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Fairy's Day -Nei-

「ううん……」
 私――ネイ・レイドラース・ケイルディウスは悩んだ末、一ページ分丸々の文章を消すことに決めた。
 指先に妖精炎魔法の赤い光を灯し、それでページに触れる。光は炎のようにページ全体に広がり、そこに書いた文字の全てを跡形もなく消していく。
「どうしようかなあ……」
 どうにもしっくり来ない。いや、今までの話の流れからすれば、ここで彼がこういう行動に出るのは間違いないはずなんだけど。
 ひとつ息を吐いて、もう一度、今まで書いてきた分を読み返しながら、事前に決めた大筋を確認する。
 妖精郷に住むごく普通の妖精のひとりが、森の中で行き倒れた人間の青年を助ける。
 青年は訳あって人間の街を追われた身であり、助けた妖精としばし共に暮らすことになる。
 最初は思い違いなどから喧嘩することもあったふたりだが、やがて絆が生まれ、それが愛情に変わる。
 身体で結ばれることは出来ないけれど、これから先も一緒に生きようと誓ったふたり。
 だがその矢先に、森に人間がいることを快く思わない妖精達が、青年を捕まえて――
「うーん……」
 ついついペンを指先で回しながら、私は考える。
 これは、大筋の方を修正した方がいいのかもしれない。
 しっくりこない原因のひとつに、私がこの人間の青年の性格を変えつつある、ということが挙げられるから。
 青年の当初の性格は、弱気で自己主張が薄い、というものだったはず。それが話が進む内に――書いている内に、弱気ではあるけれど芯は強く、いざというときには頼れる人間、という性格に変わり――変えつつある。
 何故そうなってしまったのかは、私自身が一番よく知っているわけなのだけども。
「……はあ」
 最近では弱気であることも止めてしまおうか、とも思う。
 書いていて興が乗ってこない、というのは致命的で、最終的には書けなくなることにも繋がる。
 それぐらいなら私が書いていて楽しい、興の乗ってくるものを書いてしまおう、とは思うのだけど――
「露骨すぎる、よね……」
 呟いて、私は本を閉じた。
 小さく伸びをして、またひとつ息を吐く。ふと見れば、窓の向こうの空はそれなりに明るくなっていた。
 時計を見る。都合七刻ほど、ずっと書いていたことになる。それを認識した途端、私は急激に喉の渇きを覚えた。
 椅子を降り、肩に護服を引っ掛けてから部屋を出る。
「ん?」
 廊下に出て、台所へと数歩進んだ途端、私の感覚をふわりと撫でるものがあった。
「……ミゥ?」
 やたらと辺りを漂う、覚えのある妖精炎の感覚に、私は思い当たる名前を呟き、脳裏に彼女の姿を思い浮かべながら台所へと近付いていく。
 何か魔法でも使っているのだろうかと思いながら、廊下の角を曲がり――
「――あっ、あ、あああああぁぁぁっ!」
「!?」
 その瞬間に聞こえてきた悲鳴のような声に、私は思わず足を止めた。
「っ、はぁ、はぁ、っあ!? あ、あっ、やっ、あっ!」
 断続的な、切羽詰った焦りのような――それでいて感極まった声。
 この声は、まさか――
 私はミゥの声に誘われるように、そっと台所を覗き込んで――その光景を目にした。
「あっ、あ、あっあっあっ、ああっ、やっ、はっ、ごしゅじっ、さまぁっ!」
 ご主人様と、ご主人様の大きな手に抱えられて宙に浮いているミゥ。
 ご主人様の腰から反り勃つ巨大なおちんちんが、ミゥの太股の間に飲み込まれ、ぐちぐち、と鈍い水音を立てていて。
 その激しい動きに合わせて、ミゥの地に着かない両足が抵抗虚しく揺れているのが、とても卑猥で。
「あ、う……」
 台所の中に響く、ミゥの嬌声と濃い妖精炎。
 その声色と妖精炎の波長から、ミゥが望んでいる行為であることは分かっているのだけど。
 ご主人様の手の中で良い様に弄ばれているかのようなミゥの姿に、私は視線を外すことが出来なかった。
「あっ、ひっ、あ、あ、っあ、あっ、ひう、あ、や、イく、イきまっ、あ、あああっ!」
 激しい声を上げて、ミゥの手足が張った後に力なく垂れる。それを不満とでも言うかのように、ご主人様が乱暴にミゥの身体を支えた。
「あうっ!?」
「ほら、ちゃんと股を締めないと落っこちるぞ」
「あっ、やっ、ふかっ、だめですぅっ、ああっ!?」
 ご主人様の手で胸を持ち上げられ、強制的に姿勢を戻されるミゥ。
 しかしその瞬間、ぐっ、とミゥの身体がご主人様のおちんちんをより飲み込んで、ミゥがまた凄まじい声を上げた。
「やっ、あっ、だめっ、だめっ、あっ、ひっ、やらっ、あ、ああっ、ひぃっ、あああぁっ!」
 まるで痛みに身悶えるかのように全身を震わせるミゥ。あの様子では、あそこをおちんちんに串刺しにされているのとそう変わらない。ミゥの苦しみと、それに倍するであろう快感を思うと、私のあそこも熱を持ってくる。
 いつの間にか、私はその視線をふたりから外さず、姿も隠したまま、片手を自分の熱く濡れ始めたあそこに押し当てていた。
「ほらほら、締めて締めて」
「ひっ、あうっ! あっ、はっ、ごしゅじっ、さまぁっ、ボク、もうっ」
 喘ぐミゥを更に追い立てるように、ミゥのお尻を平手でぱんぱんと叩くご主人様。その痛そうな音が台所に響く度、ミゥは嫌々をするように頭を振りお尻を振り、しかし喜色がありありと浮かぶ涙目で更に喘ぎを上げている。
 お尻を叩かれているのに、ミゥは気持ちがいいのだろうか。
 そんなはずはないと思うのに、ミゥのあの顔を見ているとそうとしか思えなくなってくる。
「あっ、あっ、あッ、ひっ、あ、いあっ、ボク、もう、もうっ、ごしゅ、さまぁ!」
 ご主人様に両手を引き上げられ、まるで罪人が鎖と手枷で拘束されているような体勢を取らされるミゥ。両足は宙に浮いたまま。ミゥを支えているのは、その股間に突き刺さっているご主人様のおちんちんのみ。
 どう見ても痛々しさしか覚えない、まるで拷問のような責め。
 でも、ミゥは――
「せーえきっ、せーえきを、ああっ、ボクのあそこ、せーえきで、いっぱいにしてくださいっ!」
 感極まった声でそう叫び、瞬間、ミゥを突き上げていたご主人様の動きが止まった。
「あっ、あああああぁぁぁっ……!」
 舌を突き出して、尾を引く声を上げると一緒にぶるぶるとミゥの身体が痙攣するかのように震える。同時に、ゆっくりと更に膨らんでいくミゥのお腹。
 ご主人様の精液が、ミゥのあそこに――子宮に注がれて、種付けを――孕まされようとしている。
 妖精なのに。まるで、人間同士の行為みたいに。
 私も、あんな風に――
「っ、あ……!」
 気付けば、私の股間は酷く濡れて、そこにある縦筋へ人差し指と中指の二本もを差し込んでいた。
 慌てて抜く。ぬちりと粘ついた水音がして、生暖かい感触が指先に残る。見れば、人差し指と中指の間で、私の体液がつぅ、と糸を引いていた。
「っ――!」
 頬が熱くなる感覚と共に、急に居たたまれなくなって、私は音を立てないようにその場から慌てて逃げ出し、自分の部屋で何かから隠れるようにベッドの中へと飛び込んだ。


「う……」
 妙な頭痛と共に、意識が覚醒する。
 無理やりに眠ったはずなのに、まるで眠った気がしなかった。
 その証拠とでも言うかのように、私の脳裏にはつい先程あったことのようにご主人様とミゥの激しい交わりが浮かんでいる。
 時刻は……もう正午前だというのに。
「ああ、もう……!」
 ぐりぐりと額を枕に押し付けて、忘れろ忘れろと私は自身の頭に命令する。
 けれど、こういう時に限って私の頭は忘れてはくれず、逆により鮮明に脳裏へと浮かび上がってくる。
「……はあ」
 ひとつ息を吐いて、部屋の片隅にある鏡に視線を向ける。
 身体が熱を持っているから予想はしていたが、私の顔はお酒を飲んだ時のように赤みが差していた。これでは皆の前に出て行くことすら出来ない。
 ……よっきゅうふまん、という奴なのだろうか。
 どちらかというと、ああいう乱暴な抱き方は苦手だ。気持ちいいのかも知れないけれど、それ以上に痛そうで、怖い。だからご主人様に抱いて頂く時は優しくして頂けるようお願いする。
 でも、少しだけ、本当に少しだけ、乱暴にされてみたいとも思う。あんなミゥの姿を――気持ち良さそうな姿を見ていると、身体の心が疼くようにそう思ってしまう。
 それに、ご主人様だって本当は、私にも乱暴したいのかもしれないし。それなら受け入れるべきだろうと思う。
「……う」
 つい、脳裏に浮かんだミゥのあられもない格好の上に、自分の顔を幻視してしまう。
 ふるふると頭を振って、そんな妄想を打ち払った。
 じっとしているからそんな変な思考が浮かぶのだと思い、私はベッドから起きる。私に言い付けられている仕事でもある、お風呂の掃除をして気を紛らわせよう。
 そうと決まれば行動する。部屋を出て、洗面所から浴室へ。
 前日のまま溜まりっぱなしになっているお湯を抜いて、大きなスポンジを手に掴み、空になった浴槽の中へ降りる。
 スポンジに洗剤を使って、後は隅々まで丁寧に磨く。人間の作ったものを使うのはあまり気に入らないけれど、仕方ない。水を使った浄化の妄想なんて私には上手く出来ないから。
「んっ、んっ、んっ…… ふう」
 ご主人様と一緒に私達全員が楽に入れるほどの浴槽は、私一人でやるには少し辛い。
 シゥやヅィ様なら上手く水を操って一瞬で済ませるのだろうけど、私はどうにも水を操るのが苦手だ。炎なら得意だけど、流石にこういうところのお掃除で炎を使うわけにはいかない。
 シゥは、炎も水も妖精炎魔法の上では似たようなものだ、なんて乱暴なことを言うのだけど、私が水を訓練しても全く操れる気がしない。適正がないのだろうか。水を操るのは重要な技能のひとつなのに。
「……は、ぁ」
 ひとつ溜息を吐いて、最近しばしば考えていることがまた頭に浮かぶ。
 戦闘ではシゥに劣り、魔法ではヅィ様に劣り、知識ではノアに劣り、家事では族長に劣り、話し相手としてはミゥに劣り。
 ――私は何か、ご主人様の役に立てているのだろうか。
 私が誇れるものなど歌しかないけれど、私が満足に歌えるのは幻影界の歌だけで、こちらにある人間の歌はまだご主人様に聞かせられる錬度に達していない。
 だから、どうしても考えてしまう。
 私は、皆と同じようにご主人様の寵愛を受けるに値する妖精だろうか、と。
 ご主人様は皆が好きだと、私のことも好きだと言ってくれるけど、誰にでも何にでも限界があるように、ご主人様が私達を愛するにも限度がある。
 それは例えば時間。ご主人様にもご主人様の時間があるから、私達を愛するために使って頂ける時間には限りがある。今、皆でご主人様に抱いて頂ける順番を決めているように。
 だから私が、何の役にも立てていない私がいなくなれば、その分ご主人様の時間が、皆の時間が増えるんじゃないかと。
「……はぁ」
 またひとつ息を吐く。
 気付けば手が止まっている。まだまだ洗うべき場所は残ってるのに、こんな調子じゃいけない。
 私は軽く頭を振って、黙々とお掃除に専念することにした。何かしている最中でもふとしたことで物思いに浸るのは私の悪い癖だ。
 とにかくお掃除のことだけを考える。
「ん……」
 何とか浴槽の全てを洗い終わった私は、沢山の泡をシャワーで流していく。
 このシャワーというのは何度か使ったけれど、まるで温かい雨で身体を洗っているようで気持ちがいい。人間にもこういうことを考える人がいるのだと感心する。
「んー……」
 砂が流れるような音と、勢い良く噴き出す統一された飛沫を見ていると、ふと衝動が湧き起こる。
 ついでに私の身体も洗ってしまおうかな、と。
 ご主人様にはいつでも使っていいと言われているし、気分転換には丁度いい。
「よし」
 ひとり頷いて、私は洗面所に戻ると手早く護服と下着を脱いで、裸になって浴室へ戻った。
 シャワーを手に取って、ひとつ深呼吸をしてから肩から身体に掛け流す。
「は、ふ……」
 身体の表面をお湯が流れていくのが気持ちいい。一緒に日々の汚れが落ちていくようで、何とも爽快な気分になる。
 お風呂と違って全身が温まるわけではないけれど、熱いお湯を被らずにいる部分との温度差もまた気持ちがいい。
 至福の時間だ。
「ん、ふん、ふん、ふん……」
 気持ちよさと一緒に湧き出てきた一節に鼻歌を乗せる。
 この調子は何だったろうか。亜神ケードリ作「終わりなきこの美しき世界」の一節か。
 災厄が世界を覆い、文明が炎と氷に焼かれて押し流され、深き大地の底から古き闇が滲み出したとしても、世界は必ず救われて、また季節を巡らせて、そして文明は蘇る。
 永遠の時間を生きる亜神。その中でも最も古い時代から存在するケードリだからこその歌だ。
 私もいつかこんな素晴らしい歌を作れるようになるのだろうか。
「ん……」
 妖精炎を呼び起こす。いつも慣れ親しんだ妄想――小さな炎を想起して、私の身体を這わせる。
 私の炎に触れて瞬時に蒸発していくお湯の音を耳にしながら、そうやって私は身体を洗っていく。人間のように洗剤などは必要としない。
「ん、ん…… ん?」
 と、ふと視線を向けた先、白い円筒形の洗剤の容器の影にある、絡み合った細い糸のようなものを私の意識は捉えた。
 絡み合った片方は、綺麗な淡い紫色。もう片方は、これも綺麗な黒色。紫色の方が極端に長い。
「う……」
 その二本が何なのかを理解した途端、私の頭にまた熱が差してきた。
 これは――ヅィ様とご主人様の髪の毛だ。
 それも落ちていた場所――水の流れの届かない、少し高い位置――からして、それぞれ別に入った後で抜け落ち、絡み合ったのではない。恐らくは、ヅィ様とご主人様が一緒に入って、そこでヅィ様が自分の髪弄りの最中に、ご主人様の髪と絡め合わせて、わざとこんなところに置いておいたのだろう。あの方ならやりかねない。
 くふ、という呼気を伴なう意地の悪い笑みを浮かべた、裸で自分の髪を弄るヅィ様が脳裏に浮かぶ。そしてその背後、ヅィ様を抱いて一緒に湯浴みをするご主人様の姿も。
「ああ、もう……!」
 折角、気分が上向きになってきたところだったのに。
 相変わらずこういうことが得意なヅィ様に幾分の恨みを送りつつ、すぐさまこんな思考に至る自分が恥ずかしくて、浴室の壁にごちんと額を打ち付ける。
 早朝だってそうだ。すぐに立ち去れば良かったのに、最後まで見てしまって――
「うう……」
 また身体に込み上げてきた熱を誤魔化すために、シャワーを頭から被る。
 けれども、熱が消えるにはまだまだ時間が必要そうだった。


 吸って、吐いて、深呼吸。
 そうして私はいつもの日課を始める。
 今日の選曲は――オーガの吟遊詩人グラルル・ガモスの代表作「炎のように」だ。
 炎のような生き様を誓った戦士を謡った、力強い讃歌。それを彼のために色々な意味を込めて歌う。
 およそ十五分。三回の繰り返しを経て声を収めた私の頭に、尊大な声が響いた。
『今日もよい歌声だった。感謝するぞ、小さき炎の愛し子よ』
「ありがとうございます」
 背を折って一礼したのは、私の妖精武器である「血歌の盟約」に向けて。
 核となった結晶の繋がる先、世界という壁を隔てたその向こうには、これを作った炎の妖精竜アジルがいる。
 彼の姿を思い出しながら、私は血歌の盟約を手に取った。私専用に作られただけあって、しばらく振り回すことがなくてもとてもよく手に馴染む。
『時に。炎の愛し子よ』
「はい?」
 いつもならこれで終わるはずの日課に、不意にアジルが言葉を挟んだ。
 思わず生返事を返した私に、彼は少し唸るような声を出して、
『歌は良かったのだが、それに付随してあまり良くはない思念の翳りを感じる。また何かあったのか?』
「あ、いえ……」
 鋭い質問に、私は思わず言葉を濁した。
 勿論、それを彼が聞き逃すわけもなく、ふむ、と頷きがひとつ返ってくる。
『炎の愛し子よ。汝は己の悪い癖を自覚しているだろう?』
「はい……」
『ならば同じ定命のものとして助言しよう。何事も急くでない。己が思考に浸り過ぎるな。生き急ぐ必要は何処にもないのだからな』
「で、でも……」
『自身では分からぬやも知れぬが、定命のものというのはその生命と同じくしてそう簡単に変わらぬ、変えられぬものだ。特に、己ひとりではな。己を変えたいと願うならば、時には適切な他者を頼ることが肝要となる。分かるな? 炎の愛し子よ』
 幾千年を孤独に生きたというアジルだからこその、重みのある言葉。
 それを受け止めて、私は小さく頷く。
『我は今、汝の元に行けぬが故にその相手にはなれぬ。だが、今の汝には我だけでなく、より適切な者達がいるだろう? その者達を頼るべきだ』
「……ありがとうございます」
『よい。では、また後日に素晴らしき歌声を聴かせてくれ』
「はい」
 頭に響く声が消え、確かにあった繋がりが薄くなっていくのを感じる。
 それを確認して、私は血歌の盟約を手元から消した。
「頼ること、かぁ……」
 アジルに言われた言葉と一緒に、脳裏に色々な顔が浮かぶ。
 真剣に私を見つめるピアの顔。空へと視線を逸らしながら薄い笑みを浮かべるシゥの顔。眠そうにしながらも微笑むミゥの顔。意地の悪い笑みで私を見るヅィの顔。無表情に頷きを返すノアの顔。
 そして、優しく私を見つめるご主人様の顔。
「……正直に言っちゃえ、ってことなのかな」
 自分で口走る。脳裏には同意する自分と、真っ赤になって否定する自分のふたりがいる。
 その両方を意識しつつ、私は護服と下着を脱いで片付け、代わりに簡素服を羽織り、楽な格好でベッドに寝転がった。
 もう、今日するべきことは特にない。
 肉体の疲労はなかったけれど、精神的な疲れに身を任せ、私はうたた寝に入ろうと試みる。
「ん……」
 けれど、どうしても上手くいかない。
 身体の芯に残った熱が邪魔をして、それが寝に入ろうとする私の意識をざわざわと撫でてくる。
 熱の原因は分かっている。
 今朝に見た、ご主人様とミゥの激しい情交。
 その後の不埒な妄想。
 浴室でのご主人様とヅィ様の睦み合いの跡。
 そして最後に、それらを振り切ろうと歌ったことから来る精神の高揚。
 それらの残滓が重なり合って、私の心の奥底に燻っている。
 そして分かっている。それを鎮める、効果的な手段も。
「ん、あ……」
 はだけた簡易服の前から両手を入れて、私は自身の太股に触れて、そこから根元へと辿る。
 柔らかい肉の間にある縦筋に触れると、そこはやはり雫を零さない程度に濡れていた。
「あ、う……」
 粘性のある体液を指先に絡めながら、気持ちいい場所を探っていく。
 そうすると、さわさわと背筋を撫でるような快感が得られる。
 私はこの感覚がとても好きだった。
「ん、んん……!」
 縦筋の中へつぷりと指先を沈める。
 その中にある柔肉を掻き分けて、ふたつの小さい穴を探り当てる。
 その穴の縁を撫でるように触ると、痺れるような快感が全身に広がっていく。
「あ、う、いっ、あっ……!」
 勝手に喉から溢れる声にならない声を恥ずかしいと思いつつも、私の指は止まらない。
 一度気持ちよさを感じると、どうしてもその先が欲しくなってしまう。
 小さな快感を感じたら、大きな快感を。
 大きな快感を感じたら、あの焼かれるような絶頂を。
「っ、あ、は、やあっ……!」
 下の穴、おちんちんを入れる穴に自身の人差し指を浅く挿入しながら思う。
 前は、私はここまで貪欲ではなかったと思う。
 よく覚えてはいないけれど、縦筋の辺りを撫で回して、敏感なところを重点的に触れるのがせいぜいだったと思う。
 けれど、今はもう、おちんちんが入る穴に指先を挿入して、まるであの行為のように前後させないと気が済まない。
 そう、あの行為のように――
「あ、はっ、ご主人、さま……!」
 閉じた瞼の裏。暗いそこに大きな身体の影が像を結ぶ。
 誰なのかは特に考えるまでもない。
 私に、私達に、数百年を生きてきても知らなかった色々なことを教えてくれる人。
 私の大好きな、私のご主人様。
「っ、あっ、あ、ごしゅじっ、さまぁ、もっと……!」
 ご主人様の指が、私のあそこに伸びる。
 その指先はまるで魔法のようで、触られたところから止め処なく快感が溢れてくる。
 胸。脇。太股。お尻。耳。翅。そしてあそこ。
 触れられる度に全身が震え、たまらず声を上げてしまう。
 激しいけれど、まるで私が楽器になったようでとても好きだ。なにより気持ちいい。
「いっ、あ、ゆびっ、気持ちいいよぅ、ご主人さま、ゆう、さま、もっと」
 本当にご主人様が目の前にいたならば、決して上げられない甘い声でおねだりをする。
 こうすることで恥ずかしいという感情の枷を外し、快感に没頭することができた。
 私は自分で、こんな恥ずかしいことをしているんじゃない。ご主人様がしているから、受け入れられる。
 そう思えば、どんなことでも自分でやれる気がした。
「あっ、ひっ、ああっ、ゆびっ、あ、あっ、いい、いいよぅ、ゆび、もっとぉ」
 気付けば、私のそこは酷く濡れていて、挿入している指は三本にも及んでいた。
 足は大きく開き、まるでご主人様を受け入れる時の格好。夢中になっていたとはいえ、知らずそんな体勢になっていたことに顔から火が出そうになる。
 でも、もう止まらない。
「あっ、あっ、あ、ああっ、あっあ、ああっ……! ごしゅじっ、さまっ、お、おちんちん、おちんちんくださいっ! わたしのだいじなところにっ、おちんちんいれてくださいぃっ!」」
 心のままに叫び、あの太くて逞しいものを私のあそこにおねだりする。
 痛烈な後悔と恥ずかしさが押し寄せる。でも、それ以上に快感が強い。
 一度こうなってしまえば、後はもう全部一緒だ。何にも縛られることなく、私はベッドの上でひとり快感を貪った。
 私の妄想の中で、ご主人様がその凶悪でありながらどこか可愛げのあるものを取り出して、私の濡れそぼったあそこに押し当ててくる。
 それに応じてより足を開いた私を、ご主人様は、良い子だ、と言って頭を撫でてくれる。
 そして、そして、一息にずぷりと私のお腹の一番奥にまで、おちんちんを――
「――あ、あああああぁぁぁっ!」
 その瞬間、私は根元まで咥え込んだ自分の三本の指をぎちぎちと締め付けながら、絶頂に達した。
 頭の中が焼かれるような感覚に、思わず絶叫を上げる。
 勝手に跳ねる身体。その動きの中で衝動のままにあそこの中をかき回し、間髪入れずに次の絶頂を味わう。
「あっ、ああっ――!」
 止めない。止めれない。
 これ以上の快感を知ってしまったから。最初の絶頂なんてほんの序の口だと知ってしまったから。
「いいっ、いいのっ、おちんちん、おちんちんすきっ、ゆうさまの、おちんちんいいのっ!」
 身体の奥底を突き上げる、あの激しい行為を必死に思い出しながら。
「あっ、あっ、あっあっ、あ、あああぁぁぁ!」
 私は自身が気絶するまで、ひとりでその恥ずかしい行為に没頭した。


「うう……」
 目覚めた時には既に夜。
 酷い惨状になっていた股間を濡れティッシュで拭き取りながら、私は顔から火が噴き出るような思いでいた。
 勢いに乗っていたとはいえ、なんであんなことを言ってしまったんだろう、と。
 自分の喘ぎ声がまだ耳の中に鮮明に残っているようで、出来るなら過去に戻って自分の顔を引っ叩きたい気分だった。
 こんなだから、ご主人様に抱いて頂いた後に意地悪く笑われてしまうのだ。
「私の馬鹿……」
 自分でそんなことを言っている間に、悩みを正直に言ってしまおうか、という考えは塵と消えていた。
 あんなことを言ってしまう自分だ。何を口走ってしまうか分かったものじゃない。
 変な子だってご主人様に思われたら、今の私はもう生きてはいけないだろう。
 永遠に一緒にいると誓ったのだから、それだけは。
「……ご主人様」
 時計を見る。もうご主人様は帰ってきているはずだった。
 ご主人様の顔を見ておきたいという衝動に駆られて、私はいそいそと自分の部屋を出た。
 

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いじらしいなぁ
俺の中で、ネイ株が急上昇したわ
ピア、シゥ、ノアが好ましいと書くと性癖がバレそうだがw
その中にネイが参戦しそうな気配w
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