冷たい水を顔に打ち付けて、重い瞼を開かせる。
「……」
正面にある大鏡に写る自分の顔を、三白眼で睨んだ。
頬の辺りを、つう、と撫で、呟く。
「……酷いな」
何が酷いって、明らかに疲労が色濃い顔がそこにあるからだ。
昨晩、自分がやってしまった大盤振る舞いを考えれば、当然の話だったが。
タオルで顔を拭いながら、洗面所を出る。
と、扉を開けたところに、黒い妖精――ノアが立っていた。
いつもの無感情な黒い眼差しが、一直線にこちらを貫く。
「どうだった?」
「――ピア、ミゥ、両名共に『しばらく一人にしてください』との事です」
「そう、か」
ノアの報告に、洋室の扉を眺める。
その向こうでは、ピアとミゥが子持ち腹を撫で抱えながら落ち込んでいるはずだ。
ピアは酒に酔ってミゥと一緒に3Pなんてしてしまった事と、粗相の事。
ミゥも同じく、粗相の事で落ち込んでいる。
「ミゥがあそこまで落ち込むとは思わなかったが」
ピアはともかく、ミゥが粗相の事で火が出そうなぐらいに顔を真っ赤にするとは思わなかった。
何かトラウマでもあるのだろうか。
「いや、普通見られたら死にたいぞ」
俺の呟きに眉を歪めて答えたのはシゥ。
そう言えば、彼女も粗相をした事があったっけか。それも二度。
「……何を思い出してるんだ」
「いや、シゥの――」
「頼むからそれ以上喋るな、ご主人」
苦虫を噛み潰したような顔でそう言うシゥは、本気で嫌そうだった。
「でも、普通出るのか? 俺は催した事一度もないんだが」
「その、例えばご主人に出された時、暖かいのと、力が入らないので、で、出ちまうんだよ。……頼むから、これ以上喋らせないでくれ」
「わ、分かった」
長い耳まで瞬く間に赤くして、そう告白してくれたシゥ。
察するところ、一種の条件反射というやつだろうか。
彼女の痴態を思い出しながらそんな事を考えていると、不意に部屋の入口の方から声が聞こえてきた。
俺とシゥは咄嗟に顔を見合わせ、話題を切った事を確認。
その直後に、入口の扉が開いて、ヅィ、ネイ、ニニルの三人が帰ってきた。
「帰ったぞ、悠」
「お帰り」
「どうじゃ?」
「二人とも、体調悪いってさ。しばらく寝てるそうだ」
「ふむ」
俺が吐いた嘘を疑う事なく聞き入れ、一つ頷くヅィ。
実際のところ、酒を呑んでいた六人の誰も二日酔いの症状は出ていないのだが。
「……呑みすぎなんですよ」
「ふふ、そう言うでない、ニニル。しかし、ピアはともかく、ミゥがのう」
「しばらく呑んでなかったからじゃねえか?」
「軟いのう、あれしきで」
くっく、と苦笑に近い笑いを漏らすヅィ。
実際にピアもミゥも二日酔いではないのだが、彼女に言わせれば確かに軟いかもしれない。
何せ、昨日あったビール大瓶と洋酒六本ずつは、俺が確認しただけでも半分近くシゥとヅィで呑んでいるのだ。
先日の歓迎会の時のシゥの振る舞いといい、あの小さな身体の何処にそんな大量のアルコールが入っていくのだろうか。
「まあ、今日は特に何かある訳ではなかろ?」
「そうだな」
「ゆっくりさせてやるとするかの。我らが長には万全でいて貰わねばな」
そう言って笑みを浮かべるヅィは、不意に俺を一瞥して、その笑みを強めた。
実際にピアとミゥの腹が膨らんでいるのと、粗相をしているのを目撃したのは、俺達を起こしに来たシゥだけのはずだ。
……まあ、本当の所はヅィも大体予想が付いているのかも知れない。
「じゃあ、俺も朝食を摂りに行くか。シゥ、ノア。行こう」
「あいよ」
「了解」
「ごゆっくりの」
「行ってらっしゃいませ」
ヅィとネイに見送られて、部屋を出る。
伴って出たのはシゥとノア。何かと一緒にいる事が多い組み合わせだ。
「――ご主人様」
「ん?」
部屋を出てしばらく歩いた所で、唐突にノアが口を開いた。
立ち止まって、俺の胸ぐらいの位置に浮かぶ彼女の黒水晶の瞳を見つめ返す。
数秒の空白を置いた後、呟くようにノアが喋りだした。
「ミゥから聞いたのですが」
「ああ」
「ご主人様の精液には、妖精炎の飛躍的な増強効果があると」
「……そうらしいが」
「頂いても宜しいでしょうか」
無表情にそう口にしたノア。
俺もシゥもしばらく固まって――慌てて口を開く。
「ど、どうした? 何かあったのか?」
「ていうか第一、ノア、お前、な、何をするか分かってるのか?」
「肯定。把握しています。膣による性交の必要があると聞きました」
そう、先にシゥの質問に淡々と答えた後、俺に視線を合わせ、
「特に何かあった訳ではありません。戦力が増強出来るなら、しておくべきかと思考したのですが」
何か問題が? と続けるノア。
俺が、うーん、と唸っていると、シゥが恒例の質問をしてくれた。
「ノア。お前、ご主人の事…… す、好きか?」
「好き…… とは、どのような物でしょうか」
「そりゃ――」
と、そこでシゥも言葉を詰まらせる。
困ったように視線を宙に彷徨わせ、俺と目が合った瞬間、見る見る内にその顔を赤くし、
「だから、その、好きは好きだ! だから…… ああもう!」
今日は厄日だ、と最後に呟いて、そっぽを向いてしまった。
流石にノアもそんなシゥの解説では分からなかったらしく、視線を合わせる相手を俺に変えてくる。
俺はその黒髪の上に疑問符を幻視しながら、苦笑いで口を開いた。
「ノアは俺の事、どう思ってる?」
「ご主人様は、現在仕える対象の一人であり、その命令はピア・ウィルトヴィフ・フィフニルに次いで優先すべきものです。その――」
「いやいや、そういう事じゃなくて」
あまりに彼女らしい答えに、思わず苦笑が強くなる。
しかし、シゥではないが本当にどう伝えたものか。
恐らく、ありきたりな質問では意味がないだろう。かと言って、抽象的な表現でノアが理解してくれるとは思えない。
「そうだ、な」
「そうでなければ、どのような物なのでしょうか?」
「……例えば、君が好きで、かつ君に命令する立場の一人が命の危機に瀕していたとする。同時に、君が好きではなくて、かつ君に命令する立場の十人が危機に瀕しているとする」
「はい」
「君はどちらかしか助けられない。どっちを助ける?」
「双方の存在価値が等価であるならば、十人の方を助けるであろうと私は判断しますが」
「なら、この時、君が一人の方を助けたい、と思うか、あるいはどちらを助けるべきか迷ったなら、それが好き、という感情だ」
俺の話を聞いて僅かに眉を歪め、首を傾げるノアの黒髪をそっと撫でる。
「そう難しく考える事じゃない。まあ、この話の意味が分かったら、自ずと分かるだろう」
「……分かりました」
頷くノア。
多分、彼女にも好きや嫌いの感情はあるはずだ。
それを感情として理解してくれればいいのだが、かと言って単純に理解だけでどうにかなるものでもない。
全く、難しい話だ。
「さあ、早く朝ご飯を食べに行こう」
「はい」
再び俺と二人は歩き出す。
ふと、顔がまだ赤いシゥと目が合った時、俺は絶対にご主人を選ぶから、という呟きが聞こえた気がした。
朝ご飯を終えて部屋に戻ると、何もない時間が続く。
俺は和室の畳に寝転がりながら、何をするでもなく天井の木目を見つめていた。
連日続く情事の疲れか、何かをするにも身体がだるくて仕方がない。
「……」
ふと視線を部屋に向ける。
シゥは何か気になる事でもあったのか、自身の長いツインテールを弄っている。
ニニルは紙を広げて何かを書いている。恐らく彼女の仕事に関係する事だろう。
テーブルの前で直立している新聞紙は…… ヅィか。ネイも傍にいる。
ノアは部屋の隅に座り込んで、顎に指を添えて頭を傾げている。彼女の事だ。朝ご飯前の俺の話について考えているのだろう。
ピアとミゥはまだ部屋から出てこない。
そろそろ落ち着いてはいるだろうが、お腹が膨らみ過ぎているので出るに出れないのだろう。
先日のシゥの時は彼女もそれとなく隠していたし、何よりニニルが自身の荷物の事で上の空だったから気付かずにいてくれた。
今回は流石に無理だろう。彼女達のゆったりした服の上からでもはっきり分かるほどだったし、隠そうとしていたら、流石にどちらかがニニルに気付かれる。
大体お腹が元通りになり始めるのが、注いでから十二時間後ほど。昼ご飯までは動けないだろう。
「――少々宜しいでしょうか」
と、そんな事を考えていると、いつの間にかノアが隣に立っていた。
「どうした?」
「朝のお話で、少し」
そう言う彼女は、相変わらずの無表情だ。
まさか、もう答えが出たというのだろうか。
「分かった。外に出るか?」
「はい」
腰を上げ、ノアを伴って部屋を出る。
途中、何処へ? と問うてきたシゥに、ちょっと、と返して、俺とノアは部屋を出て直ぐの廊下で向き合った。
「何か分かったか?」
「否定」
内容は予想出来ていたので単刀直入に聞くと、ノアは首を横に振り、
「私には理解する事が出来ませんでした」
と、少し沈んだ様子で口にした。
「申し訳ありません」
「いや、謝る事じゃない。しかし、そうか」
何とも難しい話だ。
彼女にもよく分かるような話か、あるいは体験があればいいのだが、そんなモノがそうそうある訳もない。
「一つ、お聞きしても宜しいでしょうか」
「何だ?」
「性交とは、好きというものを理解し、持っていなければ、不可能な行為なのですか」
「それは――」
そんな事はない、と言うのは簡単だ。
だがそれを口にすれば、ノアは――
「――そんな事はない、が。ただ、安易に誰でもいいという話ではないのが一般的だ」
「その、誰、というのが、好きな相手でなければいけないという事ですか」
「そうだ」
その答えに少し安心する。
ノアの理解力は決して低くない。だが、こればっかりは彼女の得意とする知識の収集やその理解だけでどうにかなる問題ではない。
感情を未熟にしたまま精神と理性が成熟してしまうというのは厄介な話だ。
「好き、というものは、重要である、という項目とは違うのですか」
「違うが、同じである事もある。好きだから重要って事はあるが、重要だから好き、という事にはならないだろう」
そう答えを返すと、ノアは少し黙り込み、そして呟く。
「……私は、ご主人様が好きで、だから重要なのでしょうか。あるいは重要なだけなのでしょうか。分かりません」
「ノアは、何で俺が重要なんだ?」
「ピアとシゥがそう命じたからです」
「じゃあ、二人の命令が無ければ俺を護りはしない?」
「いえ、現在の状況において、ご主人様は我々の安全を維持している一つの要素ですので」
「じゃあ、俺がいなくなっても君達の安全が保障されるとしよう。ならどうする? 俺は重要か?」
「それ、は――」
ここで初めて、ノアが返答に詰まった。
俺は自然と浮かんだ微笑と一緒に、彼女の黒髪を撫でる。
「その迷いの中に、好きってのが含まれてるんだよ。きっとね。理由が無いなら、俺を護る必要はないだろ?」
「そう、なのですが」
「じゃあ、何で迷う?」
「それ、は……」
自分の身体の中で何かが蠢く感覚を覚えているかのように、ノアが自分の胸を見下げて気味悪く眉を歪める。
「失いたくないから、失いたくない…… この理由の見付からない理由が、好きだという事なのでしょうか」
「俺の自惚れでなければ、そうだと思いたいな」
「私が、おかしくなっているだけではないのでしょうか」
「おかしくなんかないよ」
「……」
俺の答えに、ノアが眉を歪めたまま俺を見上げてくる。
その顔には、僅かに不安というものが見えた。
「そんな顔をするな。ノア、君は正常だと思うよ」
「では、これで私もご主人様の精液を受ける許可を得られるのですか?」
「う、それは……」
まだ厄介な話が一つある。
それは友好の「好き」と愛情の「好き」の違いだ。
この辺りはピアやミゥなどもごっちゃにしている部分が見受けられて、説明が難しい。
端的に言うと、行為をどこまで許せるかと、好きの程度の問題なのだが、それをノアに説明しても肯定の返事しか返さないと思われる。
何週間か前にノアに言われて自慰を手伝ったように、彼女は身体を触られる事に無頓着なようだし、好きの程度なんて言っても彼女にはまだ分からないだろう。
「まだ足りないのでしょうか」
「いや、うーん……」
「十分なのでしたら、今日にでも精液を頂きたいのですが」
いつもの無表情とは違い、僅かに不安のある黒水晶の眼差しが痛い。
確かな愛が確認出来ないのにノアを抱く事は、ひいては今まで身体を交わした四人を裏切る事になる。
まさか、その四人にノアを抱いていいかどうか相談するなどという事は出来ないし……
「どう、でしょうか」
「……すまない。もう少し考えさせて貰っていいか」
「了解」
素直に頷いて、お手数をお掛けしました、と頭を下げるノア。
気にするな、と返して彼女を部屋に戻し、俺はどうすべきかとしばしその場で悩み続けるのだった。
やがて昼になってご飯を食べ終えた辺りで、ピアとミゥが洋室から出てきた。
顔を合わせるなり二人して長い耳の端まで真っ赤になったものの、見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした、と謝罪をしてくれた。
お腹はもう目立たないほどに引っ込んでおり、じっと観察していなければ分からないだろう。
「まあ、これからはあまり羽目を外し過ぎないようにな」
「はい……」
「はいー……」
俺の言葉に素直に頭を下げる二人。
恥ずかしくて合わせる顔が無い、といった様子で、赤い顔は俯き加減だ。
まあこの反省具合なら、同じ事態はそう起こらないだろう。
しかし七人が揃った所で何かある訳でもなく、再びだらだらとした時間が続く。
その間、俺はノアの事を思考の片隅に置きながら、八人もいて何もする事がないこの状況に苦笑していた。
お忍び生活というのは本当に大変だ。
いつか彼女達と普通に買い物や遊びに出かけられるようになればいいのだが。
「ピア、ちょっといいですかー?」
「何ですか?」
ふと上体を起こすと、ミゥがピアに何やら小声で会話しているのが見えた。
たまに俺の方をちらちらと見てくる辺り、俺に関係した話なのだろうか。
「――青の七、竜」
「黒の十四、召喚士」
「む…… 赤の八、精霊」
「くふ。緑の十二、剣士。黄の十二の狩人を攻撃」
先程から暗号のような会話をしているのはヅィとネイ。
恐らく中身から察するに、彼女達で言う将棋のようなものを脳内盤面でやっているのだろう。
そんな二人のやり取りを見守っているのがニニル。
書類の上にあるペンの動きを止め、二人の対局をじっと見つめている。同様に、脳裏には盤面でも浮かんでいるのだろうか。
ノアは相変わらず、部屋の隅で置物のようにじっとしながら何かを考えているようだ。
無表情の顔、無感情の瞳からは何を考えているのかは読み取りにくいが、まさか、まだ「好き」について考えているのか?
「ん…… どうした? ご主人」
ノアに視線を向けていると、俺の足を抱き枕にしてうたた寝をしていたシゥが視線だけをこちらに向けてきた。
ああ、と生返事を返すと、彼女は俺の視線を辿ってノアに顔を向け、ああ、と頷く。
「まあ、そう深く考えなくてもいいんじゃねーか? ご主人の決めた事なら、何だっていい」
「……そう言う割には、なんか面白くなさそうだが」
「ん、だって……」
歯切れ悪く呟くと、足を抱く腕に力を込めてくる。
「変な言い方だが、なんか、もやっとするんだ」
「もやっと、って?」
「……すまん。言葉が足りない。上手く説明出来ない」
そう力なく呟くシゥの脇を取って抱き上げ、視線を合わせる。
あ、と小さく呟いた彼女のサファイアの瞳は、僅かに潤んでいた。
「そんな顔するな」
「だ、だって――んっ」
言い訳を塞ぐように、軽い口付けを交わす。
言いたい事は分かる。嫉妬心だ。
ピアも、ヅィも、恐らくミゥも。少なからず、互いに嫉妬心を抱いているはず。
それもピアやシゥが見せたような、ミゥと「同等でない事」の嫉妬とは違う。その逆――他の二人と「同等である事」の嫉妬だ。
つまるところ、こじれれば血の雨が降りかねない方である。
当然、済まないとは思う。彼女達の恋愛感情の、その経験の乏しさと、彼女達が家族のように仲が良い事につけ込んで、三股四股を掛けるなど。
でも、俺は――
「すまんな。俺の力が及ばなくて」
「っ、何でご主人が謝るんだ。俺は、俺があの時にあんな偉そうな事を言ってた癖に、いざノアも、ってなると、何故か面白くなくて。それを……」
「それはごく普通にある事だ。気にしなくていい……ってのも変だが、まあ俺の所為だよ」
「でも」
「すまんな」
無理やりシゥの言葉を謝罪で潰して、誤魔化しとばかりに彼女を抱き、その小さな頭を撫でる。
彼女はいつものように目を細め、心地よさげに俺の手を受け入れてくれる。
艶のある青の髪は触れていて心地よい。
「シゥが言った通り、俺はまだまだ甲斐性がないからな。頑張る」
「あ、あれは」
「ちゃんと後で可愛がってやるから」
長い耳にそう囁くと、瞬く間に顔を赤くするシゥ。
笑みを浮かべて顔を離すと、ぺち、と頬に軽い張り手が飛んできた。
「痛っ」
「っ、調子に乗るんじゃねえ」
言って、俺から離れるとそっぽを向いてしまった。
しかし長い耳の端はほんのりと赤くて、その様子に俺は思わず笑いを漏らす。
「――ご主人様ー」
と、そんなやり取りをしていたら、いつの間にかミゥが傍に立っていた。
「どうした?」
「その、ちょっといいですかー?」
少し驚きつつ聞くと、ミゥは声を潜めて俺の上着の裾を引いてきた。
反対の手で指差すのは洋室の扉。
俺は頷いて、ミゥの後に続いて洋室に入る。
中では、ピアとノアがベッドに腰掛けて俺を待っていた。
「どうしたんだ?」
改めて問うと、ノアの隣に座るピアが、非常に言いにくそうに口を開いた。
「その、ご主人様。ノアがご主人様に同衾を願い出たそうですが」
「同衾? ……ああ、そうだが」
同衾という言葉に隠語のような雰囲気を覚えつつ、ピアの言葉に頷く。
すると彼女は、確認のようにノアを一瞥し、それから俺に再度視線を合わせて、
「あの、失礼ですが、ひょっとしてご主人様は…… ノアがお嫌いですか?」
と、予想外の事を聞いてきた。
一瞬の硬直の後、俺は慌てて首を振る。
「いや、そんな事ないぞ。前にも言ったが、俺は君達六人の誰もが好きだ」
「では、ご主人様、これは私からもお願いしたいのですが…… ノアを、その、抱いてやっては頂けませんか?」
そんなピアの言葉に、彼女の顔を見つめる。
そこにある表情は、苦悩のような不安のような、何とも言い難いものだった。
「……俺は構わないが。しかし、いいのか? 君達は――」
「私達の事でしたらお気になさらないで下さい。それに、これはノアにとっても良い事だと思いますから……」
そう言ってピアはノアを一瞥し、その視線に彼女が頷いたのを確認して俺を見る。
ピア、ミゥ、ノア。三人のそれぞれの瞳に見つめられ、俺はどうにも困った息を吐いた。
「本当にいいのか?」
「……はい」
「大丈夫ですよー。ノアは、きっとご主人様の事、好きですから」
「肯定」
微妙な顔をしているピアに、微笑みを浮かべているミゥ。相変わらず無表情のノア。
どう判断するべきかまだ迷うが、三人から同意されている以上、取れる行動は一つだ。
「分かった」
「ありがとうございます。ノアを、宜しくお願いしますね」
「お願いしますー」
「ああ」
「で、では、私達は失礼します」
「ふふ、ごゆっくりー」
頭を下げつつピアが、笑みを浮かべながらミゥが洋室から出ていく。
後に残ったのは、ベッドに腰掛けて相変わらず無表情に俺を見上げるノア。
俺は一つ息を吐いて、彼女の隣に腰掛けた。
「ノア」
「はい」
「ちょっと卑怯だぞ、相談するのは」
「ありがとうございます」
そう責めると、礼と共に頭を下げるノア。
そんな様子に苦笑しつつ、俺はそっと彼女を抱き寄せた。
「もう一度確認するが、本当にいいんだな?」
「肯定」
「遠慮しないぞ?」
「了解」
短い、無機質な返事。
本当に分かっているのかどうか疑問に思いながらも、彼女の身体に手を這わしていく。
「ん……」
ノアの黒い服に浮いている、華奢な身体の線を辿っていく。
彼女は七人の中でもかなり痩せている。力を込めたら容易く折れてしまいそうだ。
「胸、触るぞ」
「了解」
色気のない返事を耳に、ノアの乳房を服越しに手で覆う。
痩せていても胸はそこそこあるようで、柔らかい感触がある。
ゆっくりと揉んでやると、やがて乳首が立ってきたのか、服を小さく押し上げるものがあった。
それを見て、はたと気付く。
「ノア。君、下着は?」
「着ていませんが」
「え?」
淡々とした回答に、俺は思わず彼女の服の裾に手を掛け、失礼、と断ってから捲り上げる。
黒いニーソックスに包まれた細い太腿の奥には、確かに幼い縦筋が露出していた。
「……割に、これは付けてるんだな」
ニーソックスを止めている、豪奢なレース付きのガーターベルトに触れると、彼女は、肯定、と頷いて、
「靴下が落ちてしまいますので」
と、何処かズレた回答をしてくれた。
俺は自分の中のフェチズムが刺激されるのを覚えつつ、ひとまず裾を戻す。
普通にやろう、と我慢に似た思いを抱きつつ、俺はノアの服のボタンを探り当て、脱がしていった。
胸元から、ノアの裸身が露になっていく。
痩せすぎと言う程ではないが、とにかく脂肪のない身体だ。
二の腕に触れてみると、最低限の柔らかさがあって、後は少し硬い。
骨の感触ではないから、これは筋肉か。
「何か異常が」
と、身体を確かめるように触れていると、無表情にそう問うて来た。
「いや…… 結構引き締まった身体をしてるんだな」
「肯定。妖精炎を使用出来ない戦闘も考慮して設計されましたので」
そう言われて思い出すのは、ノアが暴れたニニルを取り押さえた時の事だ。
翅もなく、しかし瞬く間にニニルを拘束したあれは、この筋肉によって成されたという事か。
「……ふむ」
一人頷きながら、ノアの黒い服を更に剥いていく。
身体の細さに比べて少し豊満な胸の下に、薄く肋骨の浮いた腹がある。
その下には、豪奢なレースの付いた黒のガーターベルトに包まれた下腹と、無毛の縦筋。
彼女達のここは、何度見ても俺のモノが入るとは思えない小ささだ。
それでも驚異的な肉の伸縮具合を以って受け入れてしまうのは、彼女達が子宮に溜めた精液を力に転換出来る事から察するに、予定された事象なのか。
「何か」
「いや、なんでもない」
また無表情にそう問われたので、俺は彼女の股間から慌てて目を離し、彼女と向き合う。
彼女は特に何とも思っていないのだろうが、その無感情な声に問われると、責められているような気がした。
「じゃあノア、これからどうするか分かるか?」
「ご主人様の男性器を、私の女性器に挿入するのですね?」
「まあ、そうだな」
何とも固い言い方に苦笑しながら、俺はズボンの前を開いてモノを露出させる。
モノは半勃ちやや上と言ったところで、十分に挿入可能な硬さだ。
と、ふと気付けば、ノアの視線が俺のモノに無感情ながらもまじまじと注がれている。
「ん、どうした?」
「実物を見るのは初めてですので。私の知識で知っている男性器より、大きく、硬いように見えます」
「そ、そうか」
ひょっとしてノアが知っている男性器というのは、勃起してない状態のものなのかもしれない。
何か珍しく貴重なものでも眺めるかのように、視点を変えて俺のモノを注視するノア。
ふと、ノアは自身の縦筋を一瞥し、
「……体格的に無理があるのではないでしょうか?」
と、やや不安そうな様子で口にした。
当然の疑問だが、ピアもミゥもヅィもシゥも大丈夫だった。ノアだけ例外、という事は多分ないだろう。
「大丈夫。ちょっと痛いかもしれないが、そんな大した事じゃない」
「了、解」
しばし俺のモノと自身の縦筋を見比べて、了承の返事と共に頷くノア。
彼女の興味は再び俺のモノに移り、また注視してくる。
その無垢な視線を感じて、嫌が応にも俺の興奮が高まり、モノが更に勃起していく。
「……少し、大きさを増した模様ですが」
「その、あれだ。興奮すると大きくなるんだよ」
「了解」
返事と共に、更に視線が強まった気がする。
見た目小さな少女に、モノを注視されているというのは何ともな気分だ。
自分で言うのも何だが、そんなに見るべき価値があるようには思えないのだが……
「ご主人様」
「何だ?」
唐突にノアは口を開き、無感情なまま、
「触れても宜しいでしょうか」
と、そう問うて来た。
俺は一瞬悩み、ゆっくりな、という言葉と共に許可を出す。
ノアは、了解、と頷き、俺のモノにゆっくりと手を伸ばしてゆっくりと掴んだ。
恐らく、力一杯に。
「ぐあ!?」
幸い、俺の悲鳴に反応して、ノアは一瞬びくりと身を震わせると、すぐさま手を離してくれた。
モノの中ほどをビニール紐で縛ったかのような痛みを覚えながら、俺は追加で口を開く。
「ゆっくりだけじゃなくて、優しく頼む」
「了解」
分かってくれたのかどうなのか、無表情に頷いてノアは再び俺のモノに手を伸ばす。
その小さく細い手が触れる瞬間、俺は僅かに息を呑み――初回と比べ、最大限と思しき力加減に息を吐いた。
「……」
俺の反応を一瞥して、ノアは手に取ったモノの観察に移る。
先端から袋までくまなく触れてきたり、エラを興味深げに弄ってきたり、尿道口を擦ってきたり。
少しばかり痛い時もあったが、なるべく反応を顔に出さずにノアの好きなようにさせてみる。
ややあって、モノを一通り弄繰り回した後、更に勃起したモノを眺めながら、
「逆ですね」
と、ノアが小さく、しかし確かに言った。
「逆?」
「ご主人様に自慰を手伝って頂いた事がありましたが、その逆だと」
「ああ……」
あの時はあまりにノアの自慰が下手で見ていられなくて、彼女の女性器に直接触れて指導をした。
今はノアが俺の男性器に触れている形だから、確かに逆だと言える。
「人間の男性の自慰というものは、男性器をこの形状に沿う形で摩擦するものだと記憶していますが」
「まあ、間違ってはないが」
「実践したいと思うのですが、宜しいでしょうか?」
やはり無感情に俺を見上げて、反応を窺ってくるノア。
俺は先程の無体に一瞬悩んで、ゆっくり優しくな、と注意を促してから許可を出した。
了解、と頷いて、ノアの手の動きが再開する。
「っ、く」
俺のモノに絡み付いた、ノアの細くて白い指がゆっくりと往復運動を始める。
あまり上手くないだろうと思っていたが、なかなかどうして上手だ。
男が感じる場所を、的確に擦ってくる。
「上手いな」
「ありがとうございます」
小さく頭を下げながらも、手の動きは止めない。
恐らく、先程普通に触れていた時に、俺の表情が変わる場所を全て覚えていたのだろう。
そうとしか思えない、初めてにしてはあたかも熟練したような動きだった。
「く……」
モノが小さく脈動して、先走りが小さく噴き出した。
丁度尿道口を掌で覆っていたノアは、その感覚を受けて動きを止める。
確認するように片手だけを自身の目の前に持っていって、
「これが、カウパー氏線液と呼ばれる物ですか」
と、精液じゃないぞ、と言おうとした矢先にそう口にした。
「分かってるのか」
「肯定。男性は気持ち良くなるとまず精液より先にこちらが出ると、学習していましたので」
言って、ノアは先走りの液を浴びた手を観察するように凝視し、鼻を近付けて匂いを嗅いだり、躊躇いなく舐めたりした。
学習の為なのだろうが、流石に無表情でもその行為は卑猥に見える。
「あんまり舐めたりするものじゃないぞ」
「了解。ですが、手は消毒済みですし、これ自体にも害はないと聞きましたので。……少し、知識とは違うようです」
「ん、何がだ?」
ノアは僅かに眉を歪め、
「甘みを感じます。精液同様、苦味と臭みがあると学習していたのですが」
と、あまり嬉しくなさそうに言った。
俺は自分で精液やカウパーを舐めた事はないが、多分ノアの得ていた知識は正しいのだろう。
だが、以前シゥが言っていたように、どうやら俺にとって彼女達の体液が甘く感じるように、逆もそうであるようで。
「シゥやミゥも甘いって言ってたな。君達妖精には人間の体液は甘く感じるのかもな」
「そうなのですか」
知識が一つ増えたとばかりにノアは頷いて、手コキを再開する。
先走りによって濡れたモノは彼女の愛撫をよりスムーズに行わせる。
「っ、く、出る」
「了解」
俺の唐突な合図に、ノアは淡々と頷いて手の動きを早めた。
止めとばかりに親指の腹で亀頭を強く擦ってきて――それが引き金になった。
「くっ!」
モノが脈動して、先端から白濁液が噴き出す。
脈動に合わせて噴き上がるそれは、その先にいたノアの顔や胸元に当たって汚していく。
数秒の射精をノアは微動だにせず受け止め、相変わらずの無表情で俺を見上げてきた。
「いかがでしたでしょうか」
視線が合う。
何度見ても無表情だったが、その頬は僅かに赤く染まっている気がした。
「良かったよ。気持ち良かった」
「ありがとうございます」
一つ礼をして、ノアは自身の顔に付着した白濁液を手で拭い始めた。
勿論そんなもので取れる訳がなく、俺はベッド脇の小棚にあったティッシュを手に、彼女の頬や額に付いたものを一緒に拭ってやる。
胸元に多量に付着している固まりも拭いて――
「少しお待ちを」
と、俺の手をノアが制止してくる。
何事かと思って見ていると、自身の胸元に付いていた精液の一番大きい塊を指で掬うと、匂いを嗅ぎ、そのまま口に入れてしまった。
「……シゥやミゥの情報通りのようです」
「本当に甘いのか?」
「肯定。糖度がある訳ではないようですが」
ノアが嘘を吐くとは思えない。
という事は、気のせいでも何でもなく、本当に甘いのだろう。
「自分で言うのもなんだが、俺には相変わらず青臭い匂いだ」
「そうなのですか」
「ああ、あまり気分のいい匂いではなくて―― ノア、何処に?」
ノアは俺の言葉に頷くや否や、胸元をティッシュで拭うと、服を着直して洋室を出て行こうとしていた。
まさか何か彼女の怒りに触れたか? と思って焦っていると、ノアは淡々と、
「一度、身体を洗浄してきます。申し訳ありませんが、しばしお待ち下さい」
そう答え、洋室を出て行った。
俺はほっとすると同時に、俺の精液がそんなに嫌だったのかな、と我ながらアホな事で少し落ち込むのだった。
少し待っているとすぐにノアは戻ってきた。
「お待たせ致しました」
「お帰り」
大して速度が出ている訳でもないのに、上下への揺らぎもなく一直線に等速飛行するという技を披露してくれた後、俺の隣に座り直すノア。
漆黒の髪に触れると、まだ湿気が僅かに残っていて、湯上りという事実を俺に認識させてくれる。
思わず匂いが嗅ぎたくなって、頭を撫でると同時に彼女の首裏辺りを舐めるように鼻を近付けた。
「ノアもいい匂いがするな」
「そう、ですか」
ノアの匂いは、シゥやミゥの匂いとはまた違う、とても落ち着けるような感じの匂いだ。
飴に喩えるなら薄荷辺りだろうか。そんな匂いだ。
「ん……」
ノアのくすぐったそうな吐息を耳に聞きながら、彼女への愛撫を始める。
服を脱がし直し、細い身体を上から順に検査するように手を、舌を這わしていく。
湯上りの綺麗な女性の身体というのは、どうしてこんなにも美味しく見えるのだろうか。
「ふ……」
ノアの小ささと線の細さにしては豊満な乳房を一咥えにし、全体を舌でしゃぶりながら手を彼女の下半身に伸ばす。
まだ陰部には触れず、まずは太腿を撫で回し、徐々に内側へ。焦らすように太腿内側の付け根付近を撫でる。
「は、ぁ……」
熱の篭った吐息がノアの口から漏れる。
そろそろか、と手を縦筋に回すと、そこはもう多量の愛液で濡れていて、くちり、と水音を立てた。
「気持ちいいか?」
「肯、定」
「そうか。じゃあ、そろそろノアの処女をくれ」
了解、と呟くように言ったノアを抱き上げ、対面座位の形にする。
十分に勃起した俺のモノと、ノアの無垢な縦筋を合わせて、先端を少しだけ割り入れた。
「いいか?」
「肯定」
「痛いかもしれないけど、我慢してくれ」
「了解」
こくり、と喉の鳴る音がした。
顔はいつもの無表情だったが、それでも俺が分からないだけでノアも緊張しているのだろうか。
俺はゆっくりとノアに顔を近付け、口付けを交わしながら、彼女の大事な所をモノで貫いた。
「ん……!」
ノアの身体が強張るのが分かる。
僅かに逃げようとした身体を右手一本で押さえ、左手で彼女の後頭部を支え、口付けを続ける。
その間にも彼女の狭い膣をモノが刺し貫いていって、しばしの後に最奥に当たる感覚があった。
「ぷ、は」
口付けを止めて、繋がっている部分を確認する。
俺のモノのおよそ三分の二ほどが、彼女の縦筋を見た目限界まで割り開いて埋まっていた。
不意に、俺のモノをつ、と血が伝う。
「痛いか?」
「否定。口付けが長く、少し、息苦しくはありましたが」
「そうか…… って、息、止めてたのか?」
「肯定」
真顔で答えるノアに、実に彼女らしい答えだと笑いがこみ上げる。
それにしても破瓜が痛くないというのは、希少な子だ。
「これが、性交という行為なのですか」
「そうだな。感想は?」
「非常に、強い圧迫感があります。過去に経験した事のない規模のものです」
「俺のが入ってるからな」
「肯定。明らかにご主人様の男性器と私の女性器の規格が違うので、挿入可能とは思っていませんでしたが」
何とも機械的な、色気のない言葉だ。
まあ、これが彼女なりの表現だと思えば、どうという事はない。
「あとは」
「ん?」
「安堵と、快感があります。自慰とは違う種のものです」
言うと、今度はノアの方から俺の首に手を伸ばし、身体を浮かせて口付けを交わしてきた。
驚きつつも受け止め、舌を伸ばして彼女の唇を舐める。
それに呼応してか、緩やかに彼女の口が開いたので、舌を彼女の口内に忍ばせた。
唾液はやはり甘い。小さな歯の並ぶ口内を、綺麗にするように舐めていく。
「ん、ふ……」
甘い吐息が漏れる。
は、という呼気と共に互いの唇が離れると、つう、とどちらのものとも分からない唾液が糸を引いた。
「動くぞ」
「了解」
ノアを胸に抱いて、腰の動きを始める。
やはり体格の差と処女肉だけあって締まりが非常にきついが、今までの経験でコツは掴んでいる。
ゆっくりと小刻みにノアの胎を抉りながら、片手で割り開かれた縦筋の上にある肉芽を刺激してやる。
「ん、あ」
ノアが無表情から僅かに眉を歪め、悩ましげな声を漏らす。
感情は薄くても、彼女が十分に快感を享受出来る事は知っている。
ならば俺のするべき事は、初体験で彼女を絶頂に導く事だ。
「あ、は、あっ」
「気持ちいいか?」
「肯、定」
こんな時にも事務的な口調なのに、俺はつい笑ってしまう。
ノアの無表情と単調な呼吸ががどんどん崩れ、乱れていくのに合わせて、彼女の胎を抉る動きと淫核への刺激を大きくしていく。
やりすぎて痛くならないよう調整しつつ、彼女を追い詰める。
「っ、は、あ、あ、っ」
途切れ途切れになるノアの呼吸。
俺の胴を掴む彼女の手の力が徐々に弱まっていくのを感じて、そろそろか、と彼女の長い耳に囁きかけた。
「イきそう?」
「っ、はい、肯定、です」
「ん、分かった」
動きに勢いをつける。
ノアの喘ぎがより短く、断続的になっていく。
あ、あ、と鳴く顔はもう無表情ではなく、眉を歪め瞼を強く閉じた、快感に耐えるもの。
「っ、いく、イきます」
宣言に合わせて、最奥にモノを押し付ける。
ノアの背が反ると同時、胎がモノを千切らんとするかのようにぎちりと締まり、それに合わせて俺も射精を開始した。
「っく」
脈動と同時に噴き出した精が、彼女の最奥に当たって、子宮に注がれていくのを感じる。
俺のモノを受け入れて僅かに歪んだ線を描いていたノアの下腹が、緩やかに丸く膨らんでいく。
その光景を見て、ノアは一つ吐息を漏らした。
「ありがとうございます」
ふと見ればノアは頬を僅かに染めただけの無表情に戻っていて、先程の堪え顔が嘘のようだった。
繋がったまま一つ礼をしてきて、俺はどう答えていいのか分からずに曖昧に頷く。
「胎内に射精されるというのは、心地のよいものなのですね」
「そう、なのか」
「肯定」
また無表情に変な台詞を口にするノア。
俺は苦笑して、彼女の頭を撫で――
「う、お……?」
不意に襲ってきた眩暈に、腰が上体を支え切れずベッドに沈んだ。
「く……」
「大丈夫ですか、ご主人様」
「いや、多分大丈夫。ちょっと疲れただけだ」
一息吐いてからそう答えると、少々お待ち下さい、というノアの声と共に、彼女の胎からモノが抜ける感覚があった。
次いで衣擦れの音がして、彼女の温もりが消えた下半身に布団が掛けられる。
頭だけ起こして見ると、上だけを簡素に纏ったノアが急ぎ足で洋室を出て行くところだった。
息を吐いてそれを見送り、流石に体力を使いすぎた、と俺は冷たい枕に頬を寄せて、頭に篭った熱を少しでも下げようと試みるのだった。
「流石に頑張りすぎですねー、ご主人様」
そう笑いながら言うのは、ノアの隣でベッドに腰掛けるミゥ。
半分誰のせいだと思ってるんだ、とばかりに軽く睨み付けると、うふふ、とより強く笑って、二つの試験管の中身を混合していく。
そうして出来上がった薄い水色の水薬を手に、俺の元に近付いてきた。
「はい、飲ませてあげますから口を開いて下さい」
抵抗する気力もなく、小さく口を開く。
ふふふ、と笑いながらミゥは水薬の試験管を俺の口許に近付け――
「ん」
――と、何故か自分で呷ってしまった。
一体何を、と思う間もなく、水薬を含んだミゥの顔が近付いてきて、強引に口付けが交わされる。
彼女の口から直接送り込まれる、何とも言えない味の薬。
何とか全て飲み干すと、ぷは、と唇を離したミゥが、ふふ、と笑った。
「……普通に飲ませてくれ」
「この薬はこうやって飲ませるのが一般的なんですよー? ボクの唾液を混ぜてからでもいいですけどー、絵的にちょっと」
取り敢えず抗議してみるが、むう、と難色を示すミゥ。
どうやらあの水色の水薬に妖精の唾液を加えたものが完成品らしい。
まこと真実味のない話だが、知識のない俺にはミゥの言葉を真実かどうか判断する術はなく。
「次はノア、貴女がやってみて下さい。こういう経験も必要ですよー?」
「了解」
なとど俺が訝しんでいる間に、二本目の水薬をノアに手渡すミゥ。
水薬を手に今度はノアが近付いてきて、俺はその無表情な彼女に問う。
「……なあノア。さっきのミゥの話は本当なのか?」
ノアは俺の問いに動きを止め、水薬を見て、俺に視線を合わせ、
「医薬品に関しては医師の判断を信じるべきかと判断します」
と、何ともな答えを口にして、水薬を呷った。そしてすかさず俺に唇を合わせてくる。
諦めて、ノアの口内から注がれる水薬を大人しく飲み干す事にした。
「ともかくご主人様、お疲れ様でしたー」
投薬が終わって、ミゥがそう一礼する。
「しっかりとノアのお腹の中に精液を注いで頂いたようで、何よりです」
「出来れば、こういう形ではしたくないが」
「ふふ、そんなに深く考えなくてもいいんですよー? ご主人様は律儀ですねー」
「適当よりいいだろ」
「それはそうですがー。ノア、ちょっとお腹見せてください」
ミゥに言われるまま、簡素に羽織っていた服の前を解いて、膨らんだ下腹を彼女に見せるノア。
ふふ、と笑って、ノアの下腹の大きさを計るように手を這わせるミゥ。
「今のボクよりちょっと大きいかなー…… 良かったですねー、ノア」
「肯定」
「ふふ、今に貴女も病み付きになっちゃいますから。あそこも、お尻も」
妖艶に笑うミゥ。
……良くも悪くも、癖のあるミゥのようにならなければいいのだが。
「あ、なんですかご主人様ー、その顔は」
「君とは昨日一日で四日分ぐらいはやったろ」
「いえいえ、あれは一日分です。その証拠に、もういつ御呼ばれしても大丈夫ですよー?」
うふふ、と笑い続けるミゥ。
実際、彼女達の体力は凄まじい。どんなに疲れても、数時間後にはけろりとしている。
妖精炎の力なのだろうが、それにしたって反則的な回復力だ。
この小さな身体であれだけ食べたり飲んだりするのにも、相応の理由があるに違いない。
「悪いが、流石に俺が持たないな」
「ふふ、じゃあゆっくりしてください。特別製のお薬ですので、ちょっと横になってればすぐ元気になるはずですから」
特別製、という部分に引っ掛かりを覚えなくもないが、そこはミゥを信用するしかない。
発情薬とか惚れ薬が混入されていない事を祈るのみだ。
「むー、だからなんですかその顔はー」
「いや、君の腕を疑ってる訳じゃないんだが」
「ボクはちゃんとした病人に対して変なお薬を入れたりしませんよー。それぐらいはちゃんと弁えてますってばー」
言って、投薬の時同様、俺の枕元に寄ってくるミゥ。
至近での笑みと共に、小さな手が俺の顎を撫でる。
「今のご主人様みたいな患者さんへのお世話も万全なんですから。子守唄でも同衾でも、なんでもこいですよー?」
「じゃあ、一つ同衾でも頼もうかな。変な事は無しで」
「分かりましたー」
掛け布団を捲り、俺の肩に頭を置くようにして布団の中へ身体を入れてくるミゥ。
小さな手を回し胴に抱き付いてくると、彼女の小さな鼓動が身体に直接響いてきて、とても暖かく感じる。
お返しに頭を撫でてやると、えへへ、と笑いながらより抱く力を強くしてくる。
「……」
と、気付けばノアが無言でこちらをじっと見ている事に気付いた。
いつもの無表情なのだが、なんとなく口惜しげに見えるのは俺の気のせいだろうか。
「ノアも入るか?」
そう聞くと彼女は小さく頷いて、ミゥとは反対側に位置すると、羽織っていた服をぱさりと落としニーソックスとガーターベルトだけという格好で布団の中に潜り込んで来た。
「お、おい」
小さいが弾力のある乳房を押し付けるように、俺の胴を抱くノア。
意識してやっている訳ではないのだろうが、それにしても――
「あ、ボクもやろうっと」
と、やはりというか何というか、ミゥももぞもぞと服を脱ぎ出して、ついでにブラとショーツまで脱いでしまった。
残ったのは肘までの手袋に、ガーターベルトとニーソックス。豊満な乳房の頂点にある小さな乳首と股間の縦筋が露になっている卑猥な格好で布団に潜り込み直し、ノア同様に俺の胴へ乳房を強く押し付けてくる。
「……変なのは無しって言ったろ」
「変な事じゃないですもん。ご主人様と同衾するならこの格好が普通ですもん。ねー、ノア?」
「肯定」
同意を持ちかけるミゥに、素直に頷くノア。
俺は一つ息を吐いて天を仰ぎ、言い返す気も失せて頭を枕に沈めた。
まあ好かれているのは間違いないし、感触もいいのだが…… 流石に反応に疲れる。
そもそも二部屋に八人が収まるというのが無理があるのだろうが。
「ふふー」
「……」
抱き付いている二人は何をするでもなく、ただ俺の両鎖骨の下辺りに頭を預けてじっとしているだけだ。
格好は別として俺の言葉をちゃんと守ってくれている様で、そこは素直にありがたかった。
「なあ」
「はいー?」
「後で何処か歩きに行くか? じっとしてるのは詰まらないだろ?」
ふとそう聞くと、ミゥは、んー、と小さく唸って、
「別に気にしなくていいですよー。こうしてご主人様と一緒にいるのが、今一番幸せですし」
と、嬉しくはあるが何ともな答えを返してくれた。
声色からして、少し我慢しているな、と感じる。
「じゃあ、今じゃなくても、何処か行きたい所ってあるか?」
「行きたい所、ですかー……」
先程よりも長い思考の後、彼女は呟くように言った。
「前みたいに、お買い物に行きたいですねー」
「買い物?」
「はいー。欲しい物があるんですよー」
「そうか…… 他には?」
「後はー…… 海とか行ってみたいですねー」
「海?」
「はいー。ウルズワルドは内陸でしたから、海を見た事がないんですよー」
何ともありそうな、平凡なお願いだ。
しかし、そこで気付いた。先程の、俺と一緒にいるだけで幸せというのが、ささやかな幸せではないのだろうという事に。
俺にとっては平凡な願いや幸せであっても、つい一ヵ月ほど前まで戦いに明け暮れていた彼女達にとっては、掛け替えのない願いや幸せなのだという事を。
「……分かった。いい場所を見付けて、必ず連れて行ってやるから」
「楽しみにしてますねー…… ん、はふ……」
頭を撫でてやると、目を細めて息を吐くミゥ。
しばらく撫で続けてやると、いつしかその瞼は完全に落ちてしまっていた。
「ん、ふ……」
心地よさげな寝息。
ノアと共に彼女の寝顔を見つめていると、不意に洋室の扉がゆっくりと開いた。
「悠、よいかの?」
顔を出したのはヅィ。
彼女はゆっくりと宙を飛んで俺達の状況と周囲に脱ぎ置かれている服を確認すると、いつもの笑みを浮かべた。
「静かにな。今寝た所だから」
「分かっておる。妖精は一度寝ればそう起きん、大丈夫じゃ」
言って、ヅィはもう一つのベッドに着地し、俺達三人を眺めて、くふ、と笑う。
そしてやはりというかなんというか、おもむろに服を脱ぎ始めた。
最早何も言う気はなく、黙って布団を開く。
ボディースーツのような下着も脱ぎ、ミゥと同じように手袋とガーターベルト、ニーソックスだけになったヅィは、俺の身体をベッドにするように布団の中へと入り込んできた。
「物分かりが良くて何よりじゃ」
「出来ればゆっくりしていたかったんだが」
「ほう。わらわを邪魔と罵るとは酷い主人もいたものじゃな」
言葉とは裏腹に、俺の胸板に頬を寄せるヅィ。
頭を撫でてやると、くふ、と笑いを漏らす彼女は、横にいるノアの無表情な顔に視線を合わせた。
「ノア、どうじゃった? 悠との情事は」
「全力戦闘可能時間が倍以上に増加し、非常に有益であったと判断します」
「主らしい答えじゃな」
笑みを絶やさずに、今度はこちらへと視線を合わせてくる。
意地の悪い笑みだ。禄でもない、あるいはからかいの言葉が飛んでくるのに備えて、心を引き締める。
「それにしても、これで主はネイ以外とは我ら全員と交わりを持った訳じゃな。まこと甲斐性があって頼もしいぞ、悠よ」
「お褒めに預かり至極光栄。 ……でも、本当にいいのか?」
そう聞くと、彼女はふむ、と一つ唸り、
「本当によいのか、と聞かれて、愚直に頷く事は出来ぬの。言いたい事、聞きたい事はある。じゃが」
そこで一度区切り、彼女は俺の顎に触れ、至近で笑う。
「――主が努力すれば、全ては些細な問題じゃ。言う必要も、聞く必要もあるまい」
「そう、か」
「くふ、精々我らに見捨てられぬようにする事じゃな」
言って、もう綴る言葉は無いとばかりにヅィは俺の胸板に顔を埋めた。
艶やかな緑と黒、紫の髪の感触が身体を撫でる。
空気に漂う彼女達独特の匂いが、心を落ち着かせてくれる。
三方から抱き付かれている為に動く事は出来ないが、それでも暑苦しさは感じなかった。
ふと、まどろみから目が覚める。
いつの間にか眠っていた事に気付き、どれぐらい眠っていただろうか、と薄暗い闇の中で壁の時計を確認する。
時刻は六時半。夕食が近い時間だ。
ベッドに三人の姿は無い。流石に俺より先に目が覚めたのだろう。服も無くなって――
「……ノア?」
「肯定」
ふと見れば、隣のベッドにノアがちゃんと服を纏って腰掛けているのが分かった。
闇が彼女の保護色になっている所為か、一瞬いるのが分からなかった。
「他の二人は?」
「ヅィ、ミゥ両名とも、つい数十分前に退室致しました」
「そうか」
一つ伸びをして、首を回す。
体調は万全、どころではない。疲れなど微塵も感じず、それどころかいつもより身体が軽く感じるほどだ。
ミゥの薬の効果も凄いが、原因はもう一つある。まだ鼻腔やベッドに残る、彼女達の匂いだ。
その匂いを肺に吸い込むだけで、まだ疲れが取れていくような気さえする。
フェアリーセラピーとでも言えばいいのだろうか。
「ノアは寝たのか?」
「否定」
「え、じゃあずっと起きてたのか?」
「肯定」
らしいと言えばノアらしいが行動だが、ならばこの無表情な妖精の少女は眠っている俺をずっと眺め続けていたという事だろうか。
寝ている俺の隣で地蔵のように無表情で座り、眺め続けているノアの姿を想像して、僅かな気恥ずかしさと共につい多少の薄気味悪さも浮かんでしまう。
「何か?」
「いや、何でもない」
俺の視線に無表情のまま首を傾げるノア。
扱いを間違えると何処までも変な子になってしまいそうで怖い。
ひとまず脱ぎっ放しの服を着ようと、ベッドから身を起こす。しっかりと上下を纏わなければ、ネイやニニル辺りにどういった反応をされるか分かったものではない。
まずはズボンを――
「お待ち下さい」
と、俺の行為を止める声。
声の主は勿論ノアで、彼女はいつもの無表情でこちらに視線を合わせ、
「ミゥから言付かった確認事項があります」
と、何だか嫌な気配のする言葉を口にした。
「確認事項?」
「肯定。ご主人様の体調が万全になったか、部屋を出る前に確認しろと命令がありました」
「ああ、それなら大丈夫――」
「確認致しますので、そのままの体勢でお待ち下さい」
言うが早いが、ノアは俺のベッドに乗ると、布団を捲り上げた。
そして露出した俺の下着に手を掛ける。
「ちょっと待て!」
「何か」
「……一体どういう方法で確認するつもりなんだ?」
慌ててノアの一見破廉恥な行為を止めた俺に、彼女はやはり無表情に淡々と説明してくれる。
「ご主人様の男性器に刺激を与え、先程の行為時のように肥大化――勃起すれば良好だと」
「……その確認方法、何かおかしいとは思わないのか?」
「私の知識に照らし合わせても、確かにこの方法で確認可能だと判断しますが」
……確かにそれでも確認出来るかもしれないが、何かが致命的に間違っているのは疑いようが無い。
「取り敢えず止めてくれ。間違って無くはないが、その方法でなくてもいいはずだ」
「ご主人様は患者です。患者が医師の言葉を疑うのは妥当ではないと判断します。従って下さい」
俺のパンツに手を掛けたまま、きっぱりと言い切るノア。
俺は一つ息を吐いて天を仰ぎ――後でミゥを懲らしめてやろうと思いながら、分かったよ、と投げやりに返事をした。
抵抗しても、恐らくノアは引き下がるまい。
「では迅速に確認致しますので、お待ちを」
極めて真面目にそう口にすると、ノアは俺のパンツを下ろした。
露出したモノを手に取り、数時間前の行為の時のようにゆっくりとした愛撫を加えてくる。
「普段はこのような状態なのですね」
「まあ、な」
抵抗とか躊躇いなどといった言葉とは無縁の手つきで、愛撫を続けてくるノア。
むしろ目の前の物体に興味津々らしく、無表情でありながら僅かに目を輝かせているのが分かる。
「知る事は、楽しいか?」
そう問うと、ノアは行為を一瞬止め、問い返してきた。
「楽しい、とは何でしょうか」
「それを積極的に続けたいと、本心から思えるような事だ」
「それならば、肯定だと判断します」
「何故?」
「私の知識には沢山の事柄が抜けています。それが埋まっていく事は『楽しい』と判断出来ます」
無表情で、無感情にノアは続ける。
「私は、製造段階で予め用意されていた知識の殆どを損失しました」
「損失?」
「肯定。損失しなかったのは妖精郷における自己維持の為の最低限の知識及び製造記録のみです。製作者や運用に関する知識は、製造後に原因不明の事故で損失したと記憶しています」
……記憶喪失のようなもの、か。
自分の親が誰なのか。何を願われて生まれてきたのか。
それが分からないというのは、どんな気持ちなのだろう。
「知識を収集するのは、それを知る為、か」
「肯定。知識蔵としての役割も期待されています」
そんな会話を交わす間にも、ノアの愛撫は時々一瞬だけ止まりつつ続いていた。
柔らかいモノは徐々に勃起し、硬くなり始めている。
それを分かってか、ノアの愛撫もゆっくりとしたものからやや強いものに変化しつつあった。
全体を揉むような動きから、的確に快感が来る所を擦る動き。
やはりインターネット上からこういう行為の知識を得ているのだろうか。時々慣れないような動きがあるものの、段違いに上手い。
「っ、く」
「如何でしょうか」
「いい、感じだ」
「了解」
眉一つ動かさず、単調にならない刺激を与えてくるノア。
一体、何を考えて俺のモノを手に取っているのだろうか。
予想できない訳ではないが…… 恥じらいがないというのは恐ろしい事だ。あと変な所で無知というのも。
ミゥはたっぷり絞っておかなければ。
「……この程度でしょうか」
ややあって、ノアの愛撫は俺のモノをほぼ完全に勃起させたところで止まった。
「確認を完了しました。お待たせ致しました」
言って、やはりノアは無情にも愛撫を止めてしまった。
モノから手を離し、腰を上げる。
すぐさま踵を返そうとした彼女の服の裾を、俺はすんでの所で捕まえた。
「何か」
「……すまん、一回抜いてくれ」
男としての欲望に負けて、そう伝える。
情けない話だが、このまま出て行くのは辛い。
「抜く、とは何でしょうか」
「射精させる事、だ」
「了解」
ノアは即答すると、再び俺の太腿の間に腰を下ろした。
勃起した俺のモノを躊躇無く手に取って、愛撫を再開する。
「っ」
十分に硬くなったモノは棒と同じで、その上をノアの白く細い指が撫でる。
掌が小さい為に一度に刺激出来る面積はさほどではないが、その分細かく連続した快感を与えてくる。
射精は近い。
先端から出る先走りを指に絡め、モノ全体に塗る。
そうして得た潤滑を使って、ノアは俺のモノを扱いていく。
「く、そろそろ」
「了解」
限界の近い俺の声に答えて、ノアの手がやや加速する。
加えられる力がそれなりに増したが、それも心地よい。
力強く、かつ素早くモノを扱くノアは、やはり無表情で、無感情な目をモノに向けている。
それを眺めながら俺は快感に身を任せ、あと少し、という段階で、唐突に彼女の口の中に出したい、と思った。
「ノア、咥えてくれ」
そう言葉にすると、一瞬、ノアの動きが止まった。
しかしすぐに手の動きを再開させて、同時に聞いてくる。
「――咥えるのですか」
「あ、ああ」
「……了解」
ノアにしては珍しく、僅かに躊躇いがあった。
そして顔をモノに近付け――眉を歪めると同時、口を開いて先端を頬張った。
瞬間、彼女の舌のようなものが亀頭を撫で、快感が走る。
俺は堪らず、射精を開始していた。
「っ」
ノアの目が僅かに見開かれたが、しかしモノを吐き出す事はしなかった。
大人しく口内に白濁液を受け、一滴も零さずに口内に溜めていく。
五秒ほどだったろうか。射精の脈動が終わると、ノアはゆっくりとモノを吐き出した。
「っ……」
「だ、大丈夫か?」
俺の声に答えず、モノを吐き出した時に唇の端から零れた白濁を指で拭うと、ノアは片手を口許に遣った。
そのまま腰を上げ、踵を返し小走りに部屋を出て行く。
俺は半ば唖然としてノアを見送り、扉が閉まった音でようやく我に返った。
「……」
洋室の扉を数秒見つめ、ざっと後悔が来た。
思い返すのは、一回目に彼女が手コキをしてくれた時の事。
やはり精液は嫌だったのだろう。彼女が一瞬躊躇を見せた時に、察して止めれば良かったのだ。
「学習能力のない……」
そう一人呟いて沈んでいると、ノアが戻ってきた。
その顔はやはり無表情で、視線は無感情だ。
だが、俺には彼女が怒っているように見えた。
「失礼致しました」
「ノア、その」
「何か」
彼女の言葉が冷たく感じる。
威圧されながらも、とにかく謝る為に俺は口を開いた。
「すまん」
「……何故、お謝りになられるのでしょうか」
「君があんなに嫌がるとは思ってなかった」
「拒否を表明した事はありませんが」
「でも――」
否定するノアに、俺は腰を上げる。
しかし歩み寄って視線を合わせようとした瞬間、ノアは俺の眼前に立つ事を拒否するかのようにさっと後退した。
「今はあまりお近付きにならない方が良いかと判断します」
加えて付け足されるそんな言葉。
俺は後悔にがくりと頭を下げ、それでももう一度謝罪の言葉を絞り出した。
「……すまん」
「そろそろ御夕食の時間です。ヅィが先程呼んでおりましたので、行きましょう」
「ああ……」
ノアが俺から離れ、先導するように洋室の扉を開く。
俺は肩を落としながら、取り敢えず扉を潜り、夕食に向かうのだった。