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フィフニルの妖精達・夜伽話「黄金色の雫」

※警告! この話にはスカトロジーに分類される「放尿」の属性が多く入ります。
苦手な方は閲覧をお避けください。







 ――その日は、朝から大変な日だった。
「―――――! ―――――――!」
「――! ―――!? ―――――!」
 内容のさっぱり分からない怒声と、どたどた、どすんどすんと部屋中に響く振動。
 具体的に何をしているのかは定かではなかったが、ひとつだけ分かることがある。
 俺には止めれない、ということだ。
「すまんの、悠。早めに片付ける故」
「ああ…… 頼んだ」


 事の発端は俺にもよく分からない。
 今日は朝から空に雲ひとつない快晴といういい天気で、どこかに出かける用事を済ませようかと思っていた矢先のことだった。
 唐突に廊下から内容の聞き取れない怒声が響き、それに応対する冷静だが大きい声が響いた。それは応酬を続けるうちに、冷静な声もやがて怒りの色を帯び、ついには物音と振動を響かせるまでに発展した。
 慌てて廊下に出た俺が目にしたのは、廊下を埋め尽くしてうねうねと動く蔦状植物と、それが焼け焦げ炭化したような黒いもの。植物の根元に向かって追いかけると、リビングでは白の妖精と緑の妖精――ピアとミゥが互いに弓と杖を顕現させた臨戦状態で対峙しており、俺には欠片ほども気付いていない様子で、
「――――――! ―――!」
「―――! ―――――――! ――!」
 何事かを――恐らくは妖精独自の言語で怒鳴り合った後、翅が強く白と緑に輝いた。
 床を埋め尽くしていた蔦から、鋭い先端を備えたものが無数に跳ね上がり、四方八方からピアを襲う。ピアは踊るように身を捻り、同時に弓へ添えた手を目にも留まらぬほどの速度で弓から頬へと往復させた。ピアの正面から向かった蔦の全てが光の矢を受けて炭化、微塵に砕かれ、それ以外の方向から襲い掛かった蔦は全てがピアの服を掠めるだけに終わる。
 だが、それだけでは終わらない。ピアの回避行動の終わりを狙って、時間差で更なる蔦が襲い掛かる。既に襲い掛かり、外れた蔦は檻となってピアの運動を阻害する。物理的に回避不能な攻撃。それをピアはいつの間にか手から発生させた光の剣で檻の一部を焼き払い、そこに出来た隙間から脱出する。そこへ更に襲い掛かる蔦。焼き払う光の矢。
 唖然としていたというか、見惚れていたというか。とにかくその場に突っ立っていた俺の身体が、突然横へと引っ張られた。瞬間、先程まで俺の身体があった空間を蔦の槍が、どすどすどすどすどすどす、と貫く。
 俺を助けてくれたのは、リビングのソファの影に隠れていたシゥとネイ、ノアとヅィだった。下手に止めると更なる加速を招きかねない為、切れ目を見て止めに入ろうと様子を伺っていたところ、俺が無防備に突っ立っていることに気付いて助けてくれたのだという。
 ここに居ては危険だということで、俺はネイとノアをお供に外にへ出ていることになったというわけだ。


「じゃあ、行こうか」
「はい」
「了解」
 頷く赤の妖精と黒の妖精――ネイとノア。二人とも、その格好はいつもの外套に似た服――彼女らが護服と呼ぶ普段着のようなものを着ている。実際に普段着なのかどうかは定かではないが、彼女らによると見栄えが悪くない上に様々な機能を持っているため、どこに着ていくにも困らない服なのだそうだ。妖精というイメージに反し、着飾るということを知らないのかもしれない。
 それにしても、あれほどの騒ぎがあったというのに、ノアはいつも通りの無表情。ネイも平然としている。
 俺の視線からそう思っていることを察したのか、いつものノンフレームの眼鏡越しにある真面目な表情をくすりとした笑いに変えて、ネイはやや呆れたように言った。
「割とあるんですよ。ピアとミゥの喧嘩は」
「そうなのか?」
「はい。一年に三回ぐらい、毎年喧嘩してますから」
「その、大丈夫なのか? 怪我とか」
「大丈夫ですよ。ちょっとやそっとでは大事にはなりませんし、ある程度やれば落ち着きますから。何が理由で喧嘩していたのかは分かりませんが、大体ピアが譲歩して、ミゥがしぶしぶ納得して、それで終わりです。それから数刻でお互いに謝って、元通りになりますから」
 ネイのそんな話を聞きながら、三人でマンションのエレベーターを降りる。
 何気に、一年で三回のペースで『割と』という表現を使う辺り、彼女達の時間感覚が窺える台詞だ。
「ピアがあれほど怒っているところを見たのは初めてだよ。ちょっと驚いたな」
「ピアも、怒る相手が私達以外なら毅然と裁定を下して終わりなんですけど、私達は付き合いが長い分、感情的になっちゃうみたいで。ピアがあんな風に怒るのはミゥとシゥぐらいですよ」
 それに、とネイはどこか楽しそうに続ける。
「ミゥも、あんなに感情的に怒るのはピアやシゥに対してぐらいです。何度か見たことがあるかもしれませんけど、ミゥは私達以外に対して怒ることは滅多にありませんし、怒った時はとても冷酷で、嘲笑さえ浮かべますから」
「ああ、何度か見たことがあるな。正直に言ってちょっと怖い」
「ふふ。化けの皮が剥がれる、って言うんでしょうか。ああして感情的に怒ってるのは、ちょっと可愛いですよね」
「ネイ、その用法はちょっと違うぞ」
「え、そうなんですか?」
 そんな会話を続けながら、俺達はマンションを出て、適当にぶらりと足を伸ばした。


 時刻が早朝に近いせいか、人の通りがまばらな住宅街の道を、俺とネイ、ノアは適当に歩く。
 人や車が視界に入る寸前で空気に溶けるように姿を消し、俺達だけになれば忽然と出現する妖精の二人を見ていると、本当に妖精なんだな、と今更なことを思ってしまう。
「それにしても、本当に自然がありませんね。人間の棲み処は」
「君達はないと駄目なのか?」
「駄目、ってことはありませんけど、あまり好きじゃありません。流石にミゥの部屋みたいなのはやりすぎだと思いますけど」
「そんなに凄いのか? ミゥの部屋は」
「部屋の半分が鉢植えで埋まりそうなぐらいですから。まあ、ミゥの場合は主に研究用で、観賞はついでだと思いますが」
 妖精郷ではもっと凄かったんですよ、と苦笑いを浮かべるネイ。
「自分の部屋を持っている妖精だけでも少ないのに、ミゥは自室に加えて研究室まで持っていて、そこは自室以上に凄かったですから。ちょっとした密林ですよ、アレは」
「密林?」
「ええ。迷い込んだら生きて出られない、なんて噂も立ってましたよ。ミゥは植物の品種改良が得意で、その中には捕食植物などの妖精種の天敵も混じってましたから。実際に犠牲者がいたかどうかは、定かじゃないですが」
 脳裏に、眠たそうな顔で、えへへ、と微笑むミゥの姿が浮かぶ。彼女の研究熱心な一面とその性格を知っているからこそ、いや大丈夫だろう、と思う反面、彼女ならやりかねない、という思いもある。
 それをネイも思っているのか、苦笑いは消えない。
「そのことでピアと口論から喧嘩になったことがありまして、丁度今日みたいな形になったんですよ。あれはいつ頃のことだったっけ」
「その時はどういう結果になったんだ?」
「細かい内容は覚えてませんが、やはりピアが譲歩して、それにミゥがしぶしぶ納得して。数刻後にお互いに謝って、その後は二人で普通に談笑してたと思います」
「喧嘩するほど仲がいい、ってやつだな」
「そうだと思います。まあ、ピアだからこそなのかもしれませんけど。私達の族長ですから」
 俺を安心させる目的なのか、雑談はこうして最終的にピアとミゥ、シゥの話へと飛ぶ。話は断片的だが、そこからはあの三人がとても仲が良いことを容易に察することができるものばかりだ。
 その結果か、俺は次第に家に残してきた四人のことをそれほど心配しなくなってきていた。


 雑談を続けながら、俺達は住宅街とビル街の境目にある大きな公園へとやってきていた。
 この公園は立地的には恵まれたところにあり、普段は仕事帰りの社会人や無邪気に遊ぶ子供たち、二人で散歩する恋人達の憩いの場になっているのだが、今は時間帯のせいもあってか殆ど人影がない。
「へえ…… こんなところもあるんですね」
「人間だって、無機物ばかり目にしていると疲れてくるからな。あるにはあるんだよ、こういうところも」
「ちょっとだけ見直しました」
 そう言いながら公園の広葉樹に視線を向けるネイ。その台詞からは、やっぱり俺は人間としては見られてないんだな、と思える。
 小石を敷き詰めて舗装された道を歩き、公園の中心部へと向かう。中心部は最低限の手入れしか入っておらず、原生林に近い状態を維持されているらしいため、彼女達にも優しいはずだ。
 途中、自販機を見つけた。以前はこんなところにあったかな、と思いつつも、目覚めてから何ひとつ口にしていなかったせいか、その赤いボディを見ると喉が猛烈な渇きを訴える。
「ネイ、何か飲むか?」
「あ、いえ。大丈夫ですよ」
「そう言わずに。ノアは?」
 俺はそこで初めて、俺の左斜め背後を影のようにぴたりと付いて来ていたノアに声を掛けた。
 滅多に自発的に話さない彼女への会話の切っ掛けになるかと思ったのだが、彼女もネイと同様に小さく首を横に振って、
「否定」
 と、いつものように短く返してきた。
「ご遠慮なく、ご主人様お一人でお飲みになってください」
「ご遠慮なく、はこっちの台詞だ。それに、三人で並んで歩いてるのに俺だけに飲ませるのか? ちょっとどうかしてるだろう」
 そんな言葉に込めた俺のニュアンスが伝わったのか、ネイは少しだけ目を見開き、一転して小さく笑う。
「では、ご主人様にお任せします」
「分かった。ノアは?」
「同様に、お任せします」
「よし」
 俺はポケットの中の財布の感触を確かめ、自販機の前に立つ。ラインナップは缶コーヒーを初めとして、幾つかの果汁ジュースと健康ドリンク。やはり公園の利用客に合わせているのだろうか、などと思いつつ、無難に有名メーカーのオレンジジュースを三つ購入した。
「お待たせ」
 小走りに戻って、ネイとノアの小さな両手に橙色の350mlボトルを手渡す。が、二人、特にネイは怪訝な顔をして、
「あの、すみません。これはどのようにして飲むのですか?」
 と、いかにもなことを尋ねてきた。俺は少し笑って、彼女の手からボトルを受け取る。
「こうして、蓋の部分を捻るんだ。そうすれば蓋が取れて飲める。飲まない時は逆にこうして、蓋を閉めればいい」
「なるほど。ありがとうございます」
 教えた通りに蓋を開け、ボトルを両手で持って傾けて飲むネイ。隣で見ていたノアも真似をして蓋を開け、同様に飲む。俺にとっては小さなボトルでも、彼女らにしてみれば大ジョッキとそう大差ない。少し大変そうだと思う一方で、一杯飲めていいな、と思わなくもない。
 俺も自分の分を開け、一気に半分近くを飲み干した。渇いた喉にオレンジの甘酸っぱい味が良く染みる。
 ふう、とひとつ息を吐く俺に、
「ご主人様、この入れ物はどうすればいいのですか?」
 と、ネイがまた尋ねてくる。見れば、その手にあるボトルの中身はもう既に空だった。
 思わず彼女の小さな身体とボトルを見比べる。彼女が飲み始めてから空になるまで最低でも八秒と少し。この小さな身体の何処に、ボトルを満たしていたジュースは入っているのだろうか。
「……ご主人様?」
「あ、ああ。ゴミ箱に捨てればいい。貸してくれ」
「はい」
 およそ三秒ほど真剣に考えて、ネイの呼びかけで現実に復帰する。
 ネイと、同じく空にしたノアからボトルを受け取って、俺も自分の分の残りを空にして、まとめて自販機傍のボトル専用のゴミ箱に投げ入れた。
「ありがとうございました、ご主人様」
「いいって。それよりもう少し歩こうか」
「はい」
「了解」


 更に歩いてほどなくで、公園の中心部に到着した。
「……いい場所ですね、ここは」
 着いてすぐ、ネイがそう言葉を発した。
「分かるのか?」
「はい。自然な場所というのは相応の空気がしますから。先程までの樹達は、そのままであったものと後から植えられたものが入り混じって、少し異質な空気がありましたし」
 公園の中心部には舗装された道も通っておらず、木と茂みと土しかない。街灯もなく、早朝という時間もあって少し薄暗いほどだ。
 夜な夜な変態行為に及ぶカップルもたまに出没するらしく、実際にはそれほどいい場所ではない。
 だがやはりというべきか、彼女らの評価点は人間とは違うところにあるらしい。
「ここは、あまり人間の手が入っていないようですね。勿論、全くというわけにはいかないみたいですが、人間の棲み処の近くにある場所にしてはまともな方ではないでしょうか」
「実は、あんまり評判はよくないんだけどな、ここは。街灯がないから夜は暗い」
「夜は暗いものですよ。それを嫌うなら外に出るべきじゃありません」
 小さく笑いながらそう言うネイ。確かにそう言われればその通りではあるのだが。
「人間は夜目が利かないからだろうな。闇が怖いから、手当たり次第に明るく照らそうとするのかもしれない」
「私達だってそれほど夜目が効くわけじゃありませんし、暗いのは怖いですよ。でも、自然を乱してまで照らそうとは思いません。そこを通る時に手元と足元と、行く先が少しだけ明るければ、それでいいじゃないですか」
 開けた場所を適当に歩き回り、時には立ち止まりながら俺とネイは話す。沈黙を守ってはいるが、ノアも一緒だ。
「私が思うに、人間の悪いところは、知恵を持って未知のもの、相容れないものを排除しようとする習性にあるのではないかな、と」
「ふむ」
「見習うべきところがないわけではありませんが、少なくとも幻影界においては、人間の自然の乱し方はやがては精霊種や妖精種を世界から排除せんとする勢いでした。対話をしようにも殆どの場合は、我々も必要に駆られてのことで困っているのだ、の一点張りで。そうして話し合いが平行線を辿り始めると、彼らは決まって実力行使に訴え、時には私達の仲間を捕らえては酷いことをすることもあり……」
「……」
 どれも聞き覚えのある話だ。
 異種族に対した場合に限っての話ではない。人間は何処に行っても人間だということなのだろうか。
 そう考える俺の沈黙をどう受け取ったのか、ネイは頭を下げる。
「すみません、つい愚痴っぽくなってしまいました」
「いや、同じ人間のひとりとして身に染みる話だよ」
「……私も分かってはいるんです。個人単位ではご主人様のように良い人間もいるのですが、彼ら同士で思い遣った結果、総意として彼ら以外の相手に仇なすことになるということを。妖精種でも、特に世界樹守護種においてはよくあることですから」
 ふと少し沈んだ表情を浮かべ、直後に、あはは、と自分の思いを振り切るように笑うネイ。
「あんまり人間のことは言えませんよね。たまに思うんです。どうして創造主様は世界中のあらゆる生き物が仲良く共存できるようにしてくれなかったんだろうって」
「創造主様、か」
「ええ。幻影界を創造し、十五柱の神々をお作りになられ、そして忽然と消えてしまったと言われています。名前も姿も記録に残っていませんので、どのような方だったのかは分からないのですが」
「意外と、その辺りの機微の分かる奴じゃなかったのかも知れないな」
「そうかもしれません」
 俺の軽口にネイはからからと笑う。
 いつもは真面目に本を読んでいる姿や照れくさそうにしている姿ばかりが印象に残っているだけに、こうしてよく笑う彼女は少し新鮮だった。
 ふと背後に付いてくるノアにも視線を向ける。
「何か?」
「いや」
 途端に視線を合わせてくる黒曜石のような綺麗な瞳。
 彼女もいずれは変わって、よく笑ったりするようにするようになればいいのに、と思う。


「――あ」
 そんな小さな、何かに気付いたような声をネイが上げたのは、俺がそろそろ家に戻っても大丈夫かなと思い始めた時だった。
「すみません、ご主人様。少し花探しに行って来ても宜しいでしょうか?」
「え? 花探し?」
「はい」
 頷くネイ。
 俺は思わず周囲を見渡す。今は夏だから花は探せばあるだろうが、ここにそれほど綺麗な花が咲いていた記憶はない。
「花なんて――ここにはそれほどいい花はないと思うぞ?」
「え…… ――あ」
 戸惑うような声の後、また何かに気付いたような声をネイが上げた。何かと思い視線を向けると、何故かネイの頬が紅潮し始めていた。
「どうした?」
「いえ―― あの、その、ご主人様。花探しというのは、ですね」
「――花探しとは、妖精種における排泄行為の隠語のことです」
 しどろもどろになりながらも俺に説明しようとしてくれたネイの羞恥心を見事にぶった斬ったのは、横から唐突に入ったノアの声だった。
「え、排泄……?」
「肯定。妖精種においても大多数の固体が羞恥心を覚える行為であり、それ故にか隠語となっています。意は、多少時間を要するために現場での待機を願う、というものです」
 ノアの丁寧な説明に、ネイの顔がみるみる赤くなっていく。女の子なら非常に恥ずかしい欲求を何とか訴えようと隠語を使ったのに、俺が理解出来なかったばかりに、横から「ネイは用を足しに行きたい」と明け透けに説明されてしまったのである。男の俺であっても今の彼女の立場になれば相手の顔をまともに見ることが出来ないだろう。
「あー、ネイ、その……」
「の、ノアの馬鹿ぁッ!」
 それだけ分かっていながら俺がネイに視線を合わせたまま気まずげに名前を呼んだことに彼女の一般的な羞恥心が耐えられなくなったか、彼女にしては珍しくノアに一言だけ罵声を浴びせると、たっと茂みの向こうへと走り去ってしまった。俺の方から視線を逸らせば良かったのだが、気付いた時には後の祭りである。
「あー……」
「……如何致しましょうか?」
「……ノア。もうちょっと気遣ってやれなかったのか?」
「肯定。 ……ですが、それではどのようにご説明すれば良かったのでしょうか?」
「あー……」
 思わずこめかみに指を当て、ひとつ息を吐く。
「こういう時は、無理にその場で説明しなくていいんだ。あるいは当人がいなくなってからこっそり教えてくれればいい」
「了解。ですが今回の場合はヅィから、ご主人様の傍を離れる時はその理由を仔細に説明せよ、と命令がありましたので」
「……分かった。取り敢えず追い掛けよう。何にせよ、放っておけない」
「宜しいのですか?」
「公衆便所が何処にあるかも分からないだろうし、その辺りでさせるわけにもいかないからな」
「了解。ではネイの追跡を行いますので、後を付いて来て下さい」
「分かった」
 背中の黒い翅を瞬かせながら、ノアが音もなく走り出す。
 流石に背丈の関係もあってその速度はそれほど速くはないが、どうやってかするりするりと茂みを音もなく抜けていくので、ふとすれば見失ってしまいそうだ。
 ややあって、その流麗な走りが止まる。
「発見しました。前方、およそ二十メートル。既に用を足す態勢に移行しています」
「分かった。 ――ネイ、待った!」
 そう声を掛ける。一瞬、二つほど向こうの茂みの影で鮮やかな赤色がちらりと見えた。
「ご、ご主人様!? そ、それ以上来ないで下さい!」
「待つんだ。そんなところでしちゃいかん」
「で、でも……」
 ゆっくり近付きながら声を掛けていく。応じるネイの声は落ち着きがない。一度出そうと思ったことで、限界が近くなっているのだろうか。
「とにかく、もうちょっと我慢してくれ。近くに公衆便所があったはずだから、そこまで行こう」
「は、はい……」
「そっちに行ってもいいか?」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
 慌てた声の後、茂みを掻き分けてネイが出てきた。若干ではあるが内股気味で、顔は可哀想なぐらいに紅潮している。視線も微妙に逸らして合わせようとはせず、その紅玉の瞳の輝きも弱々しい。
「急いで行こうか。歩ける?」
「な、なんとか」
「じゃあ、こっちだ」
 ゆっくり、小走りに歩く。後ろを確認すると、俺の後ろをネイがややもたつき気味に、その後ろを護るようにノアがぴったりと付いてくる。
 最寄の公衆便所まではまだまだ距離がある。
 何とかネイが耐えてくれることを期待しながら、俺はなるべく人目に付かない最短距離を案内したのだが。
「――ご、ご主人様、もう、駄目です」
 残り半分、といったところで遂にネイが悲鳴を上げ、立ち止まってしまった。
 太腿をすり合わせることもせず、両手は腰の辺りで服を強く掴み、ただ内股で小刻みにふるふると震えている。本当に出る寸前なのだろう。そうなる寸前まで走っていた彼女を賞賛すべきかもしれない。
「っ―― すまん!」
「あっ!?」
 俺はネイの元まで駆け戻ると、すぐにその震える小さな身体を抱え上げた。いわゆるお姫様抱っこの態勢で、とにかく彼女を目的の場所まで運ぶ。
「やっ、あっ、駄目、駄目ですっ」
「もうちょっと我慢してくれ。後、今のうちに聞いておく。おしっこか?」
「っ……! は、はい」
「分かった」
 久々の全速力で俺は走り、何とか公衆便所前に到着した。
 誰もいないことを願いながら、男子便所の方へと入る。そして小便器の前で、俺はネイを、幼児に小便をさせるような格好へと抱え直した。服の裾は彼女の膝の上で止まり、太腿の間では、既に下着を脱いでいたのか、無毛の幼い縦筋が露になっている。
「きゃあっ!? ご、ご主人様……!? まさか、この格好で……!?」
「これ以外に選択肢がないだろう」
 公衆便所の屋根が見えるまですっかり失念していたのだが、仮にネイが普通に間に合って女子便所の方に入ったとしても彼女は使うことが出来ないのだ。
 こんなことならあの場でさせてやれば良かったと思うが、本当に後の祭りである。
「う、あ、ぁ……!」
 ネイは俺の手でMの字に足を開かれながらもしばらく耐えていたが、ややあって観念したかのようにひとつ息を吐き、
「ん、あ、あああぁ……!」
 どこか安堵の感じられる吐息と一緒に、しゃあああああ、とその縦筋から薄黄金色の小水を迸らせた。
 綺麗な弧を描いて縦長の小便器の中へと流れていく小水。股間に目を遣ると、出口が閉じた陰唇で遮られているせいか、尻の方へと少しだけ雫が垂れている。お節介かと思ったが、ここまでくれば後は同じだろうと思い、そっと縦筋を指で割り開いてやった。そうすると小水を迸らせる小さな尿道口が露になり、小水が描く弧がより綺麗なものになる。
「や、ご主人様、そんなぁ……! あぁ……!」
 弱々しい抗議の声をあえて黙殺する。ネイには悪いが、付き合っていたら俺の理性の方が持たなさそうだ。
 それほど、ネイのような綺麗で真面目そうな少女が腕の中で放尿をしているというのは、その異常さと相俟って興奮する光景だった。
「あ、うぅ……」
 やがて薄黄金色の弧は徐々に小さくなり、最後には少量の飛沫となって、ネイの恥ずかしい格好での放尿は終わりを告げた。
「……う、ぅ」
 湯気が出そうなぐらいに真っ赤になっているネイを抱いたまま、俺は片手でポケットからティッシュを取り出した。そこから二、三枚を抜き、ネイの股間へと押し当てる。
「ひゃ!? ご主人様、そんな、それぐらい、自分でっ……!」
「いいから」
「よくありませんってばぁ……! も、やだ、ごめんなさいぃ、許して下さいよぅ……!」
 ついには涙声になりだしたネイ。悪いと思いながらも俺の手は止まらない。縦筋を往復するように手を動かし、彼女の大事なところに残っている尿を余さず拭き取っていく。
 そろそろいいかと思い、指を離す。その時、つぅ、と明らかに水とは粘度の違うものがティッシュと彼女の縦筋の間で糸を引いた。
 ……気のせいだろう。うん。
 認めると俺の中の興奮がどうにもならなくなりそうだったので、俺はあえて見なかったことにした。


「――あ、お帰りなさいませ、ご主人様。 ……ネイ? どうしたの?」
 マンションの家に帰ると、つい一時間ほど前の出来事などなかったかのように、ごく普通にピアが出迎えてくれた。彼女の後半の台詞は、俺の背後で、自分よりも背の小さいノアの背中に隠れるという行動を取っているネイに対してのもの。
「いや、まあ、色々あって」
「色々、ですか?」
「まあ、あまり気にしないでくれ」
 玄関から中に入る。あれだけ室内にのたくっていた大量の蔦は跡形もなく片付いており、あんなことがあったとは今では露とも分からない。一体どうなっていたのか気になるところだが、流石にピアも話題にはしたくない様子なので聞かないでおこう。彼女のことだ。話したくなったら自分から話してくれるだろう。
 と、洗面所の方から裸身にタオル一枚だけを巻き付けた青の妖精と紫の妖精――シゥとヅィが姿を現した。
「ん、ご主人か。帰ってたのか」
「ただいま」
「湯浴みをしておったでな。出迎えれずにすまんの」
「いや、気にしないでくれ」
 多分、風呂に入っていたのは今朝の喧嘩と関係があるのだろう。
 その格好から分かるように湯上りらしく、まだ水分を多く含んでいて輝く髪や、湯気立つ赤みの差した肩、タオル一枚しか身に付けていないが故に露になっている身体のラインが何とも艶かしい。
「早朝の散歩で少なからず汗も掻いたじゃろう。悠も入ったらどうじゃ?」
「そうするか。二人はどうする?」
 振り向いて問うと、俺の視線から隠れるようにネイがノアの後ろに身を縮めて引っ込んだ。そんな彼女に横目で視線を送り、ノアは頷く。
「私はご一緒致します」
「ネイは?」
「わ、私は、その、結構、です。ご、ごめんなさい!」
 謝罪を述べた途端、ネイは、たっ、と俺やヅィ、シゥの傍を駆け抜けて、部屋の方へと逃げていった。
「……なんじゃ? 悠、主の方でも何かあったのかや?」
「あったと言えばあったが」
「……ま、よいがの。では後程な」
「ごゆっくりな、ご主人」
「ああ」
 ヅィとシゥは一瞬だけノアの方に視線を遣り――ノアは無言に無表情で首を横に振った。
 踵を返して去っていく二人の背中を見送って、俺とノアは揃って洗面所に入る。
「庇ってくれたのか?」
「何のお話でしょうか?」
 流石に公園での出来事を仔細に説明すれば呆れの言葉のひとつでも飛んでくるかと思ったが、ノアが白を切ったのでヅィは追求する気を亡くしたように思える。
 しかしそれを聞くとノアは、何のことか分からない、といったように小さく首を傾げた。
「まあ、いいか。ありがとうな」
「感謝は不要だと思われます」
 ノアの黒髪をひとつ撫で、風呂場の状態を確認する。
 湯を沸かしたばかりなのだろうか。もうもうと湯気が立っており、それなりの温度が保たれているのが分かる。事前にシゥとヅィの二人が入ったことを示すかのように、青と紫の長い髪の毛が湯船の縁に一本ずつ落ちているのが見えた。
「……」
「何か?」
「いや、何でもない」
 脳裏に、あの二人の残り湯、なんて発想が浮かび、瞬時に頭を振って追い出す。帰路で落ち着いたと思ったのだが、まだまだのようだ。
 ともかく服を脱ぐ。ノアは俺がアホなことを考えている間に脱衣を済ませ、その細く小さい裸身を隠すことなく浴室に入っていく。
「お先に失礼致します」
「ああ。入る前に軽く洗ってからな」
「了解」
 洗面器に湯を汲んで身体に掛け流し、次に陰部を流す。そうしてノアは湯船の中にちょこんと身を沈めた。
 俺も同じく、身体の次に陰部を。そうして湯船に入り、刺すような熱い湯の感覚にひとつ息を吐いた。
「ふう。熱くないか?」
「否定。身体を温めるには十分な温度であると思われます」
「そうか」
 横目でノアの身体を見る。
 ネイほどではないが、起伏の薄い身体だ。整った顔、中性的な声と相俟って、男物の服を着せれば一見で性別を判断するのは至難の業だろう。肩幅や肌のきめ細かさなど、他に判断する要素がないわけではないのだが。
 勿論、俺はノアがれっきとした女性であることを知っている。機械的な言動の裏には女性らしい思慮が存在すること。そして行為の時に小さく上げる可愛い声と、感じている顔。
 ……いや、しかし俺は何を考えているのだろう。
「何か?」
「いや、何でもない」
 横目で見ているに留めていたはずなのに、いつの間にか穴が開くほどにノアの身体を凝視している俺がいた。
 この前の風呂場でのノアとの行為が脳裏に思い出される。
 ……最近どうにも、自分が猿に戻りかけているのを自覚しつつある。彼女が出来たばかりの高校生じゃあるまいし、自重したくはあるのだが…… 日夜彼女達の行為が続いているせいだろうか。
「ひとつ質問があるのですが、宜しいでしょうか?」
「何だ?」
「ご主人様は、排尿行為に興味をお持ちなのですか?」
 あまりに直接的な物言いに、一瞬思考が停止する。
 いや。いやいやいや。確かに興味がないわけではないが。いや、しかし。
 だが、よくよく考えれば、ネイのあの時にノアは傍で俺と彼女のやり取りを見ていたわけで。その上で「興味がない」なんて白を切ってどうするのだろうか。
 それに――
 ちら、とノアの身体の、すらりと伸びた足の太腿の奥。そこに秘めやかに佇む縦筋に視線を向ける。
「――ああ、ないわけじゃない」
「そうなのですか」
「勿論、相手による。綺麗で可愛い女の子限定だ」
 正直に言って、流石に野郎は勘弁である。
「シゥやピア、ミゥのおしっこは見たことがあるんだが」
「そうなのですか」
 ノアの表情は変わらない。相変わらずの無表情。
 それが今はどうにも、俺という男に対して無警戒なだけに見える。
「ノアも見せてくれないか?」
 普通の女の子相手なら神経を疑われる言葉だ。
 だが今はネイのを直接目にしたからか無性に気になり、そしてノアの性格なら十中八九断らないだろうという予想が、俺の口からその言葉を吐き出させた。
 ノアは、やはり無表情に、
「了解」
 とはっきり言うと、湯船の浅い部分に下ろしていた腰を上げた。
「どのように致しましょうか?」
「じゃあ、そこに腰掛けてくれ。で、足を開いて」
 俺も湯船から上がり、洗い場の椅子に腰を下ろす。
 ノアに指示したのは湯船の縁。そこで彼女が足を開くと、その太腿の付け根にある縦筋が十分に見下ろせる。
「もっと足を広げて。片足を抱えるぐらいでいい。俺からよく見えるように」
「了解。これで宜しいですか?」
 ノアは羞恥心の欠片も見せずに、女の子にとって大事な部分を浴室の明かりに曝していく。
 片足を縁から下げ、もう片足を縁に乗せて膝を手で支えている格好。足の開き方はほぼ百八十度に達し、それでもぴたりと閉じた縦筋が幼さを感じさせると同時に背徳感を駆け上がらせ、とても扇情的だ。
「そんな感じ。出せる?」
「少々お待ち下さい」
 今から排泄行為を見せるというのに、やはりノアは無表情でそう答え、集中するように瞼を閉じた。
 しばしの静寂。ややあって、んっ、と小さく息を漏らし、
「――開始します」
 そう宣言すると同時に、ノアの放尿が始まった。
 しゃあああああ、と黄金色の飛沫が縦筋から噴き出て、やがて綺麗な弧を描き始める。
 床に落ちた小水は弾けながら水溜りを作り、そして小川となって排水溝へと流れていく。
「――よく、見えていますか?」
「ああ。綺麗だよ」
「そう、ですか」
 ノアの質問に答える。俺の視線に何か思うところがあったのか、その黒曜石の瞳に俺の姿を一瞬だけ映して、すぐにまた瞼を閉じた。
 ノアの小水はネイのものよりやや色が濃い。水分を摂取してから出すまでに時間が掛かったからだろうか。しかしあの独特の鼻を突く匂いはしない。そのせいか、むしろ小水よりも林檎のジュースのように見えた。
「ん……」
 数秒ほどあって、徐々に勢いが弱まってくる。
 弧はやがて再び飛沫になり、最後に少しだけ、ぷしっ、と噴き出して、ノアの放尿は終わった。
「お疲れ。綺麗にするぞ」
「了解」
 俺のそんな一言で、ノアは閉じようとしていた足を止める。
 小水の飛沫で濡れた縦筋に、俺は何を持つわけでもなく、ただ顔を近付けて、ぬっ、と舌を這わせた。
「っ」
 刺激を感じたのか、少しだけノアの身体が震えたのが分かる。
 彼女が反応してくれたのが嬉しくて、俺は柔らかいそこへ更に舌を這わせた。調子に乗っていたのは間違いない。
 舌に感じるのは、やや酸味のある甘み。仄かに甘い匂いと相俟って、まるで嫌悪感はしない。
「んっ」
 縦筋を上から下へ。下から上へ。表側の小水を舐め取って代わりにたっぷりと唾液を塗り付けたら、今度は縦筋の中へと舌を差し入れる。
 酸味が強くなる。縦筋を閉じて放尿した分、中に多く尿が残ってしまったのかもしれない。念入りに綺麗にしてやるつもりで、俺はそこを長々と舐め続けた。
 小さな尿道口をくすぐるように。俺のモノを受け入れている膣口を広げるように。上端にある小さなしこりを暴き出すように。
「っ、あっ」
 執拗な愛撫の結果、ついに小さな喘ぎ声をノアは漏らした。
 同時に、俺の後頭部に小さな手が押し当てられる。無言ではあるが、もっと、とせがむような意思を感じて、舌による愛撫を更に続けた。
「……っ、は、あ、んんっ」
 とろり、と膣口の奥から粘着質な甘い液体が流れてくる。それは俺が舌を動かすほどに溢れてきて、いくら舐め取っても綺麗にはならない。
「気持ちいい?」
「……は、い」
「綺麗にしてるだけなのに感じるなんて、いやらしい子だな」
「申し訳、ありません…… っ、あ、ふ、っ」
 少しだけ口を離し、ノアの顔を見る。
 無表情な顔には少しだけ赤みが差し、唇は僅かに開いて、そこから舌先が見え隠れしていた。
「っ、は、あ……」
 耳に届く吐息の音は少しだけ荒く、ノアが俺の舌にあそこを舐められて感じているのがよく分かった。
 不意に息を呑む音と共に、ノアの身体が、ふるり、とやや強く震える。
「あっ、っ…… ご主人、様…… っ、あ、イき、ます」
 小さな喘ぎ声が混じった宣言の後、ノアの身体がより強く、ぶるり、と震えた。
 舌先に感じる愛液の量が一気に増える。後頭部に添えられたノアの手に強い力が篭り、俺の口許が彼女の股間に強く押し付けられた。
「っ、あ、あぁ……」
 恍惚とした吐息。視線を上に動かすと、感極まった様子で口を半開きにし、瞼をやや強く閉じているノアの顔があった。
「は、あ」
 最後にひとつ大きな吐息を漏らして、ノアの手から俺の頭が解放された。俺の唾液とノア自身の愛液の混合液で濡れた彼女の縦筋から口許を離すと、頬を少しだけ紅潮させた無表情のノアと視線が合う。
「申し訳ありません」
「いや、気にするな」
 何かを謝罪する彼女に、その意味が分かっていないのに謝罪を遮る俺。
 俺はつい苦笑して、彼女はそれに首を傾げる。
「何か?」
「――いや、何でもない」


 後日。
 他の妖精達を抱いた時、俺の視線が彼女らの股間の縦筋に向く度に彼女らが何かを言いたそうにしていたのは、恐らく気のせいだろう。

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