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フィフニルの妖精達15「もうひとつの出会い ‐4thDay‐」

 じじじじじ、と蝉の声が煩い夏の昼前。
 空を見上げると、生い茂った枝葉の向こうに太陽の輝きが見える。
「ふぅ……」
「ご主人様、暑くありませんか?」
 声に振り向くと、緑の妖精――ミゥの少し心配そうな顔があった。
 いつもの全身緑色の服に加え、今日はあまり見る事のない円筒形の帽子を被っている。
 その背中には広葉樹の葉のような半透明の翅が二対四枚生えて、それが彼女を地上百二十cmぐらいの位置に浮き上がらせていた。
「いや、大丈夫。ちょっと疲れてきただけだ。最近運動してなかったからな」
「暑かったり寒かったりしたらすぐに言ってくれよ。調節するから」
 そう気遣ってくれるのは、俺の前を飛ぶ青の妖精――シゥ。
 彼女もミゥと同じ、円筒形の帽子を被って、背中には剣に似た鋭利な形状の氷の翅を生やしている。
「大丈夫。おかげで凄く快適だ」
 快適というのは、俺の周囲の気温だ。
 今はシゥがコントロールしているのだろう。真夏の昼前、しかも天候は晴天だというのに、俺はエアコンをよく効かせた部屋内のような快適さを感じていた。
 全く、便利なものだ。
「ニニル、近くに休憩出来る所はありませんか?」
「もう廃村には近いと思うのですが。あと少しです」
 先頭を行くのは橙の妖精――ニニルと、白の妖精――ピア、そして黒の妖精――ノア。
 ニニルは首にあった拘束具を外され、その背中にV字型の翅を生やし、それで俺達を先導している。
 その隣に位置するのがピア、背後にノアがいて、二人とも帽子を被って光と闇の翅を生やし、腰に光の弓と闇色の短剣を提げている。
 逃げ出せばすぐにでも攻撃するぞ、と言わんばかりだ。
「それにしても、妖精郷を思い出すのう。悪くない」
「そうですね……」
 最後尾を、周囲の自然を眺めながら飛んでいるのが紫の妖精――ヅィと、赤の妖精――ネイ。
 二人とも、その手に金色の錫杖――ノーガンウェモルと、巨大な槌――血歌の盟約を携えながら、背中にある紫電の翅と炎の翅を操って、くるくると回るように飛びながら、周囲の景色を楽しんでいるようだ。
 帽子が落ちないのを少し不思議に思いながら、俺はふと、ミゥの顔を見ながら、朝のやり取りを思い出す。


「――という状態じゃった。ミゥ、お主、何か把握しておるかの?」
 朝食の前。
 ヅィはミゥに昨日の症状を話していた。
 身体がいわゆる発情状態に陥った事。
 俺に近付いたり、匂いを嗅いだり、精に触れる事でその発情が鳴りを潜めた事。
 しかししばらくで、倍以上になってぶり返した事。
 俺の精を子宮に受けた事で、発情が完全に消え失せたようである事。
 それらの話を聞いて、ミゥは、うー、と唸り、
「一応、その状態を説明できる実験がありますよー」
「真か?」
「はいー」
 ミゥは頷いて、しかしあまりよからぬ顔で自分の鞄を漁り始めた。
 そこから取り出したのは、見た目カラフルな液体がそれぞれに入った、四本の小さな試験管と、彼女が薬を作ったりしている時によく着けているのを見る、指先から肘までを覆う、彼女の腕にぴたりと合う緑の手袋。
 手袋を嵌め、試験管と、一緒に取り出した試験管立てに並べて、まず半透明な緑色の液体が入った試験管を取った。
「これは、魔法素水を触媒としてボクの妖精炎を浸透させた物です。これに――」
 続けて、茶色と黄土色が入り混じった、出来の悪い粘土のような色合いの液体が入った試験管を取って、
「『妖精喰らい』で有名なローパー種ガジュウィの体液です。これを混ぜます。非常に危険なので二人とも離れてください」
「主、よくそんなものに触れる気になるな……」
 怯えるように後退したヅィに倣うように、俺も二つの試験管を手に持つミゥから距離を取る。
 それを確認するようにミゥは頷いてから、二つの試験管、特にガジュウィとやらの体液が入った試験管の栓を慎重に抜いて、試験管立てに戻した。
 そしてスポイトのような、一風変わった形をした器具をガジュウィの試験管の方に突き立て、それからその先端をミゥの妖精炎が浸透しているらしい液体が入った試験管の方に移した。
 俺とヅィが見守る中、器具の先端からガジュウィの体液が一滴、垂れる。
 それが半透明の緑色の液体の表面に触れた瞬間、肉が焼けるような音と共に多量の白い煙が試験管の中から吹き上がった。
「……ふー」
 ミゥが一息を吐く。
 ややあって試験管から立ち上る煙は徐々に減り、中の様子が把握出来るようになってきた。
 中にあった半透明の緑色の液体は、更にその薄さを増していた。
 緑がかっているかどうか、という程度で、ほぼ無色透明に近い。
「これで、この液体に浸透していたボクの妖精炎はほぼ使い切られた状態です。ここに、これを追加します」
 次にミゥが取ったのは、真珠のような白い輝きを秘めた液体が入った試験管。
「今度は何じゃ?」
「ふふ、これはですねー、魔法素水を触媒にご主人様の精液を解いた物ですよ」
 嬉々として言うミゥに、俺もヅィも僅かに眉を顰めた。
 というか、いつの間にそんな物を……
「じゃあ、入れますよー」
 何故だかとても嬉しそうに、俺の精液が混じっているらしい液体の試験管の蓋を開け、その中身をほぼ全て、薄緑色の液体が入った試験管の中へと注ぎ込んだ。
 今度の変化はゆっくりでありながら、強烈だった。
 無色透明に近い緑の液体と、真珠のような輝きを持つ白い液体が混じる。
 最初は緑の液体を巻き込んで、試験管の中身はミルク色の液体に染まったが、ややあってその中央から染み出すように強く濃い緑が吹き出して――
「ふふ……」
 ミゥの笑みと共に、数秒ほどで中の液体は完全な緑に染まった。
 それもただの緑ではない。時折強い輝きを見せる、深い森林の緑だ。
「これは――」
「妖精炎濃度、混入前のおよそ一万二千倍。この試験管の中身一本だけで、妖精樹の若い枝一本に相当します」
「なんと……」
 それが一体どれだけ凄いのかは俺には分からなかったが、一万二千倍という数字が只事ではないらしい事は分かる。
 しかし……
「これが、ヅィの身体に起きた現象なのか?」
「いえ、本番はここからです。これが、なかなか厄介な状態でして」
 ミゥはそう言いながら、先程のガジュウィの体液が入った試験管を取った。
 そして何の警告も無く――その中身を全て、深緑の液体の試験管へと注ぎ込んだ。
 俺は凄まじい音と煙を想像して思わず身を引いたが、今回の変化はごく穏やかなものだった。
 先程の反応が嘘のように、異なった色を持つ液体は一つの試験管の中で渦を巻きながら穏やかに交じり合い、その色を変えていく。
 深緑が、色褪せるように薄まって――元の、半透明の緑に戻ったのだ。
「これで、ボクの妖精炎はご主人様の精液に反応して増やした分を、半分以上使いました。ご覧の通り、ガジュウィの体液との親和性が高くなっていて、本来の状態ではない事が分かります」
「ふむ」
「ここに、使い込んだ妖精炎の力を増やす為、今度は一般的な手法であるアムスの花蜜を加えます。通常なら、先程ご覧になったように緑は濃くなりますが――」
 最後の一本。
 琥珀色の液体が入った試験管を取り、その中身を直接、半透明の緑の液体が入った試験管に注ぐ。
 二つの液体はゆっくりと混じり合い、ミゥの言う通りに色を濃く――
「……なら、ない?」
 液体に変化は無かった。
 緑の液体は半透明のままで、色が濃くなる気配はない。
「はい。妖精炎の力を増幅するアムスの花蜜は、この状態になった妖精炎には効果がないんです。この状態になった妖精炎を再び増幅するには、ご主人様の精液を注ぐしかありません」
 つまり、とミゥは前置いて、
「この実験の結果から察するに、ご主人様の精を受けたボク達は体質が変化して、ご主人様の精を触媒に妖精炎を増幅する事が出来るようになった一方、通常の触媒で増幅する事が出来なくなってしまったのでしょう。ヅィ、あなたの発情は、使い込まれた妖精炎を再び増幅する為に、妖精炎があなたの身体に無意識に異常をきたしていたものと思われます」
「――と、いう事は……」
「端的に言うと、ボク達、本当にご主人様がいないと生きられないかもしれない身体になっちゃったって事ですねー」
 ふふ、と笑っていうミゥに、ヅィが眉を歪める。
「まあ、発情しても特別、命に別状はないと思いますよー。精神的にはさておき」
「あまり良からぬ事を申すでない」
「ボクは一向に構いませんし。まあ発情を抑えたかったら、荒い妖精炎の使い方は避けるべきですね。余程一気に使わなければ、発情する事はないと思いますから」
「……という事は、ヅィが発情したのは、昨日の戦闘の最後に放った魔法が原因だって事か」
「話を聞く限りではそうなりますねー。その事も含めてピアには報告しておきます」
「頼む」
「ふふ、いえいえ――」


 ……発情、か。
 俺の精液を受けて彼女達の体質が変わったなど、十八禁美少女ゲームにありそうな冗談のような設定だが……
 何だか取り返しのつかない事をしてしまったようで、心が重い。
「ご主人様、もう少し歩けますか?」
 そんな事を考えていると、ふと気付けばピアの顔が目の前にあった。
「あ、ああ。大丈夫。流石に歩けなくなるほどじゃない」
「そうですか。もうしばらくで着くそうですので、頑張って下さい」
 ピアは心配そうな表情から小さく微笑んで、身を翻し先頭に戻る。
 ミゥの実験と考察が正確なものなら、一番ショックを受けていそうなのはピアだと思うのだが……
 今のやり取りでは判断出来そうも無かった。
「……ふう」
 もう一度、空を見上げる。
 旅行四日目、昼前。
 俺と七人の妖精達は、ニニルが言っていた廃村に向けて、山道を歩いていた。


 しばらく山道が続いて、俺は僅かに痛み出した足に焼きを入れるかのように、地面で踵を叩いた。
 旅館を出て、歩く事三十分強。
 ニニルの案内で、人二人が通れるかどうか、といった山道を延々と歩いている。
 道幅が徐々に広くなっている事からして、この先に何かがあるのは間違いないようだが……
「……おい、本当にんなもんあるんだろうな?」
 と、シゥが僅かに苛立ったような口調でそうニニルに問うた。
「疑り深いですね。もう直ぐですよ…… ほら、見えてきました」
 そう言ってニニルは、道の遥か向こうを指差した。
 目を凝らすと、道に沿って生い茂る草や枝葉の向こうに、何やら自然ではない人工物が見える。
 僅かに足取りを速めた俺達は、その人工物が近くなるに従って、それが何か分かるようになった。
 それは朽ち果てた小さな木造の祠で、中には変わった石像があった。
 鳥の石像だ。
「何でしょうか、これは」
 真っ先に素直な疑問を上げたのはネイ。
 俺は小さく、ふむ、と呟きながら、腰を落としてその石像を至近距離から眺める。
「鳥の石像には違いないが…… なんだろうな。烏に似ている気がするが」
「カラスとは、あの黒い鳥かの?」
「そう、あれだ」
 答えながら、俺はある事に気付いた。
 祠は苔むして朽ち、今にも壊れそうなものの、石像は全く汚れていないという事に。
 誰かが掃除しているのだろうか。
「――で、村は?」
「あっちですよ。節穴ですか、あなたの目は」
 背後でまたもそんなやり取りがあって、俺は少し呆れながら振り向き、そしてニニルの指差している方向――近くの急な斜面の向こうを見た。
 視界に入ってきたのは、二つの山と、その間にある窪地に隠れるようにして存在している、小さな村だった。
「あれか……」
 本当に小さい村だ。村というより、集落、いや隠れ里、と言った方がいいだろうか。
 入口から山の方に一本の太い道があり、それを挟むようして古めかしい茅葺き屋根や瓦屋根の家々が建っている。数は…… 二十軒を超えないだろう。
 しかし遠目から見るに、あまり寂れているようには見えない。
「本当に廃村なのか? 結構綺麗に見えるが」
「ええ。二日ほどあそこにお邪魔していましたが、少なくとも人の気配はありませんでしたよ。不気味なぐらいです」
「そうか……」
 ここから斜面沿いに行って、十分ぐらいだろうか。
「ともかく行ってみるか。面白そうではあるし」
「そうじゃの」
「ですねー」
 ヅィとミゥの同意を受けて、俺達は再び歩き出した。
 ふと、背後を振り返る。
 小綺麗な烏の石像が、やたら輝いているように見えた。


「本当に廃村なのか……? 確かに、見事に誰もいないが」
「信じないのですか?」
 村の入口に到着して、俺はニニルに非難されながらもそう呟かざるを得なかった。
 というのも、あまりにも整然とし過ぎているからだ。
 しっかりと踏み固められ、余計な雑草など一本も生えていない道。
 丁寧に手入れが成されたかのように、綺麗に整っている木々。
 村の入口に最も近い家などを見るに、縁側の硝子も障子もきちんと張られ、すぐにでも住めそうな様相を見せている。
「これだけ整っておると、廃村というよりは、一時的に人が住んでおらんだけのような気がするの」
「そうだな。そう考えた方が自然かもしれない」
 言いながら俺達は歩を進める。
 ひとまずは休憩しようと、近くの家の縁側にお邪魔する事にした。
「失礼します…… っと」
 取り敢えずは弁当などが入った鞄を縁側の戸の陰に置き、一息を吐く。
 腕時計が指す時間は、11時半頃。
 まだ昼食を取るには少し早い時間だ。
「悠のマンションはよく分からない素材や金属が中心であったが、この家はほぼ全て木造なのじゃのう」
「そうだな…… 昔はこういう家が多かったんだ。田舎だと、今でも住んでいる人は珍しくないと思う」
「そうなのですか」
 木造の家を見上げて、ヅィとネイが言う。
 ふむむ、とか、へえ、とかミゥもシゥも呟いている辺り、ひょっとすると木造の家というのは彼女達にとっては珍しいのだろうか。
「君らはどんな所に住んでたんだ?」
「私達、ですか? そうですね……」
 ええと、と言いながらピアは周りを――六人の妖精達にそれぞれ視線を送る。
 その視線を受けて、まずネイが察したかのように、
「私は軍に徴兵されるまでは、ニルガーンの木をくり貫いて作った家に住んでました」
「木を、くり貫いて?」
「はい。ニルガーンの木はエルフなどが家具を作る時にも使う、そういう用途に適した木です。直径が…… ええと、二十mぐらいあるので」
「そりゃ、太いな」
 直径二十mの木、か。
 確かにそれぐらいあれば、彼女達にとっては木をわざわざ材木にして家を組み立てる必要などないのかも知れない。
「んー、ボクはあれです。この世界で言う茸の家に住んでました」
「へ、茸?」
 次いでそう言ったのはミゥ。
 思わず返した生返事に、はい、と彼女は頷く。
「ちょっと特殊な硬い茸でしてー。ボクの村では普通に中をくり貫いて住んだり、家具を作る材料にしてましたよー」
「茸、か……」
 ちょっと想像し難いが、なんともミゥらしい家というかなんというか。
「そういう意味じゃ、俺とかピア、ヅィは当てにならないな」
 次に声を上げたのはシゥ。
 縁側の内側、家の中を覗き込み、興味深そうにしながら答えている。
「三人はどういう所に?」
「どういうところって、そりゃエルフとかが中心の帝都だからな。基本的には石と木を組み合わせて造った兵舎とか屋敷だよ。ちょっと住み心地は良くないが、まあ慣れちまえばどってこたない」
「そう、ですね」
「じゃのう」
 三人の言葉に、俺は、ふむ、と頷いて、
「じゃあ今のマンションとかはあまり住み心地が良くない、って事か?」
 と、少し意地悪に言ってみた。
「いや、そういう訳じゃねーけど……」
「主、その質問は少々意地が悪いぞ」
「私は、その、あの」
 ばつが悪そうに弁解するシゥとピアに、む、と言った表情で抗議してくるヅィ。
 三者三様の反応に俺は小さく笑い、すまんすまんと謝罪する。
「まあ、少し自由行動にしようか。後三十分ぐらいしたらお昼ご飯にするから、ここに集合しよう」
「はい。分かりました。 ――各々、行動は自由ですが、人間の目には気を付けるように」
「了解」
「はいー」
「了解じゃ」
「了解しました」
「了解」
「ニニル、あなたには申し訳ありませんが、私と一緒に行動して頂きます。いいですね?」
「まあ、分かりました」
 ピアの呼び掛けに六者六様の返事を返し、それぞれ各々の行動に移っていく。
 俺はひとまず山道で疲れた身体を癒そうと、縁側の上に転がった。
「ふー……」
 視界にあるのは、夏らしい透き通った晴天に、古めかしいが蜘蛛の巣一つ無い木造の屋根。
 そしてそれらを不意に、ぬっ、と塞ぐ影。
 無言で見上げる。
 同時、いきなり口元を柔らかい感触が襲った。
「ん、ふ……」
 聞き覚えのある吐息の声に、口内に流れ込んでくる甘い液体。
 対抗するように舌を伸ばし、向こう側へと侵入させて、そこに潜む小さな舌を絡め取る。
「ん、んっ」
 そんな攻撃に、ぷは、と柔らかいものが離れる。
 光を取り戻した視界に入ってきたのは、深緑の髪と、ミゥの甘い笑顔。
「ふふー、ご主人様ー」
 俺の頭の横から俺の顔を覗き込んでいる彼女は、そう言って微笑みながら、俺の首元に顔を埋めてくる。
 鼻腔をくすぐる、甘い匂い。
 いつになくテンションの高い彼女の目的を大体察しながら、俺は一つ問うた。
「ミゥは、散歩に行かないのか?」
「もー、やですねご主人様。誰かが傍にいないと、ご主人様の周囲の気温調節が出来ないじゃないですかー」
 それに、とミゥは続け、
「最近、ご主人様分が不足してきましてー。ヅィみたいに発情した訳じゃないですけど、補充して貰おうかなー、と」
「まだ昼だぞ。外だし」
「え? お昼で外だとしちゃいけないんですかー?」
 そう逆に聞いてくるミゥは、本当に疑問符を浮かべているような顔だ。
 そう言えば、その辺りの倫理は彼女にはまだ教えていなかった気がする。
「一つ聞くけど――」
 行為中を他の人に見られたら嫌だろ? と聞きかけて、俺は口を閉ざした。
 彼女にそれを聞いて、果たして「嫌」と答えるかどうか。
 ミゥだけでなくシゥやヅィにも見られる傾向だが、彼女達は楽しい事、気持ちいい事を進んで行おうとする。いわば享楽主義だ。
 特にミゥは男女の交わりを覚えてからというもの、その傾向が激しくなっている。
 果たして今の彼女に、行為を見られる事への羞恥心があるかどうか。
 いや、羞恥心はあるだろうが、それよりも快感の取得を優先する可能性が高い。
 そうなると、予想される答えは「俺と交われるなら、ちょっとぐらい見られても構わない」というもので……
「聞くけど…… なんですかー? 何でもお答えしますよー?」
「あー、いや…… まあ、とにかくちょっと待ってくれ」
「はいー」
 なんとも頭の痛い話だ。
 ミゥが快感にのめり込んで痴女のようになってしまうのはそれはそれで楽しそうではあるが、やはり倫理的に褒められたものではない。
 その辺りをなんとか教育出来ればいいのだが、快感を得る事より重要な理由でないと、彼女は不満がるだろう。
 まるで犬や猫のように、俺の首元から胸元にかけて自分の匂いを擦り付けるように顔を寄せてくるミゥ。
 時折、んふー、などと幸せそうな吐息を漏らすその姿は、何とも可愛いものだ。
 そんな彼女を見ながら俺は悩み、少し卑怯な手段を取る事にした。
「なあ、ミゥ」
「はいー?」
「シたいか?」
 意図を込めてそう聞くと、彼女は躊躇い無く、はいー、と僅かに頬を染めて頷いた。
「そうか…… じゃあ、ちょっと立って」
「はいー」
 俺にじゃれ付くのを止めて言われるままに立ち上がった彼女を横目に、俺は自分の鞄を漁る。
 取り出したのは、何かの役に立つだろうと思って長期旅行用の鞄に入れっ放しになっていたホイッスルのケースと、デジカメと一緒に持ってきたメモリーカードのケースだ。
 両方とも直径1cm強、全長4cm程の円筒形で、これといったデザインはないシンプルなもの。
 その中身を抜き取ってから、ケースだけを掌の内に隠し、ミゥに振り向く。
「じゃあミゥ、裾を上げて」
「はいー」
 言われて素直に服の裾を上げ、上着とお揃いの緑のガーターベルトとショーツに包まれた下腹部を露にする彼女。
 やはり羞恥心はそれなりにあるのか、顔は赤く染めている。だが表情は期待に満ちたもので、行為に躊躇いがない。
「下、脱がしていいか?」
「勿論ですよー」
 それじゃあ遠慮なく、とショーツに手を掛け、彼女の絹のような肌からゆっくりと引き落とす。
 露になった小さな縦筋に生唾を飲み込みつつ、俺は彼女の脚からショーツを抜き取った。
「ふふ……」
 小さく笑うミゥ。
 その笑いに釣られるように指先で縦筋に触れると、最早、ぬちり、というぬめった水の感触があった。
 浅く指を差し込んでから抜き取ると、それだけで多量の愛液が指に絡んでくる。
「もう濡らしてるのか」
「だってー……」
 苦笑しながら言うと、彼女は待ち切れないとでも言うかのようにもじもじと内股を揺すった。
 じゃあ、と俺は口にして、
「取り敢えず、これでも咥えてて」
 と、掌に隠していた円筒形のケースの片方を、愛液に濡れた縦筋の中へと押し込んだ。
「っ、あっ!? ご、ご主人様ー? 何を……」
「ほら、こっちも」
「あうッ!?」
 ミゥが困惑している間にもう片方のケースに愛液を絡め、菊門の方に押し込む。
 二つのケースは太さ的に俺の指ぐらいだ。小さい彼女の身体には本来見合う大きさと言える。
 埋め込んだ指を離すと、彼女は入り込んだ異物を確かめるように、その指先で前後の門を覆う。
「ご、ご主人様、一体何をー……」
「何、ちょっとしたつまらないものだ」
「うー…… こんなのじゃなくて、ボクはご主人様のおちんちんが……」
「まあ待て」
 言って、俺は意地悪く笑い、
「今ミゥの中に入れた物を落とさずに、かつ中に入れられているのを誰にもバレずにいられたら、夜に抱いてやる」
「そんなー……」
 珍しく、ミゥが弱々しい声を上げる。
 嗜虐感が満たされるのを感じつつ、俺は更に言葉を突き付けた。
「嫌なら無しだ」
「うー…… わ、分かりましたー。やってみます」
「まあ楽しいゲームだと思え」
 笑いながら腰を軽く叩くと、小さな喘ぎと共に身体を震わせるミゥ。
 彼女が成し遂げられるかどうかはさておき、一時凌ぎにはなるだろう。
 本来なら言い聞かせて我慢させるのが一番いいのだが、ミゥの性格を考えると後が怖い。
「ご主人様、笑いすぎですよー……」
「いや、すまんすまん。ミゥが可愛くてつい」
「もう…… それよりボクの下着、返してください」
「穿いてたら落ちにくいだろ? だから預かっとくよ」
「えー…… そんなー……」
 文句を言いながらも裾を戻し、居心地悪そうに足元や腰周りを確認するミゥ。
「んー、ヘンじゃないですよね? ご主人様」
「顔がちょっと赤いぐらいだ。どこもおかしくないぞ」
「むー……」
 ヘンな感じで落ち着かないです、と漏らし、しきりに自分の格好を気にするミゥ。
 彼女の前後の穴に収まっているケースは俺のモノより彼女に適切な大きさの筈だが、今まで俺のモノと指ぐらいしか経験してない為に、逆に物足りなく感じるのだろうか。
 そう思うと、俺自身で彼女を愛でたくなってくる。
 ……いかんいかん。
 彼女の羞恥心が少しでも高くなる事を祈りながら、俺は必死に己の欲望を抑え込んだ。


 ミゥと一緒に少しその辺りを歩き回って、すぐに十二時はやってきた。
 今回は彼女達も一緒に食べるという事で、八人分の弁当が目の前には広がっている。
 出掛ける、という旨を例のスーツの老人――どうやら彼が飯田さん本人らしい――に話した所、すぐさま持ってきてくれたものだ。
「美味しそうですね」
 そう漏らしたのは意外な事にニニル。
 彼女の事だから、人間の作った料理なんて等々、と漏らすかと思っていたのだが。
 そんな事を考えていると、突然ニニルから睨まれて、
「意外そうで悪かったですね」
 などと言われてしまった。
「こらニニル、憶測で物を言ってはいけませんよ」
「いえ、今の悠の顔は絶対にそう思ってましたよ」
「いちいち被害妄想が激しい奴だな」
「私の事が言えた口ですか」
 そして瞬く間に始まる、ピアとシゥとニニルのやり取り。
 原因になった本人が言うのもなんだが、微笑ましいことこの上ない。
「私とて、実力のある相手を素直に認める良識ぐらい持っています。この料理は、食べる者に喜んで貰えるよう、心を込めて作られた物です」
「ほう、主はあれか。フーニ・パスィ派か」
「ええ」
 ヅィの問いに頷きを返すニニル。
 フーニ・パスィ? と聞きなれない言葉に俺が呟くように問うと、うむ、とヅィは頷き返してきた。
「フーニという妖精料理研究家が提唱している説でな。妖精は通常の味覚や嗅覚以外に、料理に関してはその作り手の感情も味や匂いとして感じるという説じゃな」
「ですから妖精は、技術的には問題が無くても心の篭っていない料理は不味く感じると言われています。最悪、口にする事すら出来ないとか」
 まあ、実証はされていないんですけどね、とニニル。
「ですが、支持の多い説ではありますね。私も何度かそう思える料理に出会った事があります」
「他人の味覚は確かめようがないからな。まあ証明は無理だろ」
 続いて同意するのはネイとシゥ。
 うむ、とヅィも頷いた辺り、ほぼ全員がその説を信じているという事だろうか。
「ま、じゃあ確かめてみてくれ。頂きます」
「頂きます」
 全員の声が重なり、一つの音となって夏の空気に溶ける。
 無人の集落で始まった昼食会は、すぐに騒がしいものとなった。
「――ああ、そう言えばネイ。先日の事ですが……」
「んー…… まあそうだな。あの時もそうだった」
「――でも、別にそういう訳ではないですよー?」
「はい。懐かしい話です。私が言うのも何ですが……」
「リィズとシヴがおったか。後はグリンかの?」
「肯定」
「そうなのですか。私はてっきり――」
 何せ彼女達、食事中だというのに喋る喋る。
 その癖、喋る喋る喋る食べる、ぐらいの割合なのに、豪華な弁当はあっという間に無くなっていく。
 加えて、先日の歓迎会の時から見ていて思ったが、彼女達、明らかに胃の体積か消化速度がおかしい。
 特にシゥとヅィは異常で、一人前半――勝手な妖精換算だとは四人前半は食べてるんじゃなかろうか。
「――いや、あの時は事情が違ったからな。今になってどうだ、って聞かれたら、迷う部分もある」
「そうですね。特にエイルは煩いでしょう」
「た、確かにそうかもしれませんが…… はっきり言ってしまうのは」
「いいではないですか。本当の事ですし」
「何かにつけての煩さはお主以上じゃからのう、あ奴は」
 彼女達の会話と食事は途切れない。
 話を振って、それに相手が答えている間に食べ、その答えに応じている間に相手が食べる。
 観察していて気付いたが、自分が話す時に食べ物を口にしている事は決してない。その辺りはちゃんとしたテーブルマナーがあるのだろうか。
 なんとなくそんな会話に加わってみたくなって、俺は適当に口を挟んでみる事にした。
「エイルって誰だ?」
 そう問うと会話が中断して、ピア、シゥ、ヅィ、ネイの四人がこちらを向く。
「エイルは、ウルズワルド帝国軍妖精騎士団の左翼長です」
「左翼長?」
「はい。分かり易く言うと、陸軍少将に相当します」
「ちなみにピアは騎士団の主翼長で、相当するのは陸軍中将じゃな」
「私のは単なるお飾りでしょうに」
 ヅィのさりげなく凄い紹介に、苦笑いで答えるピア。
 中将というと、彼女の場合はその妖精騎士団のトップという事になるのだろうか。
 という事は、エイルさんとやらはピアの副官に近い人物、か?
「その、エイルって人は君達と同じ?」
「いえ、彼女はヴァーニール族です」
「ヴァー……?」
「ヴァーニール族。妖精種。妖精郷の東北部から南部にかけての広い地域に分布。平均体長十五センチ、体重五十グラム。特徴は、その十五センチ程度の体長をおよそ一メートル強まで自在に変えられ、それを一定時間保持出来る事」
 未知の単語を呟いた俺に、すかさずノアが事務的に解説してくれた。
「繁栄種の血統に近い族であり、妖精炎の能力は総じて低い。ただしウルズワルド帝国軍妖精騎士団左翼長のエイル・シンガ・フィウは、ヴァーニール族でありながら極めて高い妖精炎の能力を持ち、世界樹守護種に並ぶ実力を持っている」
 幾つか新たな未知の単語を吐き出したノアの解説に取り敢えず、ふむ、頷くと、ネイが苦笑いして、
「まあ、凄い妖精だと思って頂ければ」
 と、極めて簡潔に説明してくれた。
 ……瞬間、ノアがネイを僅かに睨んだように見えたが、気のせいだろう。
「エイルは端的に言うならば、とことん繁栄種の妖精らしくない奴じゃ。性格がの」
「性格って、どういう風に? それに繁栄種とか、世界樹守護種とか……」
「ああ、それはの……」
 言いながら、ヅィは横目でピアを見遣った。
 頷く彼女を確認して、ヅィは再び口を開く。
「そもそも妖精郷とは、世界樹という大樹を擁する地域の別称でな。妖精郷には大きく分けて二つの妖精種がおる。それが繁栄種と、世界樹守護種じゃ」
「繁栄種というのは、文字通り妖精郷を繁栄させる為の種です。文化を持ち、他種族との交流を持ち、妖精郷を発展させる他、外交の面で護ります」
「世界樹守護種とは、これも文字通り世界樹守護の為の種。戦闘に特化した能力を持ち、他種族と交流する事はありません。物理的に妖精郷、特に世界樹を護っています」
 付け加えるように解説したのはネイとノア。
「じゃあ、君達は――」
「我々フィフニル族は世界樹守護種に分類されます。ただ、守護種の中でも繁栄種に近い性質を持つ変わった族です。独自の文化こそ持っていませんが、繁栄種と同様に歌や踊り、食事を楽しみ、他種族との交流も持っています」
 そう説明してくれるピアの表情は明るい。
「この世界の創作などに登場する妖精は、皆繁栄種に近いですね。当然と言えばそうなのですが、やはり安心します」
「安心って?」
「ぶっちゃけると、世界樹守護種ってのは性格が悪いんだよ。妖精郷の中心から出てこねーし、やたら敵対的だ。性質の悪い引きこもりみたいなもんだな。そんなのが妖精の代表になってたらいい気はしないのは分かるだろ?」
「まあ、確かに」
 言われて、俺の知り合いにも何人かいる自宅警備員の面々を思い出す。
 確かに、あんなのが人間の代表的なイメージだと思われていたら困る。
「エイルはヴァーニール族で、繁栄種なんだが、性格的には世界樹守護種に近い。 ――いや、双方のいい所だけ持ってる、って感じだな」
「ほう」
「繁栄種は争い事や楽しくない事が非常に苦手だが、あいつは汚れ役とか進んで引き受けてたし、好戦的だった。かと思いきや、世界樹守護種みたいに社交的じゃない、なんて事はなかった。演説とか得意だったしな」
「じゃあ、フィフニル族に近い気質だった?」
「あー、まあ、そうとも言えるかもな。やたら気が合ったし」
 何かを思い出したのか、シゥが小さく笑う。
 その笑いに釣られるようにピアが笑い、ヅィも笑みを浮かべた。
 そんな様子に、いい同僚、あるいは友人だったのだろうな、と思う。
「今、彼女は?」
「さーな。あの夜に別れたきりだ。詳しくは分からないが、まあ死んじゃいないだろう」
「でしょうね」
「強いから?」
「いや」
 当たるだろうと思っていた答えを否定して、シゥはこともなげに考えを述べた。
「今回の叛乱を指揮したのは、多分あいつだろうからな。心配はしちゃいねぇよ」
「叛乱って…… 彼女が?」
「ああ、まず間違いないだろ。騎士団だの何だのとやってたが、実のところ扱いはかなり悪かったからな。そこで実際に行動に起こしそうなのはあいつしかいない」
 扱いが悪かった、と聞いて思い出すのは、ニニルを彼女達が捕まえた時の事だ。
 妖精の人質や捕虜に対する保護条約はない、とニニルは言っていた。
 そうなると、他の面でも…… という状態は想像に難くない。
「出来ればこちらには来ないで欲しいですが…… 一体何をやっているのやら」
「まだ今の段階で事後処理、って事は無いでしょうし……」
 呆れと苦笑いを含んだ会話。
 特にピアは、出来の悪い我が子について話しているような、そんな雰囲気だ。
「でも、なんだ、その…… 戦えるのか?」
 どうしても気になって、そう問うてみる。
 するとピアやシゥは一瞬だけ眉を歪めて、しかし平然とした口調で言った。
「まあ、何とかなるだろ」
「何とか、って……」
「話して分からない相手ではありませんから。どうしても駄目だった場合は、仕方ありませんが」
 ピアの身柄と、ヅィの命。
 当人が嫌がっている以上、どちらも決して譲れないものだ。
 しかし、その為に仲の良い友人の命を奪うというのは…… どうなのだろうか。
「何より、主にこれ以上厄介を掛ける訳にもいかぬしの。やると決めたら、容赦はせぬ」
「しかし……」
「ご主人の命にも関わる事だ。まあ心配するなって。俺がいるからな」
 自信を持って頼もしい笑顔を浮かべるシゥ。
 そんな顔でそう言われると、そうだな、としか返せない俺だった。


 それから話題は二転三転し、昨日の歓迎会についての話では、有意義な時間になったとピアは言ってくれた。
 ピアは山田さんと話をしてみた所、お互いに大勢を纏める立場として会話が弾んだ事。
 シゥは藤田さんと良い酒飲み友達の関係になった事。
 ミゥはスーツの老人――飯田さんとちょっとした事で会話になり、飯田さんが植物に非常に詳しい事で話が弾み、仲良くなった事。
 ネイは歌を歌った事で、多くの人と打ち解けられた事。
 ノアは子供達に振り回された事。
 それぞれが笑いと苦笑いを織り交ぜながら(ノアは淡々としていたが)楽しかったと言ってくれた。
 そして食事が終わり、また散策の時間になる。
「ご主人はどっか見に行ったのか?」
「少しはな。もうちょい休憩してから、本格的に見回る事にするよ」
「了解。その時は良かったら一緒に行こうぜ」
「ああ」
 シゥの誘いをやんわりと後回しにし、俺は縁側の日陰に腰を落ち着けた。
 食事の後で腹が落ち着いていなかったというのと、もう一つ。
「ご主人様ぁ……」
 甘い吐息と共に背後からしな垂れかかってくる、小さな重み。
 振り向くまでもなく分かる。ミゥだ。
「ん……」
 背中にぎゅ、と彼女の乳房が押し付けられる。
 小さな手は首と肩をしっかりと抱くように絡み付いてきて、自発的に離れそうな気配がない。
「こらこら」
「だって、もう、ボク……」
 背中を横に動かすと、するりとミゥの身体が俺の膝の上に滑り込んでくる。
 のんびりとした表情が、いつも以上にとろんと蕩けたような状態になっていた。
「我慢できない?」
「はいー……」
「約束は夜までだぞ?」
「うー…… もう、駄目なんですー…… ご主人様が、欲しい……」
 体温はそこまで高くはなっていないものの、感情的には既に我慢の限界のようだ。
 裾から手を遣ると、既に彼女の股間は酷く濡れていて、準備よしと訴えてくる。
「食事中も、ずっと我慢してたんですよー? もう、いいじゃないですかー……」
「でも、あれからまだ二時間経ってないぞ」
「ううー……」
 そう可愛く唸るミゥは到底諦めるつもりはないらしく、その小さな身体を俺の胸板に擦り付けて劣情を誘ってくる。
 その行為だけで快感を得ているのか、時折彼女の動きに合わせて長い耳や翅がぴくぴくと反応していた。
 それを見て、代替案が一つ浮かぶ。
「じゃあミゥ、こっちに背中を向けて足の上に座れ」
「はいー……」
 俺が突然発した命令に、何の疑いもなく従って背中を向けるミゥ。
 こちらに向けられた緑の翅と、頭の両側から突き出た長い耳。
 それらをおもむろに捉えて、つう、と指を滑らせた。
「っ、あッ!?」
 瞬間、大きく反応する彼女。
 それが面白くて、俺は彼女の耳と翅を磨くように、更に指を滑らせた。
「っひ……!? ご、ご主人さまっ、あっ!? そこは――」
「ミゥの耳と、翅だな」
「あ、あああああああっ……!」
 その耳に息を吹きかけながら指を滑らすと、官能的な叫びが漏れる。
 不思議な感触のする耳と翅を撫で続けながら、俺はその耳の傍に口を寄せて、囁き掛けた。
「こんなところで感じるのか?」
「ふあ、あ、はい、身体、熱い時に、触られると…… あ、あああ、あぁ」
「ほー」
「あう、あ、い、息は、息は駄目です、ああ、ああああぁ……!」
 悲鳴に合わせて、ミゥの身体が痙攣しているように震える。
 やはりこういう時の彼女達を一番形容できる言葉は、楽器だと思う。
 大きさが手頃だし、音色がいい。
 俺はミゥの耳と翅を使って彼女を奏でながら、更に彼女を昂らせていく。
「っあ、あ、ああ、や、あぁぁぁ……!」
 そのまま五分ほど、彼女を弄り続けただろうか。
 少しばかり、彼女の様子がおかしい事に気付いた。
「っ、あ、あっ、あ……!」
 声が途切れ途切れになって、その身体からどんどんと力が抜けているように感じたのだ。
 快感の痙攣に対し、抵抗の反応がどんどん薄くなっている。
 まだ達していないように見えるから、体力はまだ大丈夫だろうと思っていたのだが……
「ご、っあ、ごしゅじ、さま、ああッ……!」
「どうした?」
「っ、あう、そろそろ、ゆる、ゆるして、くださっ……!」
 思わぬ懇願に、一度愛撫を止める。
 ミゥは荒く息を吐いた後、快楽に蕩けた、しかし泣きそうな顔で途切れ途切れに告げた。
「こんなの、ヤです…… イけない、から、おかしく、なりそう……」
「え、そうなのか」
「はいぃ……」
 シゥとは違って、翅への愛撫では達せないという事を訴えるミゥ。
 どうしたものか、と悩んでいると、ミゥは熱くなった身体を強く寄せて、その手を俺の股間に伸ばしてきた。
「ご主人様…… お願いですから、おちんちん、ボクに入れて…… ボクのあそこでも、お尻でもいいですから、いっぱいかき回して欲しいです……」
「む……」
 そう懇願するミゥを見て、流石に可哀想になってきた。
 彼女に性の快楽を教えたのは俺でもある訳だし、そろそろ応じてあげるのが男というものだろうか。
「本当に我慢できない?」
「はい…… このままじゃ、おかしくなっちゃいそうですー……」
「仕方ないな」
「こんな気持ちいい事、我慢できませんよー……」
 そう言われて苦笑いし、俺は彼女を手に抱く。
 彼女を抱いてやる事に決めて、近くの林の中へと入っていく。
 性教育はまた今度の機会にしよう。今は、青姦というのも悪くない。
「この辺りでいいか」
 決めたのは、林に入って十メートルほどの地点。
 木々の向こうに、昼食を摂った家屋の縁側が見える距離だ。
 俺は手頃な木にミゥの身体を押し付け、裾を捲り上げて尻を露にして、そこに見える縦筋と菊門に入っている異物を取ってやり、
「しっかり掴まってろよ」
 と言うと同時に、濡れそぼった縦筋に、既に十分に勃起した俺のモノを一気に最奥まで突き立てた。
「――っ、あああぁっ!」
 途端、甲高い嬌声を上げてミゥが仰け反り、直後に脱力した。
 どうやら一突きで達したらしい。
 きつい締め付けが僅かに緩み、荒い吐息の音が静かな密林に響く。
「もうイった?」
「っ、あ…… は、はいー…… 死んじゃう、かと、思いましたー……」
 蕩けた表情で言って、しかし物足りないと言うかのように彼女は貫かれた尻を揺する。
 もっと、とせがむ動きに応えるように、俺は腰を動かした。
「あ、あっ、あ、ひ、く、あ、あ、あッ」
 いつも通りの腰の動きに、いい声で断続的に鳴くミゥ。
 時折最奥にモノの先端を当ててやると、跳ねるように身体を震わせるのが面白い。
「あう、あ、あ、ごしゅ、さま、あ、い、いい、もっと、もっ、ぉ……!」
 淫靡な喘ぎが、山の緑の中に溶けて消える。
 身体に纏わりつく空気がいつもと違う、清浄なものを孕んでいる所為か、心地が良い。
 心なしか、ミゥの声もいつもより大きく感じる。
「っ、あ、あ、ひう、あ、くん、ん、っ、あッ……!」
 びくり、と再びミゥの身体が大きく震え、脱力する。
 二度目の絶頂に、彼女は大きく息を吐いた。
「もっと?」
「は、い…… 次は、ご主人様も、一緒に……」
「分かった」
 頷いて、すぐに腰の動きを再開する。
 時折吹く風に、枝葉の擦れ合う音が響き、その中に俺とミゥの立てる淫靡な水音が混じる。
 誰かに聞こえてるんじゃないだろうか、とは思うが、それも興奮の要素になるから困ったものだ。
「あ、あ、あう、あ、あっ、あ、んっ……」
 流石に少し疲れているのか、控えめな喘ぎ声を漏らすミゥに、快感の波を合わせていく。
 ミゥは達するのを我慢しない傾向があるので、こちらが正確に合わせなければならない。
 その分、分かりやすくはあるのだが。
「あっ、あ、あッ、あ、ごしゅ、あッ、じ、さまッ……!」
「く、いくぞ」
「だして、ボクに、あ、あッ、せーし、だしてッ、あ、あッ、あ……!」
 悲鳴が甲高くなるのに合わせて、俺も我慢を止めて一気に射精に向かう。
 ミゥが三度、その小さな身体を強く震わせると同時、ぎちりと絞られた胎へと俺も精を注ぎ込んだ。
「っ、は、あ…… あつ…… ご主人様の精液、ボクのお腹に、入ってくる……」
 荒い息を吐きながら、呆けた声で呟くミゥ。
 脈動に合わせて、あ、あ、あ、とか細い声を漏らし、最後にまた、ぶるり、と身体を震わせた。
 どうやら精液を注がれただけで四度目の絶頂に達してしまったらしい。
 そんな彼女が愛しくなって、少し力を込めて抱き締める。
 ん、と余韻の声を漏らしてくすぐったそうに身を捩った彼女は、お返しとばかりに俺の腕を強く掴んできた。
「二回目、いきますー……?」
「いや、少し休憩しよう」
「ご主人様からたくさん精子頂きましたから、体力回復ぐらい出来ますよー……?」
「そう急かす事もないだろ。それとも、ミゥはまだ足りない?」
「んー…… 最近ご無沙汰でしたし、あとあそこに三回、お尻に二回ぐらい出して頂けたらなー、と…… お口でもいいですけど」
「……分かった分かった。そのうちな」
「ふふ、期待してますねー……」
 蕩けた笑みでそう言うミゥ。
 ……彼女だけと付き合ってたら、その内腹上死するんじゃないだろうか。
 やはり近い内に性教育が必要だと感じる俺だった。


 ひとまず衣服の乱れを整えた俺とミゥは、少しばかりこの集落を見て回る事にした。
 茅葺き屋根の家が立ち並ぶ通りを、きょろきょろと首を振りながら、時折デジカメを構え、当てもなく歩く。
「不思議な集落ですねー」
「だな」
 肩の横を飛ぶミゥの言葉に頷く。
 少し先の曲がり角から、草履に古風な農作業着を着た人が出てきても不思議ではない雰囲気だ。
 立ち止まって、ぐるりと周囲を見渡すと、自分が昔に時間移動してきたかのような錯覚を覚える。
「誰もいないのに、これだけ整ってるってのが、また何とも……」
「不思議ですねー……」
 耳に響くのは、風に揺れる枝葉の音と、少し離れた所から聞こえる、ピアとニニル、それにヅィのものと思しき声。
 後は自分の足音ぐらいのものだ。
 気付けば、この集落に入ってからは蝉の鳴き声が全く聞こえていない。
 まるで、この集落だけ現実から隔離されているような感じだ。
「ミゥ、魔法でこういう事って出来るのか?」
「んー…… 出来なくはないですけど、仮にこれだけ大規模な保存魔法を維持し続けるとなると、それなりの魔力の出所が必要になりますねー」
「それなり、って?」
「少なくとも、一日以内にこの集落を二十回以上焼き尽くせるぐらいの量ですよー。それを毎日」
 ……要は非現実的、という事か。
 仮にそうだったとしても、この集落を維持する事にどういう意味があるのか。
 それが検討も付かない。
「謎だな……」
「不思議ですねー……」
 呟きながら、通りをちびちびと歩く。
 ややあって道は大通りに戻り、一つ息を吐いて、どうするかと考え――
「ご主人様、あれは?」
「ん?」
 疑問を発したミゥの視線を追う。
 彼女が見ていたのは、大通りの奥――集落の入口とは反対側にある、鳥居だった。
 鳥居の奥には石の階段が続き、森の奥へと消えている。
「ああ、あれは鳥居って言って、神社の象徴みたいなものだよ。簡単に言えば、ここから先は神社です、って示してる印みたいなもんだ」
「へー…… 神社は確か、神様を祭ってる所でしたよねー」
「まあ、そうだな」
「ちょっと行ってみたいかもですー」
 珍しく興味深げなミゥ。
 彼女が神社に興味があるとは、少し意外だ。
 そんな事を思いながら、よし、と頷く。
「行ってみるか。俺もちょっと興味あるし」
「ご主人様が興味あるってのはちょっと意外ですねー」
「こんな所に神社があるなんて神秘的でいいじゃないか」
「神秘的、ですかー。ご主人様はそういうのに興味がないとばかり思ってましたー」
「君達を見てるとね。そういうミゥこそ、何で神社に? ちょっと意外だ」
「この国の神社は自然と関わりがあるじゃないですかー。その辺りで、ちょっと」
「なるほど」
 言葉を交わしつつ、石段に足を掛ける。
 見上げると、枝葉のトンネルに包まれた無数の石段の向こうに、そこそこ立派な門が見えた。
 天蓋を通して注ぎ込んでくる緑の光が、何とも幻想的だ。
「んー、いい場所ですねー」
「だな」
 石段を登る。
 いつの間にか、耳にはもう自分の身体の音以外は聞こえなくなっていた。
 隣を飛ぶミゥでさえ、希薄に感じる。
 そう思って彼女を見ると、彼女も同じ思いを抱いていたのか、こちらを不安げに見つめた後、俺の首元に抱き付いてきた。
「どうしたんだ、いきなり」
「んー、ちょっと……」
 分かってはいたが、そう問うてみると曖昧に笑う彼女。
 確かな答えの代わりにとばかりに、背中側に回り込んで心細げにぎゅ、と抱き締めてくる。
 その小さな頭を帽子越しに撫でてから、再び石段を登り始めた。
 石段は所々くず折れたりしているものの、十分に手入れが成されている状態だ。
 やはり、この集落一帯が誰かの手によって管理されているのだろうか。だとすれば、観光か、あるいは純粋に保存の為か。
 しかしそう考えるには、この集落に来るまでの道は整備されているとは言い難かった。大人二人がぎりぎり並んで歩ける程度の道幅しか無かったし、道も少しばかり荒れていた。
 という事は少なくとも観光ではなく、保存の為。
 そして手入れをしている人は、あまりこの集落と人里を行き来していない。
 つまり、手入れをしている人はこの集落の何処かに住んでいる……?
「――ご主人様?」
「あ、ああ」
 気付けば、もう門の前に立っていた。
 古びた木造の門は半開きになっており、侵入は容易そうだ。
「ミゥ、ちょっと」
「はいー?」
「ここから先は少し姿を消していてくれないか。誰か人がいる可能性もある」
「分かりましたー」
 そう答えると同時、緑の燐光が背後で散って、すう、とミゥの身体が透けて消える。
 だが小さな重みと温かな体温は確かに背中にあり、頭のあった位置に触れてみると、少し硬い帽子と、いつも掌をくすぐる緑の髪の感触があった。
「よし、行くか」
『はいー』
 以前のように、脳内にのんびりとした声が響く。
 それを心強く思いながら、俺は門を開けた。
「お……」
 門の向こうに広がっていたのは、しっかりと整備された石畳の境内だった。
 四角く平らに削られた白い岩石が、遥か向こうに見えるお堂まで隙間なく敷き詰められている。
 他に見えるのは、手洗い場と、社務所と思しき建物と――
 境内を掃除している、誰か。
『誰かいますねー。あの白と赤の服は、巫女さんでしたっけ?』
「そうだな」
 ミゥの言う通り、お堂の前を竹箒で掃除している人物は、白の着物に赤い袴を身に纏っていた。
 腰まで伸ばしている黒髪を、首の後ろ辺りで白い布のようなもので縛っている。
 話を聞いてみるか、と俺は何気ない風を装って、わざと足音を立てながら巫女さんに近付いていった。
「あのー、済みません」
 距離が十分に縮まってからそう声を掛けると、一拍の後に巫女さんがこちらを振り向いた。
 綺麗な女性だ。年の頃といい、夏美さんといい勝負だろうか。
 少し日本人離れしていると感じるほど整った顔に嵌った黒い瞳は、少し呆然とこちらを見つめた後、二、三度瞬きをして――
「あら、こんな山奥に珍しいですね。ご参拝ですか?」
 と、少し慌てた様子で問うてきた。
「いえ、参拝ではなくて…… 廃村があるって聞いて、観光に来たんですけど、そのついでで」
「あ…… そうでしたか」
「綺麗なところですね。手入れは、貴女が?」
「あ、はい。私だけじゃなくて、同僚と持ち回りでこの辺りを保存しています」
「同僚?」
「はい。この神社の――」
 と、言いかけた瞬間、何かに気付いたように彼女が手を腰の脇に遣った。
「ちょっと、済みません」
「はい」
 すぐに察した。携帯電話だ。
 予想通り、袴の脇辺りから長方形の携帯電話を取り出した彼女は、画面を一瞥してから通話ボタンを押し、耳に当てた。
 そしてしばらく、こちらからでは要領を得ない受け答えが続く。
「はい、はい、はい…… 分かりました」
 最後に何かを了承して、彼女は電話を切った。
 お待たせしました、とこちらに振り向いて、
「ここで立ち話もなんですから、社務所の方にどうぞ。お茶ぐらい、お出しします」
 と、笑顔で誘ってきた。
 さして断る理由もなく、俺は頷くと、彼女に付いて社務所の方へと歩き始めた。


「――では、少々お待ち下さいね」
 そう言って彼女はお茶を取りに、俺達を通した部屋から出て行った。
 通された部屋は畳敷きに、テーブルは卓袱台、扉は障子という、典型的な日本家屋といった具合だ。
『いい木の匂いがしますねー』
「そうか?」
『はいー。妖精郷にいた頃を思い出します』
 ぐるりと部屋を見渡して分かったが、調度物も相当に古い。
 テレビなどは、一体いつの時代の遺物だ、と言いたくなる程に古い型のもので、何だか現実から時間が一年や二年どころではないぐらい遅れているような感覚がある。
 部屋の隅に掛けてある掛け軸も『自然』と見事な腕で書かれた半紙が貼ってあるのだが、もう風化の所為か所々が茶色くなっていて、触れたら崩れそうな程だ。
「まるで時間が止まってるみたいだな……」
『……あながち、ご主人様の感想は間違ってないかもしれませんねー』
「どういう事だ?」
『気のせいかもしれませんが、ちょっとこの辺り、特に神社の門を抜けてから、空気が異質です。科学的に言うと、構成成分が全然違うというかー…… 悪い空気でないのは、確かですけど』
 確かにミゥの言う通り、神社に入ってからの空気は、異様なぐらいに澄んでいるように感じる。
 まるで、山から湧き出たばかりの冷え切った清流のような空気だ。
「この辺り、空気に悪いものが無いからじゃないか?」
『それにしても、ここに来るまでの山道とは凄い違いですよー…… 隔絶されてる、って言ってもヘンじゃないぐらいです』
「ふ、む……」
 ひょっとすると、ピア達のようなファンタジーめいたものが、この世界にも実在するのかもしれない。
 人目を隠れるようにして存在する村に、隔絶されたような空気を持つ神社。
 俺が知らないだけで、この世界は彼女達のような存在で満ち溢れているのかもしれない。
 そんな事を考えて少しばかり感動に浸っていると、廊下を戻ってくる足音が耳に届いてきた。
「お待たせしました」
 声と同時に障子を開けて姿を現したのは、やはり先程の巫女さん。
 手に持っているお盆に、湯飲みが二つ載っている。
「冷たいのでよかったですか?」
「あ、ありがとうございます」
「いえ」
 笑って、湯飲みを卓袱台に並べる彼女。
 湯飲みの中には茶色のお茶がなみなみと注がれていて、氷が一つ浮いている。
 硝子のコップというものはないのかもしれない、と勝手に思って、いただきます、と湯飲みに口をつけ、半分ほど飲み干した。
 よく冷えた液体が喉に染みる。味はごく普通の麦茶だ。
「そう言えば、自己紹介が遅れましたね。私はこの神社の遣女、柳瀬と言います」
「遣女?」
 聞き覚えのない言葉に返すと、彼女は小さく笑って、
「一般の神社で言う巫女の事です。この神社は役職が少し違いますから。まあ、雑用担当ですね」
「なるほど…… あ、俺は――」
 自己紹介を返そうとした所、柳瀬さんは、あ、と声を上げて、
「自己紹介は結構です。ここのルールの一つで、自己紹介を聞いちゃいけない事になってるので」
「そんなルールがあるんですか?」
「はい。変わってますよね」
 そう苦笑する柳瀬さん。
 さて、と一拍置いて、話は本題に戻る。
「この村は何て言う名前なんですか?」
「名前、ですか。実は私もよく知らないんですよ」
 柳瀬さんが言うには、この村と神社は遣女の先輩の先輩のそのまた先輩から伝え聞くに、百年以上前から存在していて、村はその頃から完璧に無人だったらしい。
 二十人以上の遣女が交代で毎日欠かさずに掃除をして、今の状態に村を保ち続けているそうだ。
 村の名前は、遣女の間では色々と噂されているが、本当のところは分からないらしい。もっと上の役職の人なら知っているかもしれないが、聞くのは色々と憚られる、という事だった。
「何であの村を掃除し続けなきゃいけないのか、私にも分からないんですよ」
 と言う柳瀬さん。
 歴史的ナントカに指定されている訳でもなく、土地の権利すら誰が持っているのか分からない。
 ただひたすらに、この神社が自発的にやっている事らしい。
 ハードな仕事だが、お給金はいいとの事だった。
「なるほど、不思議な仕事ですね」
「友達にもいつも言われますよ」
 そう言って笑う柳瀬さんに、不審なところは全くない。
 少なくとも、嘘を吐いている様には見えなかった。
 話題はその内にこの神社についてのものになった。
 この神社は神代神社という名で、一般の神社とは様々な面で少々違う性格を持っている事。
 自然の神を祭っていて、御利益は「困り事の解決」らしい。まさしく、困った時の神頼み、というやつだろうか。
 そこそこ力はあるそうなのだが、
「場所が場所だけに、年に十人来れば多い方ですよ。一人も来なかった年もあったそうですし」
「でしょうね」
 その言葉には流石に頷いてしまう。
 こんな道路も通ってない山奥に来る現代人はそう多くないだろう。
 その十人というのも、殆ど現地の人の、それもごく一部に違いない。
「しかもですね、その十人というのも――」
 と、そこまで言い掛けて、柳瀬さんの言葉がまた止まった。
「電話ですか?」
「あ、そうです。済みません」
「いえ、お構いなく」
 やはり今回も携帯電話だったらしい。
 携帯電話を取った柳瀬さんは、画面を見て小さく眉を歪めると、電話に出た。
 そして再び、こちらからは要領を得ない会話が続く。
「はい、どうしましたか? はい、はい…… え? あ、はい、はい。分かりました」
 了承を最後に、柳瀬さんが電話を切る。
 そして一つ息を吐くと、実に申し訳なさそうにこちらに頭を下げた。
「済みません、少し急用が出来てしまったので、出て行かないといけなくなっちゃいました」
「あ、そうですか」
「湯飲みはそのままで結構ですから、一息ついたらお出になってください。では、失礼しますね」
 口早にそう言って、柳瀬さんは部屋を出て行った。
 急用なら仕方ないか、と俺は湯飲みに残ったお茶を飲み干し、一息吐く。
 時計を見ると、もう夕方が近くなっていた。
「じゃあ、そろそろ戻るか」
『そうですねー』
 ミゥの反応を確認し、俺は腰を上げる。
 と、不意に騒がしい足音が廊下の方から響いてきた。
 柳瀬さんか? と思って、障子に近付き――
 瞬間、障子が向こうから勢い良く開いて、同時に顔面に星が散った。
 一瞬に見えたのは、何か白いもの。
『……だ、大丈夫ですかー? ご主人様』
 なんとか、と心の中で答えて、何かとぶち当たった額を押さえる。
 程々に尖ったものが額に当たったような、丸い石が直撃したような、そんな痛みだ。
「っ、つうー……!」
 そんな声を上げるのは、俺と衝突して尻餅を付いている――白い少女。
 何が白いって、その格好だ。
 床に広がっている長い髪は脱色でもしたのか、銀に近い白。先程の柳瀬さんの物とは少しデザインが違う着物と袴も白。肌も病人のように青白い。
 歳の頃は……俺と同じか、少し若いぐらいだろうか。
 俺と同じように額の中央を押さえ、その目尻には涙が浮いている。
「だいじょ――」
 うぶか? と俺が言い掛けた瞬間、少女は目を閉じたまま勢い良く立ち上がって、
「誰だか知らないけどヨロシク!」
 と口にすると同時、俺の肩に手を掛けて――
 とん、と。
 俺の頭上を軽やかに飛び越えると、部屋の中にある押入れの中に飛び込んでしまった。
 あまりの事に唖然としていると、再び騒がしい足音。
 廊下に視線を戻すと、柳瀬さんが走ってこちらに向かってきていた。
「済みません! 誰かこちらに来ませんでしたか!?」
「え、あ、あっちに」
「ありがとうございます!」
 俺が反対側の廊下の奥を視線で示すと、柳瀬さんは大急ぎで俺の示した方向に走り去ってしまった。
 足音が徐々に小さくなってから、俺は一先ず障子を閉める。
 振り向くと押入れは開いていて、その前に先程の白い少女が立っていた。
「いやいや、本当に助かった助かった。捨てる神あれば拾う神ありとはまさにこの事だね」
 そう言って不敵に笑う異質な格好の少女は、まだ呆然としている俺に手を突き出して、
「いつまでもここにいられない。さ、出るよ」
 などと言って、更に俺を混乱させるのだった。


「――へえ、観光に、ねえ」
 境内の隅の方。
 蔵のような小さな建物の影で、俺と白い少女は座り込んでいた。
「こんな田舎、見るものなんて何もないでしょうに」
「いや、下の村は見ていて結構興味深かったよ」
「ああ、アレね」
 時折、境内を忙しなく駆けていく足音に声を潜めながらの会話。
 足音がこちらに向く事なく何処かへ去っていく度に、少女は面白くて堪らないとでも言いたげな笑みを浮かべる。
「……いいのか? 結構、必死に探してるみたいだが」
「いいの。どうせ退屈な仕事だろうし。私がいなくてもいずれ解決する」
「それを言ってしまえばいいんじゃないのか?」
「体面ってものがあるからね。私はそれが嫌い」
 初対面に関わらず敬語を使っていないのは、名も知らぬ彼女の要請によるものだ。
 お互いの名前も知らないのに、気楽に会話しているのは奇妙に思える。
 ましてや彼女は、俺がどんな顔をしているのかさえ分かっていないはずだ。
 彼女の両目。
 それは俺と衝突したあの時から閉じられたままで、一度も開いていない。
 盲目なのかどうなのかは分からないが、少なくとも彼女は俺の姿を一度も見ていないはずだ。
「そんな事より、外の話とかない?」
「外?」
「私、この田舎から外に出た事が殆ど無くてね。こんな場所があって、こんな建物があって、とか。ない?」
「ああ、そういう事か」
 彼女にそう乞われ、俺は思いつく限りの話を披露した。
 特に良い話でも何でもない、ただの都会事情や事件の話だったのだが、彼女はとても興味深げに話を聞いていた。
 本当にこの田舎から――彼女の肌色から察するに、ひょっとするとこの神社からも――出た事がないのだろう。
 凄い、とか、それは聞いた事がある、など、様々な反応で、一方的に話をしているだけなのに俺も楽しかった。
 ミゥも、俺の背中に隠れながら俺の話を楽しげに聞いていたようではある。
 ついに話題が尽きかけた辺りで、少女がふと、もうこんな時間か、と告げた。
 彼女が見たのは携帯電話の時計。
 俺も釣られて時計を確認すると、もうそろそろ帰らなければ夕食に支障が出る時間だった。
 日が暮れるのが遅いせいで気付きにくい。
「話、ありがとう。君達のお陰でいい退屈凌ぎになったよ」
「いや、こちらこそ」
 少女はそう言って、座りっ放しで曲がっていた背骨を伸ばすように一つ伸びをすると、
「そうだ、お礼にこれをあげよう」
 と、何処からともなく一枚の丸まった紙切れを手渡してきた。
 開くと、中には十一桁の番号が流れるような字で書かれていた。三、四、四で区切られている辺り、携帯の番号だろうか。
「これは、君の携帯?」
 確認の為に聞くと、彼女は一つ頷いて、
「そう。困った事があったら電話してみて。相談に乗ってあげる事ぐらいは出来るよ。ただし、一回きりだけど」
 と、小さな笑みで返してきた。
 まさに、話のお返し、という訳か。
「ありがとう。大切に取っておくよ」
「ふふ、じゃあね」
 唐突に別れを告げると、彼女は駆けて境内の奥に消えてしまった。
 その軽やかな動きは、とても目を開いていないとは思えない。
『……不思議な人でしたねー』
「そうだな」
 ミゥの声に応えて、俺も足を進める。
「さ、そろそろ帰るか」
『そうですねー。ふふ、帰ったらいっぱいお願いしますね、ご主人様ー』
「はいはい」
 門を抜け、石段を降りる。
 村に戻ると、大通りの向こうに六人の妖精達が集まっているのが見え、俺とミゥは小走りに駆け出したのだった。


 時間は流れて、夜。
 夕食を八人で談笑しながら終えた後の事。
「んー……」
 俺は壁際で腰を下ろし、昼にデジカメで撮ったデータを一枚ずつ見直していた。
 どれも、今の時代に撮ったとは思えない風景が写っている。ある意味貴重なデータだ。
「ふーむ……」
 ふと、視線を外す。
「ふふふ……」
「いや、だからだな……」
「え、ですからそれは――」
「――ち、違いますよ」
「怪しいのぅ」
「肯定」
 俺の目の前では、夕食の延長線上として六人の妖精によるアルコールの混じった座談会が続いていた。
 原因はシゥが藤田さんからビールの大瓶と洋酒をそれぞれ六本ずつ貰ってきた事で、俺の許可を得て始まったものだ。
 残量は半分ほどだろうか。誰も酔っ払っている気配はないが、ピアやネイ、ミゥは十分に顔が赤い。
 大丈夫だろうか、と思って見ていると、洋室の扉が開いて、ニニルが姿を現した。
 ニニルは六人をしばし見つめると眉を歪め、こちらに向かってくる。
「悠、少し騒がしいのですが」
「まあ、すまん。大目に見てやってくれないか」
 ニニルらしい文句に苦笑いして、再度デジカメに視線を戻す。
 彼女は談笑中の六人を大変不満げに睨むと、再び俺に視線を移して、
「……何を見ているのですか?」
 と、興味深げに聞いてきた。
 恐らく、村の風景が写っている画面に興味を惹かれたのだろう。
 ああ、俺は生返事を返し、
「昼に撮った、村の風景だよ」
 と、わざと焦点をずらして答えた。
「そうではなくて。その……」
 案の定、もどかしげに否定するニニル。
 俺は浮かんでくる笑いを必死に抑えながら、これか、とデジカメを示し、
「デジタルカメラって言って、カメラの高性能版、って言ったところかな」
「カメラは知っています。機械の一つで、風景を絵にして保存出来るのですよね?」
「そう。デジタルカメラ……略してデジカメは、より高性能、って言うのは少し語弊があるけど、撮った写真をその場で確認出来たり、ごく普通の一般家庭でもちょっとした機材さえあれば紙に出せる、便利なものだ」
「ふ、む……」
 そう頷くニニルの目は、酷く輝いている。
 まるで新しい玩具を目の前にした子供のようだ。
 ……恐らく、カメラを知っていても、実際に使った事がないのだろう。
 新聞記者としては、是非使ってみたい道具の一つに違いない。
「……悠、その」
「使ってみるか?」
 苦しげに絞り出したようなニニルの声に被せる形で、デジカメを提示する。
 すると彼女は驚きの表情を浮かべ、しかしすぐに嬉しさを隠し切れない顔で一つ頷いた。
「し、しかし…… いいのですか? 高いでしょうに」
「壊す気で使う訳じゃないだろう?」
「勿論です!」
「なら大丈夫だろ」
 忘れずにメモリーカードを空の物に差し替えてから、気兼ねなく使え、とニニルにデジカメを手渡す。
 彼女はまだ戸惑いの表情を浮かべながらも、しっかりと銀色の筐体を受け取った。
「君らには少し大きいかも知れないが、まあ使えなくはないだろう。使い方は――」
 ニニルの小さく華奢な手を取り、使い方について一分ほど講義する。
 触れた瞬間に叩かれるかと思ったが、そんな事はなく、素直に説明を聞いていてくれた。
 早く使いたくて、そんな事に構っていられなかった、という可能性もなくはないが。
「――と、まあこんな所だ。大丈夫か?」
「はい。ところで、その、いつまで借りていていいのでしょうか?」
「んー、まあ君の気が済むまででいい。好きな時に返してくれ」
「は、はい」
 デジカメを胸に抱き、瞳を輝かせながら洋室に戻ろうとして、
「――あ、ありがとうございます」
 と、礼を言うとほぼ同時に急いで洋室に引っ込んでしまうニニル。
 俺はそれを笑みと共に見送り――
「うー、ご主人様ー……」
 ぽす、とミゥが俺の胸の中に飛び込んできた。
 先程一瞥した時よりも更に酔いが進んでいるようで、顔が真っ赤だ。
「大丈夫か?」
「ふふふ、大丈夫ですよー……」
 撫でてやると、うふうふ笑いながら更にしな垂れかかってくるミゥ。
 七人の中では最も豊満な乳房と、昼に精を注いでまだ膨らんでいる下腹を押し付けてくる。
 どう見ても大丈夫じゃない。
「こら、ミゥ。駄目ですよ」
 と、いつもの調子で忠告してくれたのはピア。
 彼女もそこそこ顔は赤いが、酔いはさほどでも――
「大体なんですか。いつもいつも貴女ばっかり。卑怯ですよ」
 などと口走ると、ピアも俺の元に歩み寄ってきて、ミゥと俺の胸板を奪い合うように抱き付いてきた。
 ……前言撤回。かなり酔いが回っていらっしゃるようだ。
「むー、邪魔しないでくださいよー」
「貴女こそたまには何処かに行っていなさい。第一、今日は貴女が一番ご主人様にベタベタしていたではありませんか」
「まだ足りませんもんー……」
「私だって足りませんよ。あ、こら! 顔を埋めるのは私です!」
 そして俺の眼前で始まる口論。
 助けを求めて視線を回したが、シゥもヅィもネイも、こちらを見て笑ったり笑みを浮かべているだけで、助けてくれそうな気配はない。
 ノアに至っては我関せずとでも言いたげに、手持ちのグラスに新たにビールを注いでいる。
「あまり度が過ぎると、私にも考えがありますよ」
「むう、でもご主人様は渡しませんもん…… これからまた可愛がって貰うんですから」
「……貴女、まさか」
「ふふふー……」
 得意げな笑みを浮かべるミゥに、眉を歪めるピア。
 そろそろ雲行きが怪しい。止めるべきか。
 これ以上の放置は、俺の生命に危機を及ぼす可能性がある。性的な意味で。
「こら、二人とも。喧嘩はよせ」
「むー、だってピアがー……」
「しかし、この子が……」
「だってもしかしもない」
 苦笑しながら喧嘩を咎め、二人の頭に手を伸ばす。
 白の髪と緑の髪に触れると、いつもと同じ、心地よい感覚がある。
「はふー……」
「ん……」
 そうして撫でてやると、気持ち良さそうに声を漏らして途端に大人しくなる二人。
 まるで犬か猫だ。
「くふ、ミゥはそういう事に関しては上手じゃのう」
「上手というより、ピアが下手なだけのような気もしますが……」
「黙りなさいネイ。ご主人様に身体を捧げてない貴女には言われたくありません」
「あは、は……」
 痛烈な批判に苦笑いで応えるネイ。
 ある意味正当な主張だが、それにしたってあんまりな批判だ。
 俺は一つ息を吐くと、二人を抱いたまま腰を上げた。
「流石に、そろそろ寝かせてくる。随分と酔いが回ってるみたいだしな」
「あ、はい」
「くふ。ごゆっくりの、主」
「ん」
 ネイの苦笑い、ヅィの笑み、シゥの薄笑い、ノアの無表情に見送られて洋室に入る。
 扉を閉めると、向こうの喧騒はぴたりと聞こえなくなる。今日になってようやく気付いたのだが、洋室と和室の間の壁は完全防音になっているらしい。
 洋室では、早速というか何というか、ニニルがデジカメの画面に見入っていた。
「ニニル、ちょっと」
「……」
「ニニル?」
 反応がない。
 どうやらデジカメに夢中すぎて、俺が入ってきた事にも気付いていないようだ。
 本の虫ならぬ、写真の虫、と言ったところか。
「にーにーるー?」
「は、はい!?」
 近寄って背後から肩を突くと、流石に気付いたのか少々大袈裟な反応でこちらを振り向いた。
「ちょっと二人を寝かせるから、すまんが和室の方でやってくれ」
「え、あ、は、はい。分かりました」
 あんな騒がしい場所で? と文句が来るかと思ったが、意外に広げていた荷物を素直に片付け、そそくさと洋室を出ていくニニル。
 最後にちらとこちらを一瞥したので、申し訳ない意を込めて小さく礼をすると、何故か勢い良く扉を閉められてしまった。
 友好度は上がっている気がするのだが、人間嫌いの所為かやはり掴めない所が彼女にはあるようだ。
「ご主人様ー……」
「ご主人様……」
「はいはい」
 呟きながらすりすりと頬擦りしてくる二人の頭を撫でながら、一緒にベッドに横たわる。
 全く、人間でも妖精でも酔っ払いの相手が大変なのは変わらなさそうだ。
「酔ってませんよー……」
「はいはい」
 鋭いがしかし自分が見えていないミゥの指摘に適当に答えながら、頭を撫で続ける。
 二人してうふうふ心地良さそうに笑っているので、このまま続けたら多分寝てくれるだろう。
 ――勿論、この見通しは甘いとしか言いようがなかったのだが。
「ん…… ご主人様ぁ……」
 最初に動いたのは、やはりミゥ。
 もぞり、と俺に抱き付いている身体を動かしたかと思うと、唇を合わせてきた。
「んぅ……」
 そして直ぐに舌を差し込んでくる。
 心なしか、いつもより唾液と吐息が甘く感じる。
 そういえば、彼女達からは酔っ払い特有の酒臭さがしなかった。
 アルコールを摂取すると、体液や息がより甘くなる――これも妖精の体質なのだろうか。
「ん、ふ……」
「……あ!? こら! ミゥ、貴女は!」
 ようやくミゥの狼藉に気付いたピアが怒声を発する。
 しかしピアの事なんかお構いなしで、夢中になって口付けを貪るミゥ。
 そんな無視するかの様子に、くぬ、と怒りの唸りを上げたピアは――
「私だって――負けません!」
 そう声を上げると、俺の頬にその小さな唇を這わせ、舐めてきた。
「こ、こら、二人とも――んっ」
「ん、んぅ…… ちゅ、ん、はあ……」
「ん、ん、んっ……」
 反抗の声を上げるも、キス魔と化したミゥの唇が邪魔をして、すぐ声にならなくなってしまう。
 手を動かそうとしても、それぞれの手が二人の身体の下敷きになっている為に動かしづらい。
「ご主人様ぁ…… 好き…… んっ、ちゅ、ん」
「私も、大好きです……」
「っ、く、なら、頼むから一旦離れてくれ」
「ん…… ミゥが、離れたら、私も離れます」
「な……」
 比較的理性の残っているピアから説得しようとしたものの、そう言われては手詰まりだ。
 ミゥは一旦唇を離したものの、ピアと同様に俺の頬や顎周りを舐め回すばかりで、一向に離れそうな気配がない。
「ほらミゥ、ピアもああ言ってるから……」
「ん…… ご主人様が、いっぱい可愛がってくれたらー、考えます……」
「……」
 予想通りの回答に、思わず閉口する。
 もう解決策は一つ。二人を同時に満足させる以外にないだろう。
 3Pというのは流石に初めてだが、やるしかない。
 俺はそう決意を込めると、分かったよ、と了承の返事をした。
「じゃあ、二人で舐めてくれるか」
「ふふ…… はあい」
「わ、分かりました」
 何を、とは聞かない返事と共に、ミゥが率先して俺のジーンズを脱がしに掛かる。
 やや遅れてピアが参加し、二人でジーンズを下ろし、トランクスを引っ張って――
「んー…… まだ完全におっきくないですねー」
「そう、ですね……」
 露出した半勃ちのモノをまじまじと見つめ、言葉を交わす二人。
 さて、どうくるか、と思った傍から、ミゥがモノの先端に手を伸ばし、棒状のお菓子か何かでも食べるかのように躊躇いなく咥えた。
「はむ、ん、ちゅ」
「あ、ミゥ!」
「んむ、ん…… ふふ、早い者勝ちですよー。あ、む」
 まだ柔らかい亀頭を、小さな口の中に押し込むようにして頬張るミゥ。
 小さな舌が伸びてきて、カリを撫でるように絡み付いてくると、背筋を走るような快感がある。
「ん、ん、ふふ、ほっひくなて、ひまひた……」
「こら、咥えながら喋るな」
「ふふ、ふぁい…… ちゅ、ん、んっ……」
「く…… もうっ!」
 口惜しげな唸りの後、ピアも行動に出た。
 ミゥが咥えているその下、幹を横から咥えて、舌を這わしてくる。
 知ってやっているのかあるいは知らずか、小さな手は袋に添えられていて、それがまた心地よい。
「ん、ふ、んっ、ちゅ、ん、ん、ちゅ……」
「んっ、んっ、ん……」
 俺のモノを奪い合うように、見目麗しい妖精の少女が二人で必死に舌を這わしている。
 その目線は上目遣いに俺を見ていて、そこにある奉仕の色が俺の支配欲を刺激してくる。
 俺は空いている手を緑髪と白髪の頭に伸ばし、撫でる事で行為を続けるよう促した。
「ん、ご主人様、気持ちいいですか……?」
「ああ、いいよ」
 ピアの問いに答えると、微笑みが返ってくる。
 それに頭を撫でて返してやると、今度は舌の奉仕が少し激しくなった。
 ミゥは亀頭とカリ全体を舐め、時折吸い付くように頬で撫でてくる。
 ピアは竿を上から下へ、下から上へと往復しながら、全体をくまなく舐め上げている。
 そんな隙のない奉仕に、俺の射精感はあっという間に高まっていく。
「っ、出る」
「んッ……!」
 絞り出すように呟いた俺の声に応じるかのように、ミゥが亀頭を深く飲み込んだ。
 亀頭全体を柔らかい肉が包んだ感触があって、それが引き金を引く。
 彼女の喉に直接注ぎ込むように、俺は射精した。
「く……」
「ん、んっ、んっ、んっ……」
 どく、どく、どく、という脈動に合わせて、こく、こく、こく、とミゥの喉が鳴る。
 僅か三秒ほどの間に大量の精液を彼女の胃に送り込んで、脈動は止まった。
「ん……」
 上目遣いに、ミゥがモノを一杯に咥えたまま、困ったような顔をする。
「……どうしたのですか?」
「んー……」
 ピアが聞くも、ミゥは答えずに、ただ困った表情を見せるばかり。
「……まさか」
 そこでふと何に困っているのか気付いて、俺は深呼吸を繰り返した。
 やがてミゥの口一杯に入っているモノがやや萎え、柔らかくなる。
 それを待っていたように、ミゥが、ぷは、とモノを吐き出した。
 恐らく、柔らかい時に無理に口の中に押し込んだ所為で、完全に勃起した後で抜けない事が分かったのだろう。
「はー、抜けなくて。ありがとうございます」
「全く。欲を張るからです」
「むー、だってご主人様の精液、美味しいんですもん」
「それには同意しますが…… 貴女、お腹も膨らんでいるでしょう。昼にも、その、あそこに直接頂いたのではありませんか? ……全く、私にも少し分けなさい」
「ふふー」
 ピアの向ける非難の視線に、笑って答えるミゥ。
 それに、む、と更に非難の視線を強くしたピアは、俺に向き直って、
「ご主人様、私にもお願いします!」
 と言うが早いが、俺の返事も待たずに半萎えのモノを咥え始めた。
「お、おい」
「ん、ちゅ、ん、んっ」
「ふふ、じゃあ今度はボクが……」
 亀頭を小さく咥えたピアの代わりに、今度はミゥが竿を舐め始める。
 緩やかな心地よい刺激に、俺のモノはたちまちに固さを取り戻していく。
「ふふ、またおっきくなってきました」
「ん……」
 ピアはミゥのように深く飲み込む事はせず、亀頭の先端を口に含み、カリを指先で撫でてくる。
 舌による愛撫も、ミゥのように激しくはなく、丁寧な動きだ。
 全体を舐めた後、尿道口を割るように舌を這わせてくる。
「く……」
「ん、ふ、ご主人様、我慢せずに、出してくださいね」
「ふふ、我慢はよくないですよー……」
 精が昇ってくる感覚に声を上げた途端、そう言われて攻め立てが強くなる。
 出して間もないというのに、すぐに二回目の感覚が来た。
「っ…… 出る、ぞ」
「はい、ん……っ!」
 ピアが答え、亀頭に一際強く吸い付いてくる。
 その刺激を引き金に、俺は二度目の射精を開始した。
「ん、んっ、ん……」
 どく、どく、という脈動に合わせ、精液を吸い取るピア。
 すぐに飲み込まず、口の中に精液を溜めているのだろうか。頬が膨らんでいる。
 ハムスターみたいだ、などと馬鹿な事を思いつつ、射精を終える。
「っ、ぷは」
 モノを慎重に口から抜き取ると、口許に手を当てて少し上を向くピア。
 しばしの後、こちらの耳にもよく響くぐらいに、ごくり、という音を立てて、一気に飲み干した。
「っ、ふ…… ごちそうさまでした、ご主人様。美味しかったです」
「そんな旨いもんじゃないだろうに」
「いえ、本当に美味しいですよ。甘くて。ちょっと甘すぎる気もしますが……」
「ふふ」
 精液が甘いはずはないのだが、彼女達が嘘を言っているようには見えない。
 これも彼女達独特のファンタジーの一つなのだろうか。
「では、ご主人様。そろそろ……」
「ご主人様ぁ……」
 二人は俺に期待の眼差しを向けてくる。
 言いたい事は分かる。しかしこの状況で、どちらを先に相手したものか。
 そう俺が悩んでいると、やはりミゥが先に行動を起こした。
「もう、待ち切れません……」
 そう焦れったそうに言うと、裾を上げ、足元に緑のショーツを落とした。
 そしてこちらに背を向けると、尻を突き上げるようにして上体を倒し、こちらに陰部を見せ付けるような体勢を取ってきた。
「ほら、もうこんなになってるんですから……」
 太腿の隙間からミゥの指が伸び、自身の割れ目を割り開く。
 にち、と水っぽい音と同時、鮮やかな桃色の内部が姿を見せ、そこから、とろり、と愛液が滴って、ベッドに落ちた。
「濡れすぎだろう」
「ふふ…… ご主人様の咥えてたら、こんなになっちゃいましてー…… だから、ここに、早く……」
 そんなミゥの挑発行為に、今のピアも黙ってはいなかった。
 しばし呆然とミゥの挑発行為を見ていたかと思うと、く、と口惜しげな声を上げて、同様に裾を上げると、白のショーツを落として、こちらに尻を向けてきた。
「ご主人様、わ、私も……」
「む…… 私が先ですよー? 邪魔しないで下さい」
「す、少しは遠慮というものを知りなさい。それに、最後に選ぶのはご主人様です」
「あ、言いましたねー?」
 互いに扇情的な格好で敵対的な視線を散らすと、俺に見せ付けるようにより尻を突き出して、二人は言った。
「ご主人様、どうか私を先にお召し上がり下さい」
「ご主人様、ぜびボクを先に犯してください」
「む……」
 白と緑のガーターベルトに包まれた二つの可愛いお尻が、俺の眼前でゆらゆらと揺れる。
 どちらの縦筋も愛液に濡れているのがはっきりと分かり、準備は万端のようだ。
「んー……」
 そのまましばし眺めていると、彼女達の背中にある翅が時折ぴくりと震え、縦筋からとろりと愛液が零れた。
 勝負の為とはいえ、流石にピアもミゥも恥ずかしいのだろう。
 ここからでは見えないが、二人の顔が酒の酔いも相まって真っ赤になっているのが予想できる。
「うーん、じゃあ――」
 俺はしばし悩んで、左――ピアのお尻に触れた。
「あっ……!」
 途端、嬉しそうな声が零れ、背中の翅が震える。
「ピアを先に頂こうかな」
「えー……」
「あ、ありがとうございます、ご主人様!」
 口惜しげな顔を浮かべるミゥに、ふふん、とピアが勝ち誇った顔をする。
 そんなやり取りに苦笑しながら、俺はピアを抱き寄せ、服を脱がしに掛かった。
「ご主人様、愛してます……」
 服を脱がされながら、儚げにピアが呟く。
 俺もだよ、と答えながら、ガーターベルトとソックスだけの姿になったピアを抱き抱え、対面座位で彼女の縦筋に俺のモノを突き立てた。
「っ、あ、あ、あああ、あああぁぁぁ……!」
 ずぶずぶ、と彼女の胎にモノが沈み込むのに合わせて、ピアが尾を引く嬌声を上げる。
 俺の胴に回された腕と足に強い力が込められ、彼女が十分に感じているのが分かった。
「あ、っあ、あッ……!」
 先端が彼女の最奥まで沈み、柔らかく受け止める感覚と同時、ぎちりと胎が締まった。
 早くも一回目の絶頂。
 荒い息を吐きながら、ピアが俺の胸板に頬をすり寄せてくる。
「ご、しゅじ、さま……」
「大丈夫か?」
「は、い…… どうぞ、動いてくださっ、あ、あっ、ひっ!」
 彼女の答えを最後まで待たずに、モノを軽く前後させる。
 悪いが、ピアにあまり時間を掛ける事は出来ない。
 早めにミゥを一度は抱かないと、後が怖すぎる。
「いいなー…… ピア、すごく気持ち良さそうですねー……」
 指を咥え、物欲しそうな顔で俺とピアの交わりを観察し続けるミゥ。
 彼女に見られているという事を振り払うように、腰を動かしていく。
「あ、あっ、あッ、ひっ、んっ、ごしゅ、じ、さまッ、はげしっ…… は、ひ、あッ!」
 間髪入れずに、二度目の絶頂。
 しかしぎちりと締め付ける肉を割り開くように、更に腰を前後させる。
「ひ、あ、ごしゅ、さまッ、イっ、あ、いった、ばかり、ですからッ、あ、あッ、あーッ、あーッ!」
 ある一点を超えたところで、ピアの身体が痙攣しているように断続的に震える。
 あまりの快感に、イきっぱなしになっているのだろう。
 視線は虚ろで、その癖腕と足は痛いほどに俺を捕まえてきている。
「っ、出す、ぞ」
「っあ、はいっ、出して、ごしゅじ、さまの、せーえき、注いでッ……!」
 ぎちぎちと締め付けっぱなしになっているピアの胎内で、モノが脈動に震える。
 最奥に押し付けられたモノの先端から精液が噴き出して、彼女の小さな子宮口に一滴余さず流れ込んでいく。
「あっ、あッ、あッ……! せーえき、凄いッ……!」
 どく、どく、という脈動に合わせて、ピアの下腹が膨らんでいく。
 その最中にも何度か達しているようで、俺の胸板に顔を押し付けながら、余韻に震えるように小さな喘ぎを漏らしていた。
「っ…… すごい、ですねー」
「っ、あ、ミゥ?」
 気付けば、いつの間にか傍にミゥが寄ってきていた。
 まじまじと俺とピアの接合部を見つめ、それからピアの下腹に視線を移し、
「ピアのお腹、こんなに膨れちゃって…… この中に、ご主人様の精液が、詰まってるんですねー……」
「あ、や、ミゥ、あまり見ないで……」
「それに、ピアのあそこもこんなに広がって…… ボクのも、ご主人様に犯されたら、こんな風になってるんですね」
「や、ぁ……」
 恥ずかしいのか、顔を背けるピア。
 ミゥはそんなピアを、ふふ、と笑い、言葉で彼女を攻め立てる。
「恥ずかしがる事ないですよー…… とっても綺麗です。それに、ご主人様のおちんちんに犯されてイってるピア、凄く可愛かったです」
「っ……!」
「お尻の穴もこんなひくひくさせて…… んー…… 本当に、羨ましいです」
「そんな、汚いところ……!」
「あら、こっちはまだでしたかー? ふふ、とっくにご主人様に犯されてると思ってました」
「え……? っ、あっ!?」
 疑問の声を上げるピアに、ミゥは彼女の菊門に触れて言葉を中断させる。
 その反応に、ふふ、と妖しげな笑いを漏らして、ミゥは言った。
「ささ、ご主人様。次はボクを犯してください」
「ああ、分かった。さあ、ピア。いいか?」
 ピアに離れるよう問うが、彼女は俺の胸に顔を埋めて返事をしない。
 仕方なくピアの腰を掴んで放そうとすると、抵抗するように腕と足に力が込められた。
「ピア、君は五人のリーダーだろ? その君が約束を守らないでどうする」
「う……」
「ほら」
「……はい」
 ピアが腕と足による拘束を緩めると同時、ず、と彼女の胎内からモノが抜けていく。
 しかしそれでも、モノに名残惜しげに絡み付いてくる秘肉が、最後の抵抗とばかりにぎちりと締め付け、快感を与えてくる。
 少しばかり時間を掛けてピアの胎内からモノを抜き取った時には、射精で失った硬さの殆どを取り戻していた。
「は、あ……」
 息を吐いて、ピアの身体がベッドに倒れる。
 モノを抜いた縦筋は変わらずぴたりと閉じられていて、しかし犯された事を示すように白く濁った愛液の涎を垂らしていた。
 そんな彼女の姿を見て、ミゥが笑みを漏らす。
「ふふ、ピアったら、可愛いんですから…… ね、ご主人様」
「ああ」
「っ……!」
 答えると、俺とミゥから見られていた事に気付いたのか、恥ずかしげに身体を捩って涎を垂らす縦筋と膨らんだ下腹を隠すピア。
 その様子にミゥは更に笑みを強めて、俺に向き直る。
「じゃあご主人様、お願いします」
「どうするのがいい?」
「んー…… じゃあ、後ろからで」
「なら、四つん這いになって」
「はあい」
 後背位を自ら選択すると、指示通りに屈託なく四つん這いになるミゥ。
 彼女はこの体位が好きなのか、自分から言い出す時は大抵これだ。
「は、あ…… ご主人様、早くボクを犯して……」
 裾を上げ、露になった尻の谷間にモノを擦り付けてやると、たまらないように懇願してくるミゥ。
 彼女の淫靡さに笑みを浮かべながら、俺は尻の下に息づく菊門と縦筋を選ぶようにモノを突き付け、ややあって一息に縦筋を割り開いた。
「は、あっ、あああああぁぁぁっ……!」
 挿入に従って、眼下にあるミゥの背中から生える翅がびくびくと震え、魂が抜けていくような快感の吐息を漏らす彼女。
 三分の二ほど進んだところで最奥に突き当たる。最後に、ひんっ、と鼻に掛かった喘ぎを漏らして、喘ぎが止まった。
「ああ…… ご主人様の、おっきいですねー……」
「ミゥも相変わらず、いい締りだぞ」
「ふ、ふ…… ありがとう、ございますー……」
 彼女の最奥にモノを押し当てたまま、少し動きを止める。
 すぐに、もっと動いて、と言ってくるかと思ったが、膨らんでいる下腹を撫でて心地よさげな吐息を漏らしている辺り、満更でもないようだ。
 肉付きのよい尻を撫でたり、ふるふると震える翅に触れたり、服越しに豊満な乳房に触れてやると、その吐息が強くなる。
「んー…… 今日はご主人様、優しいですねー」
「激しい方が良かったか?」
「……はいー。無理やりなぐらいが、ボクは一番感じちゃうかもです」
 マゾヒスト宣言に等しい言葉を、恥じらいながらもミゥは素直に口にする。
「それは……薬の所為か?」
「ん、最近は、ちょっと違うかもです…… ご主人様が、無理やりにでもボクを犯してくれるって事は、それだけボクが欲しいって事で…… 勝手ですけど、そう思うと、とっても嬉しくて」
 本当に幸せそうに、ミゥは言う。
「ふふ、本当ですよー……? ボクに、きっと、これ以上の幸せなんて、ないと思います」
「そんな事ないさ」
「えへへ…… これだけ幸せだと、逆に落ちた時の事を考えると、どうにかなりそうになっちゃいます」
 そう呟くミゥの声に、僅かな影が混じる。
 彼女のそんな声を耳にしたくなくて、俺はゆるゆると腰を動かし始めた。
「んっ、あ…… はあ…… ご主人様、もっと、強く……」
「ああ」
「あ、っあ、あ、あん、あ、あ、あうッ、あ、あッ、あッ、は、あ……!」
 小刻みに最奥を叩くのに合わせて、断続的な喘ぎを上げるミゥ。
 徐々に声は高くなり、最初の絶頂が近付いているのが分かる。
「あッ、あ、あ、う、ごしゅ、じ、さまっ、あう、い、イきますっ…… あ、うあッ!?」
 宣言に合わせて、最奥をぐちゅりと抉ってやる。
 瞬間、一際甲高い悲鳴を上げて、大きくミゥの身体が震えた。
 達した証拠を示すように、狭い胎が更にぎちりと締まる。
 しかしそこで止めずに、更に腰を引いて、打ち付けた。
「ああッ!? あッ、あッ、あ、ひ、あ、あッ、あうッ!」
 声のトーンが高くなったまま、断続的な悲鳴に移行する。連続でイき続けているのだろう。
 ぎちぎち、と万力のように胎が締まるが、それ以上に溢れ出す愛液がモノの動きを助けてくれる。
 得られるのは、凄まじい快感。
「っ、く、出すぞ!」
「あっ、あ、あッ、あッ、あッ、あッ、あ、あ、あああああぁぁぁっ!」
 ミゥが激しく喘ぐ中、射精が始まる。
 どく、どく、どく、と彼女の胎へと精液を注ぎ、昼の分に加えて、更にその下腹を膨らませていく。
「あう、あ、あ、ふ…… ふふ、いっぱい……」
 俺が射精の為に動きを止めた事で快感が落ち着いたミゥは、ゆっくり膨らんでいく下腹を撫で、幸せそうに吐息を漏らす。
 射精が終わって俺が一息吐くと、見計らったように彼女の方からぐちりと腰が動いた。
「ご主人様、もっとー……」
「はいはい」
 ミゥに急かされて、ゆるゆると腰の動きを再開する。
「あ、っあ、あう…… ふふ、お腹が、たぷたぷいってますー……」
 俺のモノによる圧迫と二回分の精液で、ミゥの下腹は妊婦のようにぽこりと膨らんでしまっている。
 これが彼女達の力の源になると思うと、何だか不思議な気分だ。
 あまり多いと、逆に動きの邪魔になりそうだが。
「んっ、あ、あう、うん、っ、あ、あ、う……」
 モノの動きに合わせるように、ミゥの背中の翅が小刻みに揺れる。
 普通の人間にはない、見ていて少し楽しい光景だ。
「……っ、は、あ」
 と、不意にピアがこちらを見ている事に気付いた。
 少しばかりは体力が回復したのか、ベッドに座って、じっとミゥの痴態を見つめている。
「ん、ふ、う…… ん……」
 その両の手は自分の乳房と縦筋に添えられ、ゆっくりと揉み、あるいは指を差し入れている。
 艶かしい吐息は、その所為だ。
「……ピア、また欲しい?」
「っ、は、はい」
 自慰を止めずに答えるピア。
 そんな彼女の格好に、ミゥが笑いの吐息を漏らす。
「っ、あ、ふ、勿体、ない、っあ、ですね、んっ、自分で、治めちゃう、なんて…… あ、あっ」
「ふ、ん…… そんな、羨ましい格好で言っても、説得力がないですよ」
 言うと、ベッドの上を身体を引きずりながら、ピアがミゥに寄ってくる。
 手を伸ばし、その膨らんだ下腹を愛おしそうに撫で、
「こんなに、膨らませて…… 蹴飛ばして、あげたいぐらいです」
 と、願望を漏らすように呟いた。
「あ、あっ、そ、それは、駄目ですよー? っ、あ、あう、あッ」
「分かってますよ…… 憎たらしいですけど、そんな事したら、ご主人様の精液が勿体無いですから」
 しかし直後に、あ、でも、と続ける。
「貴女のあそこに口をつけてから押せば、無駄になる事も無いかしら? ふふ、ご主人様の精液保管庫なんて、貴女に相応しいかも知れませんね?」
「っ、う……」
 ピアのそんな言葉に恐怖を感じたのか、快感のものとは違う震えがミゥの身体に走る。
 俺は小さく苦笑して、ピアに、おいおい、と声を掛けた。
「あまり怖がらせるなよ?」
「だってご主人様、この子、これでもちょっと嬉しそうですよ? 本当に精液保管庫として扱ってあげてもいいんじゃないでしょうか?」
「ご主人様に使われるなら、いいかなー……」
「ほら」
 サディスティックな笑みと共に、ミゥのお腹を撫で続けるピア。
 いやはや、自分にも経験があるから分かるが、アルコールというのは本当に恐ろしい。
「あ、あ、あっ…… ご主人様、そろそろ、イきそ、です」
「分かった」
 ややあって控えめに主張するミゥ。
 俺も、もう一度彼女の胎に精液を注ぐ為に、腰の動きを早めていく。
「あう、あ、あ、あ、あっ、あっ、あ、く、んっ、あ、あッ、あッ、あ、あー……!」
 最後は、小さいながらも長い絶頂だった。
 ぶるぶると震えるミゥの中に、俺も精液を吐き出す。
「あ…… ご主人様のが、注がれてるのが分かりますね…… 羨ましい」
 ミゥの下腹を撫でるピアが、ぽつりと漏らす。
 それに応えるようにミゥが、ふふ、と笑う。
「ご主人様の、精液で、お腹いっぱいですー…… ちょっと苦しいけど、あったかくて、もう……」
「少し押してあげましょうか?」
「駄目ですってばー……」
「冗談です。さ、次は私ですよ」
「はぁい……」
 ん、とミゥが自ら身体を動かし、モノを抜いていく。
 多量の愛液と共にモノが抜け落ち、不意に、その元の佇まいを取り戻した縦筋から、白いものが零れた。
「あ、勿体無い……」
 零れ出す感覚が分かったのか、咄嗟にミゥは縦筋を手で隠すように覆い、彼女のお腹に入り切らずに零れた精液を拭い取った。
 そして白く汚れた手を口許に運び、一指ずつ丁寧に舐め取っていく。
「ふふ、おいしーです」
「……さ、ご主人様。次はもう一回私に」
 その光景を眺めて、少し怒ったような口調で俺にもう一度と詰め寄ってくるピア。
 このままでは永久に二人の繰り返しで終わりそうにない。
 俺はひとまず苦笑いで誤魔化すと、そうだな、と少し考え、一度やってみたかったアレを試してみる事にした。
「じゃあピア、ミゥの上になって」
「え? どういう事ですか?」
「ミゥが仰向けに寝て、その上にピアが、って言えば分かるか?」
「は、はい。ミゥ」
「んー、分かりました」
 二人は頭に疑問符を浮かべつつも、俺の指示通りに重なり合う。
 ミゥが仰向けになり、その上に抱き付くようにピアが重なる。
「ん、あまりお腹、押さないで下さいねー?」
「分かっていますよ。それにしても、膨らみすぎです」
「んー…… こんな感じですか? ご主人様ー」
 ミゥの問いに、ああ、と答える。
 俺の眼前には、上を向いたピアの尻と、そこに息づく菊門、縦筋、その下にあるミゥの縦筋、菊門の全てが曝されている。
「よく見えてる。いい感じだ、興奮する」
「っ、あまり恥ずかしい事を言わないで下さい……」
「うー……」
「悪い悪い。じゃあ、挿れるぞ」
 まずはピア。
 縦筋に押し付け、彼女が、ふ、と吐息を漏らした瞬間に、挿入を開始する。
「っ、あぁ……!」
「わ…… 今のピアの顔、凄く可愛かったです」
「う、うるさ――っ、あ、あっ、ごしゅ、っあッ!?」
 会話を妨害するように、小刻みに前後させる。
 俺のモノを咥え込んだピアの縦筋から愛液が垂れ、ミゥの縦筋や菊門を伝って流れていくのが見える。
「っく、あ、あ、は、ひ、あっ、あ、あ……!」
「っ……」
 ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえた気がした。
 目の前で、旧知の友人が性に乱れているというのは、どういう気分なのだろうか。
 そう思うと俺も興奮してきて、更に腰の動きを早くしていく。
「あ、あ、あっ、あっ、あ、は、あ、はッ、あ、あッ、あッ、ああ……!」
「あ、や、ピア、胸を、あんまり…… あ、っ、あそこが……!」
 最奥を突く振動で、ピアとミゥの身体が擦れ合う。
 ミゥの縦筋が、俺のモノを咥え込むピアの縦筋に押されて割り開かれ、中に隠れた淫核が露になっている。
 そこに空いた手で触れてやると、ミゥの身体もびくりと震えた。
「あ、や、あ、あっ、あッ、あ、あッ、あッ、あ、あ、あ……!」
「ん、あ、あう、あ、あ、あっ、あん、っあ、あふ……!」
 二人の嬌声が交じり合って響く。
 しかし、ピアの方がモノで直接刺激を受けている所為か、やや声が高い。
 俺は頃合を見計らって、一息にピアの中からモノを抜き取った。
「っ、は…… え?」
「ほら、次はミゥだ」
「う……? あ、うあんっ!?」
 ずぶ、と一息にモノを沈めると、素っ頓狂な声を上げて喘ぐミゥ。
 そのまま、先程と同じペースでこつこつと彼女の最奥を突いていく。
「あ、あうっ、あ、あ、あっ、あッ、あ、あううぅっ!」
「ご、ご主人様……?」
 達する手前でモノを抜かれたピアは、不安と不満を足して割ったような顔をしている。
 それを宥めるように、代わりとばかりに指を彼女の縦筋へ沈める。
「あ、あう……」
「ほら、もう一度欲しかったら、ミゥを手伝ってやれ」
「は、はい……」
 俺にそう言われて、ピアは眼前で乱れるミゥを見つめる。
「っ、ミゥ…… こんなに、乱れて……」
 どうするのかと見ていると、ピアは片手でミゥの頭を抱き上げて、口付けを交わした。
「ふ、う、ん、んー……! んっ、ん、ちゅ、ん……!」
 最初は唇を軽く重ねただけだったのに、すぐに舌が入り混じる激しい口付けに変わる。
 見目麗しい少女同士のキスというのは初めて見たが、ある種の美しさがある光景だ。
 やがてピアはもう片方の手でミゥの乳房を揉み始め、口付けの向こうから聞こえるミゥの声ならぬ声の調子が、僅かに変わる。
「んっ、ふ、ふぅ、ん、ちゅ、ん、んっ、んッ、んッ、うんッ……!」
 俺が突き入れるリズムに合わせて、ピアもミゥの乳房や口内を攻め立てているようだ。
 そんな様子に俺は深い笑みを浮かべて、最後に強く一突きしてからミゥの胎からモノを抜き取った。
「ひ、あ……!?」
「ほら、お待たせ……っ!」
「っ、ひうっ!?」
 もう一度、ピアの縦筋を割り開いて突き立て、そのまま最奥を突いていく。
「は、あ、あ、あ、あっ、あ、ひ、あ、ひっ、あ、あっ、あッ、あッ、あッ!」
 素っ頓狂な悲鳴に続いて断続的な嬌声が上がる。
 抜き取ったミゥの縦筋には、人差し指と中指を添えて挿入し、最奥を探り当ててぐりぐりと弄ってやる。
「あ、あっ、あっ、あッ、あッ、あッ!」
「あ、あう、あ、は、あう、あ、あっ、あん!」
 二人の嬌声が響く。
 俺から与える刺激だけでなく、二人はお互いに乳房を揉み合い、嬌声の合間に相手の頬を舐め合っている。
 これで少しはこういう事でも仲良くなってくれればいいのだが、と思いつつ、そろそろか、と頃合を見計らう。
 何度も射精して気だるいとはいえ、二人の身体が与えてくる快感は強い。
 いい加減、限界だ。
「っく……! いく、ぞ!」
「あっ、あ、あッ、ご、しゅ、ご、しゅじ、さまッ……!」
 二人が同時に俺を呼ぶ。
 それに合わせて、俺はピアの中に射精を開始した。
 どく、どく、と脈動が脳に響く。
 流石に短時間に六回の射精というのは、酷使し過ぎのような気がする。
 それでも俺のモノは、多量の精液をピアの胎内に注ぎ込んだ。
「あ、は、ごしゅじん、さま……」
 蕩けた声でピアが呟く。
 二人は重なったままで、絶頂の荒い息を吐いていた。
 今の隙にと、俺はピアからモノを、ミゥから指を抜き取る。
 抜き取った瞬間、多量の愛液がピアとミゥの縦筋から零れ――
「あ、ふ……」
 と緩やかな吐息の音が聞こえると共に、小さな二つの水音が響きだした。
「う、お……!?」
 音源は、二人の股間。
 何と、二人揃って小水のお漏らしをし始めたのだ。
「は、あ、う……」
「はぁ……」
 二人は穏やかな吐息を吐くばかりで、粗相を止めようとする気配すらない。
 そう、俺は二人が酔っ払いだという事をすっかり忘れて、イかせ過ぎてしまったのだ。
「……」
 そのまますやすやと寝に入る二人を見届けて、俺は天を仰ぐ。
 酔いが覚めて、この事を覚えていたら酷い事になるだろうなと、確信を持って思うのだった。

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