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フィフニルの妖精達26「力の意味」

 朝目覚めたら、青い妖精の姿が目の前にあった。
 思わず俺は目だけで左右を確認する。俺の私物と家具に、隅の方にある簡易ベッドの上でタオルケットにくるまって眠っている橙の妖精――ニニル。
 ……うむ。間違いなく俺の部屋だ。
「んっ…… どうした? ご主人」
「ああ、いや。おはよう、シゥ」
「おはよ、ご主人。 ……ん、ふ」
 青い妖精――シゥは俺の胸の上にしな垂れかかった状態でそう答えた。
 いつものツインテールではなく、足元ぐらいまである長い髪をそのまま流して。服もいつもの外套のようなアレではなく、青い布を胸と腰に巻き付けたような薄いものだ。寝巻きか何かだろうか。
 しかしそう考えると、起きてすぐ俺の部屋にやってきたことになる。それも俺を起こしに来た訳ではないようだ。
「はぁ……」
 何と言うか、幸せそうな吐息と一緒に俺の胸板に頬を寄せ、その格好ですんすんと鼻を鳴らしている。
 常識で考えると形容しがたい様子だが、彼女に限っては心当たりがある。
 大切な相手恋しさの禁断症状だ。
 ミゥによると不安から来るものだそうだが、朝一番のタイミングで来るということは何か夢にでも見たのだろうか。
「……よしよし」
 子供をあやすように、シゥの頭に手を乗せて撫でる。艶やかな髪がくすぐったい。
「ん…… ご主人?」
「何だ?」
「ぎゅって、して」
「分かった」
 切なそうな目で見つめてくるシゥの脇から背中に手を回し、ほどほどの力を込めて抱き締める。
 普段の、お世辞にも上品とは言えない粗暴な態度と言動からはかけ離れた姿だ。可愛いものである。
「んう…… もっと、強く」
 俺の鎖骨の辺りに顔を埋めながら、もっと、とねだる彼女。
 しかしそう言われても、俺の三分の一ほどしかない彼女の小ささはあまり強くやると壊してしまいそうな雰囲気がある。
 大丈夫だろう、とは思うのだが。
「は、ぁ」
 熱っぽい吐息が耳に掛かる。
 加えて、限界まで押し付けられているシゥの乳房が何とも言えない感触で、俺の愚息は立派に朝立ちの様相を呈していた。
 こうなると、細くとも柔らかい彼女の身体も意識してしまってどうにも興奮が静まらない。
 この妖精の少女を犯したい。可愛い声で鳴かせたい。
 そんな欲望が脳裏を過ぎる。
 だが今求めるのは、節操なしと言われてしまうだろうか。
 俺の予想が正しければ、このシゥの行動は性的な意味を持っていない。ただ単に、そこにいる大切な人が失われていないのを確かめるだけの――人間からすれば気が遠くなるほどの年月を戦いに捧げて、大切な人を失い続けてきた少女の、安心を得るための手段だ。
 今襲い掛かったら、ムードがない、なんて言われても全然おかしくはない。ムードなんて言葉を彼女らが知っていれば、だが。
 まあ、彼女らにとって俺との性交は親愛と快楽を得るためのものであり、そういう意味では触れ合ったり雑談したり一緒にご飯を食べたりすることの延長線上にあるわけで、全然ムードぶち壊しじゃないことに気付いたのはもう少し後のことである。
 と、そうして俺が悶々していると、不意に扉を控えめに叩く音がした。
「ご主人様、起きていらっしゃいますか?」
 綺麗な高めのソプラノの声。これの主はネイだ。
 脳裏に過ぎるネイの赤い姿。彼女が朝に俺を起こしに来るのは珍しい。
「起きてるよ」
「朝食の準備が出来ましたので、お越しください。あと、シゥはいますか?」
 扉越しに返事をすると、そんな質問が帰ってきた。
 俺の上でしな垂れて蕩けるような笑みを浮かべているシゥにちら、と視線を向ける。
「シゥ? ……いるけど、どうしたんだ?」
「少し。入ってもいいでしょうか?」
 ネイにしてはまたもや珍しく言葉を濁して、そう許可を求めてくる。
 どんな用件かはさておき…… 俺は再び、ちら、とシゥに視線を向ける。
「ん、は、あ、ぁ……」
 まるでゆっくりと喘いでいるような声を上げて、ひたすら俺に身体をすり寄せるシゥ。
 その表情は喜悦のもので、ひょっとしたら発情までいってるんじゃないかとさえ思える。乳首が立っていないようなので違うのだろうが。
 この姿を見せてもいいのだろうか。いや、ネイもシゥにとっては大切な人なのだから問題ないような気もするのだが、しかしこの顔は。
「シゥ、ネイが君に用事があるみたいだが」
「ん……」
 シゥは答えない。というか聞こえていないのだろうか。
 そんな彼女に呆れつつも笑みを浮かべて、まあいいかとネイを呼ぶ。
「いいぞ」
「では、失礼しますね」
 小さい扉を開けて、ネイが入ってくる。
 いつもと同じ、赤い服に溶岩のような翅。短くさっぱり切った赤い髪は独特の癖があるのか、少し跳ねている。
 そんな赤い彼女は俺を――俺に強く熱く抱き付くシゥを見て、部屋の入口ですぐに足を止めた。そして瞬間的に頬までも赤くする。
「――しっ、失礼しました!」
 入ってきたばかりだったのに、すぐさまネイは扉の向こうに消えた。
 相変わらず恥ずかしがり屋な子だ。彼女とは既に一度以上身体を重ねた仲なのに、こうした事態が起きる度に顔を真っ赤にして所在なさげに慌てているのを目にすることが出来る。
 まあ、妖精としては立派に羞恥心がある方なのかも知れない。シゥやミゥ、ヅィは裸を俺に見られたりしても平然としていることが多いからだ。恥ずかしいという感情はあるようなのだが、同種族内に男性が存在せず、従って恋愛感情などもなかった彼女達は、羞恥心を感じる場面が人間とはややズレている。それを考えればネイやニニルは常識的と言えるだろう。あくまでも人間から見て、だが。
「……君も、もう少し恥じらいを持ってくれると、俺としては嬉しいんだけどな」
「は、あ…… ん、う、う……」
 まだ身体を擦り付けてくるシゥにそう漏らして、俺は彼女を抱いたまま、ネイの後を追うためにベッドから身を起こした。


 時間は流れて昼食後。
 俺と七人の妖精達は、マンションの空中庭園にいた。
 そんなものが何処にあったのかというと、新たに増築された六人の妖精達の部屋の扉がある廊下の一番奥の扉。あれが俺達専用の空中庭園の入口になっていたのだ。
 芝生が敷き詰められ、背の低い樹木すら植えてある。隅の方には岩作りのプールまであり、露天風呂としても使えるようになっていた。柵の向こうに見える風景は言わずもがなで、高所故に吹き付ける風は冷たくて気持ちがいい。
 本当に、夏美さんは何を考えてこれほどのものを用意したのか。
 一体、夏美さんは俺の両親にどれほど「お世話になった」のだろうか。
「――ご主人? 何を呆けてるんだ?」
「ああ、いや。何でもない」
「……ぼさっとしてると怪我するからな。気を引き締めてくれよ?」
「すまん」
「謝る余裕があったらその分気合を入れろ」
 朝方の蕩けた姿は何処へやら、シゥは腰に手を当てて引き締まった表情で俺を見ている。その隣にはネイ。苦笑いを浮かべて、やはり俺を見ている。
「昨日も言ったが、しっかりと考えるんだ。土の針を形作る手順を。それが安定して出来なきゃ何も出来ないぞ」
「ああ」
 神経を脳に集中し、右掌の上にある一握りの土を睨む。
 イメージするのは小さな土の針。土を自分の指先で捏ねて、アイスピックのような形状を作る工程を連想する。
 瞬間、俺の右手が、ほう、と緑色の燐光に包まれ――
「――出来た」
 一握りの土は、いつの間にか長さ五センチ程度の太い土の針へと変化していた。黒く鈍い光沢のある、一見すれば金属にも見えないこともない針。
 小さな拍手の音が四方八方から響く。見回せば、ピアやミゥ、ヅィやネイ、ノア、ニニルが拍手を送ってくれていた。
「素晴らしいです、ご主人様」
「人間にして二日目でそれだけ出来れば大したものですよ」
「ほんにのう」
 ピア、ニニル、ヅィの賞賛の言葉に、思わず顔が熱くなる。
 だが、シゥだけは渋い顔で俺を見ていた。そして何かに悩むように顎に指を当て、次の課題を出してくる。
「んじゃそれ、こっちに向けて飛ばしてみな」
「え? しかし――」
「大丈夫だよ。そんなもん防ぐのは簡単だって言うか…… まあとにかく飛ばしてみな」
 言われて、俺は再び右手に神経を集中する。
 飛ばす、か。
 組み上げるイメージは単純なもの。右手の上の土の針が、一直線にシゥへ向けて放たれるのを想像する。
 瞬間、再び俺の右手が緑色の燐光に包まれて――土の針が粉微塵に砕け散った。
「――あ」
 思わず情けない声が漏れる。
 それにシゥはくっくっく、と押し殺した声で笑って、やっぱりな、と続けた。
「何で崩壊したか分かるか?」
「……いや」
「ご主人の想像した『飛ばす』力に、ご主人の想像した土の針の頑丈さが耐えられなかったんだよ」
 いいか、と言って、シゥは自身も氷の翅を顕現させ、ほぼ同時に自分の右手の平の上に氷の針を出現させた。形状、大きさは俺が先程作った土の針とほぼ同様。
「妖精炎魔法による攻撃っていうのは、自然との調和が大事なんだよ。色々なことが出来る反面、あんまり度が過ぎると自分の想像もしないところで自然との調和が崩れて自己崩壊を起こすんだ。この氷の針だって、鉄板に突き刺さるぐらいの強度があるが――」
 シゥはそこで一度言葉を切り、明後日の方向へ氷の針を向ける。
 そして軽く目を閉じたかと思うと、背中の翅が強い青の燐光を発し――同時に、氷の針が消えて、ぶしゅっ、なんていう凄まじい水音がした。
「こんな風に、飛ばす速度を上げすぎると満足に飛ばない内に水になっちまう。これを防ごうと思うと、氷の強度じゃなくて水になる温度をもっと上げる必要がある。だが、それを弄るのは凄く難易度が高い。だから溶けないぐらいの速度が氷の針を飛ばす時には一番調和の取れた速度なんだよ」
 例えるなら、摂氏六十度近くでも氷の状態を保っていられる氷、か。
 確かにそれはその物質の存在に対して真っ向から喧嘩を売る状態だ。難易度が高いというのも当然だろう。
 俺は妖精炎魔法を「想像」という行為に頼ることから感覚的なものかと思っていたが、なかなか科学的な部分も大きいようだ。
 すなわち、この世界において至極当然とされる状態、状況を打ち破るのは難易度が高い、ということ。
「まあ、そこまで達しろとは言わないが…… ご主人には当然、妖精騎士見習い程度には妖精炎魔法を使いこなせるようになってもらわないとな」
「妖精騎士見習いって、どういう基準なんだ?」
「妖精炎魔法の同時八つ以上の行使、だな」
 八つ以上と言われても、簡単なのか難しいのか今の俺にはさっぱり判断が付かなかった。
 少なくとも簡単ということはないのだろうが、人間の俺にはどれほどの難易度になるやら。
 そう思っていると、ピアが声を荒げた。
「シゥ、ご主人様にそんな無茶な要求をしてはいけません! ご主人様は我々妖精とは違い、人間なのですよ!?」
「そりゃそうだけどよ。ご主人の意気込みを聞いてなかったのか?」
 ピアの声に平然とそう返すシゥ。俺の意気込みとは、皆に妖精炎魔法の師事を願った時の話だろう。
 確かに俺は「皆に護って貰ってばかりじゃなくて、力になりたい」と言った。
「ご主人が俺らの力になりたいんなら、当然妖精騎士見習いぐらいには妖精炎魔法を使えなきゃ無理だろうが。それとも主翼長殿はご自分の下にいた妖精騎士の実力を妖精炎魔法同時行使七以下でどうにかなるとでも思っていたわけか?」
「そ、それは――」
「止めろ。ピア、気にしないでくれ。俺は何とかその位置まで登ってみせるつもりだ。シゥ、講義の続きを頼む」
 だから、シゥの言葉は正しい。最低限、彼女達が相手取ることになる追っ手――妖精騎士達の最低基準に達することが出来なければ、妖精炎魔法によって彼女らを助けることなど夢のまた夢だ。
 そんな俺の確かな思いを感じ取ってくれたのか、ピアは口を閉ざし、シゥはにぃ、と笑みを浮かべる。
「妖精炎魔法八つ以上の同時行使っていうのは、つまるところ『気温保持』『防護膜』『飛行』『携行品軽量化』の基本四つに攻撃用魔法枠四つってことだ。なかなか厳しいぞ?」
「望むところだよ」
「ふむ、なかなかよい心構えでなによりじゃの」
 俺の答えに紫の妖精――ヅィがからからと笑う。彼女は魔法の妖精というだけあって、普通の人間が妖精炎を持ったからといってそれによって魔法を使うことの難しさをよく分かっているのかもしれない。
「そう言えば、君らはどれぐらい同時に使えるんだ? 八つは最低なんだろう?」
 その問い掛けに、妖精の全員が互いを見た。そして視線がネイに集中する。
「わ、私は九つです。割と出力はある方だと思いますけど、そんなに同時には」
「私は六つですね。まあ妖精騎士でも何でもありませんし、困ったことはあまりありませんが」
 ネイに続いてニニルが答える。ニニルは予備枠ひとつ、ということか。まあ軍人である妖精騎士に比べれば一般の妖精である彼女にはそれぐらいが普通なのかもしれない。
「ボクは八つですよ。矢面に立って戦うことはあまりありませんから、そっちの訓練はちょっと。出力の訓練はたまにやってますけど」
 続いて答えたのはミゥ。彼女も軍医だということだったから、どちらかというと戦闘能力に大きく関わる同時行使数はさほど鍛えてないのも当たり前かもしれない。それでも最低基準を満たしているのは流石と言うべきか。
 後は、ある意味本命とも言えるピア、シゥ、ヅィ、ノアだが――
「私は十五です。出力はそう高くはありませんが、光を使った妖精炎魔法は同時行使数の量と相性がいいですから」
 頭ひとつ飛ばした数を口にしたのはピア。流石は族長といったところだろうか。
 旅行の時の訓練での、光の弓矢を思い出す。光と共に舞う彼女はさぞ綺麗なのだろう。
「そう言や、ノアの同時行使数は聞いたことがないな」
「そう言えば、そうですね」
「ノア、お前自分の同時行使数って分かるか?」
 と、シゥとピアが思い出したようにそんなことを言う。
 ノアはつい、と虚空に視線を移した後、俺に向き直って、
「私の妖精炎魔法同時行使数は六です」
 とだけ、簡潔に述べた。
「六? じゃあニニルと一緒なのか」
「肯定。シゥが先程羅列した四種類に加えて『朧渡り』『黒の外套』『常夜の嘲り』『影の担い手』の四種類を状況に応じて使用し、戦闘行動を行います」
「まあ、ノアも正確には妖精騎士じゃないからな。そんなもんだろ」
「ふむ…… じゃあ、ヅィはどうなんだ?」
 俺の記憶が確かなら、ヅィも妖精騎士ではないが…… 魔法の妖精というぐらいだ。さぞかし凄いのだろう。
 そんな思いを込めてヅィの方を見ると、しかし彼女は非常に気まずげに視線を逸らし、
「そ、そんな視線で見るでないわ。わらわは、四じゃよ」
「え、四つしか使えないのか?」
 と、なんとも予想外の数を返してくれた。
「そうじゃ! 悪かったのう、期待外れで!」
 そう叫んでぷいっと顔を逸らしてしまうヅィ。耳先がやや赤い。恐らくはコンプレックスなのだろう。
 しかし本当に意外だ。魔法の妖精といっても、属性に制限されないだけなのだろうか。
「ふふ、ご主人様、そんな顔をなさらないでやってください。ヅィは魔法の同時行使は苦手ですが、その分出力はフィフニル族の――いえ、全妖精種族の中で歴代最高なのです」
「お陰で、何かやる時は護衛が必須だけどな。まあ何だ。天は二物を与えず、だっけか? 上手い言い回しじゃねぇか」
「お主がそれを言うかの、シゥ」
 意地の悪い笑みを浮かべるシゥに、明後日の方向を向いたまま恨みがましい声をぶつけるヅィ。
 最後はシゥ。
 ニニルによると「氷の稲妻」と呼ばれることもあるらしい、妖精郷で最強の妖精騎士。
 そんな彼女は俺の視線に、ふふん、と自慢げな笑みを返して、
「聞きたいか? ご主人」
「ああ。シゥはどれぐらい使えるんだ?」
「俺は――三十八だよ」
 やや勿体ぶって口にされたその数字は、俺の予想を遥かに超える数字だった。
「え? 三十八?」
「ああ。疲れるから滅多に全部を同時に行使することはないけどな。その気になりゃ相手の妖精炎魔法を全部打ち消して、その上からこっちの魔法を一方的に浴びせ掛けることも出来るぜ」
 どうだ驚いたか? 驚いたろ? と言わんばかりに笑みを強める彼女。
 八が妖精騎士の最低限というと、シゥは五人分に匹敵する妖精炎魔法を同時に扱うことが出来るのか。
 確かにそれは最強と言われるだけの資格に足るのだろう。実際にどのぐらい凄いのかはいまいちパッとしないが。
「……なんかいまいちパッとしてない顔だな、ご主人」
「いや、そんなことはないぞ?」
 そして目敏いシゥ。というか、俺が顔に出やすいのだろうか。
「ま、いいさ。そのうちご主人にも俺がどのぐらい凄いかが分かるだろ。今から三時間、土の針の形成と発射の繰り返しだ」
「分かった」
「頑張ってくださいね、ご主人様」
「その程度はこなせんと、とても実戦には使えんからのぅ」
「もう…… ご主人様、体調が悪くなったらすぐに言って下さいね?」
 こうして七人の妖精達に見守られながら、俺の妖精炎魔法訓練は二日目の幕を開けた。


 形をイメージし、強度をイメージし、妖精炎を使う。
 そうして出来上がった土の針に対して、それが強く鋭く放たれるのをイメージする。そして妖精炎を――
 瞬間、またしても土の針が手元で爆散した。
「あ」
「情けない声上げてないで、次だ次」
「わ、分かった」
 シゥが半分笑いながら急かす。俺は頬が熱くなる思いをしながらも素直に従って、再び先程のイメージをより強固にしながら繰り返す。
「針の強度自体は上がってる感じがするのですが、やはり飛ばす力が依然として強過ぎますね」
 とはネイの声。
 言い訳をするつもりはないので口にはしないが、飛ばす力と言われても強弱のイメージがしにくいのである。慎重にやると飛ぶどころか全く動かなかったり。何か方法がまずいのだろうか。
「んー、ご主人ってどういう飛ばし方を考えてるんだ?」
「飛ばし方?」
「ああ。言っておくけど、針を手元から目標まで目線で追って運んでいくような想像の仕方だと、針が相当強固じゃないと持たないぞ」
「う」
 言われて思わず呻きを漏らす。まさしくその通りのイメージだったからだ。
「じゃあ、どういうのがいいんだ?」
「そうだな、針の尻を指で思い切り弾くような想像の仕方を試してみろ。上手く出来ない新兵は大体それで出来たし」
「分かった」
 新兵、という単語に、教官職に就いたこともあるのだろうか、などと思いながらシゥの言葉通りにイメージを組む。
 右手の平の上にある土の針。その尻に向かってもう一つの仮想の右手ででこぴんの用意をする。
 そして、その右指にあらん限りの力を込めて、放つ。
 瞬間、びしり、という音が俺の鼓膜を確かに叩いた。
 土の針は、後方から見えない何かに弾き飛ばされたかのように空へと飛び発ち、そのまま空中庭園のフェンスの向こうへと消えていった。
 勿論というべきか、本来の目標であったシゥの胸元に至るコースを大きく逸れて。
「……まあまあの勢いだな。精度は別にして」
「す、すまん」
「謝ることじゃないだろ。第一、謝ったって何も勘弁しないし、上出来だ、なんて言わねぇからな」
「ぐ……」
「流石にこれに関してはご主人の命に関わることだから、いくらご主人って言っても容赦しないぞ?」
 そう笑みを浮かべて言うシゥには有無を言わせない妙な迫力があった。
 こうして小さく可愛い鬼軍曹の下、俺の訓練は続いていく。


「づあー……」
 自分でもよく分からない妙な雄叫びをのろのろと漏らしながら、部屋のベッドに倒れ込む。
 時刻は既に六時。訓練自体は三時に終わったのだが、その後ピアとミゥ、ヅィによる魔法に関しての座学があったためにこの時間になってしまった。
 それにしても、途中休憩一切なしというのは地味に辛い。
 自分から言い出したことなので勿論文句のひとつも漏らさずに素直に従ったが、妖精炎魔法さえ使えば疲れ知らずの彼女達に合わせて生活を送るということがどれほど大変か、この二日で少し身に染みた感じだ。
 旅行の時の山歩きのように、幾度も休憩を取っていたのが非常に俺を気遣ったものだったのだと思い知る。睡眠の必要もあまりないといつだったか言っていたし、本来の彼女達のスケジュールとはかなり忙しないものなのだろう。
 しかし、良かったこともある。
 俺に妖精炎魔法を教えている彼女達の顔は、とても明るくて楽しげなものだった。シゥやピアは俺への危険が増すことに対して真剣な顔をすることもあったが、それ以外では終始笑顔だった。
 俺自身の願望を含めた勝手な想像をするなら、共通項ができたことが嬉しいのだろう。
 俺はそれほどでもないが、彼女達は人間と妖精の差というものを明確に感じていると思う。それは食事の時であったり、談笑の時であったり、身体を重ねている時であったり。
 あえて最後で例えるなら、彼女達は性行為の最中、自分に対する回復系妖精炎魔法の使用を最低限に――俺と一緒に疲れ果てるように調整している。
 その理由は大体察することができる。それを使われると、俺と彼女達のペースに差が出るからだ。
 普段、彼女達の体力が無尽蔵にあるのは恐らく妖精炎魔法の効果であり、それをもって性行為に臨まれると俺の体力が持たない。それを分かっているから、使わないようにとピア辺りが警告を出しているのだろう。過度に求め過ぎると嫌われると思っているぐらいだからそれぐらい言っていても不思議ではない。
 思えば、お手伝いとして住まわせて下さい、と言ってきた当初からそれはあった。人間と妖精の差を露にしないようにと、それで俺が恐れを抱くことのないようにと思っていたのだろう。
 今でこそ親しい関係になっているが、それは彼女達が人間を許容したわけじゃない。何度か繰り返した思考になるが、あくまでも彼女達は俺という個人と親しくしている。
 だから今回の件は嬉しいのだろう。俺と彼女達の間に共通項が出来た、すなわち――俺が人間から遠ざかったことが。
 彼女達があくまでも好きにはなれない人間から、俺が遠ざかったことが。
「……思い過ごしなら、いいんだけど」
 単純に、彼女達を助けられるという俺の喜びを、失笑しながらも心地よく思ってくれたのならいいのだが。
「何が思い過ごしならいいんだ?」
「いや――って」
 不意に聞こえた声に何気なく返事を返そうとした瞬間に気付く。
 いつの間にか、ベッドに倒れ込んだ俺を覗き込むようにシゥとネイが座っていた。
「……二人とも、いつから?」
「ご主人が入ってくる前からだよ。ほんの少しだけ姿を消してたんだが、顔を覗き込むまで近付いても全く気付かねぇとはな。いずれそっちの方も鍛えてやるから覚悟しとけよ?」
「わ、私はご主人様を驚かせるようなことは止めた方がいいって言ったのですが…… すみません」
「何言ってやがる。ご主人の足音が聞こえた瞬間、俺より先に、それも完璧に消えやがったくせに」
 顔を赤くして頭を下げるネイに、笑みを浮かべて突っ込むシゥ。
 青と赤。外見も性格も対照的なこの二人がこうして話している様は、それだけで少し見物だ。
「で、何で俺の部屋に?」
「別にこれといって用事はねぇよ。ただ、今日のご主人の警護担当は俺とネイだからな」
「その、お邪魔かと思いますけど、宜しくお願いします」
「ああ、そういうことか。宜しく」
 先日の警護担当はピアとヅィだった。一日中俺の傍にいるのが警護担当になった者の仕事らしい。夜になってからご褒美とばかりに二人一緒に誘ってきたので色々と楽しませる破目になったのは、それもひとつの目的なのかと訝しむべきか。
 最近、彼女らから求めてきた場合には、そういうことを教えた人間としてしっかりと応じることを決めた。節度とか倫理とかそういったことは、行き過ぎそうになった時にしっかりと教えればいいだろう。
 この決意を思い出すたび、決して楽な方向に流れた訳ではない、と心の中で付け足すのは忘れない。
「どうかしましたか?」
「ご主人のことだ。なんか妙なことでも考えてるんだろ」
「し、シゥ、その言い草はちょっと……」
「ああ、いや。本当に妙なことだから気にしなくていい」
 そう俺が苦笑いを浮かべると、妙な顔になるネイ。ちょっと悲しいものがあるが、これはこれでまともな反応なので少し安心する。妖精達は色々な意味で反応の仕方が人間とは違うベクトルにあるので、仕方のないことだが。
「ご主人、この後何か予定は?」
「特にないな」
「そうか」
 短い言葉と共に頷くと、シゥは笑みを浮かべて俺の傍へ寝転がった。そして俺の脇腹にその小さな頭を乗せて、枕代わりにしてくる。つい手を伸ばして撫でると、彼女は猫のように目を細めた。
 ふと見ると、実に羨ましそうにシゥを見て、足をもじもじとさせているネイの様子が目に入る。
「ネイも遠慮しなくていいぞ」
「え、あ、その……」
「ほら」
「……し、失礼します」
 短い遣り取りの末、ネイは顔を赤くしながらも嬉しそうにシゥの横へと横たわった。頭は同じく俺の脇腹へ。
 二人の頭を撫で、ふと、その右手を眼前に翳して思う。
「なあ、二人とも?」
「ん?」
「はい?」
「俺がその、妖精騎士と魔法で戦えるようになるには、どれぐらい掛かる?」
 僅かに沈黙があった。それから、うーん、とシゥの唸り声があって、
「大体新兵の教育期間が…… ご主人の適正が最低として、どのぐらいだろうな」
「私は八月ほどで終わりましたが……」
「そりゃ妖精剣技の訓練しかしてないからだろ。普通は妖精炎魔法の訓練も同時にある。それが十月ぐらいあるからな…… ましてやご主人は妖精炎の絶対量が――当然だが、少なすぎる。伸ばす方法はミゥ任せだからあいつの頭にもよるが、まあこっちで二年か、最低でも一年半は掛かるだろうな」
 一年半から二年。それだけの間、俺は彼女達に護られて過ごすことになる。
 本当なら、逆でなくてはいけないのに。
「ご主人、そういやなんか勘違いしてねぇか?」
 そう思って息を吐くと、そんな、やや冷たい温度を持ったシゥの声が部屋に響いた。
「何のことだ?」
「ご主人のことだから、俺らを護らないといけないのに、今の自分は弱くてみっともない――なんて思ってないか?」
「……何か、勘違いしてるか? 事実そうだと思うが」
 勘違いも何も、常識的に考えればそうだろう。
 彼女達自身からその身の生活の安全を預かった人間として、彼女達を護る立場でないといけない。それに加えて彼女達の男としてそうでなければ俺の立つ瀬がないではないか。
 しかしそんな俺の思いを叩き切るように、シゥはこれ見よがしに、はぁ、と息を吐いて、
「いいかご主人。俺らがご主人に頼んだのは『こっち側での生活』に関してだ。対妖精騎士はそこに含まれないぜ」
「いや、だが――」
「じゃあいっそ言うぞ。あいつらは俺らが持ち込んだ問題だ。ご主人の出る幕じゃねぇよ」
 顔は見えないが、少し低い真剣な声でシゥはそう言った。
「で、でも、折角ご主人様が……」
「ネイは黙っとけ。第一、適材適所って言葉があるんだろ? ならそれでいいじゃねぇか。何でそんなにご主人一人で抱え込む? もっと俺らを頼ってくれてもいいんじゃないか?」
「……まあ、常識と、男としての誇りの問題だよ」
「んなもんクフィウル、はいないから――犬にでも食わせとけ」
「そんな乱暴な……」
 くっく、と何がおかしかったのかシゥは笑って、
「ご主人は俺らに住む場所を提供してくれればいいんだよ。それはご主人が出来る数少ないことだが、ご主人にしか出来ない。逆に言えば、俺らはそれに対して家事を手伝うことや、俺らが持ち込んだ問題で迷惑が掛からないようにすることしか出来ない」
「というか、それをしなければ私達はここにいちゃいけないと思いますけど……」
「だから黙っとけっての」
 こつん、と何かを軽く叩いたような音を耳に、俺はシゥの言葉を考える。
 ――いや、考える振りをしているだけだ。
 実際のところ、それで構わないかと思っている俺もいる。適材適所とシゥが言ったように、本来一般人に過ぎない俺は彼女が言ったようにあるべきなのだろう。
 だが、それは嫌だった。今はひとつでも多く彼女達との接点を持ちたいと思っている。
 ある日唐突に、いなくなってしまわないように。


 夕食後、風呂上り。
 シゥとネイは当然のように風呂場まで一緒になって、身体を洗い合った後。
 俺がパソコンの前に座って色々と作業をしていると、肩に軽く圧し掛かるものがあった。
「なー、ご主人?」
「どうした?」
 声はシゥのもの。だが、奇妙に猫撫で声だ。同時に、視界の隅に彼女の青い髪がするりと流れる。
「ご主人ってさ、その…… あれ、えっちって言うんだっけ? あれにも色々種類があるのは、知ってるんだよな?」
「あ? あ、ああ。色々あるけど」
 振り向いた先にあったシゥの顔は、少しばかり赤いものの悪戯を思いついた子供のような顔をしていた。
 今度は何処でそんな知識を仕入れてきたのか。
「そーいうの、やってみないか?」
 誘いの言葉と共に、シゥの視線は後ろへと向かう。
 その視線の先にいるのはネイ。俺のベッドの上に座り、何やら手帳を開いている。時折、リズムのある聞き取れない言葉を喋っているから、歌に関係することをしているのだろうか。
「……いいのか?」
「楽しいぜ、きっと」
 思わず同調したくなるような笑みを浮かべるシゥ。
 もう一度、ネイに視線を向ける。彼女は手帳を見て何かを口ずさむのに夢中なようで、こちらの企みは目に入っていないようだ。
 ふと脳裏に浮かんだのは、あられもない姿で哀願する彼女。あの綺麗な声でいやらしく鳴くのを、もう一度聞いてみたいと思う。
 ……だが。
「……じゃあ、ちょっとネイの気を引いててくれ。その間に色々準備するから」
「分かった」
 頷くと、シゥは早速何でもない風を装って「ネイ、ちょっといいか?」と声を掛け、ネイの気を逸らす。
 俺は二人が話し始めたのを耳にしてから、何気なく席を立った。そしてしばらく触っていなかった部屋の押入れに向かう。
 手を伸ばすのは、上下段に分かれた押入れの中の、下段隅にある三段の棚。それの中段を開けると、公の場に出すのは憚れる、蛍光色をした如何わしい道具の数々が部屋の光を浴びる。
 それらが埃を被っていないことを確認しつつ、もう一段上を開ける。こちらは疎い人なら一見では分からないが、如何わしさで言うなら中段の道具を上回るものが所狭しと並んでいる。こちらも埃を被っていないことを確認して、俺は幾つか、彼女達にも使えそうな道具を選び出した。
 念の為に消毒用のアルコールを吹き掛けて、布巾で拭き取る。これで用意は完了だ。
 振り返ると、二人は俺に背を向けて何かを談笑している。流石と言うべきか、ネイが俺の行動に気付く様子はまるでない。俺は道具の中からあるモノを両手に、二人へ近付く。
 そして、俺は笑みと共に、
「準備出来たぞ。シゥ、お疲れ様」
 そんな言葉と同時にその細い両腕を取って背中、翅の下に回し、手首に黒革の拘束具を巻き付けた。
「え、ちょ、ご主人――うわっ!?」
「え、え!?」
 ネイが驚き、シゥが困惑している間にその背中を押す。両腕が使えずにベッドへうつ伏せに倒れたシゥの細い首に、拘束具と同じ黒革の首輪を巻き付ける。
「よし。ネイ、今日はシゥの要請で、ちょっと変わったことをしてみることにした」
「え、あ、変わったこと、ですか?」
「ご主人!? 違うって! 俺にじゃねぇ!」
「ああ。いわゆるSMってやつだ」
 氷の翅を必死に羽ばたかせて抵抗を試みるシゥの抗議をやんわりと無視して、俺は少し怯えの色が見えるネイに説明する。
「え、えすえむ?」
「端的に言うと、虐める側と虐められる側を演じるんだ。シゥには言いだしっぺってことで、虐められる側――Mをやってもらう」
「い、虐め――? ちょっ、ご主人、何する気だ!?」
「こういうこと」
 手始めに、俺はシゥの腰を捕まえて膝の上に引っ張り、服の裾を捲り上げて、露になった青のショーツを引き下ろし、ガーターベルトの紐だけが見える素のお尻を平手で勢い良く張った。
「っあっ!? ちょっ、くうっ!?」
 ぱん、ぱん、と小気味いい音が部屋に響く。その度にシゥの悲鳴が上がり、背中の翅が痙攣するように震える。
「やっ、止めろって、ご主人、やめてっ!」
「駄目だ。口の悪い不出来な奴隷妖精に、お仕置きしないとな」
「ど、奴隷って、うあっ!?」
「普通の妖精は首輪なんか付けてないだろ? そんなの付けるのは囚人か、奴隷か、愛玩動物ぐらいだ」
「え、あ……」
 俺のその言葉で自分の格好を認識したのか、シゥの口答えが止まる。
「っ、あっ、くひっ、うっ、あっ、あ!」
 途端にしおらしくなる悲鳴。しかし構わずに俺はスパンキングを続ける。
 二十回か、三十回か。白かったシゥの尻が赤くなり、俺の手も痛くなってきたところで一度止める。彼女は荒い息を吐き、様子を窺うように俺を横目で見た。
 今にも泣き出しそうな――蕩けた青水晶の瞳。
 俺は驚きつつも、そんな素振りは見せずにシゥの尻を一撫でし、その太腿の間に指を差し込んだ。
 ぬちり、と指に触れる粘ついた液体の感触。離すと、つう、と糸を引くほどに濃い。
「見ろよ、ネイ。この雌妖精、叩かれて濡れてる」
「え、あ……」
 俺の行為を呆けたように呆然と見つめていたネイが、その声に顔を真っ赤にしながら俺の指先とシゥを見比べる。
「や、やめ…… ネイ、見る、なっあうっ!?」
「その口の利き方はないだろ。今のお前は家畜かそれ以下なんだから、もっと相応しい言葉遣いがあるだろ?」
 また尻を一発張って、ぐいっとシゥの顎を持ち上げてこちらを向かせる。
 涙に濡れた、しかし何かに溺れるように蕩けた二つの瞳が俺の顔をぼんやりと映す。
「でも、ご主人…… ひいっ!?」
「ご主人様、だ。ちゃんと呼べ」
「ご、主人、様……」
 息を荒げながら、呟くようにそう俺を呼ぶシゥ。
 普段の彼女からは想像も出来ないぐらい弱々しく、そして陶酔した声。
「ほら、ネイには?」
「ネイ、様……」
「う、あ……」
 きっとそんな風にシゥから呼ばれたことなど一度もないのだろう。ネイはシゥから様付けなどという呼ばれ方をされたことに、酷く戸惑いつつも心躍らせているようだった。
 シゥの屈服した姿に見入っているネイの赤水晶の瞳の輝きは、少し危ないものさえ感じる。
「それでいい。素直な奴隷は嫌いじゃないぞ」
「ひあっ!」
「ほら、ありがとうございます、は?」
「あ、ありがとう、ございます……っあ!」
 先程の張り手よりも弱めに打ったのに、より高い悲鳴を上げるシゥ。その太腿に視線を向けると、股間部からとろりとした愛液が早くも垂れ伝い始めていた。
 それにしても、シゥはやはりMとしての素質がありすぎる。
 精神的な苦痛を変換して和らげる薬を服用し続けてきたせいか、あるいは普段の意地の悪い性格の反動か、あるいは昔の、か弱かったらしい頃と今のギャップがこのような形で出てきたのか。あるいは全部か。
「しかし、なんでこんなに濡れてるんだ? これじゃお仕置きにならないぞ」
 シゥの股間部、彼女自身の愛液で濡れに濡れた無毛の縦筋を指で弄りながらそう意地悪く問う。
 状況からして明白だが、シゥ自身に答えさせることに意味がある。
「それ、は」
「ほら、ご主人様が聞いてるんだから答える」
「っあっ! ご、ご主人様が、お尻を、叩くから……」
 尻を叩かれて感じた、などという予想以上に直球の答えに、思わず俺の背にも震えが走る。
 本当に素質のある子だ。
「ほう。じゃあシゥは痛いと気持ちいいのか?」
「は、はい……」
「とんだ変態妖精だな。ネイもそう思わないか?」
「……は、はい。そう、思います」
 座っている位置はそのままに、いつの間にか身を乗り出しているネイ。興味津々といった様子でシゥと俺を見比べている。その興味がSとMのどちら側に向けられているのかは分からないが。
 何となく、ネイならどちらでも行けるんじゃないだろうか、なんて思いつつ、行為を続ける。
「じゃあ、叩くのは駄目だな。お仕置きにならない」
「っ、あ、あ……」
 叩くのを止めて、赤くなった尻を撫でさする。敏感になっているせいか、あるいは叩かれることに未練があるのか、切なそうな声を漏らすシゥ。背中の翅も、ぴくりぴくりと震えている。
「どうするかな…… よし、ネイ、そこの黒い布を取ってくれ」
「え、あ、は、はい! これ、ですか?」
「そう。これで……」
 ネイから黒い布を受け取る。大きさはスカーフ以上なので彼女達には少々大きいが、まあ用途的には問題はない。
 布を適切に折り畳んで、シゥの顔に回す。
「っあ、ご主人様、何を」
「黙れ」
「っ……」
 強めの一言でシゥを黙らせ、俺は布をシゥの両目の上へ巻き付け、後頭部で縛る。簡単な目隠しだ。
「これでよし。ネイ、次はそれを取ってくれ。その派手な色のやつ二つ」
「こ、これ、ですか? こっちはよく分かりませんけど、何だかこれ、ご主人様のアレに似ているような……」
「いいから。ほら」
 次にネイから受け取ったのは、いわゆるローターとディルドだ。
 比較的小さめのサイズで、これなら下手に負担を掛けることもないだろう。
「じゃあシゥ、淫乱な雌奴隷妖精にいいものをやろう」
「い、いいものって…… や、ああっ!?」
 まずはディルドをシゥの淫裂にずぶりと沈める。俺のモノより小振りであることもあってか、難なく奥まで入り込んだ。三分の二が埋まった辺りで、最奥に当たった感触が伝わってくる。
「なっ、なに、なんですか、これっ、ご主人様の、おちんちんじゃ、ない!?」
「そんなものあげる訳がないだろ。玩具だよ」
「やっ、やだ、ご主人様の、ご主人様のおちんちんが――っああ!?」
「贅沢言うな、この雌奴隷。身の程を弁えろ」
 二、三発尻を張ると、悲鳴を上げてすぐに大人しくなるシゥ。
 可哀想だとは思ったが、これもプレイの一環なので我慢して欲しい。
 それにしても、挿入された瞬間に俺のモノじゃないと騒ぎ立てるというのは、何というか非常にそそるものがある。出来ることなら今すぐにでもご希望に沿って俺のモノを挿入してやりたい気分だ。
 ……いかん、頭がくらくらしてきた。
 そう長くは俺の理性が持ちそうにないことを確信して、とにかく次へ進む。
「シゥはお尻はまだ何も入れたことがなかったな?」
「え、う……」
「なかったよな?」
「は、はい…… まだ、お尻には、ご主人様のおちんちんも、入れたことはない、です」
 まるでそれを期待しているかのように告白するシゥ。
 俺は思わず顔に浮かんでくる嫌な笑みを殺しながら、唾液で濡らしたローターを彼女の窄まりに宛がう。
「じゃあまずは訓練だな。訓練は大事だろ? これでも咥えてろ」
「いっ、あ、ああっ!?」
 少しばかり力を込めて、ローターをシゥの菊門の中に押し込む。後はコードの先にあるコントローラーのつまみを「弱」に設定して――
「や、あ、あ、あ、あっ!? ふっ、震えっ、これ、なに!?」
「いいものだろ? しばらくそれで一人で楽しんでろ」
「やだ、初めては、ご主人様の、おちんちんがぁ……! ひ、うあぁ……」
 未知のものに弄ばれるシゥをひとまず放置して、俺は先程からシゥの痴態に見入っているネイの手を捕まえた。
「さ、久しぶりに楽しもうか、ネイ」
「え、あ、い、いいのですか?」
「シゥは一人でお楽しみ中みたいだから、放っておこう」
 ネイを腕の中に抱き寄せ、先程までシゥにしていた荒っぽさとはまるで正反対の優しさを意識して行為を始める。
 そっとネイの赤い服の裾を持ち上げ、中に手を入れる。下着に――ショーツに触れると、やや湿っぽい布の感触があった。
「見てて濡れた?」
「そ、その…… はい、済みません……」
「いや、気にしなくていい」
 耳の先まで真っ赤にしながらも正直にそう言ったネイに俺は苦笑しながら、その服を剥いでいく。最初は複雑だと思っていた彼女達の上下一体の外套のような服だが、今では脱がすのに十秒も掛からない。
「あう、あ、うう、ご主人、様ぁ……」
 一人で身悶えしているシゥに笑みを零しながら、俺は瞬く間に豪奢な装飾の下着――ブラ、オープンフィンガーの長手袋、ガーターベルト、ショーツにガーターストッキングだけの姿になったネイとゆっくり口付けを交わした。


「ふ、やぁ、あ、あ……」
 細く綺麗な首筋を舐め撫でながら、俺の膝の上に抱いたネイの、その豪奢な下着を丁寧に剥ぎ取っていく。
 彼女が漏らす綺麗な声が耳に心地よい。
「あ、う、ぅ」
「舐めるの、気持ちいい?」
「は、はい…… ご主人様の舌、気持ちいいです…… ひゃう!?」
 長く尖った特徴的な耳をちろと舐めると、その声が跳ねる。
 やはり彼女達は総じて耳が弱いのだろうか。人間でも敏感な人はたまにいるが、こうまではならないだろう。
「あっ、あ、ひ、駄目です、ご主人様、あっ、耳は」
「駄目?」
 先端を咥えて口の中でぐるぐると舐め回すと、調子良さげに声を跳ねさせるネイ。
 シゥだと度が過ぎると非常に怒られるし、ミゥにはそれではイけないと哀願されるから、つい調子に乗ってしまう。
「やっ、あ、だめ、だめっ、そんな、あっ、あ、ひ……!」
「ん?」
 と、不意にその声が張り詰めたかと思うと、ぶるり、とネイの身体が震え、くたりと脱力して俺の腹に身体を預けてきた。
 まさか、耳で?
「……イっちゃった?」
「っ――」
 そう問うと、途端に今まで以上に真っ赤になって顔を伏せてしまうネイ。その上でぼそぼそと「駄目って言ったじゃないですかぁ……」と囁くような音量で文句を言ってくる。
 そんな彼女に苦笑して、俺は再びその尖った耳に舌をつけんばかりに口を寄せて、
「ごめん。ネイが可愛くって、つい」
「う……」
「イっちゃったってことは、下はもう洪水になってるかな」
「あ、う……」
 俺の問いにネイは顔を赤くして顔を伏せるばかりで、答えない。
 仕方なく直接確かめるために、ネイの赤いショーツの中へ指を滑らせ、無毛の縦筋へ這わせる。そこはもうすっかり濡れて、ぬちりと粘度のある水の感触に覆われていた。
「っ、あ、ご、ご主人様……」
 割れ目を人差し指を差し込み、その中に隠れる膣口を撫でる。
 彼女自身の愛液の助けを借りて浅く指を入れると、小さく細い身体がびくりと震えて、指が強く締め付けられた。
 そのまま浅く動かすと、か細い声を漏らして反応するネイ。
「あ、あっ、っ、あ、あ、う」
「気持ちいい?」
「は、いっ、あ、うっ、ご主人様の、指、いいですっ、ゆびいっ、ああっ……!」
 恥ずかしさ故か真っ赤になっているその顔を覗き込んでいると、次第に紅玉の瞳の焦点がブレてきているのが分かる。 前回もあった、絶頂前のトリップだろう。
 ならこのままもう一度イかせてやろうかと、人差し指の動きを強くする。
「あっ、あっあっ、あ、ごしゅじんさま、ごしゅじんさまのっ、ゆびで、ゆびでっ、イっちゃ、あ、ああ……!」
 ざらざらとしたネイの膣内を指で撫で回し、肉の締め付けに適度に抵抗しながら、どんどんと奥へと進めていく。
 やがて指先に触れる、周囲の膣壁とは違うやや硬い感触。それを押し上げるようにぐりっと弄ると、途端に劇的な反応があった。
「あっ、あ、いっ、ああぁっ!?」
 ぶしっ、という水音と共にネイの中にある指先に暖かいものを感じると同時、再び脱力する彼女。
 指で潮を吹くぐらいに感じるとは…… あまり粘着質に攻めるのは良くないかもしれない。
「大丈夫か? ネイ」
「あ、う……? あ、ああ、私っ、す、すみません……!」
 自分の身体の反応を思い出したのか、俺の指が入ったままの股間を慌てて両手で隠そうとする彼女。
 恐らくはシゥのように粗相したと思ったのだろう。実際、先程の潮吹きもあって、そう勘違いしてもおかしくないぐらいに俺の手は彼女の愛液で濡れていた。
「これぐらいなんともないって」
「で、ですけど、その、私、粗相を……」
「ああ、さっきのはおしっこじゃないから大丈夫。女の子ならあることだ」
 そう言うと、うう、と呻きながら顔を伏せてしまうネイ。
 おしっこ、という言葉に反応したのだろうか。相変わらず、他の子に比べて羞恥心が強い。
「あ、うぅ…… で、でも」
「そんなに気になるなら、綺麗にしてやろう」
 俺の指がまだ入ったままだというのに尚も股間を隠しながらそう恥ずかしがる彼女に、俺は笑みを浮かべてそう答えた。
 ほぼ同時に有無を言わさず、彼女を背中から押し倒す。そして太腿を持ち上げ――
「え、や、ご、ご主人様!?」
「じゃあ、いくぞ」
「ま、待ってください、こんな格好――ひゃう!?」
 俺は彼女の尻を自分の胸元まで持ってくると、目の前にある濡れた縦筋へ遠慮なくむしゃぶりついた。
 たっぷりとそこに湛えられた愛液を貪るように舌を這わせ、潜り込ませる。
「あ、あ、あっ、あ、駄目、ご主人様、それっ、舌、舌がっ、ご主人様の舌があっ……!?」
 ご主人様の舌が、と連呼しながら盛大に喘ぐ彼女。
 少し大げさに感じるが、無理はないかもしれない。俺の舌は彼女との三倍近い体格差故に彼女の膣の中ほどまで届いている。
 自分の身体の中――それも敏感な部分を他の生物の舌がのたくっていると思えば、彼女の反応も頷けるものだ。止めはしないが。
「……それにしても、やっぱり甘いな」
 まあ、濃い目の桃か何かのジュースだと思えば十分飲めなくはないし、下手な女性の愛液よりずっと抵抗はない。
 舌を伸ばして、彼女の膣壁を舐め上げながら、その愛液を啜る。
「やっ、音を、音を立てて、っあ、吸わないで下さいぃ……! やっ、あ、あ、あっ、あ……!」
 じゅるじゅると音を立てて啜っていることに抗議と一緒に手足と翅を動かして俺から逃れようとするネイ。
 しかし俺の眼前に彼女の小振りな尻があるということは、彼女の体勢はほぼ逆さ吊りに近いものであるわけで。この状態から逃れるのは容易なことではない。
 そして俺は彼女のその可愛らしい縦筋のある股間部に舌を這わせ続けているわけで。
「やっ、あっ、やめ、やめて、くださっ、あ、あっ、あっ、ひっ、あ、あ、や、あぁ……!」
 暴れる足の動きが弱々しいものになり、次第に喘ぎが単調かつ激しいものになってくる。そして舌先に感じる愛液の増加。
 三度上り詰めようとしている彼女に、俺は尖らせた舌先を割れ目の終端にある淫核へと擦り当てた。
「あ、あっ、ごしゅじんさまのっ、ごしゅじんさまにっ、あそこ、たべられてっ、イくっ、イっちゃうっ!」
 大きな声でそう宣言して、ベッドのシーツを掻き毟りながら、ネイは再びその身体を震わせた。
 よほど良かったのだろう。身体は完全に脱力して俺の腕に下半身を預け、背中の翅は時折思い出したように震え、赤い燐光を漏らしている。
 抱き起こしてこちらを向かせると、朦朧とした、恍惚としたような表情が細いフレームの眼鏡越しにあった。
 そんな彼女がどうしようもなく可愛くて、口付けをする。
「ん、っ……」
 半分気を失っているのか、口付けに対するリアクションはなかった。
 だが、その小さな口内にある舌をこちらの舌で絡め取ると、ゆっくりと吸い返してくる。
「ん、あ、む……」
 唾液を交換する静かな水音が耳に響く。
 甘味を舌先に感じながら、俺はこっそりと露出させた下半身のモノを、ネイの尻肉の合間へとすり寄せた。
「ネイ、いいか?」
 そう問うと、ネイは紅玉の瞳と俺と彼女自身の唾液で濡れた口を薄く開き、頬を赤く染めた表情で小さく頷いた。
 いい加減、我慢の限界だ。
 先走りで先端が僅かに濡れている俺のモノを、舌で拭ったばかりなのにもう溢れようとしているネイの愛液で更に濡らしてから、その源泉である縦筋に押し付ける。
 サイズ比で言えば、彼女の太腿の三分の一ほどもあるモノを見た目幼い縦筋に挿入しようという、明らかに滅茶苦茶な行為。
 しかし、潤った縦筋はモノの先端を押し付けるとくちりと割れて、それを受け入れようとする。
 中に覗くのは、初めて外気に触れたかのような鮮やかな肉色。
「っ、あ、あ、あ、あっ」
 ぬぬっ、とモノをその初々しい秘部に沈めると、上擦った断続的な悲鳴をネイが上げる。
 自分の腕ほどもある逸物がそこに入ってくるのは、一体どれほどの感覚なのだろうか。
「やっ、あ、ごしゅじんさまのっ、おちんちんが、いっぱい、はいってきてるうっ……!」
 目を強く閉じてシーツを掴み、細い足で俺の腰を力強く挟み込みながらそんな声を上げるネイ。
 ぎちぎちに締め付けてくる狭い秘道が、彼女が感じている圧迫感を俺に返してくる。
「気持ちいいか?」
「っあ、はい、はいっ、きもちいい、おちんちんきもちいいですっ、あっ、あ、あ、あひっ!」
 そのうち、こつりと彼女の最奥にモノの先端が到達した。
 同時にネイの身体がびくりと跳ね、ぎゅうっとモノが一際締め付けられる。
 彼女がまた達したのを感じながら、俺は休まずに腰を動かし始めた。
「っあ、やっあ、あっ、あ、あっ、あ、だめっ、ごしゅじ、さまっ、また、イっちゃ、ひっ、あ、あっ!」
「く、遠慮、しなくていいぞっ……!」
「あっあっあ、あ、ああっ! やらっ、もっ、あ、だめ、おっき、あ、ごしゅ、さまあっ、あっ、ああぁ!」
 ぐちぐち、と腰を前後させる度に、白く濁った愛液が俺と彼女の接続部から流れ落ちる。
 断続的な悲鳴が上がる度に、きゅっきゅっと彼女の極上の膣が俺のモノを締め上げる。
 いつ射精してもおかしくない快感の中、俺はひたすらに我慢して、一秒でも長く彼女の子宮を小突き上げた。
「ひっ、や、また、またっ、イっちゃ、ひ、ああっ、やっ、もっ、らめっ、こわれっ、ちゃっ、ああああああッ!」
「く……!」
 そして限界が来る。
 背筋を駆け上がる快感に視界が白く明滅し、それに押し流されるように俺は射精を始めた。
 いつもの脈動の音と共に、どく、どくり、と腰が疼く。
「はっ、はっ、は、あ…… おちんちん、から、せーえきが、あつぃ……」
 俺の子種を小さな子宮になみなみと注がれながら、上気し呆けた様子で荒く浅い息と共に言葉を呟くネイ。
 この様子ではしばらくはまともな会話は無理だろうと判断して、俺はちらと視線を動かした。
 そこには俺とネイの行為が始まった時からずっと、食い入るような視線と意識を向けてきている存在がいる。
「……君も欲しいか? シゥ」
「っあ……!?」
 目の部分を黒布で覆われ、腕を後ろに拘束されて尻を上へ突き出すような体勢のまま、シゥはこちらを見えないはずの目でじっと凝視していた。
 彼女達のその長く伸びた耳は伊達で長く伸びている訳ではない。恐らくはその優れた聴覚を全力でこちらに傾けるために、視線を見えずともこちらへ向けていたのだろう。
「そんなところで耳を傾けて、息を荒げながらずっと俺とネイの声を聞いて…… いやらしい子だな」
「こ、これは、だって、その、ご主人、さま、が」
 異常に狼狽しているシゥの様子に笑いを堪え切れず、笑みを零しながら俺はネイからモノを抜く。
 その感覚に小さな声を漏らしたネイに、シゥがびくりと反応する。本当に全力で聴覚を傾けているのだろう。ひょっとしたら、モノを前後させる肉と水の音まで鮮明に聞いていたのかもしれない。
「奴隷のくせに、ご主人様の所為にするのか。これは悪い奴隷だな」
「あっ、ちっ、ちが――あっ」
 何事かを言いかけたシゥの言葉が止まる。
「どうした? 何だ?」
「っ、あ、その、ご主人、さま……」
 何かを窺うようなシゥの声。すぐに気付くとは、流石というか何と言うか。
 俺はネイから抜き取った愛液やら精液がまだ垂れているモノを、シゥの眼前へと突き付けたのだ。
「ちゃんと言わなきゃ分からないぞ?」
「そ、そのっ、ご主人様の、おちんちん、ください」
 気付いているのかどうかは分からないが、自分で尻を軽く振りながらそう哀願するシゥ。
 尻尾のようにゆらゆらと振れているディルドとローターのコードがなんとも滑稽だ。
「そうか、欲しいか」
「は、はいっ」
「でも、シゥは悪い子だしな…… どうしようか?」
 そうやってわざとらしく悩む素振りを見せると、シゥはおずおずと不自由な身体を這うように動かして、こちらへ尻を向けてきた。
 まだスパンキングの名残である尻の赤みが抜けておらず、突っ込まれたディルドとローターの刺激に加えてネイの嬌声を聞き続けていたからか、股間はとろとろと涎を垂らしている――そんな尻を。
 そうして、シゥはこんなことを始めた俺ですら驚くことを言った。
「そ、その、叩いて、ください」
「え?」
「わ、わたし、ご主人様の、言うとおり、悪い子だから…… お尻、さっきみたいに叩いて、それで、その、代わりに、おちんちん、いれてください…… おねがい、します」
 小振りな尻をゆらゆらと振りながらそう哀願するシゥに、俺の理性が持つはずもなかった。


「……っ、あ、うっ」
「……まだ痛むか?」
「う…… だ、大丈夫だ」
 結局。
 俺はあの後、シゥの尻を散々叩いた後で行為に及び、彼女がネイ同様に半失神するまで続けた。
 直後に俺も精神的に疲れて眠り込み、起きた時には丁度ネイがシゥの拘束を外しているところで。
「そ、その。自分で頼んだことだし、ご主人さ、が、気にすることじゃない」
「そ、そうか」
 尻を痛そうに撫で擦っているシゥ。
 確かに最後は彼女自身が願ったことなのだが、その、そんな涙目かつ気恥ずかしそうにしながらも強がって『俺のせいだから』なんて言われても困る。
「魔法で治せないのか?」
「いや、その。腫れたのは勿論治したけど」
 言って、何故かシゥはそこで視線をついと逸らし、
「痛いのだけは、上手く行かなくて」
「大丈夫なのか?」
「……大丈夫だって。ほっといたら引いてくだろ、多分」
 ……聞いているのは魔法の調子のことなのだが、どうやらそこには触れたくはないらしい。
 まあ、なんというかどうしようもないことに、妖精炎魔法の特質をしっかりと学び始めた俺にはその理由が何となく分かってしまうのだが。
 端的に言うなら、本心で望まないことは出来ない、ということだ。
「それより、ネイ?」
「は、はいっ?」
 あからさまに話題を逸らして、シゥの矛先はこちらを神妙な顔で見ていたネイに向かう。
「分かってるとは思うが…… さっきのことは余計な奴には言うなよ? 特にあの覗き見野郎にはな」
「は、はい、勿論です」
「言ったら今度こそお前の番だからな、覚悟しとけよ」
 鋭い視線でネイを威嚇しながらそう言うシゥに、既にプレイの最中の弱々しい姿は面影もない。
 それならそれでいいのだが――
「シゥ、そう言うならそれを返して貰ってもいいか」
 俺が指したのは、シゥの首に未だ巻かれている黒革の首輪だ。
 こうして改めて見ると、彼女の首には大きすぎ、無骨すぎるもの。縄を掛けるための金具なども付いており、当然と言うべきか、装飾品として普段着けるには適さない。
 そんなものを着けていれば、隠そうにも隠せないだろうに――しかし、彼女は非常に嫌そうな顔をして、
「着けてちゃ駄目なのか?」
 なんて聞き返してくる。
「それはああいうことするための専用のものだから、普段着けるには適してない。手入れもしなくちゃいけないしな」
「大丈夫だって、それぐらい。手入れも自分でやるし」
「……第一、不自然に思われるぞ。ニニルは人間のことにも色々詳しいみたいだし、そこからバレるんじゃないか?」
「ご主人かネイが言いさえしなきゃ、あいつの勝手な想像で済む」
「それに、首だって――」
「向こうでもこれよりでかくて重いのを着けてたから大丈夫だ。なあネイ?」
「え、あ、はい。確かにアレは金属製でしたから、革製のそれと比べて無骨で重いものでしたが……」
「なんでそんなものを?」
「管理用だよ。というか首輪の用途なんてそれぐらいしかないだろ」
 ああ言えばこう言う。着けた本人が言うのもなんだが、余程気に入ったようだ。というか首輪の用途については十分承知なのか。
 まあ、着けるのを認めてもそれはそれで非常にそそるものがあるのだが、やはり問題が多い。
「済まんが、それは駄目だ。着けるにしたって、もうちょっとシゥの首に合ったやつのほうがいい」
「……ちっ、分かったよ」
 俺のはっきりとした言葉にシゥは首輪をしぶしぶと外して返してくれた。
 非常に名残惜しげな視線が首輪に向けられる。その眼差しの熱さに俺は少しばかり背筋に冷たいものを覚えながら、手入れを終えて元あった棚の中へと戻す。
 もしも今度やる時は、行き過ぎないように気をつけよう。
「それにしても、その、人間は好きな人と一緒に楽しく過ごす方法を色々と考えているんですね」
 少し恥ずかしげにしながらも、そう感心したように言うのはネイ。
 一方的な快楽のために無理やりに、という発想に至らないところが、らしいというか何と言うか。
「君らは友人とかとは何をするんだ?」
「歌ったり踊ったり、が多いですね。後はお喋りですか。狩りをすることもあります」
「狩り?」
「はい。主にお食事会の前に開催されて、皆で適当な動物を」
 ネイは思い出しながら喋っているのか、時折視線を宙へと逸らす。
 聞いていると原始的な狩猟民族の行動に思えるが、脳内でその姿を腰蓑姿の原人ではなく彼女らの姿に置き換える。
 ……なかなか華やかでありながら苛烈だ。
「後は、共通する趣味の子らで集まって、色々と」
「例えば?」
「織物や編み物ですとか、あとミゥのように研究など。そちらの方はミゥやヅィに聞いて頂いた方が詳しいです」
「なるほど」
「と言っても、徴兵が始まってからはあまり集まる機会もなく、今の妖精郷でどんなことが行われているのかはよく分からないのですが…… 私が歌い手を務めていた舞踏会の方も、しばらくで無くなってしまったと聞きましたし」
「そうなのか……」
 ネイの表情に少し暗い影が落ちる。
 兵士になる前は芸能の世界に生きていた彼女だけに、今そこに身を置いていなくとも、かつて居た場所が失われてしまうのはつらいものがあるのだろう。
「まあ、今はあいつらが色々やってるみたいだから、以前みたいによろしくやってるんじゃねぇか?」
「そうだといいんですけど。そう言えば、シゥ?」
「あん?」
「シゥって、歌も踊りも上手でしたよね。即興とかも素晴らしかったですし…… 何処かで歌ったり踊ったりしてたんですか?」
「学院時代にちょっと齧っただけだ。基本的には俺の性には合わねえよ」
「そうですか…… ちょっと勿体ないと思いますよ。才能ありそうだったんですけど」
「お前、よくそんなこと覚えてるな。確か、二百年ぐらい前に二、三回踊っただけのはずだぞ」
「印象的でしたから」
 そう言って笑うネイに、けっ、と苦い顔をするシゥ。
 態度といいセンスといい本当に正反対な二人だが、上官と部下という関係もあってか仲は良さそうだ。
 まあ、そうでもなければ二百年などという長い年月を共には過ごせないだろう。
「ご主人も何笑ってんだ」
「いや、二百年か。俺には想像も付かないな」
「人間は魔法使いでもない限り、どう頑張っても百年を超えられませんからね。私達は平均してその数倍の年月を生きますから」
 軽く笑って言うネイ。百年の数倍とは、人間には想像の遥か彼方だ。
 それだけ長く生きていると、不都合なことも色々あるのではないかと思う。
「やっぱりそれだけ生きてると、色々あるんだろうな」
「はい。ですから私達はどうでもいいことは割とすぐに忘れてしまいます。妖精のほぼ全員が本能的に楽しいことを大切にするのも、長い年月を生きることに関係があるのではないかという研究がなされていますね」
「なるほど」
「俺はんなの気にしたことねえな。楽しいことは楽しい、ってのは認めるけどよ」
「シゥはいつもそんな感じですよね。初めて会った時から全然変わりません」
「知ってるとは思うが、俺はそれまでに色々あったからな。もうこれ以上は変わらねえだろ」
「ふふ……」
 そんな会話で笑うネイに、何か満更でもなさそうな様子のシゥ。
 血こそ繋がっていないが、彼女らは家族なのだろう。そしてそんな雰囲気に少し気後れしてしまうと同時に、羨ましくも感じる俺だった。
 笑って、泣いて、楽しんで、戦って――共に生きてきたからこそ、築くことの叶う関係。
 そんな彼女達の枠の中に、俺が入ることはできるのだろうか。
 先程はシゥに怒られてしまったが、それを成すには彼女達を守れるだけの力が最低限必要なのではないかと。
 やはりそう思いながら、楽しい時間は過ぎていった。

comment

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No title

更新お疲れ様です。
主人公のSモード起動www
S終わったあとのシゥの反応にも期待^^

おひさしぶりです

いただきました。
SMなんて教えてしまっても大丈夫なのかな……?
いつか反撃されて大変な事になりそうなんですが。
個人的には男性側がMというのはアウトなんで反撃は勘弁してほしいですがw
終わった後の妖精二人の反応が楽しみです。

感想

この妖精たちは、多機能型とか集中型とかそういう違いあるんですねぇ。
だんだんと人間離れしていく主人公。これからどんな能力者になるか楽しみです。

ネイがSっ気に目覚めそうで怖いです。

そして、ごく当たり前の如くいかがわしい道具を持っている主人公も怖いです。どこで手に入れたというか、そもそも何で大量にンなもん持ってるとか、明らかに使用経験あるだろという所が特に。

加筆多謝!
悠がドS過ぎて吹いた。シウもMっ気があったけど馴染み過ぎてる。でも、全員調教上等な気もする(主従&ベタ惚れ的な意味で
そろそろニニルかヅィのターンであって欲しいかも。

No title

更新お疲れ様です
更新速度は気にせずにがんばってください^^
そしてクリスマスまでカウントあと1年(笑)

No title

更新乙です
首輪をねだるとかだいぶきてますなあ
だが一話時点での悠の思考は
>彼女達は小さいぞ? ある意味フィギュアに欲情してるようなものだぞ? 大丈夫か?
だったのにいまとなっては…w

No title

シゥ、とうとう首輪着けたか……
完全に主人公に従属しているというか、なんというか。
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