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Hallow's End

 2009年ハロウィン記念作。
 脈絡もなく尻。








 時は十月三十一日、夕方。
 広瀬・武人は近日、すっかり暗くなった会社の帰り道を一人でゆっくりと歩いていた。
 まあ、暗くなったと言ってもこの帰り道は繁華街であるため、周囲は騒がしく明るい。
「明日でもう十一月か…… 今年も結局、彼女は出来そうにないな」
 誰にともなくそう呟く武人。その視線は、道路を挟んだ向こう側を歩く、武人と同じサラリーマンで年齢層も同等の男が右手に見目麗しい女性の肩を抱きながら歩いている様子に向けられていた。
 まだ若く背が高く太ってもおらず顔も悪くなく、運動神経も頭もそれなりで、他人からの評判も悪くない。そんな武人の密かな悩みは、彼の人生の二十六年の間一度も女性関係がないことだ。
 正確に言えば、言い寄ってくる女性はいた。しかし武人はそれらの告白を「ごめん」の一言で断っていた。
 その理由をはっきり言うと、武人の好みではなかったから、だ。この男はある意味時代錯誤とも言える、お互いに付き合いたいと思える人と付き合うのが道理、という想いを持って彼女探しをしている。
 武人が付き合いたいと思っていても相手がそうでなければ駄目。相手が武人と付き合いたいと思っていても武人がそうでなければ駄目。
 そんな男に彼女が容易に出来る訳もない。
 第一、時間を掛けて付き合ってみないとお互いの本当にいい所など気付ける訳もなく。そこのところに武人は気付いていなかった。
「まあ、じっくり探すとするか…… ん?」
 視界の端から男と女の姿が消え、視線を前に戻した武人はある異様なものが行く手に鎮座していることに気付いた。
 それは、巨大なカボチャ。
 アメリカの方などで見かける外皮がオレンジ色のもので、大きさは大の男が二人かがりでやっと持ち上げられるぐらいだろうか。外皮の一部が三角形にいくつか切り取られ、それが顔のようにも見える。中身は全てくり抜かれ、代わりに明かりが入っているようだ。
 というか、そういう風なランタンである。見れば、その巨大なカボチャランプが置いてあるのは自営らしき飲食店の前。
「そう言えば、今日はハロウィンか。オーナーが外国の人なのかな?」
 長い一人暮らしの生活ですっかり癖になった独り言を呟きながら、武人はカボチャを避けて通り、
 どん、と何かが腰に当たる衝撃があった。
 よく見れば、それは極端に背の低い老婆だった。相当に歳を召しているのか、身長は一メートルあるかないか。
 格好はこの市街地にある繁華街に来る人間としてはあまりない、まるで昭和時代に農作業をしていて、そのままタイムスリップをして出てきたような田舎っぽい服装だった。
 そんな老婆が地面に腰をつき、目を見開いて武人を見ている。
「あ、だ、大丈夫ですか?」
 自分が何をしたか察して、武人は慌てて老婆を助け起こそうとした。
 しかしそれよりも早く、老婆は自力で起き上がって、武人のスーツの裾を掴んだ。
 そして叫ぶ。
「あ、あんた、恐ろしいものがついとるぞ……!」
「え、は?」
 老婆にそう言われて、武人は思わず自分の身体を見下ろす。
 会社帰りの、僅かによれたスーツ。そこに付いているものと言えば、裾に掴みかかる老婆ぐらいのもの。
 そこで彼はふと気付いた。
 付いている、ではなく、憑いている、ということに。
「ちょっと、お婆さん。妙なこと言わないで下さいよ」
「いいや、わしには見えるのじゃ! これを持て、これを!」
 周囲の視線が徐々に集まり始める中、老婆は手に握り締めた何かを武人に押し付けた。思わず武人が受け取ると、老婆は逃げるように早々と立ち去っていく。
「ちょ、ちょっと!? お婆さん!?」
「いいか、絶対にそれを手放すでないぞ!」
 言って、老婆は視線を集めながらも人込みの中に消えていった。あの身長の低さである。見つけ出すのは容易ではないだろう。
 ひとつ息を吐いて、武人は手の中のものを見つめる。
 老婆から手渡されたそれは、どう見ても半解けの蝋燭だった。やたら太いそれは、元は長くもあったのだろう。根元と先端の方で蝋が太く流れ固まっていて、今では手の中に納まるほどの小ささになっている。
「……手放すな、って言われてもなあ」
 武人はまたひとつ息を吐いて、再び帰路を歩き始める。
 その背後で、カボチャのランタンが目や口の中から光を漏らしながら笑っていた。


「ただいまー」
 と言っても答える声はない。
 武人がようやく自分の家――比較的新しいマンションの一室に帰り着く頃には、丁度夕餉の時間となっていた。
 スーツを脱いでハンガーに掛けながら、武人は今日の晩御飯をどうするか考える。武人は自炊派なので、食材は日持ちする物からそうでないものまで豊富にあった。だが、今日は外食でもいいかもしれない。
 そんなことを考えながら、武人はスーツを脱いで私服に着替える最中、結局あれからずっと手にしていた蝋燭のことを思い出した。
「手放すな、って言われてもな……」
 見知らぬ人から無理やり受け取ったものなど、気味が悪いのは当然である。蝋燭という消耗品であるだけマシかも知れなかったが。
 ともかく武人は衣装棚の上に置いてあったガラスの灰皿にそれを置く。武人は煙草を吸わないが、灰皿は何かと役に立つこともある便利な品だ。
 と、そこで丁度、玄関の扉をとんとん、と叩く音がした。
「あ、はーい」
 この時間に来客とは珍しい、と思いながら、武人は手早く着替えを済ませて玄関の前に立つ。
 一応、覗き穴で客の姿を確認する。
 が、何も見えない。
「ありゃ?」
 おかしいな、と思いつつ――武人は扉を開けてしまった。
 瞬間、目の前に広がっていた光景を武人は永遠に忘れないだろう。

 緑色の炎を纏って爛々と燃えるオレンジ色のカボチャを頭に被り、光の反射ひとつない黒い外套で首の下から全部を被った、性別の分からない十代前半ぐらいの子供と、
 その左隣で小さく嘶きを上げる、緑と橙色の炎を全身に纏い、その四脚の蹄の部分だけが真っ赤な炎で包まれた黒馬、
 右隣にある、どす黒い赤色の液体をなみなみと湛えた銅色のタライ。
 それらがマンションの通路にある光景を。

「――え?」
 たっぷり二秒ぐらい時間を掛けて、何とかその呟きひとつを武人が喉から搾り出した瞬間。
「Trick or Threat?」
 鈴の音が鳴るような可愛らしい声で、カボチャ子供が言った。そのカボチャにある外皮を切り取って作られた口から緑色の炎を僅かに零しながら。
「は、え?」
「――お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞ、ですよ。最近の人間はそんなことも知らないのですか?」
 小馬鹿にしている台詞とは裏腹に、楽しそうな声でそう武人に教えるカボチャ子供。
 それに同調するように隣の黒馬がひひん、と小さく嘶く光景はどこまでも非現実的だった。
「え、えーっと、ちょっと待ってて!」
 武人は慌てて部屋の中に駆け戻ると、すぐさま部屋の中をざっと見回した。次に冷蔵庫の中。だが、お菓子に相当するものは一切見当たらない。それが分かると、武人は再び玄関に駆け戻った。
 その姿はまるで、借金取りが急に訪ねてきて、金を部屋の中からかき集めようとする姿に似ていた。
「ご、ごめん。君にあげられそうなものはない、かな」
 小さく頭を下げながらそうカボチャ子供に謝る武人。客観的に考えると、非現実的な光景に突っ込みを入れるか、あるいは玄関を閉じて施錠してしまうべきだと思うかも知れないが、実際にこの光景に訪問されたらそれらの行動は無理であろう。
「そうですか」
 カボチャ子供は武人の言葉に全く残念そうな様子なくそう言って、
「じゃあ、イタズラですね」
 と、笑みを零しそうな声で言った。実際に漏れたのは呼気のような緑色の炎だったが。
「い、悪戯って、何を?」
「さし当たっては、これを貴方の部屋に」
 言いながらカボチャ子供が指差したのは、その右隣にあるタライ。
 武人が思わず視線を向けると、その瞬間に鼻を撫でる刺激臭があった。腐った鉄のような臭いは、そのどす黒い赤色とあいまって、まるで腐った血液のよう。
「これを?」
「勿論、ぶち撒きます」
「い、いやいや」
 勿論、そんなことをされてはたまったものではない。
 臭いのきつさからして染み付くであろうし、そうなればマンション故にとんでもないことになる。
「嫌ですか」
「……勿論」
「んー、じゃあ仕方ありませんね。お菓子の代わりに精々もてなして下さい」
 カボチャ子供はそう言うと、武人が止める間もなく真横を素通りして遠慮なく部屋の中へと入っていく。
「ちょ、ちょっと!」
「ぶち撒かれたいんですか?」
「いや、その、そうじゃなくて!」
 武人はちらと玄関先に視線をやる。
 そこには変わらず、燃え盛る黒馬と血液を湛えたタライが鎮座していた。いくらなんでも、あれをあのままにしておくことは出来ない。
 それを目線からカボチャ子供も察したのか、すっと外套から浮き上がるように右手を挙げて、ぱちん、と鳴らした。
 途端、黒馬もタライも緑色の炎に包まれて、忽然と消える。
「これでいいでしょう?」
 そう自慢げに言うカボチャ子供に、武人は思わず肩を落とすのだった。


 ずず、とお茶を啜る音が小さな居間に響く。
「ご馳走様でした」
 そう宣って湯飲みをテーブルに置いたカボチャは、次いでしげしげと室内を見回し、
「一人身にしては小綺麗ですね。彼女さんはいらっしゃるんですか?」
「……ほっといてくれ」
 まだまだ帰らないぞ、とばかりに色々と話をし始めた。
「いらっしゃらないんですか。顔も体格も悪くないのに、勿体無い。選り好みとかしてませんか?」
「僕にも色々思うところはあるんだよ」
 図星を指されてついつい答えながらも、武人はそれとなくカボチャの顔を見る。
 少なくとも、目の前の少年だか少女だか分からない存在が人間じゃないことは確かだ。
 緑色の炎に包まれて爛々と燃えるオレンジ色のカボチャは近寄るとうっすらと熱い確かな熱気があり、何かの単なる演出ではないことは間違いない。
 また、その外皮に空いている簡単な目や口は変化こそしないものの、その奥に緑の炎と小さな金色の光が輝き、それが僅かに表情や感情を表していることが分かる。
 結論から言って、これは被り物ではなく、正真正銘この人物の頭部なのだ。
「顔に出てますよ。いけませんね、そんなことでは。男らしくない」
「……君に言われる筋合いはないと思うよ」
「いえ? ちょっとは関係ありますよ」
 カボチャの何と関係があるのだろうか。
 思わず突っ込みたくなって、しかし武人は済んでのところで自分の言葉を飲み込んだ。
 今やるべきことは、このカボチャに穏便にお帰り頂いて、何事もなく平穏を勝ち取ることだ。
 その願いが通じたのか、カボチャは、さて、とわざとらしく呟いて席を立つと、
「じゃあ、最後に――」
 まだ何かあるのか。そう武人が思った矢先に、カボチャは最後の要求を告げた。
「――精液を頂きますね」
「へ?」
 言われたことの理解が遅れ、武人が生返事を返した瞬間。
 カボチャの口から緑色の吐息が猛烈に噴出した。
「え、うわ!? 何っ……げほっ、ごほっ!」
 対面していただけに、まともに緑色の息を浴びる武人。途端、息が詰まるような感覚を覚え、激しく咳き込んでしまう。
「げほっ、けほっ、何を」
「すぐに分かりますよ」
「何…… あ、れ?」
 武人の身体がゆっくりと横に倒れる。そこで初めて、彼は自分の四肢にまったく力が入らないことに気付いた。
「人間は本当に耐性がありませんね」
「なっ、ちょっ、何を――」
「毒ですよ。神経毒。ピンポイントに手足だけ動かなくなる不殺用のものなので、安心してもらっていいですよ」
 カボチャが倒れた武人にゆっくりと歩み寄り、その胴を跨ぐ。そうしてカボチャは緑の炎の呼気を楽しそうに漏らしながら、
「では、失礼しますね」
 言って、カボチャは武人の太腿の上に腰を下ろした。そして外套の黒から浮き上がるように出現させた陶磁器のような色白の華奢な両手で、彼のジーンズに手を掛ける。
「ちょっ、ちょっと、何を!?」
「だから言ったじゃないですか。精液が欲しいんです。いい糧になりますから」
 そんなことを言っている間に、カボチャは手早くジーンズを下ろし、その奥のトランクスを下げる。
 ほぼ同時に、股間部に冷たい手が入ってくることに武人は呻き声を上げた。
「まだ柔らかいですね」
「当たり前だって……!」
「仕方ありませんので、これで」
 カボチャはその手で露にした武人のまだ柔らかい男性器へ、また緑の吐息を吐き掛ける。
 するとたちまちに武人の男性器は勃起し始め、瞬く間に屹立しえらを張って立派なものになった。
「う、うわ……!?」
「ふむ、結構大きいですね。私の中に入るかな」
 突然、自分の感覚下を離れるように勃起した愚息に驚きの声を上げる武人。それを手で触れながら眺め、感想を漏らしたカボチャは片手を戻して懐を探る。次に手を出した時には未使用のコンドームを摘んでいた。
 カボチャは妙に手馴れた様子でその小さな袋の封を口で千切り開け、コンドームを武人の肉棒に被せていく。小さな子供の手でそんなことをされることに、武人は背筋を走るような背徳感を覚えた。
「なんで、そんなものを」
「二つの意味で汚いからですよ。では、頂きますね」
 質問に手短に答えると、カボチャは外套の前を開いた。
 露になったのは、その身長と手の小ささに見合った子供の裸。僅かに膨らんだ胸と、一本の割れ目以外にはつるりとして何もない股間だけがカボチャが女性であることを主張している。
 武人の腹に両手をついて、カボチャ少女は腰を上げた。そのまま身体を前に動かして、武人の肉棒の上に腰を移動させる。
 そしていきなり下ろした。
「っっ」
「う、わ……!?」
 ぐにゅぷ、と文字にすれば陳腐な感覚があって、武人の愚息は暖かな肉の中にぎちりと収まった。
 カボチャ少女の肉は見た目通りの体格故のきつさで、ぎちぎちと武人の肉棒を刺激してくる。
「っ、は、んっ、大きい、ですね。壊れ、ちゃいそう、です」
「っ、うあ、ちょっ、ちょっと……!」
 ぐちぐち、とカボチャ少女は慌てる武人にお構いなく腰を上下させる。
 苦しげな吐息とは裏腹に、声の調子には快感が混じっている。これで顔がカボチャでなければ、と武人が思ったかどうかは定かではない。
「っふ、そんなにっ、慌てて…… 童貞です、か?」
「っっ、悪いかっ」
「いえいえ。私も、挿れるのはっ、初めてです、から」
「――え?」
 カボチャ少女の言葉に、思わず武人は自分の耳を疑う。
 先程までの手馴れた様子からして、このカボチャ少女は今まで幾度もこういった形で男を襲ってきたのだろうと武人は思っていた。
 それなのに処女――? 頭が急激に冷えるような感覚があって、武人は状況を一瞬忘れ、己と少女の結合部に視線を向けた。
 そこで武人は異変に気付いた。
 カボチャ少女の股間部にあるつるりとした割れ目は神妙な佇まいのまま、ただ透明な汁を滲ませているだけだということに。
 つまり、武人とカボチャの少女は今――
「え、あ、お尻――?」
「そう、ですよ? 私は、お兄さんと、お尻で――アナルセックスしてるっ、です」
 ふふ、とその口から緑炎の吐息を零してカボチャ少女は笑い、さらに腰を動かす。
「え、ちょっ、そんな、大丈夫っ、くうっ!?」
「ふ、あうっ、は、だから、汚いって言ったじゃない、ですか。そのためにスキンも、被せた、んっ、ですから。今更あれこれ言うなんて、男らしくないです、よ。楽しみましょう? 童貞と、処女の、アナルセックス……あ、くうっ!」
 武人が何かを言おうとすると、カボチャ少女は括約筋を思い切り締めて肉棒を扱く。その動きはこの行為が初めてとはとても思えない習熟度だった。
 事前に幾度もバイブやディルドといった無機質な逸物を咥え込んで訓練していたのだろう。またそうでなければ、このような小さい少女の尻の穴にいきなり武人の、一般の平均と比べて大きい男根が入るわけがない。
「あっ、くっ、いいですよ、お兄さんのおちんぽ。凄く太くて長くて、今までのどんな玩具より、凄いです」
「っ、く……!」
「こんなのがあれば、大抵の女性とは、よろしくお付き合い出来るんじゃないです、か?」
「うっ、るさい……! 女性が君のようなのばっかりとは、限らないだろっ」
「あは、それも、そうですね……! っく、あ、おっ、私は、取り敢えず気に入りましたよ、お兄さんのおちんぽ……! ふふ、私にとっての、初おちんぽっていう、補正もあるかもしれませんけど、ね」
 男性器を指す淫語を、鈴が鳴るような声で連呼するカボチャ少女。そしてそんな少女と尻穴で繋がっているという普通でない交わり。
 それらがもたらす背徳感に、武人の背が震える。
「あっ、お、くっ、今、びくって来ましたね。私のアナル、気持ちいいですか?」
「くっ……!」
「答えて、んっ、くださいよ。私は、お兄さんのおちんぽのえらが、直腸を無理やり広げて、こすってっ、凄くいいですっ。ほら、お兄さんはどうなんですか?」
「……いいよっ、凄くいい! 肉が絡んできて、今にも出そうだっ!」
 開けっ広げに自分の感触を聞いてくるカボチャ少女に、武人は自分も猛りの赴くままに答えた。
 その答えを聞いて、カボチャ少女はまた口から緑炎の吐息を漏らす。同時にぎゅう、と肛肉が一際強く締まった感覚を武人は覚えた。
「あ、は。私も、そろそろイきそうです。お兄さんの童貞おちんぽで、初アナルなのに、っあ、イくっ……!」
「っ、く、お……!」
 カボチャ少女の手が武人の腰を強く掴み、同時にその華奢な身体がぶるりと震える。
 咥え込んだ肉棒を千切らんばかりに締まる括約筋に扱かれて、武人もその根元に溜め込んだ白いものを一気に吐き出した。


 しばらくは無言で、部屋にはお互いの荒い息が響きあった。
「……ふふ、凄かったですね」
「……あ、あ」
 不意にカボチャ少女が口にした感想に、武人もつい答えてしまう。
「じゃあ、一旦抜きますね。汚いのが駄目だったら、目を閉じててください」
 言って、カボチャ少女は自身の腰を持ち上げた。肛肉が咥え込んでいた武人の肉棒が徐々に姿を現し、それに釣られるように少女の窄まりも名残惜しげに引っ張られて盛り上がる。
「っ、お、は…… んんっ」
 ぬぷり、と半萎えの肉棒が完全に抜けると、カボチャ少女は片手で尻穴を押さえた。そしてもう片手を武人の肉棒に伸ばす。うっすらと茶色いものが付着したスキンを片手で器用に脱がし、中に溜まった精液が零れないよう口を縛る。
「ふふ、濃厚ですね。美味しそうです」
「っ」
「そんなに恥ずかしそうにしなくてもいいじゃないですか。あ、シャワー借りていいですか?」
 緑炎の吐息を漏らしながらそう呟いたカボチャ少女に、武人は顔を赤くして言葉を詰まらせる。カボチャの顔なので正確には分からないが、意地の悪い笑みがあったのだろうと武人は思う。
「シャワーなら、そっちだ。ところでこれ、いつ動けるように?」
「ああ、忘れてました。もういいですね」
 床に仰向けで倒れたまま微動だにできない武人へ、カボチャ少女は口から青色の吐息を吐きかけた。
 すると不思議なことに、切れていた手足が戻ってきたかのように四肢の感覚が武人に戻る。
「では、使わせて頂きますので。覗かないで下さいね?」
「……覗かないよ」
「そうですか。素直なお兄さんに少し残念です」
 緑炎の吐息を零し、弾んだ声で言ってカボチャ少女はユニットバスのある浴室に姿を消した。
 本当に覗いたらどうなるのだろう、と武人は思わないでもなかったが、よくよく考えればカボチャ少女にこちらから手を出すのは何であれ危険だという判断に落ち着いた。賢明である。
 やれやれと武人は身を起こしカボチャ少女が消えた浴室の扉を一瞥すると、壁に掛かった時計を見遣った。時刻はもう夜中。後で自分も入って、その後で食事にしようと決めて、行為前に少女が使っていた湯飲みを片付けようとした。
 そう言えば、あの頭は本物なのだろうか。炎のように見えるものを漂わせているが、あれはシャワーを浴びても大丈夫なのだろうか。
 そんなことを考えながら、湯飲みを持ち上げ――
「――お兄さん、まだそこにいます? 頼みたいことがあるのですが」
「ん、ああ。何?」
 不意に少女が声だけでそう問いかけてきた。反射的に応答してしまったことに、武人は軽い頭痛を覚えることになる。
「済みませんが、アナルプラグか紙おむつを買って来て頂けませんか?」
「は? な、なんでそんなものを?」
「いえ、お兄さんのが太すぎたせいか、なかなかお尻の穴が締まらなくて。このままだと不意に垂れ流しになっちゃいそうなので、栓になるものか漏れても平気なようにと。お願いします」
「……分かった」
 カボチャ少女に女性としての自覚があるのかどうか、今まで彼の中にあった女性像が崩壊していく音を確かに耳にしながら、武人は財布を掴み、汗に濡れた身体とすきっ腹を抱えながら、再び夜の街へ出て行くことになるのだった。
 一人身の男性としては非常に恥ずかしいものを買い求めるために。


「ん、いい感じですね。ありがとうございます」
 どの辺りが「いい感じ」なのか理解に苦しみながら、武人は紙おむつを着けたカボチャ少女を見る。
 オレンジ色の巨大なカボチャの頭に、凹凸の少ない華奢な少女の身体。その上に着けているのは闇のような黒い外套と腰から股間部を包む白い紙おむつのみ。
 エロティックなのか、シュールなのか。常人の感性を通り越した姿であることは間違いなかろう。
「残りはどうするんだ?」
 武人が指し示したのは、カボチャ少女のために買ってきた紙おむつの残り。出来ることなら少女に持って行って貰いたいと心の底から願う武人だった。繰り返すが、一人身の男の部屋にあるものとしては異常度が過ぎる。
「置いといてください。お兄さんのお金で買ったものですし」
「いや――」
「置いといてください」
「……分かった」
 緑炎の吐息を零してそう言うカボチャ少女の無情な仕打ちに抵抗を止め、武人は肩を落とした。
「では、時間も時間ですしそろそろ失礼しますね」
「帰るのか?」
「ええ。帰って欲しくなかったですか?」
「いえ、滅相もない」
 反射的にそう答えると、カボチャ少女はまた緑炎の吐息を漏らした。
「時期が来たらまた来ますよ。楽しみにしていてください」
「え――」
「楽しみにしていてくださいね」
「……分かった」
 一方的に再来訪を告げて、カボチャ少女は玄関に向かう。
 扉を開けると、カボチャ少女は右手を挙げて、ぱちんと鳴らす。すると、彼女がやってきた時のように燃え盛る黒馬が出現した。
 それにひらりと跨って、カボチャ少女は武人を見る。
「では、また」
「――あ、待ってくれ」
「ん、何ですか?」
 あまりに短い別れの言葉に、思わず武人はカボチャ少女を呼び止めてしまった。後に続く言葉が出てこない。
 三秒ほど悩んだ末、武人はあまりと言えばあまりな失態を犯した。
「名前、なんて言うんだ?」
 言ってしまってから、自分の発言の迂闊さに気付く武人。
 名前を知ってしまったら、もう他人ではいられなくなる。
 そんな葛藤に気付いたかどうか定かではないが、カボチャ少女は緑炎の吐息を零し、
「そうですね、ウィル、って呼んでください」
 と、弾んだ声で言った。
「では、また」
 言って、カボチャ少女は自分の両手で頭を掴み――カボチャを取った。
「え?」
 武人の間抜けな声。最初は唐突に何をするのかとも思ったが、そこで漏れた声は本当に訳が分からないといった意味合いのものだった。
 少女のカボチャ頭があった位置には、何も現れなかったのである。つまり、今現在、少女には首から先がなかった。
 自分の生首ならぬ生カボチャを小脇に抱えて、少女は手綱を引く。
 高い嘶きの後、黒馬は炎を撒き散らしながらマンションの通路を駆け、そのまま空へと飛び出した。
 いつの間にか綺麗に出ていた満月を背景に、少女の駆る黒馬は小さくなっていく。
 その影が完全に消え失せて、呆然としながら部屋に戻った武人は、今までのことを思い出して思わず噴き出してしまった。
「はは…… 混じり過ぎだろう、色々と」
 一体何処が「Hallow」なのか。
 武人は笑いながら、僅かにカボチャの匂いが残る部屋の空気を一杯に肺へと吸い込んだ。



 後日。十一月一日、夜。
「お帰りなさい、お兄さん。お邪魔してますよ」
 会社から帰った武人が部屋に入ると、湯飲みを手にしたカボチャ少女がそう出迎えたのは、また別の話である。

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