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Travel Accident

 ※この話にはスカトロの傾向が強く含まれています。
 苦手な方は閲覧をご遠慮ください。

 この話は「乱れる妄想亭」のななじゅさん主催で行われているTPRGのキャラクターの話です。
 興味があればご参加の検討をどうぞ。

 リンク:乱れる妄想亭
 リンク:TRPGWiki-乱れる猛槍亭


 ごとごとごと、と乗合馬車の車輪が軽快な音と共に振動を伝える。
「……はあ」
 それに揺られながら、ルイス神官の少女――メルファルネはぱたりと聖書を閉じ、ひとつ憂鬱そうな吐息を吐いた。
 少し顔を伏せ、垂れ下がる青髪の中から碧眼の視線でちらりと周囲の様子を伺う。
 二両立ての乗合馬車。メルファルネの乗る先頭馬車に同乗しているのは五人。
 一人はメルファルネの隣に座る、商人といった風情の肥えた中年の男。無精髭が見ていてどうにも煩わしく、その身に纏っている見た目豪華な色合いのローブからは何とも言えない香水の臭いがする。先程から対面の男と会話に夢中になっている。
 一人はその向こう側に座る厳つい中年の戦士。足元に置かれている年季の入った背負い袋と程良い長さの直剣、そして身に纏っているしっかりとした革鎧を見るに傭兵なのだろうか。この乗合馬車に乗り込んできた時に、失礼、と渋い声で一言発したのみで、それ以降は一言も喋らずに腕を組み、眠っているように瞳を閉じている。
 一人はメルファルネの対面に座る童顔の少年。歳はメルファルネと同じか少し上ぐらいだろう。向こう側の戦士と同じように背負い袋と程良い長さの直剣を足元に置き、その身には革鎧を着けているが、年季が入った戦士のものとは違って如何にも下ろし立ての新品という様子だ。本人も落ち着きのない様子で外を眺めたり、メルファルネの方を顔色を窺うように見たりときょろきょろしている。
 一人はその少年の隣に座る若い男。こちらも商人という風情で、年齢の割には年季の入った旅衣装に身を包んでいる。冴えない男ではあるが、清潔さには気を使っているのか妙な匂いはしなさそうであった。先程からずっと対面の、メルファルネの隣に座る商人と会話を続けている。内容はこの乗合馬車の到着先の街についてのことだ。
 最後の一人はその冴えない商人の隣、傭兵のような戦士の正面に座っている若い男。こちらも腕に覚えがあるのか、足元に背負い袋を置いている他、腰回りに大型のナイフを下げているのが見える。しかし身に付けているものはどこか軽いというか薄っぺらい印象があり、どうにもチンピラのような雰囲気を漂わせている。その視線は執拗にメルファルネを見つめている時があり、彼女からすれば不気味な印象であった。
「……ふう」
 もうひとつ息を吐いて、メルファルネはゆったりと背凭れに小さな背中を預けながら自分の格好を見る。
 無垢と虚無の女神、ルイス神に仕える者であることの証である純白の法衣。
 十五歳の誕生日のその日、故国ローライトから旅立って幾日か。こうして乗合馬車には幾度も乗ったが、今も向けられている興味と奇異が入り交じったような視線からはなかなか慣れることがない。やはり、この法衣が珍しいのだろうか。それとも――
「……」
 メルファルネは脳裏に浮かんできた発想を首を軽く振って打ち消す。
 ルイス神への信仰はこのアトラスティア大陸において神聖王国ローライトが最大勢力となっているのみで、非常に限定的だ。
 しかしローライトが正しくルイス神を信仰しているかと言えば、それは否だ。かの国のルイス神信仰は堕落と腐敗を重ねていて、ルイス神の似姿として無垢で可憐な幼女、少女を愛でる信仰と化している。
 メルファルネはかの国で育った正しいルイス神官として、そんな故国の信仰に嫌気が差していた。だからこうして出奔してきたというのに、他国でも同じような信仰と見られているのだろうかと思うことに強い抵抗があった。
 故に、そんなことはないはず、と考えを打ち消した。
「――そろそろ中継所だ。止まるよ」
 御者のそんな声に、メルファルネは思案の海から我に帰る。
 窓の向こうに見える空は薄らと朱色を帯びていた。


 中継所とは、乗合馬車の経路に設けられている簡易的な宿泊所だ。
 人族の天敵として蛮族が闊歩するこの世界では仮に魔法の灯りがあっても夜に徘徊することは危険であり、従って日が暮れる前にはそうした場所に泊まり、次の日の夜明けを待つ。
 哨戒などは客で持ち回りになる。それを見込んで傭兵や流れの戦士を安く乗せることも多い。
 メルファルネも当然というべきか哨戒に立った。ルイス神の印章が刻まれた鎧を法衣の上に身に纏い、メイスと盾を持って、中継所を護る簡易的な防壁の上に登り、近付いてくる蛮族や獣がいないかを警戒する。
 同席したのは同じ馬車の少年と冴えない商人の二人。少年はやはり革鎧を身に付け腰に直剣を提げており、商人は防具は見当たらないものの弓を持って矢筒を腰に提げていた。
「――ね、ねえ。神官さん?」
 その三人でそれなりに気を張った警戒を続けること数時間。不意にメルファルネはそんな自信の無さ気な声に呼び掛けられた。振り向いた先には、やはりというべきか少年の姿。
「あ、はい。何でしょうか?」
 振り向きつつ、メルファルネは歳相応の可愛らしい微笑みを浮かべる。半ば癖だった。
 それに気圧されたのか、少年は僅かに顔を赤くし、少しだけ視線を逸らして戻す。
「あ、え、いや、その、落ち着いてるなって思って」
「――ああ。落ち着いているように見えましたか?」
 少年の言葉に対し、くすりと笑って逆に問いかけるメルファルネ。
 疑問符を浮かべる少年の言葉を待たず、少し気恥ずかしそうに彼女は答える。
「これは気を張っているだけで。私もそれなりには緊張していますよ」
「そ、そうなんだ。蛮族や獣と戦ったこと、あるの?」
「はい。と言っても、小鬼や狼ぐらいのものですけれど」
 小鬼や狼――ゴブリンやウルフは人里を少し離れれば遭遇する、蛮族や獣の最先鋒と言っていい。
 脆弱ではあるが油断すれば怪我は免れない。戦う者としてはこれ一匹を一人で倒せて最低限の線だ。
 その様子を見るに、少年はまだどちらとも対峙したことがないのだろう。
「そうなんだ、凄いね」
「ありがとうございます」
「僕も、頑張らないと」
「何か目標が?」
「ん、いや、目標ってほどのものじゃないけど、冒険者になるつもりなんだ」
 少年が目を輝かせながら答える。
 冒険者。冒険する者、という名前に反し、その本質は何でも屋というか、トラブルシューターのようなものだ。
 勿論、未踏の遺跡などへ冒険に向かうこともあるが、そんなものが毎日のようにあるわけでもなく、加えて言うなら日銭を稼げるとも限らない。故に、その生活の殆どは困っている人々からの依頼を受けて解決に向かい、報酬を受け取るというものだ。
「冒険者、ですか」
「うん。神官さんは何処へ何をしに? 布教?」
「いえ、私は……」
 ふと答えに詰まるメルファルネ。布教活動ではないのは確かなのだが。
 故国に嫌気が差して、一人でもルイス神のために奮闘しようと出奔してきたものの、具体的に何をするのかは決めていなかった。行く先にルイス神の神殿があるとも限らない。かといって闇雲に行動するのも良くはない。路銀も豊富とは言えないのだから。
 自分の浅慮さを今更になって恥じつつも、冒険者は良いかもしれないとメルファルネは思う。
「……私も、冒険者になろうと思いまして。ひょっとしたらご一緒する機会があるかもしれませんね」
「あ、そうなんだ! 僕はカール。よろしくね!」
「メルファルネと申します。ルイスさまにお仕えする者です。こちらこそ宜しくお願い致しますね」
 まだ同じ街で冒険者をすると決まった訳ではないのに、少しばかり気の早いカールにメルファルネはくすりと笑いながら、お決まりのように応じた。


 数時間後に哨戒を交代して、メルファルネは宿泊小屋の側に設けられているテーブルにそっと腰を下ろした。
 既に日は半分ほど山の稜線の向こうに隠れ、朱色の光が辺りを満たしている。
 哨戒の疲れを解すようにひとつ息を吐いて肩の力を抜き、自身の荷物を探る。取り出したのは日持ちのする携帯食の包みだ。
「……恵みをお与え下さったことに感謝致します」
 豊穣の神に対する簡単な感謝の句を述べて、メルファルネは少し遅めの夕食を摂る。
 夕食と言っても携帯食だから内容は質素なものだ。燻製、干物、乾物。味よりも携帯性と保存性を考慮されている。
 メルファルネにとってこのような食事は故国を出てきて辛くなったもののひとつだ。年頃である彼女は勢いはともかくよく食べる方であったし、両親の元では質素ではあったがそれなりに新鮮で美味しい物を食べていた。そのどちらも叶えられないというのはなかなか辛いものがある。
 けれどこれもルイス神の信仰を正しく頑張るためだと自分に言い聞かせて、もそもそと食事を続ける。
 そんな彼女の元に現れたのは、一人の女性であった。
「こんにちは、ルイス神官さん」
「――あ、はい。こんにちは」
「ここ、いいかしら?」
「はい。どうぞ」
 少し色褪せた旅衣装を見に纏った、妙齢の女性。手には布包みを抱えている。
 二両目の馬車に乗っていた人だろうかとメルファルネは思いながら、女性が自分の対面に腰を下ろすのを見届ける。
「珍しいわね、ルイス神官さんがこんなところに」
「……少し、故国に疲れまして」
 一目でルイス神官だとメルファルネを見たのはここ数日間なかったことだった。女性は神職に縁のある人なのだろうと思いつつ、それならばと少し迷ってから疲れた笑顔と共にメルファルネは本音を吐く。
「ローライトかしら」
「はい」
「なるほどね。気持ちは分かるわ」
 どこか感慨を抱いている様子で女性は言い、包みを広げる。中身はメルファルネと似たような携帯食だ。ただ、出発前の街で手に入れたのか、拳大ほどの黄色く瑞々しい果実が保存食の中で目を惹く。
 そんなメルファルネの視線を感じたのか、女性は小さく微笑んで、二つある果実の片方をメルファルネの包みの上へと差し出した。
「あげるわ。干し果物だけじゃ物足りないでしょ?」
「あ、ありがとうございます」
「気にしないで。男ばっかりのむさ苦しさに辟易してたところだから、あなたみたいな可愛い子がいて良かったわ」
「……あ、ありがとうございます」
 少しばかり頬を赤くして、褒め言葉を素直に受け取るメルファルネ。それに微笑んで、妙齢の女性は自分も食事を始めた。
 メルファルネも手元の果実を手に取り、しばし見つめ。少し無作法であることに恥ずかしさを覚えつつも齧り付いた。
 果実は水気をたっぷりと含んでいて甘く、乾物ばかり食べていたメルファルネの喉をゆっくりと潤していった。


「ん……」
 ふと目を覚まし、メルファルネは毛布の中で小さく震えた。
 寒かったわけではない。生理的な衝動を覚えたからだ。
「……」
 カンテラの灯りだけが頼りとなる薄暗闇の中でそっと上体を起こし、寝惚け眼で周囲を確認する。
 時刻は既に真夜中に近い。殆どの同行者は眠りに就き、一部の哨戒担当の者だけが櫓や防壁の中から外を警戒している。
 お手洗いはどこだったろうかと思いながら身を起こし、静かに立ち上がる。神官服は着たままであったから、特に着替える必要はない。カンテラを手にし、そのまま女性用の部屋をそっと出る。
 やや冷たい夜の風に項を撫でられ、ふるりと身を震わせながらも暗闇の中へ視線を巡らせた。哨戒に立っているのは傭兵風の男と、チンピラのような男、そして夕食の時に出会った妙齢の女性。
 彼らに見つからないようにしながら、メルファルネはそっと宿泊小屋の近くに建てられた小さな個室に入る。
 少しだけ臭うその陰気な場所に入り、カンテラを然るべき場所に置くと、ふうと安堵の息を吐いた。
「んっ……」
 排泄の格好を取る前に、メルファルネはそっと神官服の裾をたくし上げ、自身の下着を外気に露出させる。
 ただ彼女の場合は下着と言うには、少々一般的ではなかった。
 ふわりとして嵩が大きく、細い腰回りを包むほどの余裕がある。質も布ではなく、どちらかというと紙に近い。
 そう。メルファルネが下着として身に付けているのは、紛れもなく紙おむつと呼ばれるものであった。
「……ん」
 自分がそれを着けていることを再認識して、頬を赤くしながらもいそいそとおむつを外しにかかるメルファルネ。
 着けているものがものなのだからそのまま漏らしてしまえばいいと思われるかもしれないが、彼女としては自力で手洗いにいけないわけでもなく、股が緩いわけでもないので、出来る限りそれは避けたかった。
 これはあくまでも長時間の野外活動――ちゃんとした手洗いにいけない時のためのものだからだ。
 抑えを外し、巨大な股当てのようなおむつの本体を取ると、少し蒸れた空気がそこから溢れる。無毛の割れ目が露出したのを見て、またひとつ吐息を吐き、ようやく排泄に向かう。
 用足しのためのそこはただの中継所だけあって、あまり整備されているとは言いがたい。跨ぎの下に巨大な便壷が設置されているだけの汲み取り式だ。ただ、それほど臭いがきつくないのが救いであった。これで鼻を突くほどであれば、それだけで彼女は用足しを躊躇っていたところだった。その行為の結末が暗澹たるものであることは火を見るより明らかであっても。
「ん、んっ」
 跨ぎに足を掛け、ゆっくりと腰を降ろす。
 裾が地面に着いてしまわないよう気をつけながら、そっと我慢を緩め、下腹の奥に溜まっているものを解き放った。
 しゃあああぁぁ、という水音と共に、濃黄色の飛沫が迸る。
「ふ、あ……」
 長時間我慢をする性質上、どうしても濃くなる自分の小水に恥ずかしさを覚えつつも、早々に出し切ってしまおうと下腹に力を込める。その甲斐あってかしばらくで飛沫は断続的になり、下腹が少し軽くなる。
 だが今度は、別の衝動がメルファルネに襲い掛かりつつあった。
 ごろ、とその細いお腹が鈍い悲鳴を上げる。
「あ、う……」
 下腹に力を入れた結果、それほどでもなかった便意まで催してしまったのだ。
 お腹の声に顔を赤くしながらも、誰かに見られていないか、とでも確認するかのようにきょろきょろと視線を左右に巡らせて、ちらと後ろを見て、手洗いの扉の古い板目しかないことを確認すると、メルファルネはもう一度下腹に力を込め始めた。
「ん、んっ……」
 お腹の中を排泄物が下ってくる感覚。
 早くしなくては、もしかしたら誰かが来てしまう可能性もある。自分が手洗いに入っていることは知られたくないと、並以上の羞恥心から排泄を急ぐ。幸い、便通は悪い方ではない。
 だが、その小さく可憐な菊門がみちりと開こうとしたまさにその瞬間、事件はやってきた。
「――敵襲!」
「――えっ!?」
 外から聞こえた大声と、それに続く鐘鳴りの音。反射的にメルファルネは括約筋を締め、排泄行為を中断する。
 扉の向こうが瞬く間に騒がしくなる。宿泊小屋の扉が乱暴に開け放たれる音と、連れ立って駆けていく複数の足音。
「っ……!」
 このままここに入っているわけには行かないと、慌てて立ち上がっておむつを着け直す。自分は戦える人材なのだから、すぐにでも行かなければならない。下腹に重く堆積し始めている便意は後回しにするしかなかった。
 誰も近くに居ない頃合いを見計らって手洗いを出て、自分が眠っていた場所に戻る。そして急いで鎧を着けてメイスと盾を引っ掴むと、急ぎ足で広場の方へ向かった。


 下腹に殺到してくる圧迫感を堪えながらもメルファルネが広場に到着すると、防壁の上から冴えない商人と見なかった顔の二人が必死に弓を手に矢を放っているのが見えた。
「――状況は!?」
 叫び問うと、冴えない商人がメルファルネに気付き、大声で返す。
「蛮族の襲撃隊だ! 傭兵の人を中心に前へ出てる! 神官さんも行ってやってくれ!」
「畏まりました!」
 返事を聞き、メルファルネは半開きの扉を抜けて防壁の向こう側へと抜ける。
 抜けた先では冴えない商人の言う通り、適度に散開した男達がそれぞれの獲物を手にゴブリンやレッドキャップ、ボガードといった蛮族の手勢とやり合っていた。数は向こうの方が多いが、こちらの方が実力は上でそれほど不利な状況ではなさそうだった。だが、油断は出来ない。
「遅れました、申し訳ありません!」
 言って、手近な男に加勢する。戦いに不慣れなのか、手頃な直剣を手にしているもののゴブリンと一進一退の攻防を繰り広げていた。それを横からメイスで一撃する。
「――っ!」
「***!」
 側面からの不意打ちに身体を捩り、ゴブリンも咄嗟に反撃してくる。粗末な木製の棍棒を盾で受け流し、そのまま払い退ける。バランスを崩したところにもう一度、頭へ鋭い一撃を入れた。それだけで十分すぎるほどにゴブリンは致命傷を受け、吹き飛んで微動だにしなくなる。
「あ、ありがとう、助かった」
「いえ……っ、それよりも、他を」
 ぎゅるり、と不平を漏らすように鳴った腹を抑えることもせず、メルファルネは次へ向かう。
 戦闘行動、取り分け攻撃と防御は身体に力を強く込めるせいで、便意を堪えている今の体調とは非常に相性が悪い。気遣えば多少は楽が出来そうだったが、蛮族との戦闘でそんなことは出来ないし、便意を堪えていることを他の人には絶対に知られたくなかった。
 だから何でもない風を装って、次の相手に向かう。
「ルイスさま、お力を……!」
 祈るは信奉する女神。思いを強く願うだけで、奇跡が発現する。
 ボガードとやり合っている傭兵風の男。彼の傷が淡い光に包まれ、みるみるうちに癒えていく。
「助かる!」
 言いながら、傭兵風の男は守りの態勢から一転。治癒の援護を受けられることに任せて、激しい攻撃を開始する。ボガードも負けじと反撃して少なくない傷を負わせるが、男は一時的に苦痛に眉を歪めるだけで、肝心の傷は後から後から塞がってしまう。もはや優劣は明らかだった。
「っ、は、うぅ……」
 しかし、動けば動くほど、祈りに精神を集中すればするほどに下腹の鈍痛は酷くなってくる。
 便意を和らげ、痛みを追い出すように呼吸を計りながら、それでもメルファルネは戦いの中を動き続けた。
 次に目指すは、カールと名乗ったあの少年のところ。
「――死なあ!」
 ボガードが叫び、カールに蛮刀を振りかざす。
 カールもよく応戦していたものの、初陣の相手としては荷が重い相手だ。
 一撃を盾で弾いたものの、返す刃でもう一撃がやって来る。腕力に任せた乱暴な攻撃。それを辛うじて剣で往なし、態勢を立て直す。その時にはボガードが次の一撃を繰り出さんとしている状態だ。反撃に出ることが出来ない。
「カールさんっ!」
 そこへ叫びと共にメルファルネが割って入る。最初の一撃を盾で受け止めたカールに続いて、次の一撃をメルファルネが受け止める。
 がん、という強い衝撃。身体が揺さぶられ、身体を支える足が僅かに後退する。
「――っ、はあっ!」
 何とか堪え切ったメルファルネは、蛮刀を盾で払い退ける。すかさず腕を引き戻し、次の一撃を繰り出そうとしたボガードを咄嗟にカールが盾で強く殴り付けた。たまらず態勢を崩したボガードへ、続いてメルファルネのメイスが襲う。
「っ、このメスガキがッ!」
 すんでのところでメイスを蛮刀で受け止め、力任せに払い退ける。そして一撃。メルファルネは盾で受け止めたものの、その衝撃は確実に彼女を追い詰めていた。
 ぐるり、と不吉に腹が鳴る。果たしてそれを聞きつけたのかは定かではなかったが、ボガードは咄嗟にメルファルネの腹を蹴飛ばしたのだ。
「あ、ぎっ――!」
 衝撃の半分ほどは鎧が打ち消したが、それでも十分だったと言える。メルファルネは肛門に殺到する便意に漏らすまいと全力で意識を注ぎ、膝を付いてしまった。それをボガードが見逃すはずもない。
「死に晒せぇ!」
「メルファルネさんっ!」
 二つの叫びが同時に聞こえて、メルファルネは辛うじて左手の盾を掲げた。
 衝撃が走る。押し負けそうになって咄嗟に力を込め、何とか押し返す。
 だが、それと同時にメルファルネの下腹は限界を迎えた。
「――あ、っ」
 声と共に、殺到していたものがむりゅりと外に飛び出した。
 そして一度堰を切ってしまえば、そこからは崩壊するしかない。
「あっ、あっ……!」
 むりゅむりゅぶりゅ、みちみちみちびち、と柔らかく熱いものがメルファルネの小さな尻とおむつの間に一瞬にして溢れた。
 苦痛が一瞬にして消え、代わりに堪え難い開放感と脱力が襲ってくる。その生理的な衝動に、メルファルネは無抵抗に身体を震わせた。
 やはり、それをボガードが見逃すはずはない。だが、追撃はしなかった。いや、出来なかった。
 メルファルネの異常を察知した妙齢の女性。彼女が咄嗟に放った魔法の雷によってボガードはその左胸に拳大の焼け焦げた貫通孔を作り、地面に倒れていたからだ。
「だ、大丈夫!?」
 心配の声と共にカールが駆け寄ってくる。そしてあの妙齢の女性も。
「あ、や、あっ、あっ……!」
 あまりのことに上手く声が出せず、メルファルネは来ないでほしいと嫌々をするように頭を振る。そんなことで伝わるわけでもなく、カールは更にメルファルネに歩み寄って、ふと彼女から漂う異臭と僅かな音に気が付いてしまった。
「え、あ……!?」
「はいはい少年、あっちに行ってなさい」
 妙齢の女性もメルファルネが酷い粗相をしたことに気付いたのか、カールをしっしっと手で追い払う。心配そうな顔をしながらも、カールは顔を真っ赤にしながら踵を返し、他の加勢へと向かっていった。
「立てる?」
「っ、ふ、えぇ……!」
 安堵からか、メルファルネは妙齢の女性に抱き着きながら童女のように泣き出した。
 我慢が強かったからか、メルファルネは未だにびちびちぶりぶりと汚物をひり出していた。神官服の下ではおむつが膨れ上がり、辛うじてその全てを受け止めきっていた。これが普通の下着であれば、一目で彼女が大便を漏らしたことが周囲に知れ渡っていただろう。
「泣かないで。誰にでもあることよ。ほら、行きましょう?」
 女性はメルファルネを優しく撫で、ゆっくりと立ち上がらせた。そのまま腕と腰に縋り付くようにさせたまま、ゆっくりと中継所の中へと戻っていく。まだ戦闘は終わってはいなかったが、このまま戦わせるのはあまりにも酷だと思ったからだろう。それに、既に大勢は決していた。
「――さ、早く後始末しちゃいましょう? 皆が戻ってくる前に」
「っ、う、うっ……」
 宿泊小屋の女性部屋に入り、女性はメルファルネにそう促す。
 メルファルネは羞恥心と粗相の気持ち悪さに天秤を揺らし、ややあって観念したようにのそのそと神官服の裾をたくし上げた。
 もこりと内側から歪に膨らんだおむつが露になり、汚物の臭気が一際強くなる。
 けれど女性はまるで意に介する風もなく、いいかしら、と一言断ってからメルファルネのおむつに手をかけた。
「っ、あ……」
 留め紐が外され、おむつが開かれる。
 一気に度合いを増す臭気と、ねちゃりと糸を引くかのような尻の感触。そして、むりゅびち、と尻穴が開いて更に緩いものをひり出す感触と、びちゃぼと、という鈍い水音。
「ご、ごめんなさっ…… ひっ、ううっ……!」
「気にしないで。誰でもこんなものよ」
 女性の目の前で更に便塊をひり出してしまったことで、メルファルネはあまりの羞恥に童女のように涙した。
 それでも女性の手つきは乱れない。多量の便塊を抱えているおむつを外し、床に零れた少なからぬモノを手掴みでおむつの中に戻し、どこからか取り出したハンカチで手を拭き、水袋を適当な器に開けて、メルファルネの茶色く汚れた尻と無毛の女性器を丁寧に拭っていく。
「これでいいかしらね。まだ出そう?」
「っ、ぐすっ…… は、い……」
「じゃあこっちに出しちゃいなさいな。私は向こうを向いておくから」
 女性は水を開けた器をメルファルネの股下へ差し出して、宣言通りに明後日の方向を向く。
 それを確認しつつ腰を下ろし、メルファルネはまだ腹の中に燻っている重いものをひり出し始めた。
「っ、あ、つっ……!」
 ぶりゅ、みちみち。ぶひ、ぶにゅ、ぶびり。しゃあああああぁぁぁ。
 擬音にすればそんな間抜け極まりない音。放屁混じりの排泄と、つい出てしまった小水の音。
 メルファルネは顔を真っ赤にして、とにかくこの瞬間が早く終わることを祈る。
「終わった?」
「は、い。 ……その」
「言わなくていいわよ。ハンカチとかはあなたにあげるから片付けちゃいなさいな。それとも私がする?」
「い、いえ、ありがとう、ございました」
 くすりと笑う女性に、メルファルネは大慌てで片付けを始める。
 茶色い軟便が堆積したおむつ。棒状の便塊が二つほど薄黄色の中に沈んだ水容器。べとりと茶色く汚れた白のハンカチ。どれも泣き出したくなるような羞恥の塊だ。どれひとつとして女性に処理を任せたくなくて、メルファルネは下半身に何も付けないまま、神官服の下に歳の割には幼い無毛の秘所を隠して行動を始めた。
 おむつはこんなところで捨てられないため、便塊だけを手洗いの穴の中に落として、本体は丸めて専用の麻袋の中に入れておくしかない。ハンカチや水容器の中の小水混じりの水も同様。再利用出来ないことはないが、心情的にはとても使えなかった。
 全てを終えたら、ようやく新しいおむつを付ける。
「……大変ね、恥ずかしい人は」
 神官服の裾をたくし上げ、もこりとした白いおむつを股に当てているメルファルネをちらと見て、女性が苦笑する。
 メルファルネは何も言えない。はっきり言い出せない自分が悪いことは自覚しているのだから。
「う、うぅ……」
「そんなに恥ずかしがることでもないわよ。恥ずかしげもなく垂れ流しにしてる人だっているし、そういう人に比べたら好感が持てる方だわ。誰だって催す時は催すのだから仕方ないことよ。 ――外、全部終わったみたいね」
 窓の向こうを見つつ、軽い笑みと共に言う女性。
「安全確認にだけ顔出してくるから、貴方はそのまま寝ていなさいな」
「お、お願いします。 ……あの、本当にありがとうございました」
「気にしないで」
 振り返らずに手だけを振ると、女性は外に出て、点呼を取っている皆の中に混じっていく。
 それらの声を耳にしながら、メルファルネは未だ冷めやらぬ羞恥を落ち着かせるように横になり、ごろりと寝転がった。


 翌日、メルファルネは再び馬車の中で揺られていた。
 居心地は格段に悪い。それというのも、対面のカールが意識的な視線を向けてくるからだった。
「……」
「……」
 互いに無言ではあるものの、視線はちらちらと応酬される。
 カールはメルファルネが粗相をしたことを知っている。そのことにメルファルネも気付いている。それだけに、カールの視線はメルファルネにとって突き刺さるような痛みを帯びていた。
 嫌悪されていませんように――そう思いつつも、一刻でも早くこの時間が終わることをメルファルネは願って止まなかった。付け加えるなら、冒険者として同じ街を拠点にすることがありませんように、とも。
 メルファルネのそんな希望は打ち砕かれ、しかもカールはメルファルネを嫌悪するどころか、密かに股間を膨らませていたのだが、それはまた別の話である。

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