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フィフニルの妖精達25「閑話・建前と本心と」

「――では、フィフニルの族長として幻影界に戻る気はないと?」
「そうですね。単なる族長としてならまだ構いませんが、組織に利用されるならば、もう戻りたくはありません」
 族長の発言を一言一句逃さずに、手元の手帳へと書き写す。
 私はその言葉に、少し悩んで矢印を付け足し、
「悠のことは戻らない理由には入らないのですか?」
 と、発した言葉をそのままその後に書き加えた。
「いえ、勿論ご主人様のこともあります。一度交わした言葉を違えることは出来ませんから。ただ幻影界に戻らない一番の理由は前述の通りです。ご主人様という理由が出来たのは、その後ですから」
「なるほど。 ……お話、ありがとうございました」
 言って、私は手帳を閉じる。中身を不用意に読まれないよう独自の文字変質の妖精炎魔法を掛け、傍の鞄にしまった。代わりに別の、少し小さい手帳を取り出す。
「いえ。それにしてもニニル、あなたは前向きですね」
「仕事に直向きだと言って頂いた方が幸いです。折角の機会ですし、もしも落ち着いたら大きい記事の三つや四つは書けそうですからね。逃したくはありません」
 族長の微笑みを伴ったそんな言葉に返事をしながら、私は心の中で少し複雑な思いを抱きながら、頭の中で次にする質問を並べる。
 さて、族長はどんな答えを返してくれるのだろうか。
「では、少々趣向の違う質問をしてもいいでしょうか?」
「え? あ、はい。どうぞ?」
「悠のことです。族長は悠をどう思っているのですか?」
 質問に、族長の微笑みが崩れた。僅かに硬直した後に、余裕のあった表情が気恥ずかしさと焦りが入り混じったものに変わる。分かりやすい『当たり』の反応だ。
 取材に慣れているはずの族長には、滅多に見られないはずの反応でもある。
「え、ええと…… これも記事にするのですか?」
「気が向いたら記事にします。何にせよ美味しい話題であることには間違いありませんから。私の記憶が確かなら、人間に恋した妖精の話が詳しい記事になったことはありません。お尋ねするのが難しいですからね」
「こ、恋などと…… 私はただ、私達を住まわせて頂いている対価としてご主人様の――」
「おや? では族長にとって悠は単純に取引の相手で、そこにはいかなる感情もないと?」
「そ、それは……! というか、答えなければいけないのですか?」
「先日の代償として取材を受けてもいいと言ったのは族長じゃないですか。ヅィ様やネイさんはちゃんと答えて頂けましたよ?」
 私の言葉に族長は一瞬押し黙り、それから渋々といった様子で口を開く。
「っ、もう…… 確かに、私はご主人様を愛しています。お仕えしている主な理由も、今となってはそれです」
 そう言った族長の顔は、私から少し視線を逸らし、気恥ずかしさが十分に感じられるものだったが、また同時に隠し切れない喜びを内包していた。
「今までで悠以外にそのような感情を抱かれたことは?」
「ありませんっ。変なことを聞かないで下さい」
 今度の質問には、族長は一気にその表情を私への怒りに変えた。
 その様子に、本人が言う通り初恋に間違いなさそうだと、手帳に書き入れる。
「いえ、失礼しました。では、どのように悠から愛してもらっているのか、そこを詳しく教えて頂けませんか?」
「なっ……!? そ、そんなことまで――」
「ヅィ様やネイさんは答えて頂けましたが」
 ここぞの追撃に、族長はびくりと反撃の口を閉じた。
 ちなみに嘘ではない。ヅィ様は割と楽しげに話して頂いたし、ネイさんもやや苦労はしたがヅィ様が話してくれたことを引き合いに出して、答えて貰っている。
「っっ……! そ、その、頭を撫でて頂いたり、優しく口付けをして頂いたり…… あ、あそこを、触って、舐めて頂いたり……」
「他には? 挿入なども」
「お、おちんちんを、入れて頂いたり……」
「入れるだけですか?」
「つっ、突いて、擦って、っ、その…… も、もういいでしょう?」
 根を上げるように言った族長の顔はもう真っ赤だった。目にはやや涙が浮いている。
 これ以上質問しても大した進展はないだろう。それに――
「――そうですね。ありがとうございます」
 私は自分でも分かる、やや硬い声色でそう締め切った。


 悠の部屋のベッドに寝転がり、小さい手帳のページを眺める。
 そこには先ほど族長にも答えて頂いた、悠についての質問の答えとその時の反応が、族長、ヅィ様、ネイさんの三人分まとめてある。
 三者三様だが、どれも幸せと愛に満ちていることが分かる答えだ。
「……」
 私はその答えをしばし眺め――唐突に面白くなくなって、手帳を乱暴に閉じた。
 族長の応答の途中辺りから、私は一連の質問を、自分で始めたことなのに面白くないと感じていた。
 途中で中断する訳にはいかないので、頭の中で最初に試算した通りに質問を進めたが、もっと早くに打ち切るべきだったかと今更ながら思う。
 こんな気分になることが予想できなかった訳ではないのだけど。
「……ふん」
 鼻を鳴らして、私はよく分からない苛立ちで作った拳をベッドに叩き込んだ。ぼふり、と衝撃に布団が跳ね、少なくない埃が舞う。勿論、それらが私に影響を及ぼすことはない。
 部屋の主――悠は、昼過ぎにウールズウェイズやあの黒いのと一緒に買い物に出かけて、まだ帰ってきていない。
 ウールズウェイズのことだ。悠にベタベタとくっ付いて、引っ切りなしに誘惑したりしているのだろう、大方。
 それを思うと、また無性に苛立ちが募る。
 拳をまた一発ベッドに叩き込んで、私は自嘲する。
 認めたくはないけれど、少なくとも私の中では認めなければならない。
 私も、悠を好きになってしまったのだろう、ということに。
「……ああ、もう」
 そうでなければ、この胸に支えるような不快感と焦燥感、そして苛立ちの説明がつかない。
 これは嫉妬だ。私は不可解ながらも、族長達に嫉妬している。
 しかし、何故?
 確かに悠は私の知っている「人間」とは違った。私が知っている「人間」というのは、乱暴で、自分勝手で、残酷で、自然の破壊者だ。世界が違うからかもしれないが、悠はそのどれにも当て嵌まらない、と思う。
 でも、それだけで自分が恋をするとは思えない。
 やはり、あんな形ではあったとはいえ、身体を重ねたから?
 しかしそれだけが原因では、人間の間で言う「尻軽女」とやらと何も変わらない気がする。
 私は自分がそんな節操のない妖精だとは思いたくない。あんなべたべたした行為だけで相手が人間だろうが恋を抱くなんて、あまりにも不潔だ。
 いや、でもだとしたら――
「……ああ、もう!」
 答えが出ずに、私はもう一度拳を振り下ろした。
 考えれば考えるほど苛々する上に、先日の悠との行為の光景が頭を過ぎって落ち着かない。
 つい自分の身体を眺める。
 ウールズウェイズのように豊満ではない身体。
 悠はウールズウェイズと身体を重ねている機会が多いという。向こうから誘われているのもあるのだろうが、やはりあれぐらい凹凸のある身体の方が悠はいいのだろうか。
 妖精同士の付き合いなら身体の良し悪しはそこまで気になるものではないが、相手が妖精や精霊以外なら話は異なる。彼らは性欲などという下卑た欲求を抱えて生きており、特に男性はそれが強いものが多いという。そして彼らは相手の見た目の良し悪しにそれが最も左右されるらしいのだ。
 単純に考えて、綺麗な顔、豊満な身体つきの方がよろしいのだろう。その思考回路はあまり理解したくはないが。
 顔は多分問題ないだろう。自分で言うのも何だが、妖精の平均以上はあると自負している。ここの六人と比べると微妙だが。
 だが悲しいかな身体の方は顔ほど自信がない。流石にネイさんほどではないが、族長やヴェイルシアスと比べると少々怪しい。そして今ここにはそれ以上の身体の持ち主としてウールズウェイズとヅィ様がいる。
 顔と身体で左右されるなら、まずあの二人に悠の視線は行くはずだ。私が悠の相手に選ばれる余地はあるのだろうか。
「……っ」
 取り敢えず拳をまた一発ベッドに打ち込んで、少し落ち着いて考える。
 本当にそれのみで悠の判断基準が決定するなら、あの二人とのみ性交をすることになる。それはおかしい。
 族長もネイさんも、悠とは性交の経験があるからだ。だから顔と身体による選択はあるとしても、やはり副次的要素になるということか。
 なら最も大きい選択の基準は何なのだろう。
 それさえ分かれば、私はウールズウェイズを恐れなくて済むようになる可能性が高い。
「……は、ぁ」
 何故だか微妙に熱くなってきた身体を妖精炎魔法で冷やし、深い呼吸をしてからまた考える。
 何かなかったか。悠の台詞に、最も大きい選択の基準を示すような言葉が。
 自分の記憶を探る。やたらと性交の光景が脳裏に蘇ってきて邪魔なことこの上ないが、やはり性交の最中が関連した台詞を話している可能性が高い。
 あれでもない、これでもない、と探る内、私はある可能性に辿り着きつつあった。
 というか、何故最初にそれを選択肢の中に入れなかったのか。
 すなわち、悠も私達を愛しているから、というものだ。
「……っ!」
 自分で考えてなんだか無性に恥ずかしくなってきたので、取り敢えず拳を一発。
 だが、一番可能性が高いとすればこれだろう。悠は全員を愛しているから、全員に機会があるのだ。
 ということは――
「……でも、私は」
 ――いや、本当に合っているか?
 悠が六人を愛しているのは間違いないだろう。だが私は愛されているかといえば――その可能性はまず、ない。
 最初は悠が暴走していたから。二回目は私が襲って、脅したから。
 そこに愛が介在する余地はなかったはずだ。
 だから、私はこれからも悠から選ばれることはなく、悠を脅して相手をして貰う、ということになるのだろう。
 ままならないものだ。憎たらしいほどに。
「……悠」
 呟いて、ベッドに顔を埋める。
 悠の匂いがするベッド。いくらか妖精郷で嗅いだことのある匂いが混じっているのは、六人の誰かの匂いなのだろう。
 ここで毎日のように六人の誰かと身体を重ねていたかと思うと、苛立ちが込み上げてくると同時に、正直に言って羨ましくなる。
 脳裏をまた過ぎる、先日の光景。
「悠……」
 何百年か前にエルフの夫婦の取材をした時に恋や愛、性交や自慰というものがあることを知ってから、私は機嫌の悪い時に時々、自分の胸や股間に指先を触れさせることを覚えた。
 そしてそれ以外のことは近日、悠のカメラに興味本位で借眼過去視を掛けたり、ネイさんから相談を受けるまですっかり忘れていたのだが…… 性交というものがあそこまで凄まじい行為だとは思いも寄らなかった。
 妖精郷では経験したことのない、圧倒的な快感。
 自慰とは桁の違う、癖になることは確実だろうと思われる快感。
 歌や踊り、食事などで得られる心地よさとは性質が違う。いつまでも浸っていたいと思える、適度な気だるさと快感の余韻がある。
 妖精の思考で考えれば、これは素晴らしいことだ。今まで知らなかったことが悔やまれるほど。
 創造者は何故、妖精にも男性と呼べるべきものを作らなかったのか。
 まあ、自分でそう考えておいてなんだが予想は出来る。
 これほど素晴らしい行為なら、殆どの妖精が可能な限り性交に明け暮れることは間違いないだろうからだ。
 日が昇ってから落ちて再び昇るまで、男性と繋がってあの身体の芯に響くような声を上げて。
 それは素晴らしい生活ではあるが、それ以外の文化は崩壊してしまうだろう。
 だから創造者は妖精種に男性を作らず、あたかも禁忌であるかのように定めたのだろう。
 だけれど、私は知ってしまった。
「んっ……」
 あの感覚を求めて、私は服の裾をたくし上げて邪魔にならないよう口で咥えて、露になった胸と股間に手を伸ばす。
 自慰では性交の快感には遠く及ばないが、その性質は似ている。
 だから、ある程度は充足を得られる。
「ん、あ、ふ」
 いつも自慰をする時のように何も考えず、頭を空っぽにする。割れ目に指を這わせ、乳首に親指の腹を当てる。
 割れ目や乳首の周囲を撫でるように指を前後させ、同時に妖精炎魔法で自分の感覚を徐々に鋭敏にしていく。痺れるような心地よさが、焼けるような快感に変わってくる。
「あ、んんっ」
 やがて割れ目を撫でる指先に少し粘り気のある水のような感触が出てくる。それを指に絡め、割れ目全体に塗り込んでいく。
 それが終わったら、割れ目の上、少ししこりのようなものがある場所へ指先を向かわせる。
 後は一番気持ちがいいここを撫で触るだけだ。
「は、んっ、あ、いっ、あ、んっ、あ」
 時折跳ねるような快感が身体を走る度、私は小さい声を上げながら自慰に没頭する。
 この間は一切のことを考えずにやる。雑念が入ると、快感の波が小さい分、すぐに冷めてしまうからだ。
「んっ、あ、あっ、あ、ん、あ、ふ…… んんっ」
 小さい水音を立てながら、私の自慰は続く。
 でも、やはり物足りない。
 性交の快楽を知ってしまった私には、もうこの程度の快感では満足することが出来なかった。
 何より、あのたまにやってくる突き抜けるような快感がない。
「……は、あ」
 つい余計なことを考えてしまう。
 これからのこと。この世界のこと。悠のこと。悠との性交のこと――
「……あ」
 ふと、濡れた自分の指先を見て思いつく。
 何も、今まで通り何も考えずにやることはない。
 よくよく考えれば、この自慰という行為は性交に快感の性質が似ているのは当然だ。自慰は性交を真似たものなのだから。
 だから、より正確な自慰とは性交のことを思い浮かべながらやるのではないだろうか。
 今までは無理だったが、私はもう本物の性交がどんなものであるか知っている。
 だから――
「っ、ふ、悠っ……」
 脳裏に先日の行為のことを思い浮かべる。
 そして同時に指を割れ目の奥、肉の穴へと挿入していく。
 太さも長さまるで足りないけれど、これは悠のアレだと見立てて。
 息苦しくお腹が壊れそうだったけれど、今までにないぐらい気持ち良くしてくれるアレだと――
「あ、あ、あっ」
 そうすると不思議なぐらいに快感が増した。
 軽く挿して抜いただけなのに、上擦った声が口から勝手に漏れる。
 先程の、自分で自分を誤魔化すための喘ぎとは雲泥の差だ。
「あ、悠…… っく、もっと……」
 私の脳内で、仮想の悠が私に微笑みかけて私の頭を撫でながらゆっくり優しく腰を動かす。
 その度に耳に響く、濃厚な水の音。私の股間は私の腕ほどもある悠のアレを何とか咥え込んで、一緒に悠を気持ち良くさせる。
 悠が気持ち良さそうな呻き声を上げる度、私の中でアレが震える。その感覚に私はまた声を漏らすのだ。
「あっ、や、悠、悠っ、もっと、気持ち良くしてっ、もっと――」
 普段なら絶対に口にしない甘い声でそう叫ぶ。
 快感がもたらす衝撃のままにベッドの上で跳ね、身体を布団に擦り付ける。
 そんな私を悠は見て、可愛いなニニルは、と――
「っ――あ、ああっ……!」
 一際大きい痙攣と共に、私の視界が白く染まった。
 性交の時にくる、突き抜けるような大きい快感。それを今、私は自慰によって得たのだ。
「っ、は、あ……」
 心地よい余韻を太腿をすり合わせて噛み締めながら、大きく息を吸う。
 ベッドから香る悠の匂いが、今はとても良い匂いに感じる。
「悠……」
 吸った息に交えて、脳裏に浮かぶ人間の名前を呟きながら、私は股間に指を突っ込んだままの姿でしばし呆としていた。
 涎や私の股間から垂れ落ちた液体でベッドが酷いことになっていると気付いたのは、もう少し後のことだった。
 

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更新お疲れ様です
ニニルがデレたぁぁ
次のニニルのターンに期待大(笑)

No title

ニニルって見かけによらず妄想突っ走るんですね……。というか、この妖精たちは恋愛ごとにはかなり初心ですよね。恋愛事に向かう感覚が人間とは違うようですけど。そもそも人間じゃないですし、男という概念自体がない種族なんで、人間と同じ価値観という方が不自然かもしれません。

男性体のいない生物って、何か理由があるのでしょうか? ニニルの言葉では創造者がそう作ったとありますけど、なにやら伏線のにおいが。

今回の話読んで気づいたのですが、ピアって族長だったんですね。ヅィが族長で、ピアは神官かそういう立場だと勘違いしていました。

次はネィとシゥの話のようですが、新たな展開を期待しています。主人公の入っていない、妖精同士の絡みとかも地味に見てみたいです。

あと、例のアレ、全く進んでいません!
プロフィール

fif

Author:fif

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