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Fairy's Day -Miu-

※警告! この話には「浣腸」の要素が強く入ります。(汚物描写はほぼありません)
 苦手な方は「あー無理だ」と思った時点で閲覧をお控え下さい。








「ん、んん……」
 ふと覚醒する。
 閉じた瞼の向こうから強い刺激を感じる。方向からして、何故か開いた窓から光が差し込んできて、それで目が覚めたみたいです。
「起きろ。もう朝だぞ」
 瞼を開く。暗い視界の外から聞き慣れた声がする。そちらにまだぼんやりとした視線を向けると、強い青色の妖精炎が薄らと見えた。恐らくはきっと、シゥのもの。
「ふあ、あぁ……」
 横になったまま、大きな欠伸をひとつ。
 何故シゥがこんなに朝早くからここにいるのかなと思いつつ――思い出しました。昨日の晩、お酒を飲みながらお話しをしていて、そのまま一緒に寝てしまったのでした。
 ご主人様の生活ペースに合わせるようになってからというもの、身体が数百年前を思い出したかのごとく、夜になれば睡眠を訴えるようになったことは実を言うと喜ばしいことです。妖精の中には時間の無駄と言う子も多いですが、ボクは寝るのは大好きなので。
 シゥはどうなんでしょうか。
「シゥは寝るのは好きですかー?」
「なんだよ突然」
 聞いてみると、少しばかり憮然とした声が返って来つつも、
「嫌いじゃないぜ。見張りの時もたまに寝てたしな」
 なんて返事が。弾むような声の調子からしてお嬢様時代から結構好きだったんでしょう。
 お嬢様時代。私はよくは知りませんが、ヅィによればその頃のシゥは今よりも可愛らしかったそうです。シゥの護服じゃない格好を一回は見てみたいものです。踊装束とかも一着ぐらいは持っているはずなんですが。
 ピアが着飾るための服を作ってくれているそうなので、それに期待しましょう。ご主人様の前となれば、シゥも着飾らないわけがありませんし。
 そう思考を纏めつつ、ボクはひとまずベッドから上体を起こしました。
「ふ、ぁ……」
 ひとつ欠伸をして、それから暗い視界の中に眼を意識します。
 妖精炎が身体を走る感覚があって、その直後に視界を光が満たします。眩しいばかりの光が落ち着けば、そこはもうボクの部屋です。
 予想通り、シゥの姿は部屋中央のテーブルの前。昨日飲み散らかしたままのお酒の瓶を片付けているみたいです。
 ボクはそれを横目に、ベッドから降りて部屋の衣装棚の前へ。衣装棚と言っても、中に掛かっているのは護服、礼服、簡素服と白衣の四着だけなんですけども。後は全く同じ形の下着類が数点ずつ。
 今日はご主人様の護衛もないので、簡素服にしておきましょう。
 そう判断して、ボクは一番右に掛かっている緑一色の簡素服を手に取り――ふと止めた。
 そう言えば、今日はやろうとしていた実験があって、その為には護服の方が適切なのでした。
 簡素服を戻して、護服を手に取る。簡素服と違って護服はずしりと重い感触があるけれど、妖精炎を通せば木の葉のように軽くなります。
 護服をひょいと羽織る。下着は……今は別にいいでしょうか。外行きの用事はありませんし。
 最も、今日はご主人様にボクが抱いて貰える日なので、その前には着けておかないといけませんけど。
 ご主人様に抱いて貰える日。ご主人様。ご主人様。ふふ。ご主人様のことを考えると、勝手に笑みが漏れてしまいます。
 ――今日は楽しく過ごせそうです。
「何をひとりで笑ってんだ」
 ボクの背後で、お酒の瓶やビールの缶を片付け終わったシゥが、怪訝な視線でこっちを見ています。
 シゥの番は確か明日なんですよね。シゥの番までが明日明後日に差し掛かっている時にご主人様に抱いて貰えるお話しをするとシゥは非常に不機嫌になるので、ここは誤魔化しておきましょう。
「ふふ、何でもありませんよー。ちょっとお水取ってきます」
「ん。俺の分も頼む」
「はいー」
 零れる笑みを抑えながら、ボクは一度部屋を出ます。
 目指すは台所。長くて大きい廊下を歩いて行くのは少しだけ大変です。流石に帝都の王城ほどじゃありませんが。床も木製なので、そこまで冷たくもありませんし。
 背中の翅で飛んで行ければ早いですけど、ご主人様の前でやたらと妖精炎魔法を使うのは良くないということで自重しています。
 台所が近くなると、誰かがいるのが分かりました。誰かと言っても、気配ですぐに分かってしまうのですが。
 ボクは笑みを一杯に、台所へ入ると同時に目の前の巨体へと跳び着きました。
「ご主人様、おはようございますー」
「――うおっと!?」
 ご主人様は反射的にボクの身体を受け止めて、狙い通りにボクはしっかりとご主人様の胸の中へ収まりました。
 大きな手と腕と広い胸がぎゅうっとボクの身体を包み込んでくれます。ご主人様の身体はいつものように暖かく、いい匂いがして、たまらずボクも一杯にぎゅうっと抱き着き返しました。
 とく、とく、とく、とボクの身体にまで伝わってくるご主人様の鼓動の音が耳に心地よいです。
「ふふー」
「こんな朝早くから元気だな、ミゥは」
 そう言って、ご主人様はその大きな手でボクの頭を撫でてくれます。
 シゥがたまにやってくるような、少しばかり乱暴なものとは違います。髪が乱れない、ぎゅっと包み込むような撫で方です。気を使ってくれているのだと思います。
 それにしても、ご主人様がいつも起きてくる時間よりもだいぶ早い気がします。
 今はまだ朝焼けが見れるぐらいの時間のはずで、ご主人様が起きてくるのは今からだいたい二刻後ぐらいの時間なのですが。
「ご主人様こそ、今日はちょっとお早いですねー?」
「ああ。ちょっと夏美さんと出かける用事があって」
「そーなんですかー」
「夕方頃には帰ってくる。それまで留守を頼むぞ」
「はいー」
 返事は笑顔でお返ししますが、実を言えば並々ならぬ残念さです。
 今日はボクが抱いて貰える日ということで、できるだけご主人様と一緒にいる予定だったのですが。
 それに一緒に出かけるのは夏美さん。それを聞くと、ボクの頭の中に黒い澱みのような、よく分からないもやもやが漂って、それなりに嫌な気分になります。夏美さんのことは嫌いじゃないはずなんですけど。
「それじゃあご主人様、帰ってきたら一杯抱いて下さいねー?」
 せめて出かけている間もボクのことを考えていて貰えるように、前もって宣言しておきます。
 一緒に出かけても、ボクは大抵消えていないといけないので、あまり意味がありません。ご主人様からボクが見えていることが一番大事なのです。
「そう、だな。じゃあ今日はミゥの番だ」
「ふふ、はぁい」
 頭を撫でながらそう言ってくれるご主人様。前もって他の子とは取り決めているので、別にご主人様がそう決めなくても、ご主人様さえ良ければボクだけが抱いて貰えることは決定事項なんですけど、それでもご主人様の口からそう言われるのは特別です。
 ご主人様が帰ってくるのが、今から待ち遠しい――
「で、こんな格好してるのも、誘うためなのか?」
 と、期待に胸を膨らませていると、ご主人様は突然意地の悪い笑みを浮かべて、ボクの護服の前から胸とあそこに手を伸ばしてきました。
 そう言えば護服は羽織っただけですから、開いた前から胸とお腹とあそこをずっとご主人様に見せたままになっていたようです。
「あ、これはですね――あうっ」
 ちゃんと着てないだけで、と言おうとした言葉が、身体に走った気持ちよさで途切れました。
 視線を向けると、ご主人様の大きな手と指が、ボクの胸の天辺とあそこの縦筋を撫でています。
「っ、あ、やう、ちゃんと、着てなっ、ひうっ!」
 なんとか返事の続きを言おうとするも、ご主人様の指から次々とボクの身体に流し込まれてくる気持ちよさに、喉が言うことを聞きません。
 言葉にならない声だけが、次々とボクの口から零れます。
「やらしい子だ、ミゥは」
「っああうっ!?」
 意地悪な笑みと一緒にご主人様がそう言った瞬間、ボクのあそこの中に太いものが入ってきました。
 身体の中を内から広げるような圧迫感と一緒に、背中をびりびりと気持ちよさが走ります。
「あう、ご主人様、そんな、いきなり……」
 ひとつ息を吐いて、ボクは自分のあそこがご主人様の人差し指を半分も咥えている状態を見て、あまり意識しないように視線を逸らしました。
 意識しているとどうしてもあそこに力が入って、気持ちよさで絶え間なく変な声が出てしまいそうになるからです。
 おちんちんに比べるとその気持ちよさは緩やかですが、それでも物凄く気持ちいいことには違いありません。
「嫌?」
「そんなことは、あう、ありません、けど、あっ、あ」
 笑顔でそんなことを聞いてくるご主人様はちょっと意地悪です。
 ご主人様の指がボクの中で少しづつ動くたび、あそこから溢れ始めているボクの体液の水音と、喉から零れる変な声が頭に響きます。
 どちらもボク自身が発している音なのに、聞いているとどんどん身体が熱くなって、意識が朦朧としてきます。
「もうこんなに濡らして。仕方ないな」
「は、あっ、ご主人、様ぁ……」
 そして最後には、どうしようもなく、ご主人様のおちんちんが欲しくて欲しくてたまらなくなるんです。
「欲しい?」
 浅く荒い息を吐きながらご主人様の黒銀石のような綺麗な眼を見つめていると、ご主人様はそう聞いてきました。
 ボクは衝動のままに、首を縦に振ります。
「ご主人様の、おっきくて太いおちんちんで、ボクを犯して下さい……!」
 おちんちんを入れて貰える。そう思った時には、そんな言葉が勝手に口から飛び出していました。
 それを聞いたご主人様は、苦笑いをしながらボクの抱え方を変えていきます。背中から抱えてボクの胸を弄っていた手を胸の前へ。あそこから抜いた指の手をお腹の下の方へ。
「あ、う」
 最後にボクをひっくり返して、ボクの両手と両足は宙に浮く形になってしまいました。ご主人様の両手にぶら下がっている格好で、ひどく不安定でありながらご主人様の手のみによって支えられているという安心があります。
「じゃあ、入れるぞ」
 宣言とほぼ同時にボクの護服の裾がたくし上げられ、あそこに熱くて大きいものが宛てがわれる感触がありました。
 ボクの二の腕よりも少し太いぐらいの大きさ。そんなものがあそこに入ろうとする瞬間は今でもまだ身体に緊張が走ります。
 でもそれ以上に、あの目の前が真っ白になる気持ちよさが待ち遠しくて。
「っや、ご主人様、早くうっ……!」
 宛てがわれたままなかなか入ってこないおちんちんがもどかしくて、ボクは何とか入れようと腰を動かします。
 けれど、手も足も宙に浮いたままではどうにもならず、お尻を振るだけに終わってしまいます。
 そんな滑稽な動きしかできないボクを、ご主人様は、くっ、と意地悪そうな笑みの声を漏らして、
「あっ、あ、あああああぁぁぁっ!」
 ずんっ、と一突きでボクの一番奥までおちんちんを入れてくれました。
 ご主人様のおちんちんの熱がボクのお腹の中を焼く感覚。内側から壊されそうになる圧迫と衝撃。あそこを中心に走るびりびりとした痺れ。
 その全部が頭にぎゅうっと集まって、ぱっと弾けると同時に、ボクは軽く失神しました。
 ご主人様から教えて貰った「イく」という感覚がボクの全身を支配し、思わず声を上げながら宙に浮いた手足をぴんと張り詰めさせ、直後に脱力します。
「っ、はぁ、はぁ、っあ!? あ、あっ、やっ、あっ!」
 お腹の中にある大きな存在感によって軽い失神からすぐに回復したボクは、空気を求めて浅い息を吐いた瞬間、ずんと突かれてまた声を上げました。
「あっ、あ、あっあっあっ、ああっ、やっ、はっ、ごしゅじっ、さまぁっ!」
 ぬちりと抜かれ、ずちりと突かれ。ご主人様が少しでも腰を動かすたび、ボクのお腹の中が滅茶苦茶になりそうなぐらいにかき回されます。
 抜ける時は内臓が引きずり出されそうになり。入れられる時は内臓が押しつぶされそうになり。
 鈍痛と一緒に襲ってくるびりびりとした気持ちよさと刺し貫くような気持ちよさが、ボクの頭を使い物にならなくするかのように焼いていきます。
 まともに物を考えることのできない頭で、ただただ衝動のままに声を上げる。
 これほど気持ちいいことを、ご主人様としている。それを想うと、ボクの胸の中が暖かいモノで満たされていきます。
「あっ、ひっ、あ、あ、っあ、あっ、ひう、あ、や、イく、イきまっ、あ、あああっ!」
 また痺れが背中を駆け上がって頭を焼き、視界が白く染まりました。二回目の「イく」です。
 ぴんと手足を張り詰めらせて、直後に脱力して。浅く荒い息を吐くボクを、ご主人様が少し乱暴に、ぐい、と持ち上げます。
「あうっ!?」
「ほら、ちゃんと股を締めないと落っこちるぞ」
「あっ、やっ、ふかっ、だめですぅっ、ああっ!?」
 ボクは胸を持ち上げられて、お腹の支えを外されてしまいました。
 こうなるとボクの全体重のほとんどを支えているのはあそこに入っているご主人様のおちんちんだけになって、あそこの一番奥へと今までにないぐらいにおちんちんの先端が深く突き刺さってきます。
「やっ、あっ、だめっ、だめっ、あっ、ひっ、やらっ、あ、ああっ、ひぃっ、あああぁっ!」
 手も足も宙に浮いていますから、おちんちんに貫かれたまま身悶えることしかできないボク。そうこうしている間にまた頭が白く染まり、三回目の「イく」が訪れました。
 イけばイくほど、イったときの気持ちよさは大きくなっていきます。それと一緒に頭を焼く熱も増して、どんどんとまともに頭が働かなくなっていきます。
「ほらほら、締めて締めて」
「ひっ、あうっ! あっ、はっ、ごしゅじっ、さまぁっ、ボク、もうっ」
 ぱちんぺちんとボクのお尻を叩いてご主人様が催促してきます。痛みはほとんどないけれど、音と衝撃だけは大きいという、とても手馴れた叩き方。少なくとも一月二月では身に付かないそんな熟練の技で追い立てられて、ボクは言われるままに、丸太を挟み込んでいるような感覚のある太股を精一杯に締めます。
 それでも不安定なことには変わりありません。いつの間にか両手はご主人様に引き上げられて頭の上。両足はまだ宙に浮いたまま。あそこに突き刺さったご主人様のおちんちんが今のボクの全てでした。
「あっ、あっ、あッ、ひっ、あ、いあっ、ボク、もう、もうっ、ごしゅ、さまぁ!」
 四回、五回、六回、七回。一回の「イく」が次の「イく」を呼び、もう間髪入れずに白く明滅する視界の中で、ボクはご主人様にお願いします。
「せーえきっ、せーえきを、ああっ、ボクのあそこ、せーえきで、いっぱいにしてくださいっ!」
 頭の中に浮かんだ言葉を勢いのまま叫び、それにご主人様が何かを応えた気がして、瞬間、ボクが最も待ち侘びていた時間がやってきました。
 びゅくり、どくり、どくり。そんな感じの、身体の中で大事な血管が破裂したような感覚。
 それと同時にやってくる、お腹の中に圧迫感と一緒に広がる灼熱。
「あっ、あああああぁぁぁっ……!」
 ご主人様の精液が、ボクの子宮を膨らませるほど一杯に満たしている。
 それを認識して、ボクは尾を引く声を上げながら強くイきました。


「っ、はぁ、はぁ、っ、ああ……」
「大丈夫か?」
「っは、はい、へーき、です……」
 ご主人様が腰の位置を下げてくれて、ようやくボクの足は床に接地しました。
 心配そうなご主人様の声に応えながら、少し膨らんだお腹を撫でつつ息を整えます。
「は、ぁ……」
 少しだけ強めにお腹を撫でると、入りっぱなしのご主人様のおちんちんの存在感がそこに強く感じられて、ボクは思わず吐息を漏らしました。
「抜くぞ」
「っ、あうっ」
 そう言ってご主人様はすぐにボクの中からおちんちんを抜いてしまいました。じゅぷり、という粘着質な水音と一緒に、何か大事なものをなくしてしまったかのような喪失感が襲ってきます。足が震えていたこともあって、ボクはその場に腰を落としました。
 もっと欲しい。
 そう思った時には、ボクの顔はご主人様を振り返り見上げていて、震えて上手く働かない足を妖精炎魔法で無理やりに動かし、持ち上がったお尻をふりふりと振っていました。
「ご主人様ぁ…… もっと、もっと犯してくださいよぅ……」
「……ミゥ、悪いが――」
「足りないんです……! ボク、もっとご主人様が欲しい……!」
 ご主人様が言いかけたのを遮り、ボクは両手を伸ばしてお尻を広げ、そこにある全てをご主人様に曝して、更にお尻を振っていました。
 ふりふり。ふりふり。
 ご主人様のおちんちんが再びボクの中に入ってくることを期待していましたが、しかしご主人様はボクの頭を優しく撫でて、
「そろそろ出かける時間だから、続きは帰ってきたらにしてくれないか?」
 と、優しい声色で言われてしまいました。
「あ、う……」
 そんな風に言われてしまっては、ボクもこれ以上縋ることは出来ません。
 泣く泣くお尻を引っ込め、たくしあげたままの護服の裾を元に戻しました。
 きゅう、と胸の奥が締め付けられるような感覚と一緒に、勝手に涙が溢れます。
「うー……」
「な、泣かないでくれ。いい子だから」
 目元に溜まった涙を指で拭って、またボクの頭を撫でるご主人様。
 火照った頭にご主人様の手の感覚は気持ちが良くて、これ以上おちんちんを入れて貰えないなら、とボクは出来る限りご主人様の撫でる手に身を委ね、集中します。
 おおよそ一分ぐらいは撫で続けてくれたでしょうか。不意に、玄関を叩く音がしました。
「ゆーくん、いるー? 迎えに来たわよー?」
「あ、分かりましたー」
 最後に、ぽん、とボクの頭を軽く叩き、留守番を頼んだぞ、と言って、ご主人様は出て行ってしまいました。
「……いってらっしゃい、です」
 ご主人様が夏美さんの声に迎えられながら消えた扉の向こうへ呟き、ボクも踵を返しました。
 廊下をとぼとぼと帰り、自分の部屋の前へ。
「……よし」
 扉の取っ手に手を掛ける前に、自分でそう呟いて気合を入れ直します。
 よく考えるまでもなく、さっきのでボクの今日一日の番が終わったわけじゃありません。本番は夕刻から。その時に改めて、ゆっくりたっぷりと愛して貰えばいいんですから。
 まずはその為に、やるべきことを終えておきましょう。
 ボクはそう考え、今日一日でやるべきことを一覧にして頭の中に並べながら、部屋の中へと戻ります。
 中には、何故かシゥがいて、
「あ、遅せぇぞ。何やってたんだ? で、俺の分の水は?」
「――あ」


 淡青の蛍光色と、薄紅の蛍光色。
 そのふたつの液体を混ぜて、次に濁緑色の液体を混ぜ。
 無色透明になった液体の少量を採取器で採り、硝子板の上に乗せて陽の光に透かします。
「んー」
 結果、微妙な反応でしたので、ボクは自分で人差し指を舐め、そこに伝わらせた唾液を一滴、無色透明の液体の中へと落とします。
 ばじゅっ、という音と共に、唾液は液体に触れるか触れないかといったところで蒸発しました。
「んんー……」
 少し悩みながら、この液体を作るのに使った素材のことを考え、試験管を妖光炉へと差し込みます。
 ボクの予想が正しければ、三日ほどで良い反応を起こすはずなんですが。
「ふー」
 一息吐いて、ボクは少し背を伸ばしました。
 気付けば時刻は…… お昼過ぎ。今日はご主人様がいないということでお昼ご飯はありません。そのせいか時間の経過に気付かなかったようです。
 ご主人様が帰ってくるのは夕刻頃ということで、その少し前には準備を整えておかないといけません。そうなると、あとひとつふたつほど実験を終えたら準備を始めるのが妥当でしょうか。
 さて、そうと決めたらもう少し頑張らないといけません。
 ボクは妖光炉を脇に退け、種が入っている小袋に手を伸ばし、
「――ミゥ、いますか?」
 と、不意にピアのものと思しき声が扉の向こうから聞こえました。
「はいー?」
 ボクは返事をしながら扉に駆け寄り、鍵を開けて少しだけ開きます。
 扉の隙間の向こうにいたのは、やっぱりピアでした。いつもの綺麗な顔に真面目な表情で、ボクにしっかりと視線を合わせています。
 ご主人様と同じ、黒銀石のような瞳。前は綺麗だとだけ思っていましたが、今はピアが凄く羨ましいです。勿論、長年付き合ってきたボクの剛晶石のような瞳が気に入らないわけではないんですけど。
「なんですかー?」
「入ってもいいですか?」
 用件を聞くと、すぐにそんな問い返しがありました。様子から察するに、あまり大きな声で話す内容ではないみたいです。
 今は特に断る理由もないので、ボクは頷きと一緒に了承を返します。
「はい、どうぞー?」
 ボクは扉を開けると、踵を返してテーブルの上を片付けます。例えピアであっても、あまりボクの研究成果を見せるわけにはいきません。まあ、印とかは一切付けてないので一目見ただけで何か分かる方はいないと思いますが。
 片付け終えた時には、ピアはボクの部屋の中を物珍しげに眺めていました。
 きっとピアのことです。ボクがまた変な子達ばっかり育てていると思っているんでしょう。
 近寄っても、ピアはボクには気付きません。その、物珍しさと不安の色が同居している黒銀石のような綺麗な瞳を覗き込んで、やっとピアはボクが近くまで来ていたことに気付いたみたいです。
「最近はお料理に使える植物の研究も再開したんですよー? 今度どうですか?」
「今度ね。満足いく仕上がりになったら私に出してみてください。ご主人様に出す前に」
「はいー」
 あまりに近かったからか、少し苦い顔をして額を指で押されてしまいました。
 そんなピアの顔が面白くて、ボクは小さく笑いながらソファに腰を下ろします。
 ピアもボクの対面に座って、こほん、と小さく咳払いをしてから護服の裾を直し、ボクへと真剣な表情を向けてきました。
「ミゥ、折り入って相談があるのですが」
「なんでしょうかー?」
 何のお話でしょうか、と考えながら返事をする。
 最近のピアがこんなに真剣な表情をするのは、ボク達全員に関わることか、あるいはご主人様に関係のあることぐらいだったのですが。
 ボクだけにこうして相談するということは、少なくとも前者ではないみたいですが。
 ピアはそこでしばし言い淀んで、ややあって言いました。
「その。ご主人様との行為の最中に気絶しないように出来ないものでしょうか?」
 そんなことを言われて、ボクは一瞬呆気に取られてしまいました。
 ご主人様に関することだろうと目星は付いていましたけれど、そんな――いえ、以前、気持ちいいことに溺れてはいけないと言っていたピアの台詞とは思えない言葉だったからです。
 ご主人様に抱いて貰っている最中に失神することは、ボクが向精神系の薬を服用していてもよくあることです。現に今朝も軽く失神しましたし。
 妖精種は他種族よりも喜びや楽しみなど、気持ちいいことを感じる能力が優れているので仕方のないことなのですが、ボクだってその僅かな時間でも勿体ないと思います。それを克服したいということは、もっとご主人様を感じていたいということに他なりません。
 けれど、ピアのことです。多分違うでしょう。
 ボクは取り敢えず笑みを浮かべて、ピアに言葉を返しました。
「あはは、そうですかー。ピアも意外と欲張りさんですねー」
 途端、ピアの顔に赤みが差しました。やっぱりボクの予想とは違うみたいです。
 ということは、ご主人様のため、といったところでしょうか。
「違いますっ! 私は、ただ――」
「いえ、身体に正直なのはいいことだと思いますよー? 医学的見地からもそれは間違いないことですし」
「話を最後まで聞きなさい! 私はご主人様にご迷惑をお掛けしないためだけにそうしたいのです!」
「えー。そうなんですかー……」
 ちょっと意地悪に返してみましたが、おおよそ後の予想通りです。
 ピアのことですから、気にするとしたらご主人様へのご迷惑でしょう。
 ボクもそこは一応気になっていたのですが、ご主人様は気絶したボクを介抱することを特に気にしていなさそうでしたので、今はいいかな、と思っていたのですが。
 ピアはどうにもその辺りを気にしすぎる嫌いがあると思います。それほど悪いことじゃありませんけど。
「で。何か方法はありませんか?」
「気絶しないように、ですかー。んー……」
 今夜はご主人様に一杯愛してもらいたい、という理由で薬を使うことはボクが何度かやっているのですが、薬を使っていることがご主人様に分かるとあまりいい顔はされませんし、何より一時的なものでしかありません。ピアの要求を満たすことは出来ないでしょう。
 一番は「慣れ」だと思うのですが……
「やっぱり、一杯可愛がってもらうのが一番だと思いますよー。要は慣れってことですね」
「それではご主人様に手間をかけてしまうではないですか」
 やっぱりピアらしい予想通りの返事です。
「んー…… じゃあ薬とか使います? ボクが言うのもなんですけど、あんまりお勧めはしません」
「……あなたがお勧めしないものを使う勇気はありませんよ?」
「むう」
 実際、ボクはご主人様に抱いて貰うにつれて失神することは少なくなっていると思うのですが。
 失神するということ自体、ご主人様に抱いて貰うという行為からの快感に妖精種の身体では耐え切れていないことが原因ですから。快感への耐性を上げるのが一番です。
 といっても、ご主人様が何か新しいことをすると、大体失神しちゃうボクなんですが。
 察するに、ご主人様はボク達を抱くという行為について、全然本気を出してない気がします。
 あれ以上気持ちいいことがまだまだあるなんて、考えるとちょっと怖いです。果たして正気でいられるんでしょうか。
「やっぱり慣れるのが一番だと思うんですけど、んー…… ちょっと待ってて下さいね」
 言って、ボクは腰を上げました。
 向かうのは道具入れ。普通の棚ではなく、清潔さが求められる物を入れておくための、ちょっと特殊な棚です。
 ご主人様に抱いて貰うのをより気持ちよくするための道具も色々と入っているのですが、今回はあれをピアに譲っておきましょう。
「ピアは、ひとりですることってありますか?」
「ひとりで?」
 ボクの質問に、疑問符の乗った返事が返ってきます。
 ピアはああいう性格なので、絶対に自分であそこを弄ってると思うんですが。
 ひょっとすると指だけじゃなく、お酒の瓶の口ぐらいは入れたことがあるんじゃないでしょうか。
 でも流石にそこまで具体的な質問をするわけにもいきませんので、まろやかな質問にしておきます。
「指とかをご主人様のおちんちんに見立てて、あそこに入れたりしますか、ってことですよー」
 聞きながら、ボクは道具入れから取り出したものを手にピアの前へと戻りました。
 ピアの視線が真っ直ぐにボクの持っているものに注がれているのが分かります。気持ちは分からないでもありません。ボクだって、その発想はなかった、と思いましたから。
 人間は凄いです。ひょっとしたらこういう面で意外と仲良く出来るかもしれませんね。
「ええと…… それは?」
「よく出来てますよね、これ。ご主人様のおちんちんと同じ形なんです。種別上はでぃるどー、とか言うらしいですけど」
 ボクの質問を見事に避けたことはあえて追求せずに、ボクは手にしたでぃるどーの説明をします。
 質問の答えはピアの視線と表情の反応で丸分かりです。
「でぃるどー?」
「はい。人間の女性が自分を慰めるときに使う道具だそうです。どんなものかなーと思って、試しにノアに作って貰ったんですよ。色々形があったみたいなんですけど、ノアがご主人様の形で作れるって言うから、それで」
「な、なるほど」
 興味津々、といった様子のピアにでぃるどーを手渡します。
 早速ぺたぺたと触り出すピア。ご主人様のおちんちんと同じ形だってこと、本当に分かってるんでしょうか。
 ピアがご主人様のおちんちんに手で奉仕してるのを見てるみたいで、妙な気分になります。
「これで、慣れればいいと?」
「そうなんですけどー…… ボクは普通にご主人様にして貰った方がいいと思いますよー」
 これは名案、と思っていそうなピアに対して、ボクは割と本気でそう返しました。
 ボク自身、試しにと使ったことがあるからの言葉です。経験者は語る、というやつです。
 というのも、このでぃるどー。やっぱりどんなに頑張ってもご主人様のおちんちんの偽物でしかないので、肝心なところで物足りなくなってくるのです。
「何かあるんですか?」
「えーとですねー。んー…… なんて言えばいいのか。まあ、使ってみたら分かると思いますよ。差し上げますから」
 しかしそれを口で説明して、理解して下さい、というのも無理なので、実際に使って貰って、泣いて貰うのが一番でしょう。
 ボクも泣いちゃいましたし。
「いいのですか?」
「ボクが使ってるのは別にありますから。それは予備ですし、必要になったらまたノアに作って貰えばいいですしね」
「そうですか…… では、ありがとうございます」
 受け取って、一礼するピア。
 ボクは心の中でちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべつつ、いいですよそんな、と返したり。
 まあ、これも大事な経験になると思います。
「ええとですねー、もしも気に入った場合のお話なんですけど。それは入れるところが入れるところなので、清潔に保管して下さいね? そうしないと、繰り返し使った時に病気になっちゃう可能性もありますから」
「分かりました。他には?」
「後は、無茶をしないようにお願いしますねー。所詮は道具ですから、ピアが無茶したら怪我の元になりますから。これも使ってみて下さい」
 ボクがでぃるどーを使った時に濡らし足りなくてちょっと痛い思いをしたのを思い出して、最近作った潤滑液の小瓶も一緒に手渡します。
 ボク自身で使ってみて効果は覿面だったので、こちらは問題なく使えるでしょう。でぃるどーだけでなく、ご主人様に愛撫抜きでいきなりおちんちんを入れて欲しくて堪らない時にも使えます。
 人間の間でも、ろーしょんっていう同じものがあるんですよね。ちょっと人間恐るべし、です。
「これは?」
「保護液、って感じのものです。それを予めあそこに塗れば、濡れてなくてもすんなり入ると思いますよー」
「分かりました。ありがとうございます」
「良かったら使ってみての感想を下さいね。色々と参考にしますから」
「はい。では、また後で」
「またー」
 ピアが部屋を出て、ボクは、ふふ、と思わず笑いを漏らしてしまいました。
 これでピアが少しは素直になればいいんですけど。


「はー」
 夕方前になって、ボクは予定していた最後の実験を無事に終えました。
 興味深い結果が得られたことに満足しながら、余った溶液を中和して無害にしてから廃棄していきます。流石にこちらの下水道で妙な変異生命体を発生させるわけにもいきませんし。
 さて、と。
「ふふ」
 思わず笑みを零しながら、ボクは実験器具を道具入れの中に全て片付け、代わりに幾つかの器具を取り出しました。
 浣腸器と、お腹の中を綺麗にするための薬液と、催淫効果のある半固形薬液のそれぞれが入った薬瓶。
 実験しながら考えた結果、今日はご主人様にお尻の方を愛して貰おうと思ったからです。
 お尻におちんちんを入れて貰う場合、ご主人様に絶対に汚い思いをさせるわけにはいきませんので、事前の準備は不可欠です。
 まずはお腹の中を綺麗にしておかないといけません。
 お腹の中を綺麗にするための薬液を小瓶から少量だけ硝子容器に移し、適度な温水で希釈して、それを浣腸器に移します。
 後はソファの上に仰向けで寝転がり、護服の裾を上げて、浣腸器の嘴管を、ボク自身のお尻の穴に入れて――
「んっ…… あ、う……」
 注入を始めると、温水がお腹の中に染み渡ってくるような、奇妙な感覚を覚えます。自分でお浣腸をするのは初めてではありませんが、何度やってもこの感覚には慣れません。 
 ゆっくりと時間を掛けて、薬液を全て入れていきます。全部入れ終わったところで、きゅるきゅるきゅる、と早速お腹が鳴り始めました。
「う、ぁう……」
 少しだけ膨らんだお腹に手を当てながら、いきなりお漏らししてしまわないよう気を付けて身体を起こします。
 これからしばらくは、苦しい我慢の時間です。
「ん、ん……」
 ソファに背中を預け、身体に妙な力を入れないよう注意しながら、お腹をのの字にゆっくりと撫で続けます。
 少しだけ苦しさは増しますが、こうすることでお腹の中がより綺麗になりやすくなるので、頑張って続けます。
「ふ、うんっ……」
 ……ちょっと薬液の量が多かったか、濃度が高かったかもしれません。
 撫で続けている間にまたお腹が鳴りました。今度は、ころころころ、なんていう、ちょっと低い音。
 少しずつ苦しさが増してきます。いつもなら注入直後が少し苦しくて、そこからちょっとだけ落ち着いて、また苦しくなってくるものなんですけど。
 ご主人様に愛して貰いたいと思うあまり、ちょっと慌てていたのかもしれません。
「っ、あぅ……」
 お花探しに行きたくなるのを我慢して、ボクはひたすらお腹を撫で続けます。
 苦しさはそこそこのものになってきましたが、まだ一分半ぐらいしか経ってません。
 もっと我慢しないと、お腹の中の汚いものが全部出て行きませんから。
 そうして、ボクは時折苦しげに鳴り出すお腹を撫で続けながら、じっと耐えていたのですが――
「ん、あ……」
 やがて、じんわりと、ご主人様にいつも愛して貰っているあそこが濡れ始めたのが分かりました。
 最近、こうして準備をしている時に決まって濡れ出すようになってきました。以前――妖精郷にいた頃に治療行為としてお浣腸をしていた頃には、濡れてこなかったと思うんですけど。
 やっぱり、ご主人様に何度かお尻を愛して貰ったからでしょうか。でも、お浣腸はあれとは違って、苦しいだけのはず、なんですけど。
 それに、何と言っても治療行為の一種ですし、汚いことでもあります。どうしてあそこが濡れてくるのか、ボクには分かりません。
「ふ、あ、ぁ……」
 まるで痺れるような――ご主人様の指であそこを撫でて貰っている時のような気持ちよさが、ゆっくりと襲ってきます。
 それは近くにあるお腹の苦しさと混じり合って、何だかよく分からない感覚へと変わっていきます。
 ご主人様にお尻を叩かれた時や、あそこの一番奥を激しく突かれた時、お尻にご主人様のおちんちんを一杯まで入れて貰った時に似ている感覚です。
 我慢を忘れてお漏らししてしまわないように気を付けながらも、ついついボクはその感覚に酔いしれていきます。
「んっ、は、あ…… っ、あ」
 気が付けば、お腹の苦しさはかなりのものになっていました。あそこの濡れ方もひどいものになっていましたけど。
 時計を見れば、もう注入から五分ほどが経過しようとしていました。
 そろそろいいかな、と思い、ボクは腰を上げ、
「――ミゥよ、おるかのー?」
 唐突に部屋に響いた扉を叩く音とヅィの声に、慌てて腰を下ろしました。
「……はいー?」
「おったか。入っても良いかの?」
「ちょ、ちょっと待って下さいねー」
 ボクは目の前、テーブルの上に乗っている浣腸器やら薬瓶やらを慌ててテーブルの影に片付け、その上からテーブルクロスを引っ掛けました。
 そして服や周囲に変な乱れがないかを確認して、返事をします。
「……はい、どうぞー?」
「失礼するぞ」
 扉を開けて入ってきたヅィは簡素服の格好で、その手にお盆を。お盆の上には湯飲みやら急須やらを載せていました。
 湯飲みはふたつ。どうやら、ボクと一緒にお茶を飲みに来たのでしょうか。
 それをテーブルの上――先程まで浣腸器とかが置いてあった位置に置いて、ばふり、と勢いよくボクの対面のソファに腰を下ろしました。
「どうじゃな、一杯。悠がわらわのために買って来てくれた茶葉でな。美味らしいぞ?」
「それはいいですねー。頂きます」
 ボクは内心、どっ、と汗を掻きながら、ヅィの提案に笑顔で了承しました。
 なんて運が悪いのでしょうか。かなりお腹が苦しくなってきた時に、お茶会、それもヅィのお誘いだなんて。
 ご飯よりもお話が好きな妖精種にとって、お茶会を断ることは最大級の失礼に当たります。ボクもかつてお茶会を断ったことは一度もありません。どんな方であれ、どんな時であれ、お茶会を断るほどの理由にはなりませんでしたから。
 ただのお茶会ならいいのです。ピアやシゥ、ネイとかのなら。それほど長引くことはありませんので、適当にお話しをして、お茶を飲んで、切りの良いところで切り上げて貰えればいいのですから。最悪、体調が悪い事を訴えればそれで大丈夫です。ボクが我慢する時間がせいぜい五分か六分伸びるぐらいでしょう。
 でも、ヅィはボクの今までの経験から五分では到底済まないことを知っています。二十分か、悪くて三十分。ヅィのお話が一旦途切れるには、それぐらいの時間が掛かるのです。
 長くお話しを続けられるということは、勿論その方の凄さの証左でもあります。ヅィは皇帝の側室で、妖精炎魔法の権威であり、学院で教授を務めていたということもあってか、そのお話しの持続力は群を抜いています。ボクも幾度も楽しませて貰ったことがあり、本来なら歓迎すべきものなのです。普段なら、ですけど。
 何分、今はお腹を綺麗にしている最中であって、ただでさえいつもより薬液を多めに入れてしまい、苦しいところなのです。
 加えて言うなら――ヅィはそういうことにかなり潔癖な気があります。多分、ピアやシゥ以上にです。お尻におちんちんを入れて愛する行為があることは知っているでしょうけど、実際にやったことはないでしょうし、やるつもりもないでしょう。事前にお腹の中を綺麗にする必要があることに思い至っていないかもしれませんし、ひょっとするとお浣腸というものすら知らないかも知れません。ヅィにとって、お尻の穴から何かを入れるということ自体、あってはならないことでしょうから。
 ボクが今それをしているということを知られたら、なんと言われてしまうでしょうか。
「ん…… いい匂いですねー」
「じゃろう? 悠もあれでなかなか見る目があるものじゃ」
 ボクは自分の目の前に置かれた湯飲みに、とくとく、と湯気立つお茶が注がれていくのを目にしながら、ヅィのお話が一刻も早く途切れてくれることを願いました。


「――ではの。良い時間じゃった」
「いえいえー」
 ぱたん、と扉が閉まる音と同時に、ボクは溜め込んでいた脂汗を、どっ、と流しました。
 二十分。ボクは何とか耐え切りました。幸運だったのは、ヅィのお話はご主人様が買ってきてくれたという茶葉に関するもので、お茶がなくなると同時にお話が終わったことです。
 と言っても、お話しに対するボクの態度は酷いものでしたが。引っ切りなしに切なく苦しく鳴るお腹の音がヅィに聞こえていないかという心配と、今にも決壊しそうな我慢を必死に繋いでいたせいで、ヅィのお話しに相槌を返すことしか出来ず、ご主人様が買ってきてくれたというお茶の匂いも味も全く分かりませんでしたから。
 あれでよくヅィが不審に思わなかったものです。
 ともかく――
「あ、うう……」
 ヅィの足音が台所の方へと引っ込んで、その後ヅィの部屋へ消えるのを確認したボクは、情けない声を漏らしながら、恥も外聞もなくお尻を両手で抑えながらゆっくりと立ち上がりました。
 いくらなんでもそろそろ限界です。今すぐにでもおトイレに向かって、お腹の中で暴れて渦巻くものを出さなければ。ボクの思考はその思いで一杯になりつつありました。そうしなければ、ボクはとんでもない醜態を晒すことになってしまいます。
 そしてもしも、それが皆に、ご主人様に知られたら――
「う、えうぅ……」
 それだけは絶対に避けなければいけません。自分でお浣腸をして、お漏らししたなど、そんなことがご主人様に知られたら、ボクは生きていけません。
 最悪の光景を思い描いてしまい、勝手に溢れて頬に流れる涙を肩で拭いながら、ボクは自分の部屋の入口からそっと廊下を伺いました。
 ぱっと見た限りでは廊下には誰もいません。耳を澄ませてみましたが、この部屋全体が防音になっているせいか痛いほどに静かです。出来れば妖精炎の反応も確認したかったですが、そこまで精神力が持ちそうにありませんでした。
「あっ、ふうっ、ひっ、う、あぁ……」
 一歩を前に踏み出す度、信じられないほどの圧迫感がお尻の穴を襲います。
 気を抜けばすぐさまお漏らししてしまいそうで、それが出来たらこの苦しみから解放される、といけないことを考えてしまうほどに、ボクは追い詰められていきます。
 早く。早く早く早く。
 ふるふると震えながら、少しずつ前へと進んでいきます。大きく足を動かしたらそれだけで決壊してしまいそうで、急く気持ちとは裏腹に、どうしてもゆっくりと歩くことしか出来ません。
 また、きゅうっ、とお臍の下辺りが痛むのも重なって、ボクは脂汗をだらだらと流しながら、本当にゆっくりと廊下を進んでいきました。
 そろそろご主人様が帰ってくる時間の筈なのに、ピアすら廊下に出てこなかったことは本当に幸運でした。
 ボクは何とかおトイレの扉の前に立ち、震える手で扉を開きました。
「っ、あ、はひ……」
 本当に我慢の限界でした。ボクは自分の身体にこれまでなかったほどに感謝しながら、その独特の形をした白い物体に跨って、お腹の中で暴れていたものを解き放ちました。
「っ――!」
 その行為の間、ボクは必死で自分の口許を抑えていました。
 長い我慢の果てに、ようやく得られた安堵。その反動でどんな声が出るか、ボク自身にも分からなかったからです。
 ……気持ちよくなんて、ないはずなのに。


「あ、ふ……」
 その後、ボクは微温湯をお浣腸してはすぐに出すということを数回繰り返し、ボクのお腹から出てくるお湯が汚れなくなるまでお腹の中を洗いました。
 ボクの部屋に戻って、指先でお尻の穴を確かめます。散々洗ったはずなのに、窄まったそこはぬるりと腸液で濡れていて、指が簡単に中に入ってしまいます。
「んっ、あ……」
 敏感になっているせいか、びりっと痺れるような感覚が背中を走る中、ボクは指先をお腹の中で少し乱暴に動かしました。そうしてから引き抜いて、指先が汚れないのを確認します。
 お尻の中にご主人様のおちんちんを受け入れても問題ない状態になったことを確認して、ボクは最後の準備に取り掛かりました。
 用意しておいたもう一個の半固形薬液――催淫効果のある特殊なものを、細く長い挿入管を付けた浣腸器の中に充填します。
 後は、ボクのお腹の中、深いところまで届くように挿入管をお尻の中に入れ、お浣腸するだけです。
「んっ、んん……」
 半固形薬液だからか、空っぽになったボクのお腹の中に重いものが溜まっていくような感覚があります。
 お浣腸を終えて、ボクは仰向けの態勢を戻しました。薬液が下ってくる気配はありません。腸液に反応してより固形度を増し、しばらくの間、栓の役割をしてくれるものですから、下ってきては困るんですけど。
 ともかく、これで準備は全て完了です。
「ふ、ふふ……」
 一時はどうなることかと思いましたが、これで遠慮なく存分にご主人様にお尻を愛して貰えるということ思うと、苦労なんて大したものじゃありません。
 ボクは待ち切れなくて、居間でご主人様のお帰りを待っていようと扉を開け、
「――ただいまー」
 という、待ち侘びていた声を耳にしました。
「――ピア? いないのか?」
「――はい、只今!」
 ピアの名前が呼ばれ、それに続いてすぐさま返事をしたピアが自分の部屋から飛び出して行くのが見えました。
 ボクの名前が呼ばれなかったことに少し不満を覚えつつ、ボクもご主人様に会うために、ピアの後に続いて部屋を飛び出しました。
「――お帰りなさいませ、ご主人様」
 ピアの声が聞こえます。
 ボクもその後ろから、ピアに負けないようにご主人様に勢いよく飛び付いて、ご挨拶しました。
「ご主人様ー!」
「おおっと」
 すかさずボクの身体を大きな手で受け止めて、大きな胸の中に抱いてくれるご主人様。
 ご主人様の匂いが鼻腔に満たされると、催淫剤の効果もあってかお尻が疼き、熱くなってきます。
「ただいま、ミゥ」
「えへへ、ご主人様ぁ」
 不満顔のピアを視界の端に収めつつ、ボクは、ぎゅうっ、とご主人様に抱き付きました。

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