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フィフニルの妖精達04「黒の空白」


「んー……」
 ひとつ唸って、目の前の物体を凝視する。
 机の上にあるのは一両の戦車だ。
 勿論、本物ではない。いわゆるプラモである。
「参ったな」
「何がだ?」
 背後――俺のベッドの上で寝転んで漫画を読んでいたはずの青い妖精――シゥが、いつの間にか傍に立っていた。
 ああ、と呟き彼女を抱き上げて机の上に乗せ、問題のモノを見せる。
「何だ、これ? 玩具か?」
「厳密に言うと玩具じゃないが。模型だよ。戦車っていう…… 兵器だな」
「ほー。で、何が参ったなんだ?」
「これだよ」
 俺は掌のモノを彼女に見せる。
 そこには、どういう訳か酷く歪曲してしまっている砲塔部分の部品があった。
「何だコレ」
「俺に聞かれてもな。ある意味一番重要な部分がこの状態とは」
 ふぅ、と一息吐いて不良部品を机の上に落とす。
「仕方ない。買ってくるか」
「急ぐのか?」
「ああ。学校の課題で使うからな」
 そう言うと、彼女は少し思い耽るような顔をして、
「なぁ。これの完成図か、図面あるか?」
「あるにはあるが」
「ならノアに頼んだ方が早い。ちょっと待っててくれ」
 そう言うなり、シゥは机から飛び降りて駆け出し、部屋を出て行ってしまった。
 ノアに頼んだ方が早い、という言葉の意味を掴み切れないまま、取り敢えず待つ。
 ややあって、シゥがノアを連れて部屋に戻ってきた。
 首元で切り揃えたショートの黒髪。無表情な整った顔と無感情な黒曜石の瞳。闇を封じ込めたような漆黒の帽子と外套。
 出会ってから数日。一分たりとも変わらぬ格好をしているノアは、突然連れて来られたにも関わらず、ただ無表情に俺を見上げた。
「ご主人、完成図か図面と、さっきの不良部品をノアに」
「あ、ああ」
 言われるまま、俺はプラモの取説と不良部品を渡した。
「どうだ?」
 それらを無表情に見つめるノアに、シゥが言う。
 ノアはすぐには答えず、取説を開いて中を眺め、ややあって口を開いた。
「可能です」
「よし。じゃあ頼む」
「了解。妖精工房に接続します」
 言うなりノアは取説と部品をシゥに預け、空いた両手を前に突き出した。
 同時、彼女の背中に闇色の燐光が発生。直後に収束して、烏のような羽が顕現する。
 それに続くようにして、突き出した両手の先に闇色の燐光が漂い始め、ややあって収束を始めた。
「製造を開始…… 完了。転送開始。転移門の開放まであと三十秒」
 機械的にそう呟くノア。
 呆然と彼女を眺めていると、得意げにシゥは語りだした。
「妖精工房ってのは、黒妖精専用の工廠だ。様々な精霊達が常駐してて、大雑把な情報さえあれば何でも作れる」
「何だかよく分からんが、凄いな」
「ノアの数少ない取り柄のひとつだからな」
 喋っている間にも、ノアの機械的なカウントダウンは進む。
「解放まで、残り五秒。四、三、二、一…… 転移門、開放」
 瞬間、彼女の両手の先に収束していた燐光が周囲に薄く散り、小さな輪を形作った。
 次いで輪の中心の空間が激しく歪み、虹色の靄のようなものが姿を現した。
 靄は徐々に正確な実体を成し――不意に闇色の輪が霧散すると同時、床に落ちて硬質な音を立てた。
 拾い上げると、それは確かに俺が先程まで作っていた戦車の砲塔の『正しい』部品だった。
「転送成功」
「すまんな、助かる」
 ノアは再び無表情に俺を見上げ――言葉を発する事なく部屋を出て行った。
 苦笑いを浮かべながら、俺はひとつ息を吐く。
「簡単な返事ひとつ貰えんとは。警戒されてるのかね」
「返事が貰いたいだけなら、何か命令してみるといいぜ。何を命令しても必ず『了解』か『肯定』もしくは『はい』って言うから」
「……断らないのか?」
「単に命令を断る返事を知らないだけだ。さっきのも同じで、あいつは『自分が感謝される』という事が分からないだけだよ」
「何故?」
「知りたいなら本人に聞けばいい。俺なんかに聞くより正確だ」
「ふむ……」
 まぁいいか、と呟いて、俺は机の前に戻る。
 今はこの戦車を完成させて、学校の課題に備える事の方が大切だ。


 気付けば夜になり、夕食を終えた俺はシャワーを浴びて部屋に戻って来た。
 見ればパソコンの電源が入っており、その前でノアが無表情にモニタを見つめていた。
 ここ最近はほぼ欠かさず見る事の出来る光景である。
「なぁ、ノア」
 俺は就寝着に着替えると、その小さな背中に向かって声を掛けた。
 返事こそ無いものの、すぐさまこちらを振り返るノア。
 相変わらず無表情なその顔を見て、俺は夕方にシゥに言われた事を実行してみる事にした。
「君のことについて、ちょっと教えてくれよ」
「了解。知りたい項目をお答え下さい」
 自分の事について聞かれたというのに、極めて事務的な反応を返す彼女。
 俺は少し戸惑いつつ、取り敢えず質問してみる事にした。
「そうだな…… じゃあ、君が教えてもいいと思った範囲内で、君の来歴とかを頼む」
「了解。世界標準暦二一五八年、八の月七つの夜にウルズワルド帝国第七工廠にて黒妖精計画の試作型として製造」
「ちょっと待て。製造ってどういう事だ?」
 いきなり待ったを掛ける俺に、やはり彼女は淡々と語る。
「フィフニルの大樹から生命力を抽出し、闇、時間、空間の精霊を掛け合わせた合成精霊にそれを植え付けます。その先は第七工廠第三級秘匿規定に抵触。回答不能」
「文字通り、作られたって事か」
 ミゥの話によれば、妖精はフィフニルの木から生まれてくるらしい。
 それは決して、今ノアが語ったような方法ではないはずだ。
「肯定。 ――続けます」
 特に気を悪くした様子もなく、彼女は言葉を紡ぐ。
「同年、九の月二の夜。構造上の欠陥により第一級指令によって封印指定。第七工廠倉庫に格納」
「構造上の…… 欠陥?」
「肯定。欠陥の詳細は第七工廠第一級秘匿規定に抵触。また内部記録なし。回答不能」
 続けます、と再び宣言し、彼女の来歴は続く。
「世界標準暦二八七七年、二の月九の夜。特別指令によって封印指定解除。また隷属拘束も同指令によって解除」
「……隷属拘束?」
「隷属拘束とは、三六ヶ条から成る最優先命令を指します。解説しますか?」
「いや、いい」
「了解、続けます。同日、同指令により、フィフニル族妖精五名を同胞指定」
「名前は?」
「シゥ・ブルード・ヴェイルシアス。
 ミゥ・グリーム・ウールズウェイズ。
 ヅィ・パルミゥル・ウルズワルド。
 ピア・ウィルトヴィフ・フィフニル。
 ネイ・レイドラース・ケイルディウス。
 以上五名です」
 なるほど、と呟く。
 聞きなれない長い名前になっているが、これが彼女達の本当の名前なのだろう。
 それにしても。
「七百年以上、その…… 第七工廠倉庫ってとこにいたのか?」
「肯定」
「誰か見に来たり、話しかけて来たりしなかったのか?」
「第七工廠倉庫内部は監視用妖工精霊が巡回しており、監督の必要はありませんでした」
「そうなのか……」
「お望みなら、封印指定に従い七百年間一歩たりとも動かなかった証拠として、視覚から記録した映像記憶を転送致しますが」
「いや、いい」
「了解」
 彼女の無感情な黒曜石の瞳を見つめ、思う。
 生まれが特殊だ、とシゥは言っていた。
 酷い国だった、とミゥは言っていた。
 そしてたった今、彼女の口から語られた来歴。
 恐らく彼女は非人道的な場所で生まれ、何も教えられぬまま七百年もの時間を孤独に消費してきたのだろう。
 確かに、こうなってしまっても仕方ないと言えた。
「続けます。同日、同指令により、存在意義の書き換えを実行。また同指令によりシゥ・ブルード・ヴェイルシアス、ピア・ウィルトヴィフ・フィフニルの両名に特別指揮権を移動」
「ふむ」
「同年同月十の夜、妖精工房への接続を確立。転送門第一級操作権を取得。同権によりウルズワルド帝国管轄下の次元移動神具『界の鏡』に割り込み操作を開始」
 界の鏡、というのは自然界と幻影界を繋ぐ門みたいな物なのだろう。
 俺の勝手な思考を他所に、ノアは続ける。
「同日、幻影界から自然界へと私を含む六名を転送。現在に至ります」
「分かった。ありがとう」
 礼を返しても、ノアはやはり無表情だ。
 何事も無かったかのようにパソコンのモニターに向き直り、作業を続ける。
 俺はふと、気になっていたが質問しなかった箇所を聞いてみる事にした。
「なぁ」
「はい」
「存在意義の書き換えって…… どう変わったんだ?」
 すると。
 ノアが一瞬、眉を歪ませたような気がした。
「……書き換え前は『ウルズワルド皇帝に全てを捧げる』でした。書き換え後は、理解不能」
「理解不能?」
「肯定。『存在意義を自分で探す事』です」
 なるほど、と思い、ここにはいない二人の顔を思い浮かべる。
 恐らく、全てが命令され、その内容をこなす為だけに作られたノアにとって、それは厳しい内容だ。
「それを理解するのも、彼女達の命令なんじゃないか」
「そう思うのですが、思考が堂々巡りしてしまう為に、未だに理解出来ていません」
「そう、か」
 情報を、知識を集め続けるノアを眺める。
 誰に強要された訳でもなく、自分から好んで実行している訳でもない、その本能。
 いつか彼女が笑い、怒り、泣き、楽しむ事の出来る――そんな妖精になれる日は来るのだろうか。
 そう思い、その小さな背中を眺め続ける俺。
 まさかその切っ掛けとなる出来事が近日中に起きようとは、この時点では思ってもいなかった。


 数日後。休日の昼過ぎ。
 ピア、シゥ、ネイの三人が私用で出掛け、家には俺とミゥ、ヅィとノアが残っていた。
 ヅィは「読書に集中するから部屋に篭る。しかし用事があれば遠慮なく呼び付けるが良い」と言って彼女達の部屋に閉じ篭った。
 ノアも読書に集中しているようで、居間の片隅で国語辞典と本を開き、熟読していた。
 特にする事の見当たらなかった俺とミゥは――
「っ、あ、あっ、あッ! ご主人様あッ!」
 ぐちゅぐちゅ、と彼女の胎に埋まった中指が重い水音を立てる。
 甘い悲鳴を上げ始めた彼女の唇を己の唇で塞ぎ、小さな口内を差し入れた舌で犯す。
「ふ、んッ、ん、んん……ッ!」
 舌を絡み合わせ唾液を混ぜ合わせていると、彼女の身体がびくりと痙攣し、脱力した。
 唇を離し、指を彼女の胎から抜き取る。
「もう二回目か。淫乱な娘だな、ミゥは」
「だって…… ご主人様の指、気持ちいいんですぅ……」
 淫蕩に身体を染めて、もっと、と俺の愛撫を強請るミゥ。
 彼女と初めて身体を交わしてから、もう三回目の情事になる。
 薬の所為とはいえ最初に強い快感を覚えたのが引き金になったのか、ミゥは二人きりになれる時間を見付けては俺を求めてくるようになった。
 元々こちらの素質があったのか、もう既に薬の助けを得ずとも、その小さな胎に俺のモノを受け入れて快感を得るまでになっている。
「あ…… ご主人様のおちんちん、凄い……」
 彼女の痴態に勃起したモノの先端で彼女の尻を撫でると、彼女はぶるりと身震いして歓喜の吐息を漏らした。
 その仕草が何とも可愛くて、つい彼女に問う。
「欲しいか?」
「うん……」
「うん、じゃ何が欲しいのか分からないぞ」
「ご主人様の、おちんちんで…… ボクの大事なところ、犯してください……!」
「まったく、仕方ないな」
 彼女の腰を片手で掴み、愛液に塗れた縦筋に亀頭を合わせる。
 軽く押し付けると、くちゅりという軽い水音を立て、彼女のそこが花開いた。
「いくぞ」
 彼女の返事を待たずに、モノを彼女の縦筋に押し込む。
「ひ、あ、あああっ、あッ!」
 肉を割くように彼女の胎を貫く。
 締め付けこそ凄まじいが、ここまでの愛撫で十分にほぐれた彼女のそこは容易に規格外の俺のモノを受け入れた。
 モノの三分の二が埋まったところで、亀頭が子宮を叩く。
 瞬間、彼女の身体が再び痙攣した。
「っ、あ……っ!」
「挿れただけでイクなよ」
「あ、ふ……」
 僅かに膨れ上がった下腹を掻き抱いて、虚ろな返事を返すミゥ。
 目の焦点は合わず、口の端から涎を垂らして。
 そんな姿を可愛いと思いながら、俺は涎を拭ってやると再び彼女に口付けた。
「んんっ……」
 舌を差し入れると、必死に小さな舌を絡み合わせてくる。
 舌の動きに合わせて胎を締め付けてくる様は、まるで淫靡な楽器のようだ。
「動くぞ」
「ふぁい……」
 最初は彼女を気遣いながらゆっくりと。
 断続的な喘ぎを上げて鳴く彼女の頭を撫でながら、徐々に腰の動きを早める。
「あっ、あっ、あッ……! ご主人様ぁっ、ボク、おかしく……っ!」
「遠慮するな、ほら」
「あっ、ああッ! ――っ、あああああぁぁぁぁッ!」
 俺の胸にしがみ付き、尾を引く嬌声を上げながら四回目の絶頂に達するミゥ。
 ぎちぎち、とモノを締め付ける胎に、俺も我慢していたものを解き放った。
「あっ、あ…… ご主人様の、あつい……」
 身震いしながら呆けた声で呟く彼女。
 脈動と共に、白濁液が彼女の狭い子宮を満たしていく。
 俺は十分な充足を得ながら、ただ彼女の頭を撫で続けた。
「良かったか?」
「は…… あぅ……」
 まともな返事は期待出来ないと知ってはいるが、そう声を掛ける。
 一抱えしかない小さな身体全体を上気させ、蕩けた目をしている彼女は可愛いの一言に尽きる。
 こう言っては失礼かもしれないが…… 小動物を愛でる、あの病的な感覚に近い。
 彼女の胎にモノを挿入したまま、彼女が戻ってくるまで待つ。
 おおよそ、一分ほど。
 鳶色の瞳に光が戻り始めたのを見て、俺は彼女に口付けた。
「ん……」
 小さな口内に舌を差し込むと、つい数日前までは男を知らぬ生娘だったとは思えぬほどに舌を絡ませてくる。
 俺の唾液を彼女の中に流し込み、流れ込んでくる彼女の唾液を嚥下する。
 何度味わっても、彼女の唾液は本気で甘いと感じる。
 花の蜜のような――そんな甘い味なのだ。
「ん、ふ…… ご主人様、大好きです」
「ああ、俺もだ」
 どちらともなく唇を離し、そう囁き合う。
 眩しい微笑みを浮かべる彼女に、釣られて笑みを返す。
 ――瞬間、ミゥはちらりと部屋の扉に視線を送った。
「どうした?」
「……いえ、何でもないですー」
 小さく笑って、俺に向き直る彼女。
 そうか、と俺は呟いて、彼女の頭を撫でていた手を滑らせた。
 鎖骨や背骨を確かめるように背中を撫で、その小さな尻を片手で包む。
 軽く揉んでやると、すぐにミゥはまた鼻にかかった声を上げた。
「あふ、ん…… 次はー、そっちですかー……?」
「どうしよう、かね」
 言いながら、彼女の尻穴の周囲を撫で回す。
 それだけで彼女の排泄穴は性器として反応し、緩く開きながら腸液を滲ませる。
「本当にいやらしい娘だな…… お尻で気持ち良くなるなんて」
「あう…… 言わないでくださいよー…… ひ、ぅ!」
 言いながら、中指を菊門の中に差し込む。
 直腸を押し広げると、すぐ傍に俺のモノの感触がある。
 俺のモノと指で軽く腸壁を圧迫すると、彼女は声を震わせて反応する。
「っ、あ、あっ、あッ…… ご主人様っ、うあっ」
 中指を根元まで差込み、奥を掻き回す。
 膣とは違う感触を楽しみながら、ただひたすらに彼女を奏でる。
「あっ、っひ、ご主人様ッ、ボクのお尻、どんどんおかしくなるっ……!」
「まだまだ。俺のモノが入ったんだ。指ぐらいじゃ物足りないだろ?」
 涙目になりながら、俺の胸板に額を押し付けるミゥ。
 頃合を見計らって、勢いよく中指を抜く。
 瞬間、彼女は声にならない悲鳴を上げて脱力した。
 モノに掛かる彼女の体重が増し、ぐちゅりと濡れた音を立てる。
 荒い息を吐いて俺に全身を預ける彼女に満足し――
「……誰だ?」
 扉の方から聞こえた小さな音に、俺はそう呼び掛けた。
 途端、確かに感じた気配が、すぅ、と溶けるように消える。
 首を傾げていると、ミゥがくすりと笑った。
「多分、ノアじゃないでしょーか」
「ノアが?」
「ノアは、気配を誤魔化す能力がありますから。ヅィは苦手なんですよー、そういうの」
「そうなのか……」
「ふふ……」
 小さく笑いながら俺の胸板に背を預け、モノと精液が入りっぱなしの下腹を撫でるミゥ。
 彼女の笑みに言いようのない不安を覚えつつ、俺はその頭を撫で続けた。


 そして、夜。
 帰ってきた三人を出迎えて、俺はその足でノアの元へ向かった。
 昼間の訪問について話を聞く為だ。
「ノア、いるか?」
 彼女達の部屋の扉をノックすると、間髪入れずに、肯定、という返事が返ってきた。
 やや対処に困りながら、開けていいだろうという判断を下して扉を開く。
「ノア、ちょっと――」
 いいか、と言いつつ部屋に入った俺の視界に映ったのは、異様な光景だった。
 ノアがいる。部屋の右奥、彼女のベッドの上。
 しかしその格好が、外套の前を開き、下着をずらし、あるいは脱ぎ置いていた。
 そしてその手は、露出した乳房や秘所に添えられている。
「……何、やってるんだ?」
 それなりに混乱した頭から何とかそれだけの言葉を引き出し、放つ。
 いや、勿論、想像が付かない訳ではない。自慰、あるいはオナニーと呼ばれる行為だ。
 ただ、彼女の性格には似合わない行為であるし、もしかすると何か別の意味があるのかもしれない。
 そう思って聞いたのだが――彼女はいつも通りの無表情で俺の予想通りの答えを放った。
「自慰、あるいはオナニーと呼ばれる行為です。主に単独で性欲を処理する為に行うのだそうですが」
「……いや、それは知ってるが」
「用事でしたら少々お待ち下さい。もう少しで終了致します」
 そう言って、自らの指で小振りな乳房や無毛の秘所を刺激するノア。
 だが、その動きはどう見ても下手くそだ。とても快感を得られているとは思えない。
 その証拠に、時折彼女の眉がぴくりと動く。恐らく、痛いのだろう。
「これも情報収集の一環なのか?」
「肯定」
 俺は深々と息を吐く。
 どうやら、あまり他人に見せるものではないという情報は手に入らなかったらしい。
「敢えて聞くが…… どうだ?」
「収集した情報とは異なります。快感よりも苦痛の方が多いです」
 傍目から見ても、彼女のそれはただ刺激しているだけだ。
 彼女自身が全く興奮していない状態では、快感を感じる余地は無いだろう。
「俺が思うに、ノア。君が下手なだけなんじゃないか」
「方法についての情報は得ましたが」
「それだけで上手い下手が分かれる訳じゃないんだよ、この行為は」
「どういう意味でしょうか」
 そう問われ、俺は答えに詰まる。
 ミゥと身体を重ねて分かった事の一つだが、どうやら彼女達には多少の好き嫌いはあれど、恋や愛という概念があまりないようだ。
 そして同時に性欲も薄いような気がする。
 そんな相手にどうやって自慰の意義を説明しようか悩む。
「……そうだな。気持ちよく、心地よくなりたい、と思いながらやるといいかもな」
「気持ちよく、心地よく、ですか」
 少し考えて、快楽を得る為という目的を取り敢えずは教えておく。
 想い人と肌を重ねる事を想像して、というのはノアには厳しいだろう。
 そんな事を考えていると、彼女は一つ頷いてとんでもない事を言い出した。
「了解。実践しますので、動作の面で問題があればご指摘願います」
「……あー、分かったよ」
「では」
 言って、彼女は再び指を動かし始めた。
 乳房を撫で、揉み、乳首を転がす。同時に陰門を撫で、割り開き、中を探る。
 先程よりは多少マシになった感じがするが、それでもまだ荒っぽい。
 自慰なのに、自分を気に掛けているという気配がまるでないのだ。
 じれったくなって、俺は思わず彼女の手を取った。
「動きが全然駄目だ。ほら、こっちに座れ」
「了解」
 彼女を俺の胡坐の上に座らせ、彼女の手に添える形で彼女の乳房や秘所に触れる。
 先程の様子からして、自慰をしてみた回数はそう多くないだろう。
 まずは優しく。ほとんど撫で回すだけの愛撫を続ける。
「ん……」
 撫で続ける事によって熱を帯び始めたそこを、今度は軽く揉む。
 彼女の頬が僅かに赤く染まっているのを見て、俺は簡単に声を掛ける。
「心地いいか?」
「肯定、です」
 こちらを見上げてきた彼女を安心させる為に小さく微笑み、ミゥによくしているように頭を撫でる。
 すると彼女は小さく息を吐き、俺の身体に大きく重心を預けてきた。
「俺がやったように自分で続けてみろ。ゆっくりな」
「了解……」
 彼女の小さな手を離し、自由にさせる。
 俺の動きをなぞる様に、一部の乱れもなく的確に指を動かしていく。
「単調な動きじゃなく、自分が気持ちいいと思った場所を探すんだ」
「了、解」
 自身の手で乳房を揉み、陰門を撫で続ける。
 ややあって、無表情だった彼女の顔が僅かに歪み始めた。
 それに釣られるように息も僅かに荒くなる。
「ん……」
 鼻に掛かった声が漏れると同時、彼女の指が縦筋に沈み、くちゅりと小さな水音を立てた。
 びくり、と身体を痙攣させ、しかし水音を立てるのを止めようとはしない。
 俺は無言で、胸を揉む彼女の手を取り、縦筋を弄る手の傍へ誘導する。
 その指を操り、縦筋を開かせる。彼女の女が露わになり、弄っていた指が更に沈んだ。
 ぐちゅ、と重い水音が響く。
「ん、あ、あ……」
 普段からは想像出来ない甘く切ない声を上げ、下を弄るのに夢中になっている彼女。
 不安そうに俺を見上げる視線を受けて、俺はその頭を撫でていた手を下に降ろし始めた。
 彼女の顔全体を確かめる様に通り過ぎ、首元を覆いながら鎖骨を撫でる。
 指先が彼女の乳房を捉え、柔らかい感触が伝わってくる。
「ん、っ」
 存在を主張している小さな乳首を指の腹で潰すように軽く転がすと、痛いような気持ちいいような声を上げる彼女。
 指二本で乳房を挟み、やや強めに揉み解す。
 ピアやミゥほどに大きくはないものの、十分に揉み応えはあるし、肌触りも非常にいい。
 身体の造形だけが成熟した幼女を犯しているような罪悪感にさえ耐える事が出来れば、彼女達は女として間違いなく極上の部類に入る。
 そんなどうでもいい事を考えている間に、ノアは絶頂に達しようとしていた。
 眉を激しく歪ませ、目を強く瞑って。
 縦筋を弄る指はいつの間にか二本に増え、断続的に水音を立てている。
「っ、あ…… ん、ああ、あっ……!」
「ノア、気持ちいいか?」
「っあ、肯定、です…… っ、あ!」
 彼女の身体が一際強く震える。
 限界が近いと見て、俺は彼女の乳房を強く揉みながら囁いた。
「何か来ないか?」
「あ、っ、はい、来ます…… なにかが、来る……!」
「それがイクってことだ」
「あっ、は、はいっ、いく、イきますッ……!」
 そう宣言した瞬間、彼女の背筋が反り、がくりと脱力した。
 戸惑っているような表情で荒い息を吐き。
 二本の指を縦筋に突き立てたまま、絶頂の余韻を確かめる彼女。
 その頭を再び撫でてやると、彼女は俺の膝の上にゆっくりと身を横たえた。


「――情報収集にご協力頂き、感謝致します」
 乱れた身なりを整えると、ノアはそう言って一礼した。
 その表情は相変わらずの無表情だったが、彼女の痴態を見た後ではまた別のモノを含んでいるように見えるからおかしなものだ。
「礼を言われる事じゃない。それに」
「はい」
「これは人前でやる行為じゃない。それだけは覚えておいた方がいい」
「了解」
 苦笑しながら警告したが、彼女は顔色一つ変えずに頷いた。
 つい先程の事も警告の範疇に入ると、彼女は気付いているのだろうか?
「先程の御用事とは何でしたでしょうか?」
「ああ、何故俺とミゥのアレを覗いていたのかな、とな。よく考えたら、情報収集以外ないよな」
 何故、覗いているのがノアだと分かった時点でそこに思い至らなかったのか自分でも不思議ではあるが。
「肯定。何分、出来合いの行為では分からない事もありますので」
「分かった。でも断りなく覗かれるのは好きじゃない」
「失礼致しました」
 ノアが頭を下げるのを見て、踵を返す。
 ドアノブに手を掛け、扉を開き――
「では―― 事前に断れば見学しても宜しいのですか?」
「ん?」
 背中にそう声を掛けられて、振り向いた。
 視線の先にある彼女の無表情な顔が、何故か好奇心に満ち溢れているような気がして――
「あー…… 構わない、んじゃないか」
 思わずそう答えてしまった。
「ありがとうございます」
「あ、ああ」
 彼女の一礼に見送られて部屋を出る。
 俺は先程のやり取りに苦笑しつつ。
 彼女が普通に笑ったり泣いたり出来るようになるのは、そう遠くない出来事かもしれない。
 ――そう、考えていた。

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