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フィフニルの妖精達11-3「思いの残滓 ‐2ndDay‐」

 男湯の露天風呂の人口は俺一人から一気に八人へと増えて、寂しさは消えたものの視線を向ける場所は少なくなった。
 何せ、彼女達は人間の三分の一ぐらいの小ささとはいえ、揃って端正な顔と綺麗なプロポーションを持っているのだから。
 それぞれ個人差はあるものの、粒揃いと言っていい。
――神の作りし人形、と言ったところだろうか。
「ふぅ……」
 俺は両側をヅィとピアに挟まれ、膝の上にミゥを乗せた、少しばかり窮屈な状態でゆっくりと息を吐いた。
密着している彼女達の身体から直に伝わってくる、穏やかな体温が妙に心地よい。
「ご主人様、どうかなさいましたか?」
「――いや、何でもないよ」
 俺の吐いた息をどう受け取ったのか、ピアが俺の顔を覗き込んでそう訊いてくる。
それに俺は穏やかに返答しながら、ふと視線を移した。
俺から少し離れた所では、ニニルがその両側をノアとネイに固められながら湯に浸かっている。
左手で首に嵌った拘束具を窮屈そうに撫で、右手で両の胸を覆っているその姿は、なんとも居心地が悪そうだ。
「なあ、ニニル」
「なんですか」
 声を掛けると、僅かに顔を赤くしながらキッとこちらを睨むように視線を突き刺してくるニニル。
そんな態度に少したじろぎながらも、俺は何とか会話を続けようと試みる。
「新聞を書いてるんだって?」
「はい。それが何か?」
「どんな新聞を書いてるんだ?」
 そう聞くと、彼女は少し怪訝そうな顔で俺を見た後、しぶしぶといった様子で答え始めた。
「別に、大したものではありません。妖精郷で起きた出来事を可能な限り知り、調べ、それに私のちょっとした意見を添えているだけですよ」
「ほう。毎日発行してるのか?」
「まさか。そこまで出来る財力がある訳がないでしょう。少し考えれば分かりそうなものですが」
「む…… じゃあどれぐらいの間隔なんだ? 不定期か?」
「不定期? それこそまさかです。私を馬鹿にしているのですか?」
「ぬ……」
 ……本当に口が減らないな。
 降参とばかりに軽く両手を挙げると、ニニルは一つ溜息を吐いて言った。
「十夜毎の定期発行ですよ。幻影界には自然界ほど科学が進んでいませんから、通信技術などもあまり発達していませんしね」
「ふむ」
「何より私の情報収集の手段は自前の足と翅ですから。十夜ほど時間を取らなければ満足に情報が集まらないのです」
「十夜っていうと、こっちで言う週刊みたいなものか」
「そうですね」
 同意して、彼女はこれ見よがしにまた溜息を吐き、
「次の十夜には間に合うよう原稿を仕上げ、帰る予定だったのですが。この様子では間に合わなさそうです」
 と、そう愚痴た。
俺は苦笑いを浮かべ、すまんな、と軽い謝罪の言葉だけを返すしかない。
「原稿だけでも書くか? それぐらいなら許可出来るぞ」
「……書きたいのは、山々なのですが」
 何やら歯切れが悪そうに言って、言葉を濁すニニル。
その視線が一瞬だけ竹林の方に向いて、すぐに俺の方へと直る。
「どうせ明日にはどうなっているかも分からない身です。書くのは止めておきます」
「そうか」
 言葉の調子とは裏腹に随分と弱気だな、とは思う。
 恐らく、本来はあまり芯が強い性格ではないのだろう。口が減らないのは強がっているだけだ。
 そう思うと、そっけない言葉も可愛く思えてくるから不思議なものだ。
「……なんですか。人の顔を見てニヤニヤと。そんなに楽しいですか? 私の状況が」
「いや、決してそういう訳じゃない。すまん」
 顔に出てしまっていたか、と少し反省する。
 しかし、彼女の性格を考えるに、この状況でも書く、と言いそうだったのだが。
 何か事情があるのだろうか……
「――ところで、ネイ。ニニルさんの妖精石の位置は聞きましたかー?」
「え、あ? 済みません、何でした?」
 ミゥのそんな唐突な質問に、何かを考えていた風のネイが慌てて聞き返す。
 それをフォローする為に、俺は思考を中断して口を開いた。
「妖精石の位置ならちゃんと聞いてたぞ。確か、左胸やや上、中央よりの位置、だっけか?」
「ふむふむ」
 相槌を打ちながら、ミゥがニニルに、確かなのか、とでも言いたげな視線を送る。
 眉を顰め、視線を逸らすニニル。それを肯定と受け取ったようで、ミゥは俺に視線を戻した。
「ところでご主人様に妖精石の説明ってしましたっけ?」
「いや、してもらってないと思うが。大切なものだって事は想像が付くが」
「ふふ、大事どころじゃ済みませんよー、妖精石と、その位置は」
 何やら深みのある笑みを浮かべ、そうですねー、とミゥは前置いた。
「妖精石は、ボク達の命と力の源です。もう一つの心臓と言っていいですね。むしろ、この身体の心臓よりも大事なものです」
 そう言って、ミゥは自分の左胸に指を当てた。
 心臓より大事なもの、と言われても、いまいちピンとこないが……
「ボク達は飲食をしませんし、実は呼吸を止めても生きていく事が出来ます。身体も殆ど老化しませんし、大抵の怪我は後遺症を残さず完全に治ってしまいます」
「あれか。妖精炎だったか。あれのお陰か?」
「そうですー。そして、その妖精炎の力を生み出しているのが、妖精石という訳ですねー」
 なるほど。
 それなら心臓よりも大事と言った意味が理解出来る。
「じゃあ、もし妖精石が割れたりしたら?」
「んー、種族にもよりますけど…… ボク達フィフニル族は妖精石の欠損が直るまで昏倒し、その間はちょっとした事で死んじゃうようになりますねー」
「それは…… 大変だな。大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよー。言い換えれば、妖精石が傷付かなければ大抵の事では死なない、という事ですからー」
 くすくす、と笑って、ミゥは徐に俺の右手を取った。
 そして彼女自身の太腿の付け根へと、俺の手を押し付ける。
 何事か、とミゥと視線を合わせると、彼女は小さく微笑んで、俺に強く抱き付いて耳元に口を寄せてきた。
「ご主人様、そこ、何もありませんよね?」
「あ、ああ?」
「ふふ、今から見せますから。ボクの妖精石を――」
 直後、彼女の太腿の付け根に押し当てられている右手から、暖かな熱を感じた。
 同時にその指先に忽然と出現する、柔肌ではない、硬い石のような感触。
 見れば、俺が触れている部分に握り拳より一回り小さい程度の、緑色に光る石が嵌っていた。
 岩石から削り出されたばかりのような、お世辞にも形が整っているとは言えないエメラルド。
 それが、彼女の柔肌に埋もれるようにして存在していた。
「これが、ボクの妖精石ですー…… ふふ、秘密ですよ? ここにあるのは」
「あ、ああ……」
 生返事をしながら、俺は驚きと共に、妙な安堵に包まれていた。
 勝手に身体の力が抜け、疲労が根こそぎ吸われていくような安心。
 もっと、もっと強く触れていたいと、俺はミゥの妖精石を撫で回した。
「ん、ふ…… ご主人様、そんなに触っちゃ……」
 不意に、耳元に艶かしい吐息と、艶のあるミゥの声が掛かった。
 ――そうだ、俺は、何を。
 その声に正気に戻ったかのように、俺は慌てて彼女の妖精石から手を離した。
 とうの昔にミゥの手は俺の手を離れており、俺が自分で手を離した事に彼女は少し残念そうな顔をして、自らの手で妖精石に触れる。
 その瞬間、彼女の妖精石は彼女の肌に溶けるようにして消えた。
「――とまあ、普段は見えないんですよー。一番知られたくない事ですから」
「あ、ああ。なるほど」
 唐突に普段の調子に戻ったミゥに、俺も慌てて声の調子を合わせる。
「だからー、もしもニニルさんが逃げ出しちゃったりしたら、左胸やや上、中央よりの位置を狙えばいい、という訳ですねー。ふふふ」
「……っ」
 向けられたミゥの視線と言葉に、ニニルの顔が強張る。
 その様子を見て、うふふ、と一見穏やかだが実のところサディスティックな笑みを強めるミゥ。
 俺の膝の上から降りて、湯の中を一歩一歩、ニニルへと歩み寄っていく。
「新しく作ったお薬なんですけどねー、被験者がいなくて困ってるんですよー」
「っ、自分で試せばいいでしょう……!」
「ふふ、それが出来ないから被験者が必要なんですよー」
 前の、あなたみたいに。
 そう言って、ミゥは更にニニルへと歩み寄る。
「っ、こ、来ないでください……!」
「――尤も、ちゃんと効果が出る前に逃げ出しちゃったので、ボクとしては残念な結果に終わっちゃったんですけど……」
「あの後、どれだけ私が酷い目にあったか……!」
「そうなんですかー。じゃあ今度は、ちゃーんと効果が出るまで逃げ出さないで下さいねー? そうでないと、ちょっとこわーい事になっちゃいますから」
 くすくす、と目を細めて笑うミゥの指先が、ニニルの顎をなぞる。
 対するニニルは、ミゥの視線から目を逸らす事も、生意気に口答えする事も出来ずに、かたかたと小さく震えているだけだ。
 まさしく、蛇に睨まれた蛙の様相。
 彼女の作る薬の効果が極めて強力な事は俺も知っている。以前、ミゥによほど酷い目に遭わされたんだろう。
「――もういいだろ、ミゥ。あまり怖がらせるな」
「くすくす。 ――冗談ですよ。ご主人様のいる前で、そんなに酷い事はしませんから」
「君のは時々冗談に聞こえないから。ほら、こっちおいで」
「はぁい」
 くすくす、と笑いながら俺の膝の上へと戻ってくるミゥ。
 俺は彼女の髪を撫でながら、改めてこの小さな緑の妖精の恐ろしさを確認したのだった。


「――なあ、何があったんだ?」
 先のミゥの威嚇行動からややあって。
 露天風呂の浴槽から少し離れたところにある洗い場に身体を洗いに行っていたシゥが戻ってきて、そう唐突に問うてきた。
「何が、って?」
「あいつだよ。なんか、今回ばかりはご主人に感謝したい気分だとか言ってたが」
「ああ、ニニルか」
 事の顛末を話すと、シゥは苦笑して俺の隣にある浅い部分に腰を下ろした。
 ちなみに、先程までそこを占拠していたヅィとピア、そして俺の膝の上にいたミゥ。ニニルとネイは、五人揃って身体を洗いに行っている。
 浴槽に残っているのは俺とシゥ、ノアだけだ。
「昔のあいつの話、したっけか?」
「色々危険な薬を作ってた、ってのはミゥから直接聞いたが」
「そうか。まあそれ以外にも色々あって、妖精郷では有名だったよ、あいつは」
「例えば?」
「一番傑作なのがあいつの通り名だよ。『帝国の緑の悪魔』だからな。悪魔なんて失礼にも程があるとかあいつは憤慨してたが、間違っちゃいねえと思うよ、俺も」
「……苦労してそうだな」
「付き合って何年になると思ってるんだ。帝国にいた頃はしょっちゅう新薬実験してたからな、あいつ。薬害にあった事なんざ数え切れねぇよ」
 一応その辺りは区別してたのか知らんが深刻な状態になる事は無かったが、と付け加え、シゥは苦笑いを続ける。
「ああ、でもそうでもねーか。笑えるぐらい人格変わっちまった奴もいた気がするぜ」
「そうなのか……」
「まあ、ご主人に降りかかる事はねーだろうから大丈夫だよ、多分」
 もう既に一度遭った事など知らずに苦笑いを続ける彼女。
 そしてふと真剣な表情に戻り、ぽつりと呟くように言った。
「なあ、ご主人」
「ん?」
「俺達の事、どう思った?」
 そんな、意図の掴みづらい質問。
 ――どう、とは何なのだろうか。
「どう、って?」
「だからほら、あれだよ。その…… 気色悪く思ったんじゃねぇか、って」
 シゥのそんな歯切れの悪い言葉を聴いて、ああ、と思う。
 確かに、シゥやミゥの、ニニルに対する態度は常軌を逸したものに思えた。
「確かに、ちょっと引いた」
「う、ぐ……」
「――でも、それは俺が平和な世間しか知らないからだと思う」
 だから、シゥやミゥの行動を、俺の物差しで計って決め付けるのはあまりにも失礼な事だと。
「だから、最初は戸惑ったり引いたりするかもしれないが…… どうか許してくれないか」
「ご主人……」
 そう言って俺が微笑を浮かべると、シゥは僅かに頬を染めて、こつんと頭を俺の肩に預けてきた。
 男っぽい口調で何かと粗暴な彼女だが、こういう可愛い所があるのはよく知っているし――
「……なあ、ご主人」
「ん?」
「キス、してくれないか」
 そんな突然の申し出。
 見れば、シゥは僅かに瞳を潤ませながら、僅かに甘い息を吐いていた。
「あ、ああ…… 構わないが。どうしたんだ急に」
「いいだろ、別に」
 ん、とシゥが顔を近付けてくる。
 そう言えばノアが、と視線を逸らすと、彼女は何故か明後日の方向を向いていて、まるで「私は何も見てませんし、聞いてませんよ」とでも言いたげだった。
 ならばまあいいか、とシゥの小さな唇に覆い被さる様に俺の唇を重ねる。
「んっ……」
 口付けをしてすぐに、シゥの小さな舌が俺の口内に入り込んできた。
 それに答えるように舌を絡め合い、唾液を交換する。
「ん、ふ……」
 身体の大きさの違いから、どうしても俺の方が舌は長い。
 シゥの小さな舌を押し退けるようにして彼女の口内に侵入し、舌を這わせる。
「ん、んぅ……」
 口内の全体に、俺の唾液を塗り込むように。
 単なる口付けではなく、マーキングにも似た行為。
 それを俺の成すがままに受け入れるシゥは、とても心地良さそうだ。
「ん、はあ」
 何十秒、そうしていただろうか。
 どちらともなく口付けを終えると、俺とシゥの唇の間に唾液が糸を引いて、湯の中へと溶けて消えた。
 目の前には蕩けたような表情を浮かべているシゥ。
 俺はゆっくりと彼女を抱き締めると、その身体に指を這わせた。
「んっ……!」
「シゥ、濡れてる」
「る、るせぇ。風呂に入ってるんだから、当たり前だろ」
 シゥの秘所に感じる、水とは違う少し粘り気のある液体。
 少しばかり弄くってやると、鼻に掛かった切ない声を上げる彼女。
「ご、ご主人、待て、止めろって。ノアが」
「最初にキスしてって言ったのはそっちだろ」
「ここまでしてくれなんて、っあ、言ってな、っ!」
 抗議の声を無視し縦筋に指を這わせ、指先を差し込む。
 ぬるりとした感触の中で小さな肉芽を見つけ、撫で回すように刺激する。
「っ、ん――!」
「……っ!?」
 と、その瞬間、シゥが俺の肩に噛み付いてきた。
 僅かな痛みと共に、声になり損ねた息を肩に感じる。
「う、んぅ、うー……」
「こら、痛いぞ」
「う、っう、んー!」
 サファイアの瞳に小さく涙を溜めて、噛み付いたまま唸りを上げるシゥ。
 ならばお返しとばかりに空いているもう片方の手を彼女の尻へと忍ばせ、そこにひっそりと佇んでいる菊門に指を突き立てた。
「っ!?」
 ぎり、と一瞬だけ肩を噛む力が強まり、すぐに脱力した。
 排泄口への異物の侵入に、目を見開いて身を捩るシゥ。
 意地悪にぐりぐりと腸壁を引っ掻くように刺激してやると、ようやく彼女は噛み付くのを止めた。
「っあ、ご主人、そこ、そこはちがっ、あっ!」
「でも、なんか気持ち良さそうだぞ?」
「馬鹿、っあ、やめ、やめてッ、っひ……!」
 一際、シゥの声が高くなる。
 俺は調子に乗って、このままイカせてやろうと縦筋と菊門の指の動きを強め――
「――!」
 ぱん、という破裂音に似た音と、かーん、という何かの落下音が耳に響き、我に返るようにすぐさまシゥから手を引いた。
 最初の音源は、ノアが打ち合わせた掌の音。
 次の音源は、丁度こちらへ向かってきていたニニルが、抱えていた手桶を落とした音だった。
「ど、どうした? ニニル」
「? どうしたも何も、手桶を落としただけですが。何か?」
「そ、そうか」
 少しばかり声が震えていたが、ニニルは湯の熱の所為か少し火照った顔を小さく傾げただけで、どうやら勘繰られてはいないようだった。
 顔を真っ赤にして息を整えているシゥは、ニニルからは俺の影になって見えていないはず。
「……なんですか、さっきから。人の顔を凝視するのは失礼ですよ」
「あ、ああ。すまん」
 シゥへの行為を止めるのが少しでも遅れていたら、ニニルにばっちり現場を見られていたところだ。
 恐らく、ノアが突然手を叩いたのはニニルの接近を感じ取ったからなのだろう。
 彼女に少しばかりの感謝を送りつつ、俺は大きく息を吐いた。


 風呂から上がって昼ご飯を終え、俺達は特にする事も思いつかず、部屋に戻ってきていた。
 そもそもが夏美さんによって突然行く事になった旅行だ。何処か行きたい所がある訳ではない。
 それにピア達を連れて外に出て行く訳にも行かないだろう。
「――どうしたものやら」
 呟いて、俺は洋室のベッドの上に寝転がる。
 ふと隣を見れば、洗濯中の服の代わりに身体に大きめの手拭いを巻き付けたニニルが怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
 その隣には、どうやら近隣の観光地を載せたパンフを読んでいるピア。
 窓際の椅子の上には、手帳に何かを書き込んでいるネイの姿がある。
 ちなみにミゥ、ヅィ、ノアの三名はこの旅館の探索に出ると言って出掛けてしまい、シゥはいつの間にか何処かへ行ってしまっていた。
 何か騒ぎになるような事にならなければいいのだが……
「――時に、悠」
「ん?」
「貴方達は旅行に来たのではないのですか? それなのに、大した予定もなくだらだらとしているように見えるのですが」
「君を捕まえてしまったからな。君を放って遊びに行く訳には行かないだろう」
 ニニルのそんな問いに苦笑してそう答えてやると、彼女は僅かに済まなさそうな顔をした。
「――冗談だよ。実はこの旅行は急なものでな。予定を組んでないんだ」
「そうなのですか」
「それに、君達を連れて人前に出る訳にも行かないしな」
 一応、以前にヅィが俺の学校に来た時のように、幻惑結界を使って記憶に残らないようにするという手も使えなくはない。
 だが、その方法は以前と同様、緊急時には維持出来なくなる可能性が高い。
 よって使用は推奨出来ないというのがピアとヅィの出した結論だった。
「どこか人のいない名所でもあればいいんだが」
 と、冗談交じりに言うと、ニニルから意外な答えが返ってきた。
「ここから少し離れたところの山中にある廃村などはどうでしょうか」
「そんな所があるのか?」
「はい。数日前に訪れた時は人の気配を全く感じませんでした」
「そうか……」
 山中の廃村。
 確かに、彼女達と何処かに出掛けるなら、そういう場所しかないのかも知れない。
「後で場所を教えてもらってもいいか?」
「その必要はないでしょう。どうせ私も付いて行く事になるでしょうし。その時に直接案内します」
「すまんな」
 そう礼を言うと、ニニルは、ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
 彼女のそんな態度に苦笑して、きっと照れているんだろうと勝手に思う事にする。
 ややあって、俺はふと喉の渇きを覚え、ベッドを立った。
「ん、ご主人様、何処へ?」
「いや、水を飲むだけだよ」
 そうピアに断ってから、俺は洋室を出て洗面所へと入る。
 コップに水を汲んで、一息に喉へと流し込んだ。程よく冷えた水が渇きを潤し、僅かに意識をはっきりとさせる。
 ふう、と一息を吐いて、二杯目を汲む。
 同時、俺の耳に控えめなノックの音が響いた。
「……?」
 叩かれたのは洗面所の扉ではない。
 俺は洗面所から出て、すぐ傍の玄関へと立った。
「はい?」
「山田だが。少しいいかね? 少年」
「あ、はい」
 聞き覚えのある声に扉を開くと、Tシャツにジーンズというラフな格好の山田さんが部屋の前に立っていた。
 山田さんは俺の背後、部屋の中に少し視線を向け、
「小さなお嬢様達は?」
「奥の部屋です。何人かは出掛けてますけど」
「ふむ。少し歩かないかね。話があるんだが」
 と、そんな申し出をしてきた。
 言葉の意図を察し、俺は頷いてから視線を部屋の中に戻す。
「ピア」
「――はい?」
 呼び掛けてすぐ、洋室の扉からピアが顔を出した。
 すぐに俺の向こうに立つ山田さんの姿を認めたようで、一瞬怪訝な表情をした後、すぐに柔和なものへと戻る。
「ちょっと出掛けてくる」
「畏まりました。行ってらっしゃいませ」
 何だかえらく他人行儀な、あまり感情の篭ってない見送りの言葉を受けて、通路へと出た。
 途端、山田さんが苦笑する。
「どうやら私はあまり歓迎されてないようだね」
「済みません。人見知りする子達なので」
「いやいや、あれは人見知りではないだろう。そう…… 嫉妬の感情に近いね、あれは」
「まさか」
 互いに苦笑いと言葉を交わしながら通路を歩き、広間へと出る。
 人の気配がまるでない広間の片隅に並んだソファに向き合って腰掛けると、俺は早速切り出した。
「で、何でしょうか。話とは」
「何、そう堅苦しい事じゃない。構えないでくれ」
 言って、山田さんは小さく息を吐いた。
「夏美嬢からの頼まれ事でね」
「夏美さんの?」
「そう。新しい、小さくて可愛い住人が一気に沢山増えるから、その歓迎パーティーをして欲しい、との事だ」
 小さくて可愛い住人。
 誰を指しているのかは言うまでもないだろう。
「夏美嬢の頼み事だ。私達は一も二もなく引き受けたが、肝心の主賓、特に少年、君に断られては意味がない」
「確かに、そうですが」
「これが本題だ。どうだろう。歓迎パーティーに出席して貰えないかね?」
 俺はすぐに返事する事を躊躇った。当然の判断だろう。
 ここで俺が承諾すれば、彼女達は断らないだろうが…… 彼女達抜きで決められる話ではない。
「すぐに返事をするのは無理です。彼女達にも聞いてみないと」
「ふむ。確かにそうだ」
 出来れば彼女達にはサプライズにしたかったのだが、と山田さんは呟く。
「まあ、相談の上ゆっくり決めてくれ。急ぐものではない……と言っても、この旅行中には返事が欲しい所だが」
「分かりました。戻って彼女達と相談してみます」
「済まないね。話は以上だ」
「はい」
 一礼を交わして山田さんと別れ、元来た道を戻る。
 しかし、歓迎パーティーか。
 夏美さんの頼み事、というからには、恐らく同じ旅行に来ている全住人が出席するのだろう。
 気掛かりなのは、多くの『人間』に対する彼女達の耐性だ。
 時折、彼女達が口にする『その他の人間とご主人様を同一に見てはならない』という言葉。
 それは、俺に対する彼女達の態度は特別なものであり、その他の人間は俺に対するのと同じ態度で接するに値しない存在であるという事に他ならない。
「うーむ……」
 ヅィが学校に来た時の事を考えると、彼女はそれなりに耐性がありそうだが…… シゥやネイ辺りが心配だ。
 まあ、根は皆良いから、住人の側から問題を起こさなければ大事にはならないだろう。
 そして俺の知る限り、夏美さんのマンションの住人に問題のある人はいない。
 全員の名前を覚えている訳ではないが、誰も親切で優しい人達だ。
 一部例外もあるが…… あの人は多忙だから来てないはずだ、多分。
 何とかなるかと思いつつ、俺は部屋の扉を開けた。
「ただいま」
「あ、お帰りなさいご主人様ー」
 扉を開けた途端、待ち構えていたかのようにミゥが飛び込んでくる。
 彼女が帰っていた事に少し驚きつつも、行為自体は慣れたものだ。腰を落として胸に抱き止め、ぎゅっと抱擁を交わした後、頬に軽く口付ける。
「――こら、ミゥ! お帰りなさいませ、ご主人様。早かったですね」
「本当にちょっとした話だったからな」
 お返しにミゥから頬への口付けを受け、彼女を解放する。えへへ、と上機嫌な笑い声を上げて、俺の足元にまとわり付く彼女。
 なんとも子供っぽいが、彼女がやると艶を感じるから困る。
「ヅィとノアも帰ってきてるみたいだな」
 和室の部屋の壁に凭れ、文庫本を抱いて俺に手を上げて示すヅィと、その隣に正座して俺を見上げているノア。
「シゥは?」
「帰ってきてますよ。何故か不機嫌そうでしたが」
「シゥ?」
 そう呼び掛けると、洋室の方からニニルを伴ってシゥが出てきた。
「……」
 途端、俺に突き刺さるシゥからの視線。
 確かに、お世辞にもご機嫌とは言えない表情をしているのだが。
「なんだよ、ご主人。 ……俺の顔に何か付いてるか?」
「い、いや。何も」
 俺の自惚れでないなら、どうやらシゥは拗ねているようだ。
 思い当たるのは一つしかない。風呂場での行為だ。
 行き過ぎた行為に対して怒っているのか、それとも――
「で、どうしたのじゃ? 悠」
「――ああ、ちょっと話があってな」
 思考を戻し、ヅィの疑問にそう答える。
「話、とな?」
「ああ、さっき――」
「ちょっと待って下さい。それは私が聞いていても構わない話なのですか?」
 制止を掛けたのはニニル。
 俺は少し逡巡し、許可を出す。聞かれて困る話ではないし、今となっては彼女にも関係がある事だ。
「ああ。良ければ聞いていってくれ」
「では聞かせてもらいます」
 言って、適当な場所に腰を下ろすニニル。
 俺も腰を下ろし、皆との視線の差を縮めてから、話を切り出した。
「どうやら、夏美さんの計らいで君達の歓迎会が企画されてるらしい」
「歓迎会、ですか?」
「ああ」
 難しい顔をするピア。
 見れば、やはり予想通りにネイも同様に難しい顔をしている。
「やっぱり嫌か?」
「……ご主人様には申し訳ないのですが、やはり大勢の人間の前に出るとなると、少し」
「わらわは別に構わぬがのう」
 そう返事を返してくれたのはやはりヅィ。
「それに、悠にまず話が行ったという事は、悠の方からわらわ達を説得してくれと。そういう事じゃろ?」
「ああ、まあ、そうだろうな」
「ならば主人の顔を立てぬ従者が何処におる?」
 そう結論付けたヅィは、ピアやネイを見て独特の笑みを浮かべる。
 まるで挑戦状を叩き付けるような意地の悪い笑みに、ピアは目を閉じて小さく息を吐いた。
「確かにヅィの言う通りですね。ご主人様のお顔を立てずして、何が従者でしょうか」
「全くじゃ」
「いや、無理はしなくていいんだぞ?」
 そう念を押すが、ピアは小さく笑って首を横に振った。
「ご主人様の為なら無理などありませんから。全員出席という事で、お伝え願えますか」
「皆はそれでいいのか?」
「構いませんよー」
「構わぬと言っておろう」
「はい、ご主人様の為なら」
「構わねーよ」
「了解」
「……分かった」
 全員の返事を耳にして、俺は息を吐いて頷いた。
 ピア達の為の歓迎会なのだから、俺の為に出席というのはズレている気がする。
 だが、出席して貰えないよりはマシだろう。分かり合う機会が無ければ分かり合う事など永遠に出来ないのだから。
「……人間の方から歓迎会などと。寒気がしますね。何か企んでいるのではないのですか?」
「それは無い…… と思いたいな。単純に仲良くしたいだけだよ。ニニルはどうする?」
「出る訳が無いでしょう。そもそも私には関係の無い話ではないですか」
「そうか、残念だ」
 にべも無く突っぱねたニニルを仕方ないかと思いながら、山田さんに返事を伝える為、再び部屋を出る。
 彼女達の世界――幻影界での、妖精と人間の溝。
 今度、機会があれば聞いてみようと思いつつ、俺は通路を歩き出した。


 山田さんに返事を伝え、詳しい詳細について話していたら数時間も掛かってしまった。
 帰りの足で夕食を取りに向かい、部屋に戻る。
 何も連絡せずに数時間空けてしまったから、少し心配しているかも知れない。
 怒られる事を覚悟しながら、俺は部屋の扉を開いた。
「ただいま」
 と、言いながら同時に入ったものの、和室には誰もいなかった。
 全員洋室にいるのか? と思いつつ、洋室を覗く。
 しかしそこにいたのは青い髪の妖精――シゥだけだった。
 何をするでもなく、窓際の椅子に腰掛けて、窓の向こうの闇を見詰めている。
 声を掛けようかと思った瞬間、彼女もこちらに気付いたか、ゆっくりと振り返った。
「……やっと帰ったか、ご主人」
「ただいま。ピア達は?」
「あいつらならまた風呂に行っちまったよ。誰かが残ってなきゃならんから、俺が残った」
 そう言うシゥの口調はやたら粗暴さが滲み出ている。
 やはり昼の事と合わせて怒っているのだろうか、と思いつつ、何とか彼女の機嫌をこれ以上損ねないよう会話を続ける。
「それは悪かったな。すまん。今からでも行くか?」
「何処に?」
「風呂にだよ」
「……いや、いい」
「そうか」
 早くも途切れてしまった会話に頭を悩ませながら、取り敢えずベッドに腰掛ける。
 そのまま上体をベッドに倒すと、視界に洋室の天井と、そこにぶら下がる洒落た照明が映った。
 しばし、目を閉じる。
 さて、どうすればシゥを宥める事が出来るだろうか。
 俺に対して怒っているか拗ねているのは間違いないので、求めるべきはそれを鎮める為の方法だ。
 何となく、傍に呼んで頭を撫でてやればそれで大丈夫そうな気もしたが、シゥの性格を考えると逆効果になり、更に機嫌を損ねる可能性もある。
 最善の方法は何か――
 ふと目を開ける。
 するといつの間にやら、シゥの顔が俺の視界の中央にあった。
「……」
「……どうした?」
 問い掛ける。
 シゥは俺の胸を跨いで、両手を俺の耳の横に着いている格好だ。
 彼女が人間なら、俺と彼女の間にはそれなりの隙間があるが、彼女の身体は人間のそれより遥かに小さい為、ほぼ密着状態になる。
 俺は顔に彼女の息が掛かるのを感じながら、答えを待った。
「なあ」
「ん?」
「ご主人にとって、俺は大切じゃないのか?」
 突然のそんな質問。
 何だか凄まじい既視感を感じながら、俺は取り敢えず当然の答えを返す。
「勿論、大切だよ」
「じゃあ、なんでピアやミゥと一緒のようにしてくれないんだ?」
 ピアやミゥと一緒のように。
 つまりそれは、単なる愛撫や口付けだけでなく、抱け、という事か。
「……シゥ、ちょっといいか?」
「あ? ちょっとって――うあっ!?」
 シゥの細い腰を捕まえ、一気に体勢を入れ替える。
 同時に細い腕を纏めて押さえ、彼女の頭の上で拘束した。
 これで体勢はさっきと逆。横たわっているシゥの上に、俺が覆い被さっている状態だ。
 腕を押さえて拘束しているので、他人から見れば襲い掛かる一歩手前、といったところだろう。
「あ……」
「いいかシゥ。つい最近似たような事があったから、君にも言っておくが」
「あ、ああ」
「俺は君達六人の中で誰が一番好きで誰が一番嫌いとかはない。皆好きだ」
「……それにしちゃ、随分温度差がある気がするぞ。ミゥとか――」
「話は最後まで黙って聞く」
 その一言でシゥを黙らせ、俺は話を続ける。
 と言っても、内容は昨日ピアに言った事の焼き直しなのだが。
「ミゥは気持ちがはっきりしてるから、俺もはっきりさせてる。彼女は、俺の自惚れでなければ――俺を好いていて、それをはっきり行動で示してる。だから俺も行動で彼女が大事だって応えてるんだ」
「……俺だって、行動で示してるじゃないか」
「確かにそうだが、それで行為まで行くかというと、俺は少し迷ってる」
「なんでだよ」
「シゥ、君は自分が禁断症状にある事は自覚してるんだろ?」
「……ああ」
 睡草の禁断症状はそう簡単に抜けるものではなく、睡草が無い今は、別のものに長い間頼って恐怖を取り除く必要があるとミゥは言っていた。
 つまり、禁断症状の相手が薬から俺に変わっただけ、という事でもある。
「だから俺は、シゥの禁断症状の相手が俺に変わっただけという可能性を考慮していた。それに、シゥは処女だろ?」
「あ、ああ」
「俺は人間だから、人間の価値観としてシゥの処女をそんななし崩し的に奪っていいとは思わない。ちゃんとした両者の思いの確認があって初めて、そういう行為に至るものだと俺は思ってる」
 そう自分の持論をシゥにぶつける。
 すると、シゥは彼女にしては珍しく――今にも泣きそうな表情になって、ゆっくりと口を開いた。
「じゃあ、今抱えてる、この訳の分からない想いが、自前で証明出来ないような薬中は、抱けねぇって事かよ」
「――いや、そこまでは」
「そうじゃねぇかッ!」
 咆哮のような悲痛な叫び。
 その時、俺はどんな顔をしていたのだろうか。
 ややあって、彼女の青玉の瞳から大粒の涙が一つだけ零れた。
「もういいッ! 放せ、馬鹿主人!」
「待ってくれ、シゥ。俺は――」
「もういいって言ってるだろッ! 放せ、放しやがれッ!」
「だから――」
「馬鹿、阿呆、鈍感! 甲斐性無し!」
「――」
「好きだって言ってんのになんで分からねぇんだ! 本当は俺なんかどうでもいいんだろうがッ! この、短小! 早漏! ふの――ぐっ!?」
 シゥの暴言が途中で途切れる。
 それもその筈、俺が彼女の首根っこを抑えたからだ。
「っ、ぐ……! くる、し……!」
「分かった。そこまで言うなら、最後まできちんとやってやる」
 ただし、と俺は付け加えて、
「シゥが泣き叫んでも絶対に止めないからな」
「……っ!」
 首を解放する。
 息苦しさから解放され、シゥが咳き込んでいる隙に、俺は少し離れた所に落ちていた手拭いを取って自分の手で拘束していた彼女の両の手を縛り上げた。ついでに余った端をベッドの頭に括り付ける。
 これで両手が空いた。
「ちょっ、ご主人、待って、止めて――」
 行動の自由を失ったシゥに襲い掛かり、服を剥きに掛かる。ミゥ相手に脱がし慣れているので、瞬く間に剥く事など造作もない。
 それこそ十秒と掛からずに上着を乱され下着を露出させたシゥを前に、俺は一旦、手の動きを止めた。
「あ、う……」
 なんとも言えない、非常に艶のある顔で俺を見つめるシゥ。
 そこにあるのは恐怖か、期待か、それとも――
「脱がすぞ」
 返事を待たず、シゥの青い下着に手を掛ける。
 相変わらず精巧な作りをしたショーツ。あの日はちゃんと見る事が出来なかったが、シゥのものも他の皆と同じ、バラに似た花の模様が編み込まれている。
 それをシゥの足から取り去ると、ブラとガーターベルト、ソックスだけという姿になる。
 下腹を包むガーターベルトの中心にある、無垢な縦筋がなんとも淫靡だ。
「……ご、ご主人?」
「舐めるぞ」
「え、舐め……? っひ!?」
 縦筋にむしゃぶり付くようにして陰門全体を咥え込み、舌を伸ばす。
 まずは縦筋をなぞるように舌を往復させる。
「あ、あぁ……! 駄目、駄目だって、そんな、そんな所、舐めるな……っあ!」
「どうして?」
「汚い、っあ…… だから、駄目、っひぅ!」
「汚いところなんかないさ」
 何とも使い古されたお決まりの台詞を吐いて、俺は舌による愛撫を進める。
 舌の先端を縦筋の中に滑り込ませ、中にある襞の隙間を掃除でもするかのように舐め、残った唾液を吸う。
「うあ、駄目、駄目、汚いからあっ……!」
「そんな事ないって。それに、なんか甘い。美味しいぞ」
「う、嘘だ、嘘つくな……っ、ひ、舐めるなって……!」
 そう。
 彼女の縦筋の中を舌が通った時や、そこを濡らした唾液を口の中に吸い戻すと、ほんのりとした甘みを感じるのだ。
 彼女達の唾液なども甘みを感じる事から察するに、彼女達の体液に当たるものは全て甘いのだろう。
 俺の、彼女達への愛ゆえの錯覚という事も考えられなくもないが。
「ん…… 美味しい」
「馬鹿、馬鹿、この……っ、ひんっ! 馬鹿、あまり舌を奥にっ…… あッ!」
 舌を更に伸ばし、淫核や尿道口、膣口を舐める。
 感じる甘みは一際強くなり、このまま長時間続けていたら胸が焼けてしまいそうだ。
「ああ……! ダメ、ご主人の舌が、舌が、俺の中に、入ってッ……!」
 膣口の縁を舐めるように舌を回すと、唾液とは違う粘り気のある液体を舌に感じた。
 ようやく愛液が滲んできたらしい。
 もっと量を多くしてやろうと、更に刺激を続ける。
 限界まで舌を伸ばし、彼女の膣へと差し込む。ざらざらとした、それでいて柔らかい無数の襞と共に、処女膜らしきものが舌の行く手を遮った。
「――ふむ」
「なに、満足げに頷いてんだッ……!」
「いやなに、これからシゥの初めての男になるんだなあと、自己確認したところだが」
「は、初めて、って……」
 刺激に反応して小さく暴れるシゥの下半身を押さえ付けながら、小さく笑ってそう言葉を返す。
 縦筋に舌を着けながら見上げたシゥの顔は、熱と快感に火照った、相変わらずのよく分からない表情。
 少なくとも、俺にはその顔が、恐怖と期待の入り混じったものに見える。
「……そろそろいいかな」
 まるで液状になった砂糖を舐めているような甘みを味覚が訴えたところで、俺は縦筋から舌を離した。
 思ったより胸焼けなどは感じないし、もっと舐めていたいという欲求もあるが、シゥの意識を飛ばす前にその処女を奪ってしまいたい。
「……っ、い、いいって、なにがだよ」
「俺のモノを、そろそろ受け入れてもらおうかな」
 言って、俺は先程からズボンの下で痛いほどに張り詰めているモノを外に出した。
 その瞬間、シゥの目が見開かれる。
「な、なんだよ、それっ……! まさか、それを……!?」
「そうだな。男性器――おちんちんというやつだ。これを今から君の――」
 モノの先端をシゥの縦筋に押し当てる。
 くちりと水音を立てて縦筋が花開き、生暖かい液体の感覚が鈴口を包んだ。
「ここに挿入する。物凄く痛くて身が裂けるような思いをするかもしれないが、前述の通り俺は絶対に止めない。止めたくない」
「ほ、本気かよ…… な、なんで……」
「君が好きだからだ、シゥ。君の処女を奪って、俺のものにしたい」
「え、あ、う……」
 選んだ言葉は自分でもどうかと思うものの、はっきりとした告白の言葉をシゥに告げる。
 そして返事を待たず、彼女の腰を掴んで、自分の腰に力を入れる。
 待つ必要はない。既に答えは受け取っている筈だから。
「いくぞ」
「ちょ、ちょっと待っ―― っ!?」
 一息に突き入れる。
 ピアやミゥの経験からして、一番きついのは入口だ。
 人間よりも柔軟性が高いのか裂ける事はないが、カリが入口を通る時だけはミゥも辛そうな顔をする。
 だから、一息に。
「――っ、いっ、あ……!」
「っ…… 入った、ぞ」
 ぎり、と歯を食い縛り、目を強く閉じて、痛みに耐えるシゥ。
 その下では縦筋がこれでもかと開いて、見事に俺のモノを半分ほど加え込んでいた。
 それを認識すると同時、ぎちりとした苦しいほどの締め付けがモノを襲ってくる。
「っ、あ、ごしゅ、じ、いた、い……!」
「力を抜いて。ゆっくり息をしろ」
「むり、む、りだっ、て……!」
 全身を強張らせ、不規則な息で痛みを訴えるシゥ。
 俺は彼女の顎を持ち上げ、その荒い呼吸を塞ぐようにキスをした。
 人工呼吸のように、二度、三度。こちらから息を吹き込んで、半ば無理やり呼吸のリズムをコントロールする。
 それをしばし続けると、シゥの呼吸はやがて穏やかなものになり、身体の強張りも徐々に薄れていった。
「……落ち着いたか?」
「あ、あ……」
 瞳の端に涙を浮かべ、シゥが何とかといった様子で頷く。
「ってぇ…… 身が裂かれるほど、どころじゃないぞ…… 死ぬかと思った……」
「もっと優しくする事も出来たんだが、あまりにもシゥが可愛くて、つい」
 そう軽口を叩くと、シゥは眉を顰めて睨んできた。
 そんな目で見ないでくれ、とばかりに、彼女の頭を撫でて対抗する。
「さて、もう少し奥に入れるが、いいか?」
「ここまでやっといて、良いも悪いもねぇだろ…… 勝手にやれよ」
「そうか、じゃあ遠慮なく」
 そう言いながら、俺は最大限シゥを気遣いつつ、彼女の限界までモノを挿入していく。
「っ、ぐ、っっ……」
「大丈夫か?」
「この程度、なんともない……っ」
 ややあって、俺のモノがシゥの中に三分の二ほど沈んだ所で、強い抵抗に当たった。
 これ以上は入らないだろうと判断して、一息を吐く。
「っ、はぁ、っ…… ぜ、全部入ったのか?」
「いや、流石に君と俺の体格差じゃ無理だな。でも、少なくとも君の限界までは入ったぞ」
「そ、そうか……」
 自分の盛り上がった下腹を見つめるシゥ。
 はあ、と艶のある息を吐いて、彼女は再度俺に向き直った。
「で…… 動くんだろ?」
「ああ、まだ痛みが残ってる所悪いが、そうなる。そうしない事も勿論出来るけどな」
「ふざけんな。ここまでやりやがったんだから最後までやりやがれよ」
「そうか、悪いな」
 俺は苦笑しながら悪びれずに言う。
 そんな凄みのある口調と台詞で言われても、快感と苦痛の入り混じった、涙目の表情では興奮以外の何も呼び起こさない。
「じゃあ、動くぞ」
「……あ、ああ」
 俺にとっては動かしていないに等しい動きで、シゥの胎を抉る。
 モノが小さく前後する度、シゥは眉を歪め、小さい熱のある息を吐く。
「大丈夫、か?」
「っ、あ、だ、大丈夫…… っ、く、あっ」
 声と表情から察するに、快感も感じている様子なのが幸いだと言えるだろうか。
 同時に俺も、僅かな動きで快感を得る事が出来ていた。
 というのも、シゥの胎は今までにないほどの締め付けで、俺のモノに快感を与えてくるからだ。
 ヅィもかなりのものだったが、シゥはそれ以上だろう。
 十分に濡れていないと、少し動かすにも苦労しそうなほどだ。
「ご、ご主人、っあ」
「なんだ?」
「き、気持ち、いいか? 俺の、中」
「ああ」
「そ、そうか」
 俺が肯定の言葉を返すと、シゥは涙目に微笑んで、
「あの、もっと、強く動かしても、いいから」
「いいのか?」
「あ、ああ。大丈夫、だから」
 健気な申し出に、俺は素直に答える事にした。
 徐々に腰の動きを大きくしつつ、シゥも快感を得られるよう努力する。
「っ、くあ、あ、あっ、っ、ぐ……」
「まだ痛いか?」
「っっ、だいじょ、ぶ」
 快感と苦痛の入り混じった喘ぎ。
 本当に大丈夫なのだろうかと思うものの、確かに彼女の愛液はその量を徐々に増している。
「本当に、大丈夫か?」
「だいじょぶ、だから……! せーえき、なかに、だしてっ、く、あっ!」
 大丈夫、と自分で言っている端から、その瞬間に奥を突いたモノの衝撃に眉を歪めるシゥ。
 だが、出た声には快感の色が混じっている。
 一瞬、訳が分からなくなって――すぐに、ある可能性に辿り着いた。
 シゥは、恐らく――
「――分かった、いくぞ」
「あ、うっ! あっ、あッ、ぐ、あっっ!」
 彼女の痛みを無視する勢いで腰を前後させ、処女肉を抉る。
 快楽と苦痛の悲鳴が耳に響き、しかし構わずに速度を上げていく。
「っ、く―― 出すぞっ!」
「ぐ、あ、っあ、あっ、っ、ッ、ぐ、あ、あぁッ……!」
 最後にシゥの子宮を強く突き上げて、俺は達した。
 どくどく、という脈動の音と共に、小さな子宮へと白濁液を注ぎ込んでいく。
 同時、精液を余さず搾り出すかのように、彼女の胎もぎちりと一際強く締まった。
「う、あ…… すご、おなか、くるし……」
 焦点の合っていない虚ろな視線を自分の下腹に向け、そう呟くシゥ。
 そこでは、注ぎ込まれる俺の子種の量に応じて、徐々に膨らんでいく様子が見て取れる。
「どう、だった?」
「なんか、すごくて、あたま、まっしろ……」
「そうか。やっぱりイけたんだな」
 予想通り――シゥは、長く摂取してきた睡草の効果で、肉体的、精神的苦痛を快楽に変換してしまうようになっているのだろう。
 悪い言い方をすれば、マゾヒストという事だ。
 当たっていてよかったと、俺が一息吐いた、その瞬間。
「――あ、っあ、ごしゅじ、みるな……!」
 そんなシゥの切羽詰まった台詞と共に、ぷしゅ、という間抜けな水音が響いた。
 同時、俺の股間に感じる暖かい水流。
 見れば、シゥは俺と繋がったまま失禁してしまっていた。
「あ、ぁ……! みるな、みないで……!」
「あ、ああ。すまん」
 苦笑しながら、抗議の声に慌てて視線を逸らす。
 そう言えば、あの時もこんな事があったな、と――


「――さて、どうするかな、これ」
 取り敢えず、シゥの粗相で濡れてしまった下着とズボンを片付けて新しいのに履き替え、俺は呟いた。
 目の前にはシゥの愛液と処女血、そして尿が染み込んだベッド。
 ついでに言うなら、ばつが悪そうにしているシゥ。
「……取り敢えず、これ解いてくれよ」
 と、縛られた両手を示すシゥに、そう言えば彼女の手を拘束しているタオルを外すのを忘れていた事に気付く。
 しかし俺は意地の悪い笑みを浮かべて、
「別にそのままでもいいじゃないか。ピア達が帰ってくるぐらいまでは」
 と、そんな事を言ってみた。
 縛られた手に、乱された上着と脱がされたショーツに、中出しされて腹を膨らませた、妖精の少女。
 まるで強姦の後のようだ。
 こんなに絵になる光景もなかなかない。
「――!? 正気かご主人!?」
「嫌なら写真に取っておくだけにするが」
「しゃ、しゃしん? ――まさか」
「そう。映像を記録にする、あの写真」
「――っ! この、鬼畜! 変態!」
「褒め言葉をありがとう。本気になったらこの程度じゃ済まさないけどな」
「……この!」
「で、どうする?」
 意地悪な俺の問いに、シゥは顔を真っ赤にして、か細い声で答えた。
「しゃ、写真」
「ん? 聞こえないな」
「写真にしてくれって言ってるだろ! 早く撮って早く解きやがれ!」
「分かった」
 にこやかに答え、俺は荷物の中からデジカメを取り出す。
 そして微妙な表情を浮かべるシゥに向け、シャッターを切った。
「う、ぅ……」
「うーん、いい絵だ。後で見せてやるよ」
「いらん! 早く解け!」
「はいはい」
 少しばかり名残惜しさを感じながらも、仕方なくシゥの手の拘束を解く。
 ようやく自由になった彼女は、上体を起こして、うわ、と呟いた。
「ひっでぇ…… 護服と靴下まで濡れてるし…… おい、ご主人。俺のパンツは?」
「そこに」
「ああもう…… こっちは流石に濡れてないか。全く……」
「俺の所為じゃないと思うんだが。君が粗相をしたからで――」
「っさい! ご主人がちゃんと脱がせてくれてたら良かったんだよ!」
「はいはい」
 苦笑しながら、シゥにタオルを手渡す。
 悪態を吐きながらもしぶしぶ受け取った彼女は、自分の粗相で濡れてしまった太腿や尻を拭き、裾が濡れてしまった上着とソックスを脱ぎ捨てた。
 しかし何を思ったのか、そのまま残ったブラとガーターベルトまで脱いでいく。
「どうした?」
「汗で濡れちまってて気持ち悪い。それに、この腹じゃ窮屈だ」
「ああ……」
 子供が出来たばかりのような膨れた下腹を示すシゥに、なるほど、と返しながらも、俺は笑みを浮かべる。
 あの中に俺の精液がまだ詰まっているかと思うと、やはり満更ではない。
「シャワー浴びてくる」
「あいよ」
 ベッドから慎重に降りて、一糸纏わぬ姿でゆっくりと洋室の出口へと足を進めるシゥ。
 そのまま扉を押し開けて、ふと、こちらを振り向いた。
「ご主人」
「ん?」
「あ、いや。その…… なんだ」
「はっきり言わないと分からないぞ」
 要領を得ない彼女にそう言ってやると、少しばかり顔を赤らめて、彼女は告げた。
「――ありがとうな、ご主人」
「……どういたしまして」
 最後に小さく微笑んで、シゥは扉の向こうに消えた。
 俺も釣られて微笑を浮かべ、ベッドに向き直る。
「さて、どうするかな……」
 まあ、結局のところ取替えを頼むしかないのだろう。
 俺は部屋に備え付けの電話に取り付いて、何処に電話すればいいのかを調べ始めるのだった。

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初めてコメントさせていただきます。くまやびんと申します。
某掲示板の頃から楽しませていただいております。
いつも、みんな可愛いのですが、シゥがあまりに可愛いので耐え切れずにコメントしてしまいました。
ああもうシゥかわいいよシゥw

これからも甘い日々に(時折ビターな彼女たちの事情)を楽しみにさせていただきますw
プロフィール

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