリーム・ウールズウェイズ。
 フィフニル族の妖精。妖精郷において薬学の権威とされる。
 普段はウルズワルド帝国の軍部において妖精専門の軍医として務めているが、その薬の知識を駆使して捕虜などから情報を引き出す拷問官でもある。
 薬は全て人体実験によって効果を計っているなど、黒い噂の絶えない妖精である。
 思想は保守的ではあるが、言動には過激な面も見られる。


「……はあ」
 長年愛用してきた自分の手帳のあるページを見て、一つ息を吐く。
 思う事は一つ。何故、よりによってこの四人なのだろうか。
 
 思い出せば、今でも身体が震える。
『ああッ! ぐ、ひいっ! ぎっ、あ、くうっ……!』
 澱んだ空気を切る鞭の音と、私の無様な悲鳴。
 肌は幾度も裂け、その上から溶岩のように輝く焼き鏝で焼かれて、滅茶苦茶になる。
 その後に妖精炎で治癒されるので痕にはならないが、嫌らしくも痛覚だけは整理していかないので、激痛だけがおよそ一刻以上続き、精神を蝕んでくる。
 加えて、あの間延びした独特の声と共に打たれる、不気味な薬。
 仄暗い地下牢の中で不気味に光る色とりどりの薬品は、私の身体に凄まじい変調をきたす事もあれば、拷問の激痛と共に精神を蝕む事もあった。
 僅か二日間だったが、いっそ胸の妖精石を抉り取って欲しいと願わんばかりの地獄だった。

 看守の隙を突いて逃げ出さなければ、今頃はどうなっていたか。
 正確には、逃げ出した後も薬の後遺症と軍の追っ手(結局追っては来なかったが)に怯える地獄だったのだが。
 この四人を目撃した時に素直に逃げておくべきだったと思う。
 もう、今となっては遅いのだが。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ。つまらない思い出です」
 対面に腰掛ける赤の妖精――ネイさんにそう問われて、私は手帳を閉じながらそう返す。
 視線を前に戻すと、紅玉の瞳に疑問の色を灯して、ネイさんが私を――恐らくは首元を見つめていた。
 ふと手を伸ばす。指先に触れるのは私自身の肌ではなく、冷たくも熱くもない硬質な感触。
 そこにあるのは、着用者の妖精炎の力を大幅に制限する、忌々しい首輪だ。
 これのせいで自分の身体や身に着けるもの全てが重たく感じる。
「その、やっぱり苦しいですか?」
 そう問われて、私はつい眉を小さく歪めて返す。
「苦しいかと聞かれれば、勿論と返す他ないですね。できる事なら、一秒たりとも付けていたくはありません」
「そ、そうですよね…… 済みません。でも、規則なもので」
「いえ、分かっています」
 つい皮肉っぽい口調になってしまった事を少し反省しながら、私もネイさんを見つめ返す。

 ネイ・レイドラース・ケイルディウス。
 妖精舞踏会にて百度以上歌い手を務めた事で有名なフィフニル族の妖精。
 その歌声から赤の惑わしき歌姫と一部で呼ばれている。歌う曲は牧歌、賛美歌、古代歌、舞踊歌とその内容を問わず、どれも非常に素晴らしいものである。
 歌い手という生業故か妖精としては珍しく語学に非常に堪能であり、三つ以上の言語を操れる事を確認している。ただ、語学以外はさっぱりの模様。

 ふと、そんな一文が頭に浮かぶ。
 何の、と自問自答するまでもない。私の手帳にある、ネイさんについての一文だ。
 私が初めてネイさんに会った時は、国や集合体に関わりを持たない、笑顔の素敵な妖精だったと記憶している。
 取材を申し込む前に聞いた評判と全く違わぬ、良い方だった。
 それが今では、笑顔にはやや翳りがあり、たまに吐く息は溜息交じりの、憂鬱さが見え隠れするもの。
 国家、軍隊、そして戦争というのは、こうまで性格が変わってしまうものなのだろうか。
 あるいは、あの人間のせいなのだろうか。
「――あの、恋って、知ってますか?」
「はい?」
 と、思考に耽っていると、唐突な質問が来た。
「済みません、聞き逃しました。何と?」
「その、恋、という言葉を知ってますか、と」
 こい、コイ、コイ。
 私の頭の中で幾つかの単語が浮かんでは消える。
「……恋、ですか?」
「は、はい」
 およそ三秒の逡巡の後、使い慣れない言葉を答として返した私に、ネイさんは神妙な面持ちで頷いた。
 私の迷いの時間をどう取ったのか、知っているかどうかの確認を取らず、ネイさんは頷きの後に言葉を続ける。
「その。ニニルさんにこんな事を相談するのもおかしな話なんですけど。私、悠様の事を考えると、胸とか、妖精石が熱くなって、落ち着いてはいられなくって、それでも悠様の事を考えるのが止められなくて…… これって、やっぱり、こ、恋なんでしょうか……?」
 後半になるにつれてしもどもどろになるネイさんの顔は僅かに赤く、その肩越しに見える翅も忙しなく動いている。
 確かに落ち着きがない、と思いつつ、恋、という言葉について思い返す。
 恋。感情あるいは関係の一種。好きであるということ。
 そう思い返して、ふと思う。
 ネイさんは前日、話を聞いた時に確か「ご主人様の事が好き」と言っていた。
 恋=好き、ならば、何故今更そんなことを。
「ちょっと待ってください。ネイさん、あなたはあの、悠のことが好きなんですよね?」
「え、ええ。そうですよ」
「好きだということなら、何故今になって恋だとか、そんなことを?」
 そう問い返すと、ネイさんは小さくはない驚きを顔に出した。
「え、え? 変ですか?」
「変って、勿論――」
 と、口に出しかけて私は気付く。
 好きであることがすなわち恋をしているということではない、ということに。
「恋って、好きの延長線上にあるものだと、私は思っていたんですけど……」
「――え、ええ。それは私も間違いないと思いますが」
 ネイさんのそんな言葉に、私も素直に頷く。
 恋が好きの延長線上にあることは間違いないはずだ。好いているから恋というものは起きうるのであって、恋をしているから好きというのはおかしいはずだ。
「その、恋をしているかどうか、というのにちょっと確信が持てなくて…… 今まで、こんな気持ちになったことがなくて、その、本で読んだぐらいですから」
「つまり、何をもって『恋』と言うのか、を知りたいと?」
「は、はい」
 何をもって恋とするのか。何をもって『好き』から『恋』になるのか。
 ……難しい話だ。
 例を挙げるなら、私はネイさんのことが好きだ。歌が素敵だし、性格もよい。
 しかしネイさんに恋というものをしているかと聞かれれば、首を横に振るだろう。恋というものをすると、ネイさんが先程言っていたように身体に変調があるという。私にそれはないし、何よりそう呼ばれる事に違和感がある。
 話を聞くに、ネイさんは悠の事が好きであり恋をしているかもしれないらしい。人間が好きというだけでにわかには信じられない話だが…… まあ、確かに悠は人間にしては礼儀正しいようであるし、先日の事といい、そこらの人間よりまともなようではあるけれど……
 ともかく、私はネイさんが好きだが恋をしている訳ではない。
 しかし、ネイさんは悠が好きでかつ恋もしている。
 この二つの明確な違いは、一体何処にあるのか。
「……申し訳ありませんが、私には分かりかねます。今まで、好きということと恋ということの違いについてすら考えた事がないほど、馴染みのない言葉ですから」
「そう、ですか……」
 小さく肩を落とすネイさん。
 それにしても、恋、か。
 ふと私の脳裏に、あの写真が浮かぶ。
 ……ネイさんは、ああいうことについて知っているのだろうか。
 いや、それよりも――
「ニニルさん?」
 ふとした呼びかけに、私は意識を戻した。
「――あ、はい。何でしたか?」
「いえ、そろそろ部屋に戻りましょうか。あまり長く出て、怒られるのも何ですし」
「そうですね」
 私とネイさんは揃って腰を上げ、朝早くに来た道を戻る。
 妖精の足では長く巨大な廊下を歩きながら、私は先程の遣り取りを脳内で反芻する。
 好きに、恋に、愛に、それを確かめる行為。
 私、というか妖精にはどれも縁遠いものだ。
 だからか、恋というものを感じているネイさんを私は少し羨ましく感じている。
 落ち着いていられなくなるとは先程ネイさんからも聞いたが、一体どういう感じのものなのだろうか。
 興味は尽きない。
 勿論、私にそれらを知る機会があるとは思えないのだが。
「……触れず、見ずは在らず、ですか」
 先人はよく言ったものだと、呟きながら足を止める。
 もう部屋の扉は目の前だ。しかしネイさんは、何故か緊張の面持ちで扉を見つめており、開けようとはしない。
「どうかしましたか?」
「いえ、その…… 済みませんニニルさん、ちょっと開けてくれませんか」
 言うなり、ネイさんは扉に背を向けて何やら深呼吸を始めてしまった。
 よく分からないが、そこまで緊張するものなのだろうか。
 私は恋というものの評価をやや苦労しそうなものと位置付け、ネイさんの代わりに扉の前に立ち、
「――!?」
 瞬間、ぞわり、と何かが背を駆け抜けるのを感じた。
 思わず冷や汗が垂れる。
 この感覚は忘れもしない。いつもの危険信号だ。
 それを認識すると、ただの部屋の扉が、途端に不気味なものへと変わる。
 これ以上、何があるというのだろうか。
 背後をちらと見る。ネイさんは未だ深呼吸をしていて、開けるのを代わってくれそうにはない。
 私は意を決し、予感を無視することに決めた。
 これ以上何が起きようというのか。否、これ以上何かがある訳がない。それにどの道、入らない訳にはいかないのだから。
 そう決め込んで、私は取っ手へ向けて軽く跳躍した。
 危なげなく取っ手を掴み、重力に従ってぶら下がる。がちゃり、という音を確認して、私は上手く壁を蹴ると同時に取っ手から離れた。
 衝撃でゆっくりと扉が開く。その隙間から首を突っ込んで、恐る恐る中を覗き込んだ。
「……?」
 中に――和室には誰もいなかった。
 その所為か妙に静かで、私の息と、背後でネイさんが呼吸を整える音だけが耳に入る。
 と、ようやく落ち着いたのか、私の肩越しにネイさんも部屋を覗き込んで、やはり疑問の声を上げた。
「あれ……? 皆、洋室にいるんでしょうか」
「ひょっとすると出掛けているのかも知れませんが」
 取り敢えず部屋に入る。
 背後でネイさんが扉を閉める音を耳に、私は目を閉じて感覚を研ぎ澄ませた。
 妖精炎の気配が――近くに六つ。一つは後ろに立つネイさんとして、残り五人も近い。そうなると、やはり洋室か。
「全員、洋室の方にいるようですね。何をしてらっしゃるのかは分かりませんが」
「何かあったんでしょうか」
 顔に疑問の色を浮かべて、ネイさんが洋室の扉を叩く。数秒の後、向こうから扉が開いた。
 失礼します、とネイさんが洋室に一歩を踏み出して――ぴた、と止まった。
「?」
 そんなネイさんの挙動に疑問を覚え、私も失礼してネイさんの肩越しに洋室を覗き込む。
 見えたのは、緑の妖精――ミゥ・グリーム・ウールズウェイズ。
 しかし、何故か服一枚も身に着けていない裸で――
「ふふ」
 私と目が合った瞬間、ウールズウェイズは笑みを浮かべた。
 今までに見たことのない、不気味な笑み。
 瞬間、また背筋にぞわりとあの感覚が来て――
「ご主人様が、お呼びですよ」
「!?」
 同時、私とネイさんは凄まじい力で洋室の中に引きずり込まれた。
「っ、何、を――」
 引き込まれた力に流されるようにして洋室の床に尻餅を突いた私は、抗議の声と共に顔を上げて、
「な――」
 そこに広がっている光景に、続く言葉を失った。
「んっ、ふ、ちゅ、れろ、んんっ、んう、ん」
「ぷは、ん、ふっ、ん…… ちゅ、はぁ」
 まず目に入ったのは、ベッドの上で絡み合っているもの。
 ベッドの中央で、頭の部分に背を預けて足を伸ばし座っているのは人間の男――悠だ。
 その悠の腰の辺りで、そこに生える何かを奪い争うように、左右両側から二人の妖精が四つん這いになって顔を寄せ、水音を立てている。
 その妖精は見間違う訳もない。紫の髪に、背中から紫の魔力的な翅を生やしているのはヅィ様。青い髪に氷のような翅を生やしているのはヴェイルシアスだ。
 二人は一糸纏うことのない裸で、私やネイさんが現れたことなど意にも介さないかのように、二人して懸命に何かに舌を這わせ、口付けている。
「な、なにを……」
 何を、と思わず呟くが、私は今二人がやっている行為を僅かながら知っている。
 「男」という生物を性的に満足させる為の、口を自身の性器に見立てた奉仕だということを。
 つまり、二人は妖精の身でありながら、人間などに性の奉仕を行っていることになる。
 そこで私はようやく、この人達が悠に対して口にしていた『ご主人様』という言葉の真意を理解した。
 あれは伊達や酔狂ではなく、真に――
「ふふ、羨ましいですよねー」
 呆然とベッドの上を見つめる私の傍に、いつの間にかウールズウェイズが立っていた。
「ニニルさんは、今二人が何をしているか分かりますかー?」
「あ、あなた達こそ、これが、何か」
「ふふ、質問に質問で返しちゃいけませんよー? でも、そう言うってことはー、知ってるんですねー?」
 それなら話は早いです、と言うと同時、ウールズウェイズの手が私に伸びてきた。
 馬鹿でもこの後の展開は予想できる。和室に逃げなければ、と即座に考え、踵を返そうとした所で何かが肩に当たった。
「逃げてはいけませんよ」
「ぞ、族長」
 肩に当たったのは、いつの間にか私の背後に立っていた族長――ピア・ウィルトヴィフ・フィフニルだった。
 族長も当然のように一糸纏わぬ裸で、ウールズウェイズが浮かべているものと同種の笑みで私を見ている。
 その背後、扉の前にはあの黒い妖精。それも裸で、しかし門番のように扉を守り、無表情にこちらを見ている。
「ニニル。あなたも、ご主人様に身体を捧げなさい」
「な、なぜ」
「それだけのことを、ご主人様はあなたに為したと思いますが」
 族長の手が私の右上腕を掴む。
「礼儀を欠く者は我が一族ではありません。しかし、あなたにはその身体以外で払えるものがないでしょう? ならば当然の選択です」
 恐怖で動けない私の身体を這うように、族長の手が絡み付いてくる。
「大丈夫です。あなたもすぐに、喜んでご主人様を求めるようになるのですから」
 意味深な言葉。私の頭がそれを理解する前に、私の神経がちくりとした痛みを訴えてきた。
 瞬間、私の身体に脂汗がざわりと浮く。痛みの位置は、族長に掴まれた右腕の上腕。その外側。
 恐怖で回らない首を無理やりに回して、私は見る。
 いつの間にか外套が落ちて肌が露になった私の腕に、ウールズウェイズが細い注射器を立てていた。
「う、あ」
 更なる恐怖か、薬の効果か。
 私は足から崩れ落ち、再び尻餅を突いた。
「座り込んじゃダメですよー? ほら、立ちなさい…… ふふ、ふ」
 掴まれた腕を引かれ、無理やり立たされる。
 されるがままに、数歩、前へ。
 ベッドが近くなり、悠と、ヅィ様、ヴェイルシアスが手を伸ばせば届きかねない位置にくる。
 鼻を突く、妙に甘ったるい匂い。耳に響くのはヅィ様やヴェイルシアスの舌と唾液が立てる水音と、かちかち、と硬質なものを擦る音。
 そこでようやく、私は自身の歯の根が噛み合っていないことに気付いた。
 再び脳裏に浮かぶのは、あの写真。
 あのようなことが一時の酔狂ではなく、毎夜の行為として常態化しているのであれば、それは例外なく私にも襲ってくるのだろう。
 そう思うと、未知のものへの恐怖で身体が震えて仕方なかった。
「っ、く。もういい…… シゥ、跨れ」
 不意に、悠がそうヴェイルシアスに命令した。
「え、でも」
「早くしろ」
 戸惑うようなヴェイルシアスの声。しかし返答として悠から放たれた言葉にヴェイルシアスとヅィ様の二人が顔を退けると、悠の、人間の男根と思しき肉の棒が姿を現した。
 想像以上に、太くて、硬そうだ。それに確か、尿の排泄口でもあったはずだ。あんなものを舐めるなんて。
 いや、それよりも、跨れ、と言わなかったか。
「っ……」
 一瞬だけ、ヴェイルシアスがこちらに視線を向けた。今までにない、酷く弱々しい、不安に満ちたもの。
 氷の稲妻と呼ばれた妖精騎士でも、あんな顔をするのか。
 そんなことを思っている間に、ヴェイルシアスは立ち上がって、のろのろと悠の腰の上、男根の真上に移動する。
 ゆっくりと下がっていくお尻が、男根の先端に触れる。そこで動きが止まった。
 当然だ。私達のそこには性器はあれど性交のためには出来ていない。出来ない訳ではないが、悠ほどに大きい人間の男根などを迎え入れれば、まず間違いなく壊れてしまうだろう。
 だから、仮に入ったとしても先端のみに留まるはずと、そう思っていた。
「っ、あ、あ、あっ! っは、く、ひっ……!」
「!?」
 しかし。
 予想に反して、ヴェイルシアスの腰はゆっくりとではあるが、悠の男根を着実に飲み込んでいった。
 同時に上がる、身体の芯に響くようなヴェイルシアスの声。苦しそうではあるが、どこか甘い、痺れるような響きがある。
「ふふ、シゥ、可愛いですよー」
「っ、うる、さっ、ひぁッ!」
 からかうウールズウェイズに反撃する声が、喘ぎで途切れる。
 その時にはもう、悠の男根の半分ほどがヴェイルシアスの中に入り込んでいた。
 ――あり得ない。
 ――人間と妖精が。
 ――禁忌だ。
 そんな自身の声が頭の中に響くが、私は二人の接合部から視線を逸らす事が出来なかった。
 未知のものに対する恐怖が殆どだったが、同時に興味があるのも間違いなかった。
「……動く、ぞ」
「っ、待って、ご主人、まだ――ひっ!? あ、や、あぁ! あ、あ、あッ!」
 悠の腰が動く。それに合わせて、ヴェイルシアスの身体が跳ね、氷の翅が不規則に揺れる。
 同時、部屋に響いたその声に、私は思わず背筋を震わせた。
「あっ、ひ、ああッ! ちょっ、ごしゅっ、まって、まってッ、ひ、いっ!」
 なんだろう、この声は。
 身体の芯に甘く響くような、この声は。
 何故、私の身体――下腹まで熱くなるのだろうか。
 これが、話に聞く嬌声というものなのだろうか。
 分からない。
 気付けば私は、自分の身体を自分で抱き締めるようにして、ヴェイルシアスの様を穴が開くほどに見つめていた。
「っ、ひっあッ! あ、あ、あっ! あっ! あッ!」
「く…… 出す、ぞ」
 不意に、悠がそう呟いた瞬間。
 私の長い耳は、どくり、という音を捉えた。
「っ、あああああぁぁぁッ……!」
 それまでとは違う、長く尾を引く声。
 ヴェイルシアスは自分のその声に合わせるように大きく背を反らし翅を激しく揺らして、途切れさせると同時に悠の腹の上へと倒れ込んだ。
 同時、ぷしり、という水音。
 ヴェイルシアスが悠の男根を半分ほど飲み込んでいるその股間から、薄黄色の液体が止め処なくあふれ出した。それらは悠の腰や太腿を伝って、ベッドに染み込んでいく。
「あらら。シゥったら、また気持ちよくってお漏らしですか」
 ウールズウェイズのからかうような声に反撃はない。ただ荒い息に合わせて翅を小刻みに動かしながら、ヴェイルシアスは悠の腹の上で力なく伏しているだけだった。
「ふふ。どうですか? ニニル。シゥの可愛いところを見た感想は」
 族長にそう問われるも、私はただ絶句するのみだった。
 目の前で繰り広げられた行為――人間と妖精の性交が、未だに信じられない。
 逆に「これはお前の夢だ」とこの場の誰かから言われたら、すんなり信じてしまえそうだった。
「さあ。次はあなたの番ですよ」
 背中から押されて、呆然としていた私は無抵抗にベッドに倒れ込んだ。
 柔らかい衝撃で我に返り、慌てて顔を上げる。
 同時、上体を起こした悠と、ヴェイルシアスの身体の上で視線が合った。
「……ゆ、悠?」
「……ニニル、か」
 まるで今気付いたかのような声。
 そこで私はふと気付いた。悠の顔が、非常に赤く染まっているのを。
 同時、悠の言葉を乗せてきた空気が鼻に掛かる。
 それは甘ったるい中にどこか刺激臭のある――つまりは酒の匂いだった。
「あ、あなた達、まさか――」
 そう振り向いた先には、族長とウールズウェイズ。
 二人の顔もまた、ほんのりと赤かった。
 まさか、事もあろうに主人と仰ぐ相手に、過度に酒を盛って?
「ニニル……」
 再び聞こえた悠の呟きに、私は視線を戻した。
 いつの間にか悠の上に跨っていたヴェイルシアスはその傍にいたヅィ様が抱き止めており、悠の手が私の身体に伸びようとしていた。
「い、あ、ぁ」
 嫌、と叫ぼうとするも、何故か口が動かない。
 そうこうしている間に、私は脇の下を掴まれ、悠に抱き締められていた。
 鼻を突く、酒交じりの吐息の匂い。
 服越しに感じる、高い体温。
 脇から乳房の下にかけて触れる、大きな手。
 どれも、人間のものだ。
 すなわち、私は今、人間に捕まっている。
 そう感じると、私の身体は私の意思では動かせなくなる。この人間にかかれば、私の身体を引き千切るのには数秒とかからないだろう。そういったものを初めとした様々な恐怖が私を拘束するのだ。
「待たせた、な」
「ま、待ってなど、誰が」
「嘘を。 ……じゃあなんで、ここはこうなってるんだ?」
 その言葉と共に、私の股間に悠の手が伸びてきた。
「っっ!?」
 裾を捲くって、太い指先が私の大事なところに触れる。
 ぬちり、と水音がして、同時に痺れるような感覚が下半身を走った。
「や、なぜ、私、濡れて……」
「期待、してたんだろう?」
 思わず零れた言葉に返された悠の言葉に、違う、と返したくなる。
 性交を知っているからには、勿論知っている。性器というものは、相手を受け入れる準備ができると、濡れてくるものなのだと。
 だが、私は悠とヴェイルシアスの性交を見ていただけだ。
 それだけでこんな――濡れるはずがない。
「あ……」
 そこで思い出す。
 右上腕に打たれた注射の事を。
 まさか、あれに、何か――
「ふふ。特製の媚薬ですよ、さっき打ったのは。これでニニルさんが初めてでも、ご主人様のものをいーっぱい感じちゃえますよ。ふふ、ボクって、優しいですよね?」
 問う前に、後ろから私の右腕に絡み付いてきたウールズウェイズがそう口にした。
 振り向いた私の顔を一杯に覗き込んでくる、鳶色の瞳。
 私が思わず声にならない息を漏らすと、ウールズウェイズもまた笑う。
「そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか。怖いのは、最初だけですよ」
「抵抗は止めて、素直になりなさい」
 言葉と共に、族長も私の左腕に絡んできた。
 浮かべているのは妖艶な笑み。
 妖艶などという言葉は、妖精には無縁のはずなのに。
「――っ、あっ!?」
 不意に乳房に刺激があって、思考が途切れた。
 思わず出た声に驚き、口を押さえる。
「恥ずかしがっちゃダメですよ。いい声じゃないですか」
「っ、やっ、駄目、ですっ……!」
 気付けば、族長とウールズウェイズそれぞれの手が私の乳房に伸び、ゆっくりと揉み始めていた。
 連続した甘い刺激に、抗議の言葉が途切れ、代わりに意味を成さない声が漏れる。
「っあっ、やめっ、んんっ、やめっ、てっ――っひぁ!?」
 そんな中走った一際強い刺激に、私は大きい声を上げてしまった。
 刺激の元は、股間。
 私の性器から漏れた体液を拭うように、悠が指を這わせ始めたのだ。
「っあ、ひ、いっ! や、めぇっ、あ、いんっ!」
 先程のヴェイルシアスよりも激しくはないが、それでも十分な嬌声を上げる私。
 こんな声を、私は今までに上げた事がない。
 今のみっともない私は、本当に私なのだろうか。
 あるいは、というか恐らくは薬の効果なのだろう。
「う、あっ! あ、あぅ、あぁ……! ひ、やぁ……!」
 気付けば、私は悠の胸にしがみ付き、額を押し付けていた。
 性器には悠の指が浅く入り込み、僅かな異物感と一緒に甘い刺激の波を絶えず送り込んでくる。
 もう何をされているのか、何処を触られているのかすら、明白ではなくて。
「そろそろ――うか?」
「ふふ、かわ――すよね。めの――あってませんよ」
 自分の嬌声が邪魔をして、周囲の音さえ正確に聞こえない。
 何度か、一際強い痺れが身体を貫いたような気がするが、それがいつだったのか、何回目なのか――いずれもはっきりとしない。
 前後不覚というのが正しいのだろうか。
 これも、薬のせいなのか。
 そんな中で、私は自分の身体が軽く持ち上げられる感覚を得た。
「う、あ……?」
 僅かに動いただけなのに、霞んだ視界がぐらぐらと揺れる。
 ついで、股間に何かが当たる感覚。
「――じゃあ、いくぞ。ニニル」
「は、い」
 名前を呼ばれた気がして、つい返事を返す。
 何故か身体が下へと下がって、
「う、あ、あ……!?」
 瞬間、襲ってきた凄まじい感覚に、私は大きい声を上げた。
 なんと形容すればいいのか。
 自分の身体の中に、別の何かが割り込んでくるような――そんな感覚。
 けれど、痛くはないし、異物感、というほど気持ちの悪いものではない。
 むしろ、凄まじく気持ちがいい。
「う、あ、あああぁぁぁ……」
 下腹が、今までにないぐらいに暖かい。
 まるで寒い夜に暖かな湯に浸かった時のような、そんな安堵の持てる熱。
 そう思うと、下腹以外が非常に寒く感じる。
「わ、すご――っちゃいました、ごしゅ――ぜんぶ」
「え――」
 もっと熱が欲しい。
 私は嬌声を上げながら、悠の大きい胸板を遮二無二に捕まえる。
 暖かい。
 安堵に包まれた私は、腰をぐりぐりと動かしながら盛んに声を上げた。
「あ、はぁ、きもち、いいっ! もっと、もっとぉ!」
 私の中で何か太く長く熱い物が僅かにでも動くたび、全身に力の抜けるような気持ちよさが走る。
 今までに感じたことのない、凄まじい気持ちよさ。
 腰を押し付け、回すだけではすぐに満足できなくなって――しかし、私にはどうすればいいのか分からない。
 それを訴えるように、とにかく声を上げた。
 すると、不意に浮遊感があった。
 まるで風の吹く中を翅で浮かび上がったような、そんな不安定な感覚。
 温もりを逃すまいと、悠の身体を掴んでいる手に力を込める。
 瞬間、それは来た。
「ひぃあっ!」
 急激に落ちるような感覚の直後に、軽い衝撃と凄まじい快感。
 ぐちゅり、と私の中の異物が音を立てる。
 私の身体が持ち上げられて落とされたのだと、たったそれだけのことに気付いたのはすぐだった。
「っ、ひ、あはぁっ!」
 快感の余韻に身悶えしている間に、また持ち上げられて落とされる。
 快感の嵐に、視界が明滅する。
 それでも、もっと、もっと、この快感が欲しいと、本能的に思った。
 楽しいのだ。
 身に走る痺れが。その痺れに身を任せたままに口走る叫びが。
「あっ! ひっ! は、ああっ! あっ、あ、あッ!」
 ごちゅり、ぐちゅり、ごちゅり、と。
 擬音にしてみれば間抜けな音が、引っ切り無しに私の中から響く。
 ぺち、ぱち、ぺち、と。
 悠の身体に私のお尻が打ち付けられるたびに鳴る肉の音も。
 とても面白くて、気持ちがいい。
 いつまでもこうしていたいと、本気で思った。
「っ、く、出すぞ」
 不意に耳元に囁かれる声。
 私は何ひとつ疑問を持たずに、ただひたすらに、だして、と叫び答えた。
 落ちる感覚を最後に、私の身体が強く締め付けられる。
 箱に押し込められるような、そんな感覚。
 私の中の異物感が最高になった瞬間、その異物感が「爆発」した。
「ひ、あ、うぁああぁぁぁ……!?」
 熱いものが、身体の中にぶち撒かれる。
 こればかりは比喩ではなく、本当にそう感じた。
 身体の中から私を押しつぶすような圧迫感と一緒に、また凄まじい快感がやってきた。
 でも、先程までの鋭い痺れを伴うような快感ではない。
 全身に緩やかに広がる、永続的とも思える痺れを伴う快感だ。
「あ、はぁ、い、ああぁ……」
 凄い。
 これは、凄い。
 少しでも気を緩めれば、意識が消えてしまいそうだ。
 こんな凄い、素晴らしい感覚を逃してなるものかと、必死で意識を捕まえる。
「ニニル、つぎ――ぞ」
 名前を呼ぶ声に頷くと、また浮遊感があった。
「ネイ、きみも――ほら、なめ――んだ」
「え、は――」
 強い力で体勢が変えられるが、私は無抵抗に従った。
 暴力は嫌いだが、この気持ちいいことが続くなら吝かではない。
 そして私は、この力に従えば、もっと気持ちよくなれるだろうと感じていた。
「ん、あ…… あ、あっ! ひっあ、あ、あっ! ひぅっ!」
 ぐるり、と視界が回った後、また私の中が掻き回される。
 自分がどんな体勢になっているのかは分からないが、快感があるならどうでもいい。
「ひ、うっ! あ、は、いっ! や、う、あッ!」
 ふと、柔らかい、ぬめった感触のものが私のお尻に押し当てられた。
 それはお尻の肉を食むように、円を描いてつるつると私のお尻の上を滑ると、恐る恐るといった感じで私のお尻の中心へと近付いてくる。
 その感触を素直に気持ちがいいと思った私は、急かすように尻を上げた。
 ぬめったものがお尻の中心を撫でる。そんなところ、普段は見られるだけでも恥ずかしい場所なのに、今は気持ちがよくて仕方がなかった。
「あ、あ、あっ、あっ、あ……! もっと、もっとぉ!」
 更に求める声を上げると、ぬめったものはお尻の中にまで入り込んできた。
 肉の輪が広げられる感覚に、思わず出た声が奇妙な色を含む。
 でも、これも気持ちがいい。
 さっき感じた、全身にゆっくり広がる感覚に近い。
 股間の前側は、鋭く響く快感。
 後ろ側には、ゆっくり広がる快感。
 同時に与えられる快感は、互いが互いを大きくして私の全身に響く。
 凄い。すごいすごいすごい。
 もう何も考えられなくなって、私はただ声を上げた。
 自分が何を口にしているのかも分からない。
 ただこの快楽が一分一秒でも長く続けばと、私は叫び、腰を動かし続けた。

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No title

なんというか、今までと少しのりが違ってきましたね。
特に、ピアが・・・

No title

ミゥの想像どおりなら、やってしまえば逃げられませんものねー。
ピアは保守性がどこに消えたのやら……開発されちゃったためかしらん。
ニニルの肝心なシーンも含め、続き期待しております。

みんな暴走モード突入ですね(笑)
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