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フィフニルの妖精達01「この妖精達、求職中(?)につき」

 それは、ある夏の朝の事だった。
「行ってきまーす、っと」
 いつものように誰もいない我が部屋に小さく声を掛けてから、俺は玄関のドアノブに手を掛けた。
 扉を開くと、やや蒸し暑い空気が身体を撫でる。
 僅かばかりの気だるさを覚えながら、俺は玄関を潜った。
「――あら、お出掛け?」
 不意に聞き覚えのある声がして、俺はそちらの方向を振り返った。
「あ、夏美さん。おはようございます」
「おはよう。こんな休日の朝早くから何処へ行くの?」
 そう訊いてくる、妙齢の女性。
 腰まである長い黒髪を首元で束ね、整った顔には柔らかい表情と少しばかりの汗が浮かんでいる。
「ちょっと学校へ忘れ物を取りに」
「朝から大変ね」
「まぁ、自業自得ですけどね」
 瀬川・夏美。俺の住んでいるマンションのオーナーであり、管理人でもある頼れるお姉さん。
 両親が長期不在の関係で幼い頃から面倒を見てもらっている俺にとっては、実の姉のような存在だ。
「夏美さんも朝早くからご苦労様です」
 その手に握られている箒と塵取りを見て、労いの声を掛ける。
 すると夏美さんは小さく笑って、
「ゆーくんが手伝ってくれたら嬉しいんだけど、後でどう?」
「……時間があったらお手伝いします。じゃあ、また後で」
 俺は苦笑いを返し、夏美さんに別れを告げた。
 エレベーターに乗り、早々に一階へと下りる。
 脳裏に蘇るのは、数年前に初めて夏美さんの掃除を手伝った時の事。
 二十階建てのマンションを箒と塵取り一つで掃除するなど、俺には無理だ。
 昔を懐かしんでいると、小気味よい音と共にエレベーターの扉が開いた。
 さて、さっさと学校に行って忘れ物を取ってくるか――


 ――半時間ほど掛けて学校で忘れ物を回収し、俺はマンションに戻ってきた。
 道中、空は憎たらしいほどの晴天で、これからどんどん暑くなってくるのだろうという事を容易に予感させた。
 こういう休日はクーラーの効いた部屋の中に篭ってぐーたらするに限る。
 そう決めた俺は早々に我が部屋に入ろうと、己を急がせた。
 駐輪場に自転車を止め、マンションの扉を開け、通路を進んでエレベーターに――
「……なんだ、アレ」
 エレベーター前の通路で、思わず俺は立ち尽くしていた。
 エレベーターの扉の前に、一抱えほどもある段ボール箱が鎮座していたからだ。
「こんなところに置くか、普通……」
 ぼやきながら怪しげな段ボール箱に歩み寄る。
 高さ、幅、共に80cmはあるだろうか。邪魔でしょうがない。
「全くもう…… ん?」
 退けてやろうと仕方なく腰を落とした所で、段ボール箱の横に書かれた文字が目に入った。
 そこには、かなり下手くそな文字で、
『拾ってください』
 と、確かにそう書かれていた。
「……」
 なんだか呆れて物が言えなくなり、段ボール箱を持ち上げる。
 大きさの割には意外と軽く、容易に持ち上げる事が出来た。
 そのまま、扉の脇へと投げ落として――
「――いたっ!」
「――!?」
 今、何か悲鳴が聞こえたような。
 悲鳴の元――自分が乱暴に投げ落とした段ボール箱を睨む。
 悲鳴を上げた段ボール箱は、少しだけ左右に自律振動した後、ぴたりと沈黙した。
 なんとも言えない、ある種気まずい空気のような物が流れる。
「……おい」
「……」
 語気を強めた声を掛ける。
 どうせ子供が変わった遊びでもやってるんだろうと思いつつ。
「遊ぶのはいいけどな、もう少し別の場所でやってくれ」
「……」
 箱は微動だにしない。
 ふぅ、と俺は息を吐き、放っておく事にした。
 エレベーターに乗り、十八階のボタンを押す。
 最近は変わった遊びを思いつく子供がいるものだ。
「子供の頃、やった事あるよ、か……」
 色あせた記憶だ、と脳裏に流れる歌を口ずさみながら、エレベーターの到着を待つ。
 小気味よい音と共に開いた扉を潜り、十八階に降りる。
 少し歩いて自分の部屋に前に立ち、鍵を開ける。
「振り返っても、あの頃には……」
 ふとあの段ボールの中に入っているであろう子供が少しだけ気になり、自分が元来た方向を振り返った。
「戻れない…… え?」
 ――十八階のエレベーター前。
 そこに、先程の段ボール箱が鎮座していた。
「……!」
 どうやって移動したんだ、とか、そもそもエレベーターが、という疑問が浮かんで消え、突然気味が悪くなる。
 俺はつかつかと歩み寄り、段ボール箱を両手で掴んだ。
 子供のような悲鳴がしたからには、中にヘンなものは入っていないはず。
 人を驚かせるような子供の顔はぜひ拝んでやらないと、と思いつつ、俺は段ボールに封をしているガムテープに手を伸ばした。
 紙を引き裂く音と共に、あっさりとガムテープが剥がれ落ちる。
 そして俺は勢いよく、その蓋を開けた。
「……」
「……」
 蓋の向こうにあったのは、六人の人間。
 いや、人間という表現は怪しいのかもしれない。
 ――何故って、彼女達は全員が人形のように小さかったからだ。
「こ、こんにちは……」
 驚きで完全に硬直している俺に、恐る恐るといった感じで声が掛けられる。
 言葉を発したのは、白い髪に白い服を着た子。
 俺がゆっくりと視線を向けると、彼女(?)は小さく微笑み――
「宜しくお願い致します、ご主人様」
 ――そう言ったのであった。


 冷たい水が顔の表面を叩く。
 ふう、と俺は一息吐いて、傍らに準備したタオルで顔を拭った。
 おもむろに鏡を見る。
 何とも言えない表情をした自分がそこにいて、こちらをバカにしているように思えた。
 だから頬を抓る。
「……なにやってるんだ、俺は」
 柔らかな痛みを頬に感じつつ、俺は居間に戻る。
 そこでは――
「ピア、私の鞄もう出した?」
「もう出しましたよ。シゥ、その鞄はヅィのです。渡してあげて下さい」
「あいよ」
「お、すまぬな。じゃあこれはノアのかの?」
「……」
「ノア、返事をしなさい。ヅィが聞いてますよ」
「……はい」
「なら自分で持っておくのじゃ。ミゥのはこっちのかの?」
「そーですよー」
「よし、これで全部ですね」
 などと会話を交わしながら、六人の小人達が段ボール箱から荷出しを行っていた。
 もう一度頬を抓る。うん、どうやら夢ではないらしい。
「――で、君達は何なんだ」
 俺がそう声を掛けると、全員の動きが止まった。
 一拍置いて、ひそひそと小さな声での会話が始まる。小さくてよく聞き取れないが、どうやら日本語ではないらしく、何を話しているのかは分からない。
 ややあって話し合いがまとまったのか、白い髪に白い服の子が俺に近付いてきた。
 床に腰を下ろし、視線を合わせる。
 見れば見るほど、不思議な子だった。
 身長は60cmほどしかないというのに、普通の――成人した人間と大差ない造詣をしている。
 その身に纏っている服は彼女(?)と同じで小さいながらも複雑なデザインが成された外套で、頭には鍔のない円筒型の帽子が乗っていた。
「失礼しました、ご主人様。まずは突然こんな形でお邪魔してしまった事をお許し下さい」
「あ、ああ」
「私はピアと申します。これから、ご主人様が望むだけ、ご主人様の身の回りのお世話をさせて頂きます。不束者ですが――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。何故そうなるんだ?」
「ご主人様が私達を拾って下さったからです」
「拾ったからって……」
 駄目だ。
 唐突過ぎて頭が混乱してきた。
「……いくつか質問があるが、いいか?」
「はい、何なりと」
 頭を落ち着かせる為に、ゆっくりと深呼吸をしてから口を開く。
「これは何かの押し売りか?」
「いえ、違います。ご主人様が私達を不要だと仰るならば、今すぐにでもここから出て行きます」
 それに、と彼女は続ける。
「私達は何もご主人様に求めません。ですから、私達を置いて頂いても何一つご主人様の負担にはなりません」
「仕事に対する代価はいらない、という事か?」
「そうです。食事なども私達は必要としませんので、本当に何一つご負担にはなりません」
 マイナスはない、という事を繰り返す彼女。
 それはそれで不安になるのだが、彼女の口調にはある必死さが伺えた。
 つまり、何としても俺の所にお邪魔したい、という意思。
「分かった。でも、負担にならないとして…… 身の回りの世話、って言ったよな。それは?」
「はい。掃除洗濯炊事に、それ以外の些細な事まで完全に手助けさせて頂きます」
 そう彼女は自信ありげに言った。
 掃除と洗濯は俺が苦手であり、確かに助けが欲しいと思っていた。
 炊事…… 料理も、自分の作った料理を自分一人で食べるのは、確かに微妙だと思っている。
 数年前までは夏美さんが三つとも担当してくれていたので、特に何とも思っていなかったのだが。
 そんな俺の思考を知ってか知らずか、彼女はずい、と身を寄せて聞いてきた。
「どうですか? 見たところお一人住まいのようですし、私達を雇って頂けませんか? 不安だと思うなら、試しに一週間ほど置いて頂けませんか? 絶対にお役に立って見せますから!」
 と、まるでセールスマンのような事を言う彼女。
 ふと脳裏に、彼女達六人が俺の家の中で忙しなく動き回る光景が浮かぶ。
「……」
 視線の先には、固唾を飲んで俺の言動を待つ彼女。
 俺は、はぁ、と息を吐き、
「――分かった。取り敢えず一週間、働いてみてくれ」
 と告げた。途端、彼女の表情がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます! 不束者ですが、どうか宜しくお願い致します!」
 勢い良い一礼。俺は苦笑いをして、ふと時計を見た。
 なんだかんだで、時刻はそろそろ昼になろうとしている。
 俺は最初のテストのつもりで、彼女に注文を出した。
「じゃあ早速だが、冷蔵庫の中にある物で昼ご飯を作ってくれるか?」
「はい、分かりました!」
「俺は向こうの部屋にいるから、何かあったら呼んでくれ」
 そう言い残して踵を返す。
 自分の部屋の扉を潜って、はぁ、と息を吐いた。
 妙な話になったものだ。
 未だに「これは実は夢なんです」と言われたら、すんなり納得してしまえるだろう。
「……」
 試しにもう一度寝てみよう。
 ひょっとしたら本当に夢かもしれない。


「――ご主人様、起きて下さい」
「ん……」
 そんな聞き覚えのある声に揺り起こされ、俺は一時のまどろみから目覚めた。
 ベッドから上体を起こすと、白い彼女――ピアさんの姿が目に入った。
 どうやら絶対的に夢ではないらしい。
「お食事の準備が出来ましたので、お越し下さい」
「ああ」
 生返事を返すと、彼女は小走りに半開きの扉から通路へと消えた。
 適当に身なりを整え、扉を潜る。 ――と、そこである事に気付いた。
「……どうやって開けたんだ?」
 俺の部屋のドアノブは下げるだけの取っ手式とはいえ、彼女の身長を大きく超えている。
 疑問を抱えつつ、俺は居間へと向かった。
「ほう……」
 居間の扉を潜ると、途端に美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。
 テーブルには、普段の俺の昼食からすると少しばかり豪華と言っていい料理が並んでいた。
 見た目鮮やかな野菜サラダに、香ばしい香り漂うパスタ。
 有り合わせの材料を適当にぶち込んで適当に盛り付けたチャーハンとは大きな違いだ。
「では、頂きます」
 席について、早速フォークを手に取る。
 そんな俺の傍らで、ピアさんは俺に頼み込んだ時と同じように固唾を飲んで見守っていた。


 結論から言うと、パスタもサラダも極上の出来だった。
 そこらのファミレスで食べられる物を優に超えているだろう事は間違いない。
 フォークを置くと、早速とばかりにピアさんが口を開いた。
「どうでしたか?」
「美味かった。全く問題ない」
「ありがとうございます」
「これ、誰が作ったんだ? 全部君が、という訳じゃないんだろ?」
「はい。先程の料理はヅィとミゥが作ったものです」
「ヅィさんと、ミゥさん?」
「――そうじゃ」
 俺が聞き返したその瞬間、そんな老獪な口調をした若い女の声がした。
 声のした方――丁度俺の椅子を挟んでピアさんの反対側――を振り向くと、そこにピアさんと同じ二人の小人が立っていた。
 端的に言うと、紫と緑だ。
 ピアさんと全く同じデザインの外套を身に纏っているが、色だけが違う。
 片方は淡い紫。もう片方が若草色になっていた。
「わらわがヅィじゃ。宜しく頼むぞ、我が主よ」
 そう口を開いたのは、紫の外套を纏った子。
 服と同じ、紫電の髪を腰まで伸ばしている。その老獪な口調に似合わず、顔にはまだ少女のような幼さが見えた。
「ボクがミゥですー。宜しくお願いしますねー、ご主人様ー」
 続いて口を開いたのが緑の子。
 肩で切り揃えた若草色の髪に、ゆったりとした口調、柔らかな微笑みが似合う可愛い子だ。
「ヅィさんとミゥさんか。料理、旨かったよ」
「そう言われると作った甲斐があるというものじゃな。あと、呼び捨てで構わぬよ」
「ボクも呼び捨てでいいですよー。次も頑張りますねー」
「そうか。宜しく、ヅィ、ミゥ」
「うむ」
「はいー」
 そう頷き合った瞬間、小さな咳払いの音。
 振り返ると、ピアさんが何やら澄ました顔で、
「ヅィ、ミゥ。では次にお呼びする時まで引っ込んでいなさい」
「分かった」
「はーい」
 途端、ヅィとミゥの姿が空気に溶けるように消え失せた。
「消えた?」
「いえ、透明化しただけです。ご主人様の目障りになるといけませんから」
「……という事は、他の三人も?」
「はい。ノア、シゥ、ネイの三人ですね。見えないだけで、私達は全員この居間にいます」
 そう言われると、何か気配を感じる…… ような気がする。
 居間を見渡す。
 確かに彼女達の姿こそ全く見当たらなく、昨日までと同じ居間なのだが、彼女達が来る前とは何か違った雰囲気を感じるのだ。
「さて、次はお掃除をさせて頂きたく思いますが、如何でしょうか?」
 そう彼女が問いかけてくる。
 別段断る理由は、ないな。
「じゃあ頼む。ピアさん」
「あの子達と同じく、ピアで結構ですよ」
 そう言って彼女は小さく微笑んだ。


 掃除を彼女達に任せて自室に引っ込むと、俺は愛用のパソコンの電源を入れた。
 今日の俺みたいな例が、俺が知らないだけで多々あるのかもしれない、と思ったからだ。
 ブラウザを立ち上げ、インターネットで思いつく限りの単語を検索する。
 小人、妖精、家事手伝い、メイド……
 だがどれも、彼女達に関するような記事には当たらない。
「これも駄目、か。やっぱりこんな特殊すぎる事例なんてそうそうある訳がないな」
 ふぅ、と息を吐く。
 瞬間、控えめなノックの音が部屋に響いた。
「誰だ?」
「シゥとノアだ。部屋の掃除に来た」
「ああ、入ってくれ」
 そう返事をすると同時、小さく部屋の扉が開いた。
 扉の向こうから姿を現したのは、青と黒の外套を着た二人。
 その手には、彼女達の大きさに見合ったサイズの箒と塵取りが握られていた。
「ノア、向こう側から頼む。俺はこっちからやる」
「了解」
 青の彼女――恐らくこちらがシゥだろう――は男勝りな口調で、ノアと呼んだ黒の彼女に指令を下す。
 二手に分かれた二人は、その小さな身体に似合わない迅速さで箒を扱い、雑巾まで掛けていく。
「ほー、なかなか凄いな」
「……」
 俺の足元を掃いているノアにそう声を掛けたが、こちらを無表情に一瞥しただけで、すぐ作業に戻ってしまった。
 あまりの無愛想さに少し戸惑っていると、
「あー、ご主人様。ノアはそういう奴なんだ」
 と、シゥが掃除の手を止めて話し掛けてきた。
「そういう奴って?」
「だから、滅多に喋らねーんだよ、ノアは。俺達相手でも例外じゃない」
 ツインテールに纏めた青髪を弄りながら、シゥはやや不機嫌そうに続ける。
「努力はしてるんだけどな、俺達も。まぁノアの場合仕方ないというか何というか……」
「仕方ない?」
「ああ、ちょっと生まれが特殊なんだ。っと」
 失礼、と言って、シゥは懐から煙草のような物を取り出し、口に咥えた。
 掃除を中断し、ベッドの柱に寄り掛かって一息吐いている。
 それを見て、流石に俺は一つ咳払いをした。
「煙草は困るんだが」
「煙草? ――ああ、これは煙草じゃない。似てるけどな」
 火、点けてないだろ? と言って、彼女は煙草を吸っている人がそうするように、宙に向かって大きく息を吐いた。
 途端、俺の嗅覚を僅かな甘い香りが撫でる。
「煙草じゃないって…… じゃあ何なんだ?」
「んー…… 俺にとっては薬みたいなもんだよ」
 お世辞にも大人びては見えない造形をした彼女の顔に、昔を懐かしむような色が混じる。
「これは睡草って言って、精神状態を落ち着かせ、恐怖とかを取り除いてくれるんだ。直接的な害は無いんだが、強い常習性があってな。ある程度吸うと、今度は逆に吸わないと落ち着かなくなる」
「それ…… 麻薬って言うんじゃないのか? それに――」
 続けようとした俺を、シゥは手で制止した。
「あんまり深い突っ込みは無しだ。話が理解出来たなら、しばらく吸わせてくれ。少なくともご主人様に害はないよ」
 それきりシゥは沈黙し、その睡草とやらを吸うのに没頭し始めた。
 俺はその姿に居たたまれなくなって、ノアに視線を向ける。
 しかし、黒の彼女は我関せずといった感じでひたすらに掃除を続けていた。
「……」
 情報収集を諦め、再びパソコンに視線を戻す。
 瞬間、部屋の扉が再びノックされた。
「ご主人様、ピアです。入っても宜しいでしょうか?」
「あ、ちょっと待ってくれ」
 ピアの声に、俺は先程から掃除をサボっているシゥに視線を向けた。
 シゥは、実に面倒臭そうに頭を掻いて、
「いいよ別に。慣れてる」
 とだけ答えた。
 俺は本日何度目になるか分からない溜息を吐いて、
「済まん、今ちょっと集中してるから入らないでくれ。心配しなくても掃除はちゃんとやってくれてる」
「そうですか…… 分かりました。失礼します」
 小さな足音と共に、扉の向こうにあった気配が消える。
 シゥに視線を戻すと、彼女は苦笑いをしていた。
「別にいいって言ったろ?」
「俺の部屋で口論とかされたくないしな。それに嘘は言っていない」
 そう言う俺の視線の先、シゥの目の前をノアが箒と雑巾片手に通過する。
 シゥが掃除し終えた所まで到達すると、ノアはその無表情な視線をシゥへと向けた。
「ノア、掃除は終了だ。ピアに報告を頼む」
「了解」
 一つ頷き、小走りに扉の向こうへと消える。
 シゥは咥えていた睡草を懐に片付けると、俺に視線を向けた。
 人懐っこい笑みがその顔に浮かぶ。
「アンタとは気が合いそうだ。宜しく、ご主人様」


 夕方も近付いた頃、俺は彼女達に風呂の掃除を任せ、台所で冷蔵庫の中身をチェックしていた。
 基本的に買ってきた物は三日の範囲内で消費するようにしていたので、そろそろ在庫が危ない。
「買い物も頼める、のか……?」
 思わず、近くの商店街を彼女達が歩き回っている光景を想像してしまう。
 ……騒ぎになりそうだ。
 一応、聞いてみるか。
 そう思ってピアの姿を探す。
 居間を覗くと、シゥ、ヅィとあと一人、まだ紹介されてない子がいるのを見つけた。
 どうやら三人でテレビを見ているらしい。
「何見てるんだ?」
 と、そう声を掛けると、三人の身体が痙攣するように震えた。
「ご、ご主人様!? 済みません、私達、勝手に……!」
 まだ紹介されていない――赤の外套を纏った子が慌てて謝罪する。
 俺はその姿に苦笑して、
「いや、別にかまやしない。減るもんじゃないしな」
「そ、そうですか」
「だから言ったろう。主はこれぐらいで怒りはしないと」
「ネイは心配性なんだよな」
「う……」
 言った途端、シゥとヅィの二人から笑われる、ネイというらしき赤い外套の子。
 俺は彼女達の隣に腰を下ろし、テレビを見た。
 何を見ているのかと思ったが、ただの天気予報らしい。
「ネイ、だっけ? テレビは珍しいか?」
「あ、はい。聞いた事はありましたが、見るのは初めてです」
「わらわもじゃ」
「同じく」
 ネイに続いてヅィとシゥも答える。
「ふむ……」
 情報を整理しながら、ネイの顔を見る。
 眼鏡を掛けている所為かは知らないが、真面目そうな顔をした子だ。六人の中では最も大人びているかもしれない。
「なぁ」
「はい?」
 呼び掛けると、即座にネイが反応した。
 改めて彼女のその小さな身体を見る。そして、前々から思っていた事を口に出した。
「君達って人間ではないよな?」
「はい。我々はフィフニル族――と言っても分からないですね。人間の間では妖精と呼ばれています」
「妖精?」
 妖精というと、アレか?
 身体が小さくて、背中に羽が生えてて、悪戯好きの。
 そんな考えを浮かべていると、ヅィが苦笑して、
「悪戯好きかどうかはさておき、羽ならある。ほれ」
 そう言いながら、ヅィの身体がゆっくりと宙に浮き上がる。
 その背中には、紫色に妖しく輝く光の束のようなものが生えていた。
「ほー、どうなってるんだ?」
「妖精特有の力が指向性を持って外界に顕現したもの、と言っても分からぬだろうな。触ってみるか?」
「是非」
 宙に浮いたまま、ヅィが身体を寄せてくる。
 俺はそれを身体で受け止め、両手を彼女の羽に伸ばした。
 硬いような柔らかいような、よく分からない感触が伝わってくる。
「んっ、これ。あまりべたべたと触るでない」
 あまり触っているとヅィが身を捩ったので、慌てて俺は手を離した。
「あ、ああ。すまん。しかしこんなので飛べるのか?」
「実際に羽ばたいておる訳ではないからの。問題ない」
 そう言って彼女は俺から離れ、空中で華麗に一回転した。
 ソファの上に降りた瞬間、紫電の羽が僅かな燐光を残して霧散する。
「へぇ……」
 俺の視線は自然と残る二人――シゥとネイに行き、
「勿論、俺も出せるぜ」
 その視線を受けて、シゥが名乗りを上げた。
 彼女を見つめる俺の眼前で、青色の燐光が何処からともなく彼女の背中に集中し――
「ほぅ」
 燐光が霧散し、彼女の羽が姿を現した。
 ヅィのとは違い、青の輝きの中に確かな実体が見て取れる氷の羽。
 思わず触ろうとしたら、慌ててネイが間に入ってきた。
「駄目です! 私のもそうですが、シゥの羽に触れてはいけません。指が凍ってしまいます」
「そうなのか」
「ヅィも言ってたが、力の顕現だからな。ちなみにネイの羽は炎だ。派手に燃えるぜ」
「はい」
 シゥの言葉を受け、ネイが俺に向かって頷く。
「分かった、不用意に触れないようにする。ところで君達、買い物には行けるのか?」
 そう本題を聞くと、三人は顔を見合わせた。
「買い物…… というと、通貨を持って商店に行き、交換で食料品などを入手する行為の事ですか?」
「まぁ、そうだな。 ……なんか無理そうだな」
「い、いえ。そんな事はありません。ご主人様の命令とあれば、どんな任務でも完遂してみせます」
 妙な意気込みを見せるネイ。しかし命令に任務って。
「無理はしなくていいんだが」
「む、無理はしていません。シゥもヅィも出来ますよね?」
 二人に同意を求めるネイ。
 しかしその二人は、うーん、と唸って、
「悪い。俺は自信ないわ」
「わらわもじゃな。出来ない事を出来ると言う趣味はないの」
 と、きっぱりと否定の意思を露わにした。
「っ、出来る出来ないの問題ではないでしょう。やるのです」
「いやほら、ご主人様も無理はしなくていいって言ってるし」
「しかしそれでは、我々の存在意義が……」
「いや、いい。俺が不安になる」
 そう言って断ると、ネイは肩を落とした。
 なんだか気の毒になって、俺は脳内で別の注文を探す。
「じゃあ、そろそろ晩飯を頼めるか?」
「え、あ、う、は、はい……」
 だが、この注文にネイは更に肩を落とした。
 そんな様子を見て、シゥとヅィが笑う。
「主。ネイは料理が出来ないのじゃ」
「掃除も苦手なんだよな、ネイ。というか家事全般か」
「申し訳ありません……」
「ま、そう気を落とすなって。得手不得手は誰にでもある。じゃあご主人様、楽しみに待っててくれ」
「昼食同様、美味なモノを用意してみせるからの」
 そう言い残して、三人は台所に消える。
 それを見送っていると、入れ違いにピアが居間に入ってきた。
「ご主人様、お風呂の掃除が終わりました」
「ああ、ありがとう。ところで、聞きたい事があるんだが」
「はい、何でしょうか?」
 俺はしばし思案して、結局直接聞く事にした。
「ネイの得意な事って何だ?」
「ネイ、ですか? お会いになったのですか?」
「ああ、さっきな。ヅィとシゥも一緒にいたから声を掛けたんだが、何か問題でもあったか?」
「いえ、そういう訳ではありませんが。ネイの得意な事、ですか」
 んー、とピアは唸り、
「……その様子では、色々とお聞きに?」
「ああ。家事全般が駄目らしいな」
「申し訳ありません。ネイはこういった事にまだ不慣れでして」
「いや、構わない。君達の中に彼女がいる以上、彼女にしか出来ない事もあるんだろう?」
「それは、そうなのですが」
 何故かぎこちない返事をするピア。
 何だか不安を感じつつ、続きを促す。
「何かないのか? 何でもいい」
「そうですね…… 力仕事と、あとは歌が得意だったはずです」
 力仕事が得意というのは得意の範疇に入らないと思うのだが。
 それはさておき、歌か。
「わざわざ済まないな」
「いえ。ネイは真面目ですが不器用な所も多いので、もし落ち込んでいたりしたらご主人様からも慰めてあげて下さい。お願い致します」
「分かった」
「晩御飯はどうしますか?」
「ついさっきヅィとシゥに頼んだ」
「分かりました。では私は二人の監督に行ってきますね。出来たらお呼び致します」
 そう言い、ピアが二人を追って居間から消える。
 俺はソファに腰掛け、夕食に呼ばれるまで天井の照明を眺めながら思案に耽る事にした。


 昼食同様、美味な夕食を終えた俺は自分の部屋に戻ってきた。
 ベッドに腰掛けると同時、控えめなノックの音が部屋に響く。
「誰だ?」
「ピアです。ご主人様、次のご命令を伺いに参りました」
 命令、ね。
 昨日までの自分を思い返し、何だか複雑な気分になる。
「ご主人様?」
「――あ、ああ。特に今は頼む事はない。休憩でもしててくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
「こちらこそ。思いの外助かった」
「勿体ないお言葉です」
 そう言い残して、気配が扉の向こうから消える。
 しばしの後、今度は前置き無しで扉が開いた。
「ご主人様、遊びに来たぜー」
 そんな陽気な声と共に現れたのは、やはりシゥ。
「シゥと…… ノアも一緒か」
「ああ。失礼するぜ」
 言うと同時、シゥの背中に青い燐光が集約し、氷の羽が顕現する。
 勢いよく跳躍し、その身長の四倍ほどの高さに到達した瞬間、羽は霧散した。
 慣性で彼女の身体は宙を滑り、俺に向かって飛んでくる。
「うおっ!」
 ベッドの上を慌てて横に転がると、シゥは俺の身体が元あった位置を貫くように通過し、見事ベッドの上に着地した。
「避けるなよ。面白くないな」
「面白い面白くないの問題じゃないだろう。 ……ん? どうしたノア」
 見れば、いつの間にか黒衣の少女はその背中に鴉のような羽を生やし、俺のパソコンの前で空中停止していた。
 パソコンの画面には立ち上げっぱなしのブラウザが表示されたままになっている。
「興味があるんだとよ。ご主人様、あれは何だ? テレビとはまた違うみてーだが」
「あれはパーソナルコンピューター。略してパソコン。遊んだり、音楽を聴いたり、情報を入手したりと色々な事が出来る」
「へぇ」
 俺はベッドを立ち、パソコンの前に着く。
 興味津々と言った顔で画面を覗き込んでくるシゥと、無表情の中に少しだけ興味を覗かせているノアの前で、俺はパソコンの操作を開始した。
「そうだな、例えば……」
 俺は検索ツールを使い「料理」などと打ち込んでみた。
 僅かな間を置いて、無数の検索結果が画面に並ぶ。
 その中の適当なアドレスを開くと、完成された料理の写真と、レシピ、作り方を記載したページが表示される。
「こんな風に、自分が調べたい情報を探す事が出来る。これが一番多い使い方だな」
「ほー、便利そうだな」
「ああ。他には――」
 と次を解説しようとしたら、不意にマウスを持つ服の裾を引っ張られた。
 視線を向けると、無表情なノアと視線が合う。
「ん? やってみたいのか?」
 言葉はないが、小さく頷くノア。
 大丈夫かな、と思案していると、シゥが面白げに言った。
「いいじゃねぇか。やらさせてやってくれよ」
「……そうだな。減るもんじゃないし」
「そうそう」
 俺は最低限の事を教え、ノアに場所を譲る。
 彼女はキーボードの前に座り込み、その小さな身体で器用にマウスを操作し始めた。
「しかし、本当に大丈夫かな」
「大丈夫じゃねぇか?」
「いや、結構危ないページもあるんだよ。いきなり金を請求してきたりな」
「ふーん。まぁ、大丈夫だと思うぜ。ノアはああいうのには強かったからな」
 見ていると、最初こそたどたどしい動きで操作をしていたものの、数分でかなり動きがスムーズになってきた。
 画面に表示されるページは主にニュース関連の物。最初は検索ツールのみを使っていたが、すぐにリンクを辿るという事を覚えたようだ。
「確かに、大丈夫そうだな」
「だろ?」
 不意に、仄かに甘い匂いが嗅覚を撫でる。
 見れば、シゥはまたあの睡草を口に咥えていた。
「……それ、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、って言ってるだろ。もし害があったとしても、ご主人様には影響はねーよ」
 実に美味そうに睡草を吸うシゥ。
 だが反面、声には僅かに暗い調子が混じっていた。
「本当はピアやミゥから強く止められてるんだけどな。特にこっちに来てからは」
「こっちって…… 俺の家か?」
「いや違う。自然界に来てからだ」
「自然界?」
 そう問うと、シゥは大きく息を吐き、
「俺達、妖精は普段、幻影界という場所にいる。その幻影界とは対を成す場所――それがこの自然界だ」
「ほう。で、何でそれが強く止められる原因になるんだ?」
「採れないんだよ」
 採れない? そう口に出しかけたが、その言葉の意味する事はすぐに分かった。
「……確かそれ、強い常習性があるんだよな?」
「そうだ。これはミゥが作ってるんだが、原料になる草は幻影界にしかない」
「じゃあ、止めた方がいいんじゃないのか?」
「どうしてそう思う? 向こうに行って採ってこればいい、とか言うと思ったんだが」
 からかうような口調でシゥは言う。
 それに対し、俺は薄々感じていた答えを口にした。
「どうせ、何か事情があって向こうに戻れない、とかいうオチなんだろ?」
「へっ、察しがいいじゃねーか」
 睡草を咥えたまま、シゥは続ける。
「自分で言うのもなんだが、俺の依存症はかなりのトコまで行ってる。悪いが止めるって選択肢はねーんだ」
「だけど、その内切れるんだろう?」
「まぁな」
「じゃあ止めるしかないだろうが」
「無理だって」
 睡草を懐に片付け、彼女は明るく言った。
 それが強がりなのは俺でも分かったというのに。
「大丈夫。ご主人様が心配する事じゃねぇよ。なんとかなるさ、絶対」
 ベッドに転がり、寝返りを打ちながら彼女は言う。
 俺がその隣に腰を下ろすと、彼女は俺の太腿に背を預けてきた。
「幻影界とやらで、何があったんだ?」
「それもご主人様の気にする事じゃねぇよ。自然界に働きに来た、それでいいじゃねぇか」
「しかし――」
「別にご主人様が困る訳じゃねぇだろ? 答えない、ってのが気に喰わなきゃ追い出せばいい。残念だけどな」
「……」
 俺は息を一つ吐いて、二人の妖精を交互に見た。
 どうしたものか、と思う。
 わざわざ半ば押し掛けてまで来たというのに、壁を作っているのが無性に悲しかった。
「――なんじゃ? やけに沈んでおるのぅ、主よ」
 と、不意に聞き覚えのある老獪な口調が部屋に響く。
 見れば、扉の傍にいつの間にかヅィが立っていた。
「あ、ああ。ちょっとな。何か用事だったか?」
「用事、という訳ではないのじゃが。湯浴みの準備が出来たらしいぞ」
「湯浴み? ――ああ、風呂か」
「そうじゃ。それを伝えに来ただけじゃの」
 言うと、ヅィは部屋の中へと入ってきた。
 ベッドの上を覗き込み、俺の隣にシゥの姿を認めて何故か苦笑する。
「シゥ、お前も仕様のない奴じゃの」
「うるせぇ」
「主、シゥの相手はわらわがしておくから、湯浴みに行ってくるがよい。少し汗臭いぞ」
「あ、ああ。頼んだ」
「頼むな!」
 シゥの抗議とヅィの苦笑を背中に受け、俺は自室を出た。
 脱衣所で服を脱ぎながら、先程の話を思い返す。
 中々ヘビーな過去を背負ってそうだ。
「どうしたもんかなー、っと」
 ふと、出会ってまだ一日も経っていない相手の為に色々と考えている自分に苦笑する。
 自分はこんなに優しい人間だったのだろうか、と。
 そうだとするのなら、夏美さんの性格が写ったのかもしれない。
 もしくは、彼女達の魅力の所為だろうか。
「まぁ、妖精だしな。自称でも」
 自分で口にしたそんな答えに何となく納得し、俺は浴室への扉を開けた。
 生暖かい空気が全身を撫でる。
 浴槽の蓋を開け、適温である事を確認してから湯に入り、盛大に一息を吐く。
「これがないと一日の終わりって感じがしないな。やっぱ――」
 風呂はいい、と言いかけた瞬間、俺の耳に小さな音が入ってきた。
 二人分の小さな足音に、僅かな衣擦れの音。

“はい。掃除洗濯炊事に、それ以外の些細な事まで完全にサポートさせて頂きます――”

 彼女達を雇った時にピアが言った台詞が脳裏を過ぎる。
 おいまさかそこまでやるのかちょっと待て、と言う間もなく。
「ご主人様、湯浴みのお手伝いに参りました」
「参りましたー」
 一糸纏わぬ姿の二人――ピアとミゥが浴室に入ってきた。
「っ」
 思わず視線を僅かに逸らす。
 彼女達は身長こそ幼児並みとはいえ、その容姿は立派に少女以上のものだ。妖精というだけあって、顔も揃って並み以上。
 その一糸纏わぬ姿というのは、想像以上の破壊力がある。
「わざわざこんな事までしなくてもいいんだが……」
「で、でも、ご主人様が喜ぶかと思いまして……」
 よくよく見れば、ピアも僅かに顔を赤くしている。
 確かに、彼女達は見目麗しいし、非常に小さいとはいえ立派な女性だ。
 そんな彼女達が身体を洗ってくれると言うのだ。嬉しくない男は少ないだろう。
 俺は今日何度目になるか分からない溜息を吐きながら、彼女達の姿をしっかりと視界に捉えた。
「――分かったよ。君達が身体を洗ってくれるというのなら、男として素直に嬉しい申し出だ。頼もうか」
「あ、ありがとうございます」
 ここで俺の方が恥ずかしがっては男が廃れるというものだ。
 俺は敢えて堂々と浴槽から上がり、風呂マットの上に腰を下ろした。
「じゃあ早速だが頼む。石鹸はそこのを使ってくれ」
「はい。ミゥ、背中側からお願いします」
「りょうかーい」
 石鹸を抱え持った二人は、ハンカチーフのような小さな――彼女達からすればバスローブ並みの――布に一生懸命に石鹸を擦り付け、泡立てていく。
 その度に、彼女達からすると豊満な乳房が揺れたり潰れたりと頻繁に形を変え、何とも卑猥な光景になってしまっている。
「ふぅ、泡だらけになっちゃいましたー」
 ピアよりも一足早くタオルを泡だらけにしたミゥが、その呟きの通りに自身も泡だらけになりながら俺の背中に取り付いてきた。
 小さいが柔らかい二つの感触が、しっかりと俺の背中に押し付けられる。
「さーて。ご主人様、お待たせしましたー。洗いますよー」
「……ああ」
 もはや何も言うまいと心に決めて、俺は身を任せる。
 これはただの洗濯行為だ。何もやましい事などない。
「ん、しょ、うん、せっ、よい、しょ」
 可愛らしい声と共に、ほどよい力加減で背中が洗われていく。
 それと同時に、ミゥの柔らかい乳房やすべすべした肌の感触が肌を撫でる。
「……」
 無言で必死に興奮を我慢していると、次の難敵が俺の眼前に立ちはだかった。
「うん、よし。で、では洗いますね、ご主人様」
 何処までも軽いミゥとは正反対に、タオルを両手に決意を秘めた表情で歩み寄ってくるピア。
 何だか怖くなって、少しだけ興奮が落ち着く。
「あまり無理はしなくていいぞ。前ぐらいは自分で洗える」
「い、いえ。少し緊張しているだけです」
 そう言って、ピアはまず俺の右肩にタオルを付けた。
 彼女の、細身だが出るべきところがしっかりと出ている艶かしい裸身が嫌でも視界に入ってくる。
「では、失礼します」
 一つ頷き、覚悟を決めた様子でピアは俺の身体を洗い始めた。
 ミゥと同じぐらいのほどよい力加減で実に気持ちがいい。
「はい、洗い終わりましたー」
 と、ピアが覚悟を決めている間にミゥは早々に背中を洗い終えたようで、柔らかい身体の感触がゆっくりと離れた。
 ふう、と安堵の息を吐いたのも束の間。
 俺の正面に回ってきたミゥは、泡だらけになった自分の身体を、んー、と呟いて触りながら、
「いいこと考えちゃいましたー」
 などとのたまって、そのまま俺の太腿に抱き付いて来た。
「こーやれば、ご主人様とボクの身体、両方一緒に洗えて便利ですー」
「こ、こら! ミゥ、それはご主人様に失礼ですよ!」
 ある意味予想通りと言えば予想通りの高威力な行動に硬直している俺を見て、流石にピアが注意をしてくれた。
 だがミゥは、えー、と言いつつ俺の太腿から離れる気配はない。
「いいじゃないですかー、早いですし」
 言うが早いが、ピアがそれ以上制止する前にミゥは身体を擦り付け始めた。
 背中に感じた、彼女のふくよかな身体と豊満な乳房の柔らかい感触が太腿を撫でる。
「ああもう…… ご主人様、申し訳ありません」
「いや、もういい。これはこれで」
 何もかも諦めた俺は、素直に彼女の身体の感触を楽しむ事にした。
 えへへー、という楽しげな声と共に、俺の左半身が徐々に洗われていく。
 それを見てピアも己の仕事に専念する事にしたのか、肩から腕、胸元から脇腹へと洗う速度を上げていった。
 そしてついに、問題の場所へと到達する。
「……無理はしなくていいぞ?」
 念の為にそう声を掛けたが、果たして彼女に届いていたかどうか。
 俺の努力の賜物で、モノの勃起は半分ほどしか起こっていなかったが、それはこの際あまり関係なかったかもしれない。
「し、失礼します」
 ピアが俺の組んだ足の上に乗り、彼女の持つタオルと、泡に塗れた手がおずおずと俺の下腹に伸びる。
 半立ちのモノを避けるようにして下腹を洗っていくピア。
 しかしその視線は時折俺のモノに向けられ、その度に顔を真っ赤にするもんだから、こっちも恥ずかしいことこの上ない。
 そして最後に、俺の半立ちのモノだけが残る。
「……」
 ここで俺が何か言ったらセクハラになりそうなので、黙っておく事にした。
 ピアの唾を飲む音が聞こえ、その小さな手がゆっくりとモノに伸びる。
「これが、殿方の、ご主人様の……」
 そんな呟きが聞こえた後、まずタオルが押し付けられる。
 強すぎず、弱すぎず。身体を洗う時よりも絶妙な力加減で擦り付けられるタオルは、まさに愛撫以外の何者でもない。
 俺は湧き上がる快感を押さえつけ、モノがこれ以上勃起しないように努める。
 それを知ってか知らずか、ピアは空いている方の手でもモノに触れてきた。
「っ」
「あっ、大丈夫でしたか?」
「いや、気にするな」
「はい……」
 触れた場所が先端に近かった為、思わず声が出掛かってしまった。
 少しは慣れたのか、ピアは空いた手でモノを支えながら、タオルを押し付けていく。
 時にはモノを肩に担ぐように。時にはモノの先端を自分の胸元に押し付けるように。
 ミゥとはまた違う、彼女の肌の感触を直接モノで感じる度、激しく勃起しそうになる。
「お、終わりました」
 俺の我慢が限界に近付いた頃、ようやく、愛撫としか呼べない洗濯が終わった。
 ふぅ、と息を吐いて、洗面器を手に取る。湯を身体に掛けると、泡と共に幾分の興奮も一緒に流れていってくれた。
「ご苦労様」
「ど、どういたしまして」
「ふふふー」
 そう労いの声を掛けると、二人は実に嬉しそうな顔をする。
 そんな顔を見れただけでも、我慢した甲斐があったに違いない。
 頭を洗ってから再び浴槽に肩まで浸かり、早々に上がる。
「じゃあ俺は先に上がる。後は君達で好きに使ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
 これ以上二人の裸を見ているのは目に毒だ。
 脳裏を過ぎる二人の裸身を振り払いながら、俺は脱衣所へと逃げ出した。


 飲み物を片手に部屋に戻ると、既にシゥとヅィ、ノアの姿は無かった。
 ふぅ、とまた息を吐いてベッドに腰を下ろす。
 湯冷めする前に寝てしまおうかと思ったが、どうにも悶々とした感情が離れない。
 目を閉じれば、浮かんでくるのはピアとミゥの艶やかな裸身。
「――くそっ」
 流石は妖しき精霊というだけはある、と悪態を吐きながら、俺はベッドに寝転がった。
 不意に、あはははは、という小さな歓声が風呂場の方から聞こえてきた。
 シゥの声か、と瞬時に分かると同時に、見た事もない彼女の裸身が妄想として浮かんでくる。
 落ち着け俺。
 彼女達は小さいぞ? ある意味フィギュアに欲情してるようなものだぞ? 大丈夫か?
 そう考えて何とか妄想を落ち着けようとしても、今も彼女達全員が一糸纏わぬ姿でいると思ってしまうと無理だ。
「くそっ」
 また悪態を吐く。
 このままでは眠れそうにない。
 そう思った矢先だった。
「――ご主人様、もうお眠りになりましたか?」
 部屋に響く軽いノックの音と、もう聞きなれた声。
「ピアか? まだ起きてるよ」
「入っても宜しいでしょうか?」
「……ああ」
 了承すると、ゆっくりと扉が開き、ピアが入ってきた。
 白い外套に包まれた彼女の肌は湯上りらしくほんのりと上気していて、その艶かしさを増していた。
 俺が何事かと見つめる先で、彼女はゆっくりと歩み寄り、俺の足元に立った。
「ご就寝前に、何かご用事はないかと思いまして」
「特にないな。それにしても今日一日、助かった」
「ありがとうございます」
 小さく微笑む彼女。
 次の瞬間、彼女の背中に白い燐光が集約し、羽が顕現した。
 純白の輝きを放つ、天使のような翼。
 それを使って、彼女はおもむろにベッドの上に降り立った。
「どうしたんだ?」
「……」
 奇妙な沈黙。
 ややあって、彼女が口を開いた。
「最後に、夜のご奉仕をさせて頂きたく思います」
 夜のご奉仕。
 それはアレか? いわゆる夜伽という奴か?
 そんな俺の考えと興奮を知ってか知らずか、彼女は右手を宙に伸ばした。
 その指先に闇色の光が集約し、次の瞬間には霧散する。
 瞬間、俺と彼女の周囲以外が真っ黒な闇に包まれた。
「何をしたんだ?」
「結界の一種です。音と光を遮断し、外から見えなくします」
 本来はこのような用途に使うものではないのですけど、と恥ずかしげに言いつつ、
「では…… ご主人様。私の身体では役不足かもしれませんが、僅かばかりでもご堪能頂ければ幸いです」
 そう言って彼女は頭の帽子を取り、ぎこちなく微笑んだ。
 俺が固まっていると、彼女は頬を薄く染めて、
「私の服、お脱がせになられますか? それともお脱ぎになりましょうか?」
 と聞いてきた。
 そんな台詞に何とか硬直を脱した俺は、慌てて彼女に聞く。
「頼んだ覚えはないが」
「わ、私がご主人様の為に勝手にした事ですから。湯浴みの時も、苦しそうでしたし」
 ……やっぱり気付かれていたか。
 俺は唾を飲み込み、ある言葉を脳裏に浮かべた。
 据え膳食わぬは男の恥、か。
 数時間前までは全くの無縁だったはずの言葉が突きつけられ、思わず苦笑する。
「ご主人様?」
「ああ、すまん」
 謝罪の言葉と同時に、彼女に手を伸ばす。
「じゃあ、脱がさせてもらおうか」
「は、はい」
 覚悟を決めて、彼女の外套に触れる。
 複雑なデザインの割に構造は簡単で、すぐに首元のボタンを見付ける事が出来た。
 彼女の柔らかい身体を抱き寄せ、ボタンを外し、外套の前を開く。
「……っ」
 ピアの顔が赤みを増す。
 外套の下は直で下着だった。
 薔薇らしき花を象ったレースの装飾がなされた、雪のように白いブラに、それに合ったガーターベルトとショーツにソックス。
 小さいけれども非常に精巧でエロティックな衣装に、俺の興奮が一気に高まる。
「綺麗だな」
「あ、ありがとうございます」
 恥じらいながらも、送られた礼賛に対し謝辞を欠かさないピア。
 そんな姿に、俺の中で急速に変態的な悪戯心が芽生えてきて、思わず笑ってしまう。
「ご、ご主人様?」
「すまんすまん」
 彼女の身体をまさぐる手をそこで中断し、俺は自分のパンツの前を開けた。
 中から取り出したモノを、彼女の眼前に持ってくる。
「早速で悪いが、これを慰めてくれないか?」
「慰める、と言いますと……?」
「手で擦ったり、先端を咥えてくれたりすればいいんだ」
「は、はい」
 彼女は外套の前をはだけ、下着を覗かせたまま俺の太腿の上に座り込み、勃起した俺のモノを手に取った。
「ゆ、湯浴みのときよりも、大きいのですね」
「君に欲情してるからな」
 ピアにとって勃起した俺のモノは、彼女の二の腕以上に相当する大きさだ。
 当然、咥えるのは至難の業である。
 それは彼女も分かっているのか、まずはその小さな手を亀頭へと伸ばしてきた。
「熱いし、それに変わった匂いがしますね……」
 握るのも精一杯といった様子で、丁寧に亀頭を愛撫してくる。
 白魚のような指先がカリや鈴口を撫でる度、痺れるような快感が走る。
 ややあって、彼女は恐る恐る鈴口にその小さな唇を近付けた。
「ん……」
 最初は啄むような口付け。
 何も変な事が起きないのを確認するように、それを何度か繰り返した後、ゆっくりと舌が伸びてきた。
「ん、ちゅ、んっ…… なんだか、変な味です」
「あんまり味わうものじゃないからな」
「ん、でもご主人様のですから…… ん、ちゅ」
 亀頭全体を舐めきった後、ついにピアは鈴口全体を咥えた。
 それだけでも彼女には精一杯で、見ていて顎が辛そうなのが分かる。
「ん、ふぃ、んっ、う、んんっ」
 暖かな感覚に包まれた先端を、小さな舌の感覚が這いずり回る。
 手はカリを刺激し、その小ささならではの快感を俺にもたらしてくれていた。
 そして不意にモノが脈動する。
 同時、偶然にも彼女の舌が尿道口を刺激した。
「っ、出るっ!」
「んんっ!?」
 ピアの小さな口の中でモノが脈動し、白濁液がぶち撒かれる。
 驚いた彼女がたまらずモノを吐き出し、瞬間、その顔や身体にも白い液体が振り撒かれた。
「大丈夫か?」
「けほっ、けほっ、っ、大丈夫です…… この白いのが、精液ですか?」
「ああ、そうだ」
「ん、沢山飲んじゃいました…… 喉が粘々します……」
 そう言って、彼女は自分の顔や髪、身体に飛び散った精液を指で弄った。
 元々白い髪に白い服を着ている彼女だが、そこに俺の白濁液を浴び、何ともいえない淫靡さを醸し出している。
 同時に、こんな小さな子に精液を掛けた、という事実が背徳感を大いにくすぐる。
「ん、あ…… まだ大きいんですね…… 一度出したら小さくなる、って聞いたんですが」
「ピアがあまりに綺麗だから、また興奮したんだよ」
 彼女の淫靡な姿に瞬く間に再勃起したモノを、再び彼女の眼前に突き出した。
 服を着たまま上から下まで精液に塗れた彼女は、行為前と同様にまたモノを手に取る。
「もう一度、ですか?」
「いや、男としては次は挿れてみたいな、と思ったんだが……」
 彼女の下半身、ショーツに包まれたそこに視線を向ける。
 俺とピアの体格差は約三倍。
 つまり彼女にとって俺のモノは、彼女に挿入すべき適正サイズの長さ、太さ共に三倍、という事になる。
 果たして、そんなモノが入るのだろうか。
「……分かりました。ご主人様のお願いとあれば、頑張って見せます」
 ピアは覚悟を決めて、ショーツを下ろす。
 現れたのは、無毛の、あまりにも無垢な恥部。
 そして彼女は恐々と俺のモノを跨いだ。同時に、唾を飲む音がする。
「言っておくが、無理に、とは言わないぞ。君に俺のを受け入れろというには無理がありすぎる」
「いえ…… 大丈夫です、多分」
 声が震えているぞ、とは指摘しなかった。
「処女か?」
「っ、処女?」
「男を受け入れた事があるのか? って意味だ」
「いえ…… 妖精に男や女という区別はありません。皆、私達のような姿を持って生まれます」
「そうなのか」
「はい……」
 納得すると同時、それじゃあ無理だろう、という思いが強くなる。
 ただでさえ桁違いのモノを受け入れようというのに、その上処女だという。
 それでも、彼女は意を決して言った。
「ご主人様」
「何だ?」
「もし、私が泣き言を口にしたとしても、ご主人様がご考慮する必要はありませんので……」
「分かった」
「ありがとうございます」
 それでは参ります、と続け、ピアは腰を下ろした。
 彼女の陰門と亀頭が接触し、僅かに陰唇が開かれる。
 そのまま僅かに彼女の身体が沈み――それが限界だった。
 彼女の足に力が入っているのは分かるが、少し入りそうになる度、彼女の顔が歪んで、押し戻される。
 数回の挑戦の後、彼女は苦しげに言った。
「ご主人様。お手数ですが、私を掴んで、このまま一息にお願い致します」
「だが――」
「覚悟は出来てます。大丈夫です。入ります」
「……分かった」
 右手で彼女の身体を掴む。
 一拍置いて、俺は彼女の身体を下へと引き下げた。
「――っ!」
 何かを引き裂き、貫く感触と共に、あっけなく彼女の身体が下がる。
 同時に彼女の目が見開かれ、口元は引き絞られ、小さな身体は大きく仰け反った。
 猛烈な、それこそ身体を割かれるような痛みが彼女を襲ったであろう事は想像に難くない。
 それでも、彼女は荒い息を吐くのみで、決して声を上げなかった。
「ぐ、は、入りました、か……?」
「ああ」
 白いガーターベルトに包まれたピアの下腹は痛々しく盛り上がり、俺のモノが挿入された事を如実に物語っていた。
 陰門は限界まで割り開かれ、中から流れ出した処女血がモノを伝って流れている。
 入口が裂けなかったのは奇跡としか言いようがない光景だった。
「っ、気持ち、いいですか?」
「ああ。凄い締め付けで、これだけで出ちまいそうだ」
 まだカリまでしか入ってはいないが、射精するに足りるだけの十分な快感が俺を襲っていた。
 取り敢えず、ピアが落ち着くまで俺は動きを停止した。
 その間にも彼女の胎内は蠢き、俺に絶え間ない快感を与えてくる。
 とんでもない名器である事は間違いなかった。
「っ、はぁ、はぁ…… 申し訳ありません」
「落ち着いたか?」
「はい…… ご主人様の、凄いですね。身体が壊れてしまうかと思いました」
 言って、ピアは己の、俺のモノの形に盛り上がった下腹を撫でる。
「これで先ほどのように射精なさったら、私、どうなってしまうんでしょうか」
「怖い考えだな」
「ふふ。でも、もし出したくなったら遠慮なくどうぞ」
 そう言って、ピアは再び身体に力を込めた。
 僅かに彼女の身体が下がり、その下腹の盛り上がりが上へと進行する。
「無茶をするな」
「ぎ、うっ…… いえ、大丈夫、大丈夫ですから」
 苦痛に顔を歪めながら、モノが徐々に彼女の胎内に納められていく。
 モノのほぼ半分を飲み込んだ辺りで、確かな壁の感触が亀頭を叩いた。
「っ、ふぅ、これで、限界のようです…… 申し訳ありません」
「いや、よく頑張った」
 この太さでと長さで三分の一を飲み込むのすら無理があるというのに。
 俺は思わず彼女の頭を撫でた。
「ありがとう、ございます……」
 彼女は目を細めてそれを受け入れ、一つ安堵の息を吐いた。
 そんな動作でさえ彼女の胎は反応し、締め付けが強くなる。
「っ、く……」
「はぁ、はっ、く…… ふふ、ご主人様のが震えてるのが分かります……」
「ああ。ピアが何かするだけでも、凄く気持ちいい」
 彼女が呼吸するだけでも、吸って吐くタイミングに合わせ、ほどよく締め付けてくる。
「ご主人様、私を掴んで、私の胎をご堪能してくださいませ」
「いいのか?」
「はい。お恥ずかしい話ですが、私、この体勢だと足に力が入らなくて……」
 それはそうだろう。
 ピアの身体は、俺のモノを受け入れている、というよりは、俺のモノに貫かれている、という表現の方が正しい状態だ。
 彼女にとって俺のモノは巨大で長大な肉の槍以外の何者でもない。
 そんなものに股を割り開かれ、女の部分を貫かれているのだ。力が入ろう筈もない。
「分かった」
「ありがとうございます」
 彼女の肩を優しく掴む。
 彼女を壊してしまわないようゆっくりと力を入れ、しっかりと掴めた事を確認した瞬間、一息で上へと引き上げた。
「ひ、うあっ!」
 先端が抜けるぎりぎりまで引き抜いてから、今度は押し下げる。
「は、ぎうっ!」
 その衝撃に、白い髪と、着たままの外套が跳ねた。
 亀頭が彼女の最奥を叩いた瞬間に止める。
 その一往復だけで、俺のモノは射精寸前まで高められ、彼女は大量の脂汗を流していた。
「っ…… 大丈夫か?」
「はっ、はあ、はぁ、内臓が、どうにかなってしまうかと思いました」
 荒い息を吐き、ガーターベルトに包まれたまま盛り上がった下腹を抱きながら、彼女が答える。
 そんな彼女に対して、俺は残酷な事実を突きつけなければならなかった。
「あと一、二往復ぐらいで出せそうだ。行けるか?」
「っ」
 彼女の胎が震える。恐らくは、恐怖で。
 ここまでの交わりは、俺の肉欲を一方的に彼女にぶつけるだけの乱暴なものだ。
 彼女は初めてだというのに、肉の交わりの悦びというものを全く教えてやれていない。
「すまん。本当ならピアも気持ちよくなれるように配慮しなければいけなかったんだが」
「お気になさらないで下さい。私の事など二の次三の次で宜しいのですから」
 そう言って微笑んで、飽くまでも俺を優先するピア。
 この次があるならば、必ず彼女を絶頂に導いてやろうと決心して、俺は再度、彼女を掴む指に優しく力を込めた。
「いくぞ」
「っ、一息に、お願いします」
 返事の代わりに、俺は彼女の身体を引き上げた。
「あ、ああっ!」
 泣きそうな悲鳴が零れる。
 それでも俺は構う事なく、彼女の胎に肉の槍を突き入れた。
「ひ…… ぎいっ!」
「っ、出すぞっ!」
 苦痛の悲鳴と共に、彼女の胎が強烈に締まる。
 限界まで高まった快感に、俺は思わず射精を宣言した。
 モノが脈動し、彼女の胎の奥で炸裂する。
「あ、あああああああっ!」
 彼女が甲高い悲鳴を上げた。
 モノが一つ脈動する度に、彼女の腹が更に膨れ上がる。
 行き場をなくした多量の精液が、余すところなく彼女の子宮に注ぎ込まれているのだろう。
「熱い……! 壊れ、壊れる、壊れちゃうッ……! 助けてッ……!」
 ついに泣き言を喚き、俺の胸板に爪を立てる彼女。
 黒曜石の瞳からは止め処なく涙が溢れ、俺の身体と彼女の頬を伝っていく。
 俺は無言で彼女を抱き締め、その小さな背中を撫でた。
 いくらか彼女の力が弱まり、悲鳴が嗚咽へと変わる。
 その間にも止め処なく脈動と射精は続き、白濁液が彼女の子宮の最奥まで満たしていく。
 自分でも驚くほど量の射精がようやく終わった時、彼女の腹はまるで臨月を迎えた妊婦のように膨れ上がっていた。
「……大丈夫か?」
「はい…… 見苦しいところをお見せして、申し訳ありません……」
「そんな事はない。可愛かったぞ」
「……ありがとうございます」
 頬を真っ赤に染めて、それでも彼女は謝辞を欠かさなかった。
 んっ、と彼女が力を込めると、射精で萎えた俺のモノはすぐに抜け落ちた。
 だが不思議なもので、俺のモノで拡張されたはずの彼女の陰門はすぐさま収縮し、挿入前と同じ佇まいを保った。
 そして多量に注ぎ込んだはずの精液は、一滴たりとも零れ落ちてこない。
「普通は、零れてくるものだと思うんだが。妖精だからか?」
「分かりません…… 私も、こんな事は初めてですから」
 俺のモノが抜けたものの、まだ臨月に近い様相を保っている彼女の下腹。
 この中に俺の精液が詰まっていると思うと、妙な感動がある。
「……ちょっと待っててくれ」
「は、はい」
 俺はベッドから立ち上がり、パソコンの傍の引き出しを開ける。
 中に入っているのは、この前買ったばかりのデジタルカメラだ。
「ピア、ショーツを穿いて帽子を被ってくれ。ああ、前は閉じなくていいぞ」
「は、はい……」
 カメラの電源を入れながら、そう指示を出す。
 ベッドの上に戻ると、ピアは俺の期待した通りの格好で待っていた。
 少しばかり乾いた白濁に塗れた白髪と外套。
 前ははだけられ、そこから臨月を迎えた妊婦のような腹と、それを包む純白の下着が覗いている。
 俺は声を出さずに笑いながら、カメラを構えた。
「何ですか、それ?」
「カメラだよ。映像保存装置、ってところだな」
「映像、って…… まさか――」
「はいはい、笑って笑って」
「う……」
 ピアの顔色が一瞬変わったが、もう逃げられない事を悟ったのか、ややあってぎこちない微笑みに変わった。
 その瞬間、俺はシャッターを切る。
 非常にエロティックな写真が取れた事に満足しながら、俺はしっかりと保存ボタンを押した。
「明日、印刷して見せてやるよ。これは凄い」
「お願いですから、あまり人には見せないで下さいね……?」
「さぁな。あまりの凄さに自慢したくなるかもしれん」
「うぅ……」
 火がついたように顔を赤くするピア。
 俺はそんな彼女の様子に笑いながら、彼女を抱き締めた。
「気に入ったよ、お前ら。好きなだけここにいるといい」
「え…… 本当ですか?」
「ああ」
「……ありがとうございます、ご主人様。これからも誠心誠意、ご奉仕させて頂きます」
「ああ。宜しくな」
 夜は更けていく。
 俺は小さな彼女の身体を抱き締めながら、明日からの日々が楽しく愉快なものになると確信していた。

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